奈落の城 一柳和、2度目の受難

【ならくのしろ いちやなぎなごむ、にどめのじゅなん】
ジャンル 本格推理アドベンチャー
機種 プレイステーション2(PSPに移植あり)
発売元 日本一ソフトウェア
発売日 2008/03/06
メディア DVD-ROM1枚
プレイ状況 全エンディング制覇(8種)
総合評価 C

推理は連鎖する

主人公一柳和は、ある事件(前作『雨格子の館』)で知り合った俳優の高遠日織と、彼の友人の城を訪れる。
ヨーロッパ山中にあるその城では、ルロイ伯爵家当主アル、彼に仕えるティーロ、アルノルトの従兄弟のザック、ルロイ家と親しいオカルト好きの大学教授ヴィンス、アルノルトの主治医兼家庭教師のクレア、アルノルトの遠い親戚の三笠、謎の老人ハユツク、アルノルトのSPジョージ、そしてルロイ家のメイドである千恵子とネリーなど、の個性的な面々が待っていた。
今度こそ大丈夫、前回のようなことにはならない…。
そう願っていた和だったが、城が脱出不可能となったのを合図にするかのように事件が次々と起こる。
そして相棒の日織の失踪。和は日織不在の中、事件に立ち向かっていく。

システム

「好感度」
冒頭で各キャラクターと会話する機会があり、その会話の結果(つまり第一印象)によって、一度の自由行動で「会話」出来る回数が変化する。好感度最高で10回、普通で5回、最低で2回。好感度が低くなると、立ち絵もバストアップから全身と距離感のあるものになり、台詞も突き放したものに変化。必然的に得られる情報量も減る。

「パートナー」
今作からの新要素。好感度が高いキャラクタがパートナーとなり、共に事件を調査することになる。パートナーごとに展開が異なる。

「アクションゲージ」
自由時間に移動、会話、調べるなどの行動をすると「アクションゲージ」が消費される。ゲージが無くなると自由行動が終了し、ストーリーが進む。
移動は、見取り図から行き先を指定する「MAP移動」と、3Dマップ上を自分視点で移動する方式2種類。
調べる行為については、画面上のカーソルを動かして箇所を指定する方式。

「キーワード会話」
キャラクターとキーワードを選択して会話、情報を引き出すことができる。キーワードは展開や調査などで入手できる。キャラクターが教えてくれる情報は和への好感度によって左右される。

「情報整理」
調査や会話などで入手した情報は、日織の部屋のPCに入っている「日織メモ」に登録されていく。また、自室での情報整理では「アリバイ表」に情報を記入できる。証言を基に各キャラクターの行動を記入。正しく記入すれば犯人の特定はもちろん、証拠として使用できるようになる。

問題点

  • システム
問題点はシステムくらいしかないが、そのシステムに難がありすぎる。
「アクションゲージ」システムのため、手当たりしだいというわけにはいかず、ある程度計算して調べまわらなければいけないのだが、どこに登場人物がいるのか分からない。正確にはうろついてて見つからない。基本的にゲージをおおよそ三等分し最初、真ん中、終りあたりで移動している。まったく動かないこともあるが、用事があって(メイドなら仕事があるから)もっと動きまわる奴もいる。リアルといえばリアルなのだが、キーワードで証言・証拠を集めなければならない、かつキーワード入手状況が進行フラグにもなる今作ではイラつき倍増。前作に比べ、館が広く部屋が多くなっているのも厳しい。

フラグ管理が甘い箇所が散見される。数種類の展開パターンがあるからか、会話の整合性が取れなくなっている箇所がある。誤字も酷い。またクリアには関係ないが、あるアイテムがバグで見えない(クリックすればメッセージは表示される)。面白いバグとしてはキャラクターと一緒に瞬間移動バグがある。話しかけた途端に背景が変わったり本当に場所が移動したりするもの。聞いたはずの会話を繰り返すこともある。何を言ってるかわからねーと思うが(ry

クソゲーネタとして勇名な伝説の「テキストがまだない」も同じく整合性の問題。あるシナリオのあるパターンで殺されてしまう人物の消し忘れがあり(生存時は問題ないが、殺害されていればそこにはいないのが当たり前)、殺害されていても普通に会話出来る箇所が一箇所ある。そこでキーワード会話で「自分の死」について聞くと「テキストがまだない」と表示されてしまう。なんだこれは。

CG閲覧が可能な「アルバム」で、1枚開かないバグがある。長年「謎のラスト一枚」とされていた。ただしゲーム中にそれっぽいCGはある。メーカ曰くバグで「アルバム」に登録されないとのこと。コンプリートしたい派の人間を絶望させた。

シリーズ恒例の暗号が今回複数存在する。しかし困ったことに暗号が自力で全部解けるのは余程の推理マニアなのではないだろうかというレベル(ヒントは日織メモにあるが)。前作の暗号が簡単すぎるとかアンケートにでも書かれていたのだろうか。そもそも、暗号が解けないと城の隠し通路に入れない→なにも始まらない→よくわからないままバットEDとなるのは推理ものとしてどうなのか。しかも重要な暗号なのにゲーム開始時に3種類の中からランダム選出されるし。苦労して解いても次回には使えないと言う外道仕様!!

