エデンⅣ、午前9時前後。
未だ停電によって巨大な天蓋が不吉な闇を落とすその下では、地獄絵図のような激戦が繰り広げられていた。
興行区画のパルヴァライザー掃討を担当するグローバルコーテックスのランカーレイヴン、フォルディアは目前に迫った四脚型パルヴァライザーのブレード斬撃をひらりとかわし、ガラ空きの頭部めがけショットガンの零距離射撃を叩き込んだ。
パルヴァライザーは頭部を木っ端微塵に吹き飛ばされ機能を停止する。
「ラストワン。これで何回目だよ」
退けるたびに押し寄せるパルヴァライザーを悉く撃破してきたフォルディアは埒の明かない防衛線に多少イラついていた。
フォルディアはキャリア10年を超えるベテランであり、依頼されたミッションのほとんどを遂行しここまで生き残ってきた猛者である。もちろんミッションを放棄する気もなければ自棄になっているわけでもない。
ようは相性の問題なのだ。
防衛戦は彼の性分に合わない。ただそれだけである。
彼の操る愛機ルーンは強襲を主目的とした半軽量二脚ACで継戦能力はあまり高くない。
それでも担当する地区の防衛ラインを一度たりとも後退させていないのは彼の腕が一流である証でもある。
レーダーで確認できた敵は全て排除したが、念のため担当エリアの索敵を開始する。
その時、同エリアの防衛を担当していた別のコーテックスのレイヴンから通信が入る。
「フォルディア、すまない。もうAPが限界ギリギリだ。これ以上はガレージに一旦下がらないと回復できない。悪いが一時撤退させてもらう」
通信を送ってきたフロート型ACは機体各所から火花を散らしており満身創痍だった。
だが、彼も今までフォルディアと一緒に最前線を維持し続けた腕のいいレイヴンだ。
自分の機体以上に防衛戦に向かない機体でここまで持たせたのは、むしろ大健闘といえるだろう。
「ああ、構わねえよ。今のうちに下がってくれ。お前のような腕のいいヤツを失うのは今の状況では痛手だからな」
「すまん。そう言ってくれると助かる。応急処置が完了したら再出撃するよ」
フロートACのレイヴンはそう言うと、ガレージへと続く地下リニアへの大型運搬用エレベーターへと姿を消した。
レーダーで周囲に敵の反応が無いのを確認してから、フォルディアは自分の専属オペレーターに通信を繋ぐ。
「グロリア、どうだ?この辺のパル共は全部ブッ潰せたか」
「担当エリアの掃討を確認。でも各地でまだまだ苦戦してるみたい。今、補給を手配したから補給完了後、別のエリアの応援お願いね」
妙に艶っぽい美声が印象的なグロリアは友人に話しかけるような気軽さでフォルディアと会話する。
その軽快な口調は、この非常事態に少しも動揺していないことの表れでもある。
「あぁ?まだやんのかよ。ったく、どっから湧いてきやがんだ一体?」
「さあ?とにかく、今はエデンⅣ全体がてんてこ舞いなんだから!文句言わずに働く働く」
「簡単に言うな。それより
ソリテュードはどこに行ったんだ?アイツと俺が組めば、もっと効率よく害虫共をブッ殺せるぜ」
グロリアと会話している最中に弾薬補給車両が到着し、コーテックス整備スタッフ達がルーンの搭載する各武装に弾丸を装填していく。
「担当エリアが違うから分からないわ。ミランダちゃんともコンソールが離れてるし。でも少し前に小耳に挟んだところによると、セントラルタワー頂上に一人で陣取って狙撃してたらしいわよ」
――アイツが狙撃?らしくねぇな・・・。
「まあ、いいや。この乱戦じゃ合流も困難だろうしな」
コンソールの残弾カウンタが全武装フル装填になった事を確認すると、フォルディアはルーンを再び立ち上げる。
「ンで?次はどこへ行きゃいいんだ」
「あら、ブツブツ言ってた割にはやる気じゃない?」
「5年前のように害虫共に好き勝手やらせるかってんだよ」
「オッケー、私もそれは同じよ。そうね・・・次はココ。ウェストインターチェンジの先の、このエリア。ここが突破されるとインターチェンジ付近の友軍が挟撃されてしまうの。インターチェンジを防衛している友軍も決して万全じゃないわ」
グロリアから転送されてきたエリアマップを見ると、指定された防衛ラインが既にギリギリの状況であることが分かる。
「駄弁ってるヒマはねぇか・・・ミッション了解。これより当該地区へ向かう」
「頑張ってね。それと、弾薬費はコーテックスからのサービスだから、安心して」
悪戯っぽく言うグロリアに皮肉を込めた笑みで返す。
「当たり前だ。今の時点で弾薬費が前金を上回ってんだからな!」
フォルディアはルーンのオーバードブーストを巡航モードで起動するとビル群を貫く大通りを疾走していった。