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不慣れなプリキュア MUSCLE HARD(前編) - (2011/10/20 (木) 08:42:09) のソース

**第134話 不慣れなプリキュア MUSCLE HARD(前編)

怖いものなんて、ほとんどなかった。
今思えばクソ生意気なガキンチョだった頃でさえ、大人や獣を怖いと思ったことがない。
あの頃は、何でも知っている気でいたから。
相手のことを知り尽くしたと思っていたから、怖くなんてなかった。
どんなに強い相手でも、底は知れていたから。

「……フェイト。状況は?」

本当の恐怖を感じたのは、悔しいけれどダオスと対峙した時だった。
底の見えない強さと、真意の知れないその行動。
目的のための過程として平然と村を壊滅させる漆黒の意志。
どれを取っても恐怖の対象となった。

「………………ッ!!」

そして今、それに次ぐ、いや、下手をしたら匹敵するくらいの恐怖を感じている。
情けないことに、声すら出ない。

「一応、間に合いました」

金縛りに合う体を無理矢理振り向かせた先。
得体の知れなさすぎる、理解の範疇を遥かに超えた生命体が、そこにいた。

「ソフィアも、無事です」

筋骨隆々、マッチョ、肉塊、MUROHUSHI――
なんと表現したらいいのか分からないが、兎にも角にもすごい筋肉質である。
そんな男が一人、背後で佇んでいた。

「……気は、失ってますけど」

それだけなら、まだいい。
驚きはするが、こうまで恐怖は感じないだろう。
問題は、男の格好。
得体が知れないなんてレベルを超越して意味不明のレベルに達したその格好が、ただならない恐怖を与えてくれる。

「そうか」

この男は何を納得しているのだろうか。
こちらは何一つ納得していなどしない。
なんだそのフリッフリの格好は。
スカートをたなびかせるな、気色悪い。
それになんだ、その頭部は。
何故荒れた大地に一本だけ生え残ってるんだ。
山火事になって一本だけ生き残っちゃった世界樹か。

「詳しい情報を聞こうか」

男が戦闘で折れた大木を跨ぐ。
その際に、腰に巻かれたフリル付きの布地がピラリと捲れ上がった。
奥にちらりと、もっさりもっこり隆起したものが見えてしまう。

(あ――――――)

その瞬間、今までに味わったことのない脱力感に襲われてしまう。
クロードを退けたという安堵も手伝い、糸の切れたマリオネットのようになってしまったのだ。
膝から力が抜けていき、体がゆっくりと崩れ落ちる。
黒目だけが別の生物かのように、盛り上がった一点だけを見つめる形で固定されていた。
その黒目に、体が崩れ落ちるのに合わせ瞼が覆い被さってくる。






こうして、数多の戦場をくぐり抜けた弓使い、チェスター・バークライトは、死んだ。






 ☆  ★  ☆  ★  ☆






「……んなわけあるかい」

呆れ顔で、桃色の髪の毛をした少女が&color(red){【チェスター・バークライト 死亡】}と書かれた文字をチョップで砕く。
その光景を、呆れたように汗を一筋垂らしながら金髪の少女が見つめいていた。

「このネタ、もう既にやったでしょ。しかも他の書き手さんが。
 ギャグ調のニセ死亡表記も夢ネタも全部既出だってーの!」
「まぁまぁ、アーチェさん、そのへんで……」

アーチェと呼ばれた桃色の髪の毛の少女が、チェスターへと歩み寄ってくる。
アーチェは、短期間ではあったが仲間だった。
だからよく知っている。
破天荒なくせにツッコミもするキャラクターだ。

「大体! アンタちょっと死にかけすぎなんじゃないの!?」

ずいと指を鼻先に突きつけられ、チェスターは後退りする。
そんなアーチェを宥め賺す金髪の少女に、チェスターは目で助けを乞うた。
チェスターは、この金髪の少女も知っている。
豊満なバストの彼女は、ミント・アドネードと言う。
彼女とは、アーチェとよりも少しだけ長い付き合いだ。

