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聖ミュロンド寺院礼拝堂―――。
異界の悪魔に魅入られ、生ける屍と化したザルバックの鋭い牙が
アグリアスの首に突き立てられた。
滴り落ちる鮮血のしずくが床と彼女の服を紅く染める。
人ではないモノに血を啜られるという嫌悪感と、戦士としての矜持が
彼女に抵抗を命じる。このモノを振りほどき、反撃せよ、と。
しかし何かがそれを許さない。全身を巡る、未だかつて体験したことのない
強烈な快感が思考を溶かし、意識を蝕んでいく。
総身を支配する快楽を前に成す術もなく、心の中に流れ込む
得体の知れない黒い何かを受け入れ、彼女は意識を闇に委ねた。
アグリアスが眠るように床にくずおれた直後、
聖騎士の生き血をむさぼったザルバックはラムザの手によって殲滅された。
変わり果てた兄を手にかけたラムザは、無力感と絶望で涙を流す以外になかった。
戦闘終了後、アグリアスは何事も無かったように自分で目を覚ました。
出血量も命に関わるようなものではなく、首すじに突き立てられた牙の
跡が残っていたが、それも治療魔法によって綺麗に回復された。
線の細い女性であるにも関わらず、気の遠くなる鍛錬を積み重ねた
アグリアスは外見以上に丈夫であり、これしきは怪我の内に入らない瑣事である。
一行は旅を続け、野を越え山を越えていく。
照る日差しに長時間の歩行が重なり、並の者ならば音を上げて当然の
過酷な旅路であるが、幾多の戦場と地獄を潜り抜けてきた彼らにとっては
何のことはない、既に日常の一部である。
平然と歩を進める仲間たちの中、アグリアスは自身の違和感に困惑していた。
妙な倦怠感と、それに反するような異様な精神の高揚。
そして―――水を飲んでも飲んでも癒えない喉の渇き。
食事で腹は満たされても、それでもなお満たされない飢餓感―――。
人の血を……吸ってみたいと思った。
アグリアスは自身の異変を包み隠さず隊長であるラムザに報告した。
恐らくはザルバックに吸血されたことが原因であること、
その結果自分が不調になり、意識が少しずつ人のそれから離れ始めていることを。
他人に迷惑をかけるからという理由で個人の怪我や病気を
隠蔽するのは、団体においては美徳ではなくむしろ悪徳である。
対策を打たずに放置された個人の問題は、団体の命運が左右される
重要な局面で、必ず大きな問題に発展して団体全体を混乱の極みに陥れる。
逆に言えば、そういった個人の問題を早期に包み隠さず報告し、
広く解決案を募れば問題の肥大化は未然に防ぐことができる。
このあたりの機序は、長く団体に身を置き部下の采配を振る
アグリアスにとっては経験則として骨身に染みていた。
この報告を受け、ラムザは隊随一の白魔導師ルナにアグリアスの治療を命じた。
ルナは戦闘能力はからっきしなのだが、白魔法に異常なまでに突出し、
医学方面の知識も豊富に備えているため、怪我人治療専門の隊員として働いている。
アグリアスはだるい体を引きずりつつ、憂鬱な面持ちでルナのもとへ向かう。
ルナは確かに腕のいい白魔法の使い手だが、1つの大きな問題を抱えていた。
いわゆる一種の破綻者なのである。白魔法と医学の知識の探求を至高の
娯楽と認識し、病人は自分の欲求を満たす為の最高の素材だと捉えている節がある。
治療という目的と己が知識欲の為には手段を選ばず、
彼女の治療を受けて、体の傷は癒えても心の傷が増えたという隊員は後を絶たなかった。
今となっては自分の身に対する不安よりもルナの診察を受けることの方が
より大きな不安を感じる。アグリアスは恐る恐るルナの控えるテントに足を踏み入れた。
山積みにされた医学書と論文と古文書、実験器具と白魔法の儀式に使われる小道具が
散乱する中に埋もれるように、狂気の白魔導師ルナがちょこんと座っていた。
「やあ!私の診察室へようこそ!ちょっと散らかってますけど、適当にどけて座って下さいね」
大きな青い瞳を爛々と輝かせ、銀髪の少女ルナが満面の笑みでアグリアスに語りかける。
おもちゃを手渡された子供のようなわくわくとしたルナの笑顔に、アグリアスは一抹の不安を
抱かざるを得なかった。

3日前に吸血されたことから、その後の現在の体調の変化、
妙な喉の渇きとえも言われぬ飢餓感、そして断続的におとずれる、
人の血を吸いたいという衝動…その全てを隠さず詳細に話した。
意外にもルナはおとなしくアグリアスの話を聴いていたが、
話し終わると同時に歓喜に身を打ち震わせて立ち上がった。
「素晴らしいです!今までに見たことも聞いたことも無い症例ですよ!