ベストエンド当達にはキーアイテムを見つける必要がある。所持していないと何日目かに強制バッドEDになるのに、何のヒントも無く、あきらかに誰もいなさそうな所に放置されている。誰かを探して移動するのが基本のこのゲームでこの仕様は鬼。

さらにベストエンド当達にはあるキーアイテムを見つける必要がある。城の各部屋にそれっぽいのが散乱している。やっぱり開始時にランダム決定。最悪手当たり次第でもいけるが、ブツそのものは城の各部屋に1つはあるような代物。正解は1つだが、一度に4つまでしか持ち歩けない。行動制限がかかるアクションゲージシステムと相まって最悪。しかも探す時は広い城の各部屋を視点変更しまくって探さなくてはいけない。

またまたベストエンド当達というか脱出にはまた暗号が必要であり、その暗号はまたゲーム開始時にランダム決定される。トラウマになりかねない怒涛の暗号攻め。暗号フェチにはたまりませんね!居るのか知らないけどね!

そしてこのゲーム最大の困ったちゃんが3D迷路。ラスボス。こいつにかかれば暗号なんか可愛いもの。ベストエンドでは何度も通行しなくてはならないのに、なぜか迷路のみマップショートカットが使用不可能。徒歩、つまり自分視点で3D移動しないといけない。出来がいいとはお世辞にも言えない3Dの暗い地下迷路をさ迷わなくてはならない。しかも地図とか表示されない。前作は一度通ったところは地図が表示され、マップショートカットも可能だった。なぜ劣化した。当然3D酔いする。気持ち悪さをこらえ、眼がガンガンするのをこらえたことが懐かしく思い出されます。悪夢だ。

とあるルートでクリアに必須の1分刻みのアリバイ表作成。しかし証言が非常に曖昧で推測で埋めなくてはならないところもある。かつ白紙の状態から自分で埋めていく必要があるという鬼仕様。事件直後に聞いた証言はPCの日織メモにも登録されない。その場でプレイヤーが本当にメモを取る必要がある。前作アリバイ表は5分刻みで、なおかつ最初から事件直後に聞いた証言などある程度は自動で埋まっており、そこからキーワード会話で新たにわかったことを書き込み修正していく方式であった。劣化しとる。

おまけ要素としてどこかのルートクリアで出現するフローチャートがあるが、大雑把で分岐条件などは表示されないし推測も難しい。どこのルートから分岐するか分かる程度。

評価点

  • システム
キーワード会話は聞き込み調査をうまく再現している。キーワードは場所、人、事柄など分類されているので選択しやすい。同時にやりこみ要素・遊び要素でもあり「パンの焼き方」「不気味なカップ麺」などくだらないキーワードは、明らかに捜査に関係ないのに限られた会話回数を消費してまで聞いてしまいたくなる魔力がある。そしてその会話が雑談過ぎて面白い…。くだらなさ過ぎる。前作やミッシングパーツ関連の話が出ることもあり、ファンサービスも充実。

今作から搭載の「EasyMode」が便利。移動・調査・会話で消費されるアクションゲージの減りが少なくなる。また、 カーソルモードでもクリックすべきところで色が変化する、捜査の鍵になる重要ワードで音がする、など難易度が下がる。イージーにすることによる不利益はない。

酷い誤字脱字に加え、つじつまと言うか整合性が取れていない箇所もあるが、ゲーム進行不可能になるような致命的バグはない。

  • シナリオ
一回クリアするごとに真相に近づいていける作りはなかなか斬新。一回目で何がなにやらわからないまま終了、二回目で犯人がわかるが動機がわからず、三回目で犠牲者なしで犯人も動機も判明ルートに入れるという、周回プレイ前提の作りであるにも関わらず、どのキャラクターも個性が強烈なため、どのルートでも展開が面白く飽きがこない。
また、パートナーとなることにより、どの人物にも親近感が湧く。するとどうしてもパートナーを疑えなくなってくるし、失踪してしまったならどうしても生きたまま見つけたいと思うようになる。このシステムはクローズドサークルが前提のこのゲームにうまくマッチしている。
「推理小説の禁じ手」を使用していることについての批判意見があるが、世界観、雰囲気、キャラクターの造形を含め、ストーリーの完成度は高い。

  • グラフィック
一枚絵イラストが豊富。殺害現場のイラストなども「調べる」モードのためかかなりハッキリ描かれている。ちょっと怖い。でも綺麗なCGである。

全ルートクリアで前作に引き続き、劇中に登場、かつ前作の鍵でもある「北速水」シリーズという探偵小説シナリオがプレイできる。これは推理はなくノベル形式。けっこうなボリュームがありクオリティが高い。

総評

予約してこれ買ってた。
2008年度KOTYにおける七英雄として名高いソフトだが、正直どうか?という感じがする。「テキストがまだない」はどこをどうしてこうなった、というインパクトだが、クソゲーかというとまた違う感じがする。
なぜなら楽しく遊べるから(ただし暗号は攻略を見るのが前提だけど)。フラグチェックが甘いって意味でまずいけどゲーム進行に問題ないし、文体も癖がなくシナリオ事自体は非常に良質。探索はワクワクするし、会話も楽しいし、展開が非常に気になるなど、アドベンチャーとして必要なものを持っている。
ただし3D酔する迷路と解読不能の暗号には弁護の余地がない。C評価とした。次回作に期待。

後に出たベスト版では整合の合わない箇所やバグは解消された。またシリーズのプラットフォーム変更に伴いPSP版(とダウンロード版)も発売されている。PSP版には追加シナリオ2本と細部に追加テキストがある。ゲームシステムもPSP版は親切になっているので、プレイするならこちらがおすすめ。
最終更新:2012年02月26日 20:43