「……もう少し、自覚を持ってもいいと思います」

やれやれと、小さな女の子が溜息を吐く。
女の子は、しゃがみ込んで砕けた&color(red){【チェスター・バークライト 死亡】}の文字を拾い集めていた。
そして、それを黒いゴミ袋へと放り込んでいる。

「……あのさ、前から気になっていたんだけど……」

その少女の名は、


…………


……………………


………………………………


えーっと、


「誰?」

知らない娘だった。

「うっわ酷! そーいうこと言っちゃうんだ!?」
「え!? し、知り合いじゃなかったはずだぞっ!?」

アーチェのリアクションに、若干の焦りを覚える。
アミィとダブるこの年齢の女の子を、忘れるはずがないのだが。
本当に、どこで会ったのだろうか。

「まあ、実際出会ってませんから」
「ずこーっ!!」

思わず頭から転げてしまう。
やっぱり初対面じゃねーか!!!

「ま、どーせ夢だし、起きたらアンタも忘れてるだろうから、教えとくわ」

夢。忘れる。
そう言われてみれば、今でこそアーチェ達とさっきも夢で会ったことを思い出せたが、
起きた直後にはそのことを忘れ去ってしまっていた。
まあ、覚醒直後は覚えていたけれど、ラッキースケベイベント後は記憶の彼方に消し飛んでいた。
夢なんてそういうものかもしれない。

「この娘の名前はすずちゃんってーの、覚えておきな!」
「すずちゃんは、未来で私達と一緒に冒険する娘ですよ」

ミントとアーチェに紹介され、すずと呼ばれた少女がペコリと頭を下げる。

「未来で……って?」
「……まあ、説明が面倒だし、分からないなら分からないでいいわ」
「何だよ、気になるな」
「どーせ本編に帰ったら忘れるんだし、説明したって無駄無駄」
「本編っておま……わりとキワドイこと言ってないか?」
「いーのいーの。そ・れ・よ・り!」

ずいとアーチェが人差し指を突きつける。
思わず後退ってしまった。
てっきり、何か文句を言われると思ったので。

――しかし、アーチェは笑っていた。

嬉しそうに、歯を見せて。
そして、言った。

「おめっと。やったじゃん」
「え……?」

祝辞の言葉へのお礼は、間の抜けた単語だった。
正直言って、チェスターには心当たりが微塵もない。
そんなことを祝われても、素直に「はいありがとうございました」とはいかない。

「何がだ……?」
「はぁ!? そんなことも分っかんないわけー?」

あ、くそ、こんにゃろ生意気な言い草しやがって。

「アーチェさんは、ソフィアさんを守れたことをおめでとうと言っているんですよ」
「ああ……何だよ、祝ってくれたのか」
「……ま、一応、アンタの初戦果なわけだし?」
「ミントもありがとな、教えてくれて」

やっぱ優しいよなーミント。
きっと、いい奥さんになれてたぜ。
胸も大きいし。
……胸も……うん、すごく……大きくてイイな……

「……おいコラこのスケベ大魔王!」

気が付くと、声が背後から聴こえてきていた。
そして腕を持ち上げられ、足に足を絡められた。
所謂一つの、関節技というやつである。

「所詮アンタはおっぱい魔人かァァァァァ!」
「ぎゃああああああああああっ!?」
「祝って損したわ! このバカ! 変態! スケベ大魔王!」

ミシミシと関節が悲鳴を上げる。
助けを乞うべく、視線をミントと幼女に移した。

「む……あれはパロスペシャル」
「知っているの、すずちゃん?」
「はい、正確にはリバース・パロ・スペシャルですが……あの技は(ry」

しかし助けてくれるどころか、微塵も役に立たない解説をしてくれただけだった。
先程の会話通りこれが夢ですぐ忘れるなら、ほんとに全く意味を成さないムダ知識である。

「イテテテテテテ! ギブギブギブ!!」
「死ね! おっぱいの角に鼻から突っ込んで鼻骨へし折って呼吸困難に陥って死ね!!」
「折れねえから! つーかおっぱいはそんなに固いものじゃねえよっ……!」
「うっさい死ね! 乳で撲殺されて死ねェ!!」
「うぎゃー! 誰か助けてくれーーーー!!」