 これは治療のしがいがありますね!」
アグリアスは頭を抱えてうずくまりたくなった。自分はこんな人間に
身を委ねるしかないのか…人の不幸を喜ぶ医者など、
こちらこそ見たことも聞いたことも無い。
「吸血時に感じた快感というのも気になりますねー。
 どのくらい気持ちよかったんですか?」
興味津々といった様子で顔を覗き込んでくるルナに対し、
アグリアスは返答に窮する。快楽に呑まれ、成す術も無く
気を失った自分を思い出し、暗澹とした気持ちになる。
「…さぁ…?よくは覚えてないが…剣の鍛錬に励んだ後、
 汗を流すために湯で体を洗う時と同じくらい…か…?」
実際はそんなものとは比較にならない、意識も矜持も
何もかもを溶かしてしまうような強烈な快楽に襲われたのだが、
そんな事をよりにもよってこのルナに話しても何の得にもならない。
「それくらいの気持ちよさで気を失うわけないでしょ?
 性行為以上の快楽だったんですか?」
「なっ…!?」
顔を赤く染め、たじろぐアグリアスに、にやにやとした顔でルナは追撃する。
「アグリアスさん…これは治療上必要な情報なのでお尋ねするのですが…
 男性経験はおありですか?」
「ぐっ…そっ…それは…その…」
顔を真っ赤にし、うつむいてモジモジとするアグリアスをひとしきり観察して楽しんだ後、
「まあ無理に患者のプライバシーを侵害するわけにもいきませんし、
 答えたくないのなら答えずとも結構です。…女性は若いうちが華ですよ。
 さっさと済ませておくことです」

「ぐっ…!」
隠し事をまんまと暴かれた上に、いいように弄ばれてしまった。
ルナは確かに稀代の天才少女なのかもしれないが、医者とは思えない
気質の上に性格まで捻じ曲がっている。どこか頭の歯車が狂っているとしか思えない。
「吸血時に生じる快楽の理由というのは大体想像がつきます。
 恐らく快楽を送り込むことで身動きを封じ、吸血を成功しやすくするのでしょう。
 吸血という行為の為の麻酔の一種、もしくは快楽という報酬と
 吸血という搾取の、単純なギブ&テイクの結果とも考えられます」
先ほどの簡単な問診でここまで組み立てられるルナの手腕は認めざるを得ない。
だかいかに医者として有能でも、ルナは人間としてどこか破綻しているのは間違いない。
「では触診に移りましょう!血を吸われた箇所を診せてください」
常軌を逸したものを瞳に滲ませながら迫るルナに対し、
恐怖すら抱きながらアグリアスはおずおずと首を差し出した。
「ふ~ん…膿んだり腫れたりしている様子はないですね。
 よいしょっ!」
ごきっ!