腕がもげる。夢なのに痛いってどういうことだよコンチクショー!
そう思い、誰でもいいから助けてくれと絶叫した。
すると……




#aa{{

           \           ヽ         |         /             /
            \          ヽ         |           /           /
             \       ヽ           |        /        /
          混 沌 と し た ユ メ に 流 行 り の 救 世 主 が ! !
                 \      ヽ               /
       ‐、、            \.         ,  -───- 、      /          _,,-''
         `-、、          ┌─../: : : : : : : : : : : : : .\             _,,-''
             `-、、     ト、   /: : ,.   -──- 、: : : : \....   _,,-''
                `..    ゝ V( ))/         `ヽ: : : : \
                     / 〃 Y^y'´       _ ,  ヽ  `ヽ: : : :〉
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          _,,-''        )...   l : /l ::|ハ::{  ≠     '     }  l          `-、、
                 ノ | / . l :/ l :: ィト   ー― '    ,! ‐‐‐‐‐┐
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                        ヽ``ヽ     )VTT´  ̄ ̄`L ,.  '´ -=<  __
                      r── ミミヽ ,. ィ イ77´  ̄`7 //´ ̄`ヽ´ ̄ ̄`ヽノ
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                      r── ミミヽ//// |       l V    }ミヽ __ ノ
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「何か変なの来ちゃったーーーーーーーーー!?」
「救助のために、人気急上昇の僕がやってきたぞ! もう安心だなチェスター!」
「待って! 俺の中のかっこ良くなってたクレス像をぶち壊さないで!!」

成長しすぎて眩しく直視出来なかったはずのクレスが、今は何かもう違った意味で直視できない。
何なんだその格好は。問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。

「チェスター、折角夢でとはいえまた会えたんだから、アーチェを怒らせたらダメじゃないか」
「そ、そんなこと言っても、俺何も間違ったことは……イテテテテ! 痛い痛い!」
「馬鹿だなあ、チェスター。女性相手に胸のことなんて言ったら駄目じゃないか。
 アーチェだって関節技をかけても当てられない胸のことを気にしてるかもしれないだろ。
 胸の小ささを認識させるようなことを本人に言ったら駄目だ」
「そう思ってるならクチに出さないでえええええ! 強まってきたから! 関節極まりすぎてるから!!」

殺意が一層込められた気がする。
クレス、お前マジでもう帰れ、なっ!

「それに……お前、おっぱいは固くないとか言っただろ」
「それが何だってんだよ……」

そう言い、クレスは右乳の詰め物をはずしてミントへと投げ渡す。
受け取ったミントは仄かに頬を赤らめていた。
……そのリアクションはおかしくない?

「ほら、触ってみろ」
「うわっぷ!?」

パロ・スペシャルとやらのおかげで突き出す形となっているチェスターの顔を、クレスがそっと抱き寄せる。
そしてそのまま自身の胸へとその顔を埋めさせた。
……最低の絵面である。

「ほら、豊満な方は柔らかいだろ。ふよふよ気持ちいいだろ」
「何嫌な感想聞いてるんだよ! 最悪の気分だっつーの!」
「けど、パットを入れてない右胸は堅いだろう?」
「そりゃそうだろ! 柔らかかったら気持ち悪いわ!」

あ、嫌な予感。
頼むからアーチェの神経を逆撫でするようなことだけは――――

「だろう!? だから、胸が柔らかいだなんて言っちゃだめだ!
 洗濯板のようなアーチェの胸は、凹凸も脂肪もないその胸は、人くらい殺せるほどカッチカチかもしれないじゃないか!」
「何しに来たんだテメェェーーーーーーーーーッ!!」

アーチェのパロ・スペシャルの威力がめきめきと上昇していく。
これが怒り状態っ……!
テイルズには未実装だけども!

「うぎゃっうぎゃっうぎゃーっ!」

ベキベキベキベキベキベキベキベキベキ!

こうして、スケベ大魔王と呼ばれた男、チェスター・バークライトは死んだ。夢の中でも。






 ☆  ★  ☆  ★  ☆






「鍛え抜かれた野郎の胸と貧乳は違うだろ、クレスーーーーーーーッ!!!」

絶叫しながら、ガバリと起き上がる。
起こした顔が、何かにゴツンとぶつかった。

「…………」
「…………起きたか」

それは、おっぱいだった。
しかし、残念なことに今まで何度か偶発的に触れられた嬉し恥ずかし女の子のたわわなそれなどではない。
どっちかって言うと、憂うし恥ずかしい男の子(と言うのすら憚られる超生命体の)あわわなそれだった。
おっぱいというか、胸板である。
ただし、衣装は女の子の。

「……………………」

ゆっくりと、首を後退させる。
開けいく視界が、悪夢としか言えないツッコミ所のデパートのようなクリーチャーを映しだした。
どうやら疲労もあってか自分は倒れてしまっていたようだ。
そしてその疲労は、まだ抜けきっていないようだ。
疲れてるんだなあ、こんな酷い幻覚を見てしまうなんて。

「大丈夫……?」

心配そうに、青い髪の青年が覗き込んでくる。
ああ、覚えてる。
こいつは、クロードを追い払ってくれた奴だ。
確か、名はフェイト。
ソフィアの友人だったはず。

「ああ……大丈夫だ」

さっと立ち上がり、尻についた埃を払う。
そして、しっかり前を向いた。
いつまでも、下や後ろを見てはいられない。
今は、生きている仲間のために出来ることをしなくては。

(大丈夫、あれは夢だ)

嫌な、夢だった。
もうすっかり記憶から抜けつつある、旧友達との夢ではない。
その前後に見た、思い返すのも憚られる悪夢という単語の体現者が出てくる夢。
そのことを、指している。

(あんな化物、存在しない)

顔を上げると、その悪夢の体現者が立っていた。
もっと具体的に言うと、フリルの衣装を身にまとったムキムキマッチョメーンがそこに佇んでいた。
パッツンパッツンの胸筋に、衣装が伸びきっている。
もう一度顔を下げてまた上げてみても、依然消えてはいなかった。

(……そうさ、これも夢さ。イッツ白昼夢。もしくは、そう、幻覚)

ここに来るまで、ロクに睡眠を取っていなかった。
こっちにやってきてからも、ほとんど眠りについていない。
そりゃあ、白昼夢くらい見るってものだ。

(とにかく関わったら駄目だ。
 ここは意地でも目を背けてスルーするんだっ……!)

残念このマッチョは呪われている!
今度は視界から外すことが出来ない!!!

(うおおおおお……見るな、見るな俺っ……気持ちは分かるが目を背けろおおおおおおおおおお!!)

まるで首だけ麻痺でも食らったかのようだ。
首を曲げようとすると、ギチギチと音が鳴る。
その首に巻きついた鈍色の首輪に、脂汗がとめどなく流れ続けた。

「……とりあえず、安全な位置にソフィアを運んでからアルベルとかいう奴の様子を見に――」
「ああうん。気持ちは分かるけど現実を見ようか……僕らの怪我じゃ遠くにソフィアを運べないよ……」
「大丈夫だって! うん、イケるイケる!!」

目玉だけをフェイトに向け、無理矢理に話を進める。
そうだ、これでいい。
目の前で「ウェルカム!!」とばかりに手招きしている白昼夢には関わっちゃダメだ。
そうだ、関わらず、見ないことにして、先を急ごう。
そうするのが恐らくベスト!!