「ぐあっ!?」
突然首を捻られ、アグリアスは思わず悶絶する。
「首の筋肉コリすぎですよ!アグリアスさんは胸が小さいんですから、
 肩肘張らずに生きていけば肩こりせずに済みますよ」
「…お、お前みたいな子供に言われたくない…」
「私はまだ15歳ですからね。まだまだ未来が残されているのです」
無い胸を張るルナに対し、アグリアスは言葉も無かった。
もう吸血のことなどどうでもいい。一刻も早くこの悪魔の前から立ち去りたい。
「肺の様子と心音の確認をしたいので、上の服を全部脱いで下さい」
「えっ…!?じょ、上半身裸になれ、というのか…?」
「そうですが、それが何か?女同士恥ずかしがることもないでしょう?」
「そ、それはそうだが…」
渋々アグリアスは言われたとおりにする。別に他の女の前では
これほど躊躇することもない。しかし、この悪魔だけは別だった。
案の定、胸が小さいやら、それでも形は良いなどととってつけたように褒められたり
女性なのにたくましいなどと、およそ言われたくない事の全ては言い尽くされてしまった。
「検査用の試料として採血させてもらいます」
注射針が血管に刺し込まれ、注射器の中に血液が満ちていく。
赤黒い液体を見つめるアグリアスは、素人目にも分かるほど呼吸が早く、
興奮状態に陥っていた。その目にはもはや血しか映っていない。
「(…ふーん。なるほど…これは面白い)」
ルナは採取した血液をしまい、テントの隅のゴミの山の中から皿を引きずり出し、
皿の中に、保存してあった実験用の血液を広げた。
「少し前に採取したヤギの血液です。今、あなたは何を感じますか?」
「………」
抑えても抑えても沸々と湧き上がる、目の前の血を飲み干してしまいたいと
いう衝動……しかしそれは人として禁忌とされる欲望だった。
今は理性でその衝動を抑えていられるが…いずれは…。
呆然と皿の中身を見つめ続けるアグリアスに返事を期待できないと
悟ったルナは、皿の中身を手早くしまった。
「結論から言いましょう。肉体的には何の問題もありません。
 健康そのものです。先ほど採取した血液を検査にかけないことには
 確証は持てませんが、恐らく何らかの異変や病原体の類は検出できないでしょう」
「で、では私は何が原因で…血を…欲しているんだ?」
「病気が原因ではありません。少なくとも、病原体への感染や
 臓器の疾患・損傷が原因で血を飲みたくなる・吸いたくなるといった
 病名は、私は1つも知りません。医学的に説明がつかないのなら、
 原因は魔術・呪術の方面に求めるべきです。
 多分、あなたは少しずつ吸血鬼化してるんですよ」
ルナは華のような笑顔で、とんでもない診断結果を直球でぶちまけた。
いや、そこは笑うところじゃないだろうという意見は、混乱や絶望のるつぼに
飲み込まれてかき消えた。
「そのザルバックとかいう元人間の吸血には、対象の血を吸うことで
 自分と同じ吸血鬼に変えてしまうという効果があったんだと思います。
 吸血が戦闘において敵を減らし味方を増やす上で有効な攻撃手段ならば
 即効性でなければ意味がありませんが、あなたが吸血された直後にザルバックは
 隊長によって殲滅されている。もしもそうでなかったなら、あなたはその場で即座に
 吸血鬼化して隊長達に襲い掛かっていたはずですよ」
考えるだけでぞっとする。人外の存在に生まれ変わり、
かつての仲間に剣を向けるなど、悪夢以外の何物でもない。
「あなたは血を吸われ、吸血鬼化が完了する前に
 支配者になるはずだったザルバックが滅んでしまった。
 しかしザルバックが滅んでもなお、吸血鬼化に必要な因子は
 体内で潜伏しつづけた。ザルバックに吸血された際、
 快楽以外に何か感じませんでしたか?何かを植えつけられた、
 注入された感覚のようなものを」
そう言われ、アグリアスはハッとする。血を吸われたあの時、
確かに感じた心に染み入るような黒い何か。
それが何かは理解できなかったが、本能的に忌避すべきものだと感じた。
「あ、ああ…。何かは分からないが、心の中に何かが入り込んだ
 ような感覚があったんだ…」
ルナは満足そうにうなずき、話を進める一方で嬉々としてカルテに