「ソフィアなら我が運ぼう」
「ぎゃーーーっ関わっちゃったーーーーー!」

ウェルカム白昼夢。
めっちゃ声かけてきやがった。ガッデム。

(まだだッまだ俺に声をかけてきたとは限らないしこれが幻聴じゃないとも限らないッ……!)
「何をしている。貴様に話しかけているんだ。移動を開始するのではないのか」
「うおっ名指し!? 逃げ場なし!?」

肩に手を置かれた。えんがちょ。

「そうですね……移動、しましょうか」
「やめてェェェェェ俺にしか見えない幻覚ちゃんと会話しないでェェェェェ!!」

そんなことされたら、もう認めざるを得なくなっちゃうぅぅぅぅぅ!!

「何だか分からんが落ち着け」
「ひでぶっ」

不審者によるビンタ攻撃。
俺は空中で錐揉み回転をして頭から落下した。
あたしは死んだ。スリープ(笑)






 ☆  ★  ☆  ★  ☆






「え、あんたまた来たの!? 早っ!」

気が付くと、目の前にアーチェが居た。
何故かボーリングに興じていたらしく、その手にボーリング玉を持っている。
そのボーリング玉を投げ(何故だかトルネード投法。グレイト)&color(red){【チェスター・バークライト 死亡】}という文字の羅列をパコンと吹き飛ばした。

「もういい加減、ニセ死亡表記もいらない気がするんだけど?」
「もう絶対騙されませんよね」
「まあまあ、二人とも……」
「ニセ表記は、なんニセよよくないですよね!」

クレスが何か言っているが、もう気にしないことにした。
その左頬が物凄い腫れ上がってるのは多分アーチェにあの後渾身の右ストレートでも貰ったのだろう。

「いやでも、割りと危ないって、あの落ち方は」
「確かに……あんたもまた変なのと遭遇したわねえ」
「アーチェさん、あまりそのような言い方は……」
「なぁに、ミント。じゃミントはアレを普通だって言うわけ?」
「…………そ、そんなことは……」
「物凄い勢いで目をそらしていますね」
「さすがのミントでもアレは擁護出来ないのか……」

先ほどの一件はパロ・スペシャルでのKOで決着しているらしい。
今はのほほんと円卓を囲んで雑談に興じることが出来ている。
円卓の真ん中では、土鍋がグツグツを音を立てていた。
その中には、先程アーチェがストライクした文字の数々が放り込まれている。
絶対食べたらお腹壊すよね、これ。

「……なあ、あれもやっぱり夢オチってことにならないのか?」
「ところがどっこい……夢じゃありません……! 現実です……! これが現実……!」
「怖いよ、すずちゃん……」
「いやでも、いい加減認めなくちゃいけないよ、チェスター。
 ああいう変態的格好でも、まともな人かもしれないじゃないか」
「あそこまでとは言わなくても変態的格好をしてたお前が言っても説得力が皆無だな」

さっきまで、お前も女装していたくせに。
今は、さすがに普段の格好に戻ってるけど。

「ちなみにクレス、全裸に近い格好になったりもしてたんだよ」
「アーチェ!!」
「ミントったら顔赤らめながら外界の様子見ててさー!
 指の間から見てるのバレッバレだっての。まったくウブなんだからー」
「あああああアーチェさんっ!」

うーむ、ほのぼのしてやがる。
この二人、本当に仲がいいな……
俺の知らない冒険の中で、きっと仲を深めていたのだろう。

「……あ、思ったより美味い」

クレス達を眺めながら、鍋に入ってた&color(red){“ェ”}に恐る恐る箸を伸ばした。
そして最も小さい&color(red){“ェ”}を口へと放り込み、その意外な味に思わず言葉が溢れる。
死亡表記って、思ったより美味いんだな。
ちょいと味が濃い気がするけど。
……アミィだったら、「もう、そんなに濃い味付けにしたら体に悪いよ」なんて言っていたのかな。