病状と推定される原因を書き込み続ける。
「あなたの体内…心の中…この際どちらでも構いませんが、
 とにかく侵入したソレは今もなおあなたの吸血鬼化を進めています。
 倦怠感を感じるのは、体質が少しずつ吸血鬼のそれに近づいているので
 人間としての肉体が拒絶反応を起こしている結果だと考えられます。
 親であるザルバックが滅んでいますから変化が劇的に進むということは
 今までの経過から考えにくいのですが、放っておけばいずれ
 完全な吸血鬼になりますよ」
普通、医者というものは患者に刺激を与えないように穏便に
病状を説明するものではないだろうか…?ルナはそういった繊細な
配慮にまるで頓着せず、無慈悲…というよりも無邪気に死の宣告にも近い告知をした。
「ち、治療法は無いのか…!?私はこのまま吸血鬼になる以外に道はないのか!?」
「ありません。医学会でも魔術学界でも報告されたことのない初めての症例です」
絶句する以外になかった。人間としての人生は近い将来に終了し、
人を護る側から人を脅かす側へ、人外化生としての未来がこれから広がっていくのだ。
幾多の絶望と死を超えてきた彼女の鋼の心も、今回ばかりは残酷すぎる現実に
打ちのめされ顔を上げることもかなわない。
「既存の治療法は存在しない、と言ったんですよ。私が新しく治療法を
 見つければ吸血鬼化は防げます」
「それを早く言え!!お前は医者のくせにどうしてそう人を
 絶望させるのが好きなんだ!」
首を絞められ前後にがくがくと頭を揺さぶられながらも、
ルナはさも楽しげにからからと笑うだけで反省の色など微塵も無い。
そんなルナを解放し、アグリアスはため息をつきながら座りなおした。
「…で…治療法が見つかる可能性はあるのか?
 私はあとどのくらいで吸血鬼になるんだ…?」
「とりあえず、今私が持っている文献を洗いなおして
 似たような症例がないかを探しますが、多分無駄だと思います。
 資料の絶対数がまるで足りないからです。街の大図書館で
 魔術書を片っ端から調べる必要があるでしょう。
 それで治療法が見つかれば解決、見つからなければ
 吸血鬼として第二の人生を歩むだけです」
「私は吸血鬼として生きるなんて真っ平御免だ!」
「いやいや、吸血鬼も捨てたものじゃありませんって。
 伝承によれば、不老の上に不死の体。おまけに
 時間を停止させる能力も身に付くそうですよ。完璧です!」
「真・面・目・に・話せ!」
首をギリギリと締め上げられ、さしものルナも苦しそうだ。
「前例が報告されていないので吸血鬼化するまで
 どのくらいの猶予があるのか正直分かりませんが、
 私はあと一週間ほどで完全に吸血鬼化すると思っています。
 根拠はありませんが、医者としてのカンと女のカンを組み合わせて」
頭が痛くなってくる。
「私はこれから街に出向き、治療方法を調べます。
 5日以内に戻ってくるつもりですが、今日明日にでも
 あなたが吸血鬼化しないとも限らない。私がここに戻るまでの間、
 あなたの身柄を拘束します」
「こ、拘束…!?」
「はい。さしあたって、手と足を鉄の鎖で封じて行動できない
 ようになってもらいましょう。どうやら吸血鬼に血を吸われた
 人間は吸血鬼になるようです。つまり伝染するんですよ。
 私が帰ってきたら、仲間が全員吸血鬼になっているようでは困ります。
 まあそうなっても私には関係ありませんが、研究場所とパトロンを失うと
 医学と白魔法の研究ができなくなってしまうので困るんですよ」
「………」
「今分かる範囲で発症しうる症状と、それに対する対処療法を
 一覧にして他の白魔導師に渡します。ケアはその白魔導師から
 受けてください。それと、もしも急激に吸血鬼化が進行し、
 もうだめだ、人であるうちに人のままで死にたい…とか思うようになったら」
棚から青色の粉の入った袋を取り出し、アグリアスの手の平にポンと乗せた。
「コレを水に溶かして、静脈注射して下さい。10分以内に
 何の苦しみもなく眠るように死ねるスグレモノですよ♪」
「…お前はそれでも医者か…」
「本人の意思を無視した無意味な延命治療には興味がありませんので。