「~~~~~~~~~~~~~~!?」

俺の美味い発言を聞き死亡表記を口へと運んだすずちゃんが、急に立ち上がる。
そして、バタバタとその場を周り始めた。

「ど、どうしたの、すずちゃん!?」
「っ!! か、から!! 辛ひっ……!」
「あー……そっか、すずちゃん辛いの苦手だもんねぇ。ごめんごめん」
「はい、お水」

確かに、ピリ辛風味だった。
俺は美味しく食べられたけど、お子様には刺激が強すぎたらしい。

「……まあ、文字の味なんて予想出来ねえわな」

そりゃ食っちゃうわ。
特に、他人が美味いと言った直後なら。

「ばっかねー。赤いんだから、辛いに決まってるじゃない」
「……何だよその理屈」
「真っ赤もんね。まっ辛い(真っ赤らい)に決まってるよね!」

クレスの言葉に、場が一気に静まり返る。
ゆうに一分は沈黙が訪れただろう。
辺りに響き渡るのは、すずちゃんが水を飲む音だけ。
そして沈黙を破ったのも、水を飲み終えたすずちゃんだった。

「……りんごも生肉も赤いですけど、辛くはないですよ」
「……ぷっ」

子どもっぽい反論に、思わず吹き出してしまう。
物静かだし、てっきり芯からムッツリしている子供だと思っていたが……

「何よ急に、気持ち悪い」
「いや……俺、すずちゃんのこと、全然知らないなと思ってさ」
「まあ……チェスターさんから見たら、私は永遠に初対面ですから」
「それに……俺だけ、皆のこともそんなに知らないしさ」

そう、知らないのだ。
皆のことを好きになるには十分すぎる時間だったあの冒険。
だけどもそれは、皆のことをよく知るには短すぎるものだった。

「チェスターさん……」
「まっ、確かに私の魅力を十分知れてないってのはよく分かるわ!
 おっぱいが全ての男には、もっと内面を知らしめたい所だけど!」
「まだそのネタ引っ張るのかよっ」
「アーチェさん、フルーツポンチを作るのがお上手なんですよ」
「チェスターは食べたことなかったっけ。アーチェ、本当にスイーツは上手いんだよ」
「へぇ……そりゃ意外だ」

アーチェといえば、料理が出来ないというイメージだった。
……まあ、イメージも何も、実際出来ないのだが。
事実、この死亡表記鍋もミントが作ったものである。

アーチェが料理を出来無いことは知っている。
だけど、フルーツポンチが得意なことは知らなかった。

俺と皆は、そのくらいの距離の関係なのだ。

「……もっと、皆のことが、知りたかったな」

けれど、もっと皆のことを知りたい。
そう思わせてくれるくらい、皆のことは大好きだった。
短い時間だったけど、本当に大好きだった。
――何度も、夢に見てしまうくらいに。

「だけど……俺、もう行かなくちゃ」

けれども、いつまでもここにはいられない。
ここはとても居心地がよくて、帰りたくなくなるけど。

「ソフィアのことも、皆みたいにもっと知りたいって、仲間として居たいって、思ったから」

まだ向こうには、居るのだから。
アーチェのように、仲間としてもっと知りたいと思えた奴が。
そして、旅の仲間で生き残っている奴が。
だから、もう行かなくちゃ。

「そっか……アンタには、まだ居るんだもんね。向こうに、仲間が」
「行ってこいよ、チェスター。ちゃんと、守ってやらないとな」
「頑張ってください」
「応援、してますからね」
「みんな……ありがとな」

皆の言葉に、自然と表情が綻ぶ。
俺、皆が仲間でよかったよ。
恥ずかしいから、決して口には出さなかったけどさ。

「またすぐこっちに来ようものなら、絶対許さないんだからね」

立ち上がり皆に背を向けた俺に、アーチェが背後から抱きついてきた。
背中に、柔らかな感触がする。
なんだ、やっぱり貧乳だって柔らかいじゃないか……

「そんじゃ、夢から覚めるため、お約束言ってみようか」
「へ?」

湿っぽい雰囲気の喋り方をぶち壊し、アーチェが脳天気な声を出した。
まあ、先にそういう雰囲気を壊したのは、俺の鼻の下なのかもしれないけどさ。

「げぇーっ! あれは投げっぱなしジャーマン!!」

視界がグルンと縦に動き、そのまま宙に放り出される。
クレスの言葉で、投げ飛ばされたのだと分かった。
そしてそのままガシャンと派手な音を立て、俺の頭は鍋に見事突っ込まれた。

こうして、今回だけで何度も死亡死亡詐欺をしている男、チェスター・バークライトは死んだ。
そうして夢からまた覚めるのであった。






 ☆  ★  ☆  ★  ☆






「土鍋ダンクまでする必要性はないだろッ!!」

意味不明な帰省と共に、飛び起きる。
するとパサリと布地を顔が通り抜けた。
まるでカーテンの降ろされたサーカスのリングみたいに、そこは真っ暗である。
上を見ると、照明でも綱渡りの綱でもなく、もっこりとした禍々しい不吉なものが存在していた。

「やっぱり帰らせて夢の中ッ!!」

弾かれるように後方へ倒れる。
頭が再び布地をくぐり抜けて、視界がクリアになる。
その視界にまずスカートが映り、次第に上半身も映るようになった。
案の定、それは例の生けるグロ画像である。

「よく分からぬが落ち着け」

太い腕で、頭を支えられる。
地面で頭部を殴打しないよう支えてくれていたのだろう。
しかし如何せん、野郎同士でやる絵面ではないのではないだろうか。
なんというか、顔と顔も近いし。

「悪霊退散ッ」

アップになった変態の顔(主に唇。吐息かかってんだよ、畜生)に驚きおののき、思わず手が出てしまう。

「落ち着けと言っておろうが」
「ばけらったっ!」

そして見事なカウンターの右ストレートを貰ってしまう。
いてぇ。超いてぇ。

「……安心しろ、こちらに殺し合いをする気はない」
「……出来ることなら関わる気すらなかったら助かったんだけどな……」
「気持ちは分かるけど、彼、一応ものすごく頼りになる戦力だから……」

もうダメだ。認めるしかない。
夢であるように――何度も願ったが、どうやら現実は非常らしい。
このミスター白昼夢は、非実在マッチョマンでなく実在する人間(?)らしい。

「でもよ……一個だけ、聞いてもいいか」

だから、受け入れよう。こいつのことを。
受け入れがたいクリーチャーを、耐えて我慢して受け入れよう。

しかし、そのためにも、これだけは言っておかねばならない。

「……一つと言わずいくらでも聞け。答えるかは分からぬが、情報交換は必要だ」

俺は、決めた。
もう覚えてない夢の影響なのか、今、すごく新たな仲間のことが知りたくなっている。
ソフィアのこと、フェイトのこと。
一緒にここを抜け出すのだから、是非ともこいつらのことを知っておきたい。

そしてこの化物も仲間になるというのなら、こいつのことも知っておかねばならないだろう。

「あの、さ……」

喉が張り付く。
言っては駄目だ、と言わんばかりの見えない力がオールキャストで警告してくる。

それでも、無理やり口を動かした。
俺は決めたんだ、絶対仲間を作ってここから脱出するって。
そのためにも、こいつのことも知っておかなくちゃ。

目をそむけるのは、もう止めるんだ――!!






「その格好、何?」






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