 生きるか死ぬかを選ぶのは患者の自由というのが私のスタンスです」
アグリアスは思わず天を仰いだ。
「もしも治療法が見つからず、不幸にして吸血鬼になってしまった場合ですが…
 私は吸血鬼というものを目にしたことがありません。本当に人の血を
 吸うのかどうかも事実を確認しない限り分かりません。
 案外普通の人間と大差ないのかも知れません。人に害を及ぼさない
 ようならば、私はどうもしません。放っておくだけです。
 症例には興味があるので、標本として研究に協力してくれるのなら大歓迎です。
 ただし、人に害をなすような存在になるようならば、医者としてではなく、
 人の世を健全に保つ為の白魔導師…エクソシスト(悪魔祓い)として
 私自らが責任をもって殲滅して差し上げますので、ご心配なきように。
 医者としても白魔導師としても最後までしっかり面倒を見るのが私のポリシーですので」
15歳の少女相応のあどけない笑顔に、アグリアスは何と応えれば良いのか分からなかった。
ルナが治療の一時的引継ぎを済ませ、調査の手伝い数人と
護衛(これには何とオルランドゥ伯が自ら志願した。愛弟子のアグリアスの
危機に際して、積極的に助力したいと申し出たからだった)を
引き連れ、街を目指して出発した。
アグリアスはテントの中で、手足を鉄鎖で拘束され、一人寝転がっていた。
「緊縛される聖騎士ですかぁ…う~んフェティッシュですねぇ」
この非常事態をまるで理解していないような、
頼みの綱のルナの発言がいつまでも耳に残響していた。
一週間で吸血鬼になるなど、散々ルナに脅かされはしたが、
今のところどうということはない。発作的に血が欲しくはなるが、
後は全身がだるいというだけのものだ。
とんでもない診察による心労と倦怠感によってまどろみかけていた時、
二人の訪問者がやってきた。
「吸血鬼になりかけてるんだって?あなたも苦労人ね」
「どんな気分ですか?辛いですか?気持ちいいですか?」
さもうざったいと言わんばかりのアグリアスの顔を覗きこむのは、
メリアドールとレーゼだった。アグリアスはこの二人とよく行動を共にしていた。
「…お前ら…私は一応病人で疲れてるんだが…」
「あら、だからこうしてお見舞いに来てあげたんじゃない」
ねー♪とメリアドールとレーゼは顔を見合わせて微笑みあう。
この二人は何か企んでいる。アグリアスは直感的にそう感じた。
「お土産があるんです。ラムザを散々脅し…じゃなくて頼み込んで、
 やっと使わせてもらえるようになった貴重品なんですから」
…さっきから断続的に続いていた地鳴りのような音は、
レーゼがラムザを脅迫する為に樹か地面でも殴っていた音だったのだろうか…。
「じゃじゃ~ん!リボンです!」
リボンを誇らしげに掲げるレーゼに、メリアドールがわざとらしく
わあーーーっなどと感嘆し、拍手を贈る。
「このリボンにはありとあらゆるステータス異常を予防する、
 世にもありがたい効果があるのです。隊で二つしかない貴重なアイテムなんですよ」
「吸血鬼化で苦しむアグリアスのために私たちがしてあげられること…
 このリボンさえあれば救ってあげられるかもしれない…。
 そう思ってリボンを始め、色んなレアアイテムを用意してきたのよ」
妙に演技じみた仰々しいメリアドールの台詞に、アグリアスは不安を覚えてきた。
「…いや…気持ちは嬉しいが、リボンはあくまで予防のための
 装備品であって、私は既に感染している訳だから意味が…」
「まあ細かいことはどうでもいいのよ。物は試しって言うでしょ?
 アグリアスってばいつも三つ編みだから、この際いろいろな髪型を
 試してみましょ」
アグリアスが鉄鎖で身動きができないのをいいことに、二人は
驚くほどの手際のよいコンビプレイで、アグリアスの結った髪を解き始めた。
「うわ!?おい!こらバカ共やめろ!」
「いいからいいから…全て私たちに任せて下さい」
アグリアスは必死に抵抗を試みるが、手足の自由が奪われているため
イモムシのように左右にゴロゴロと寝返りを打つので精一杯である。
繊細で夏の日差しを思わせるような金色の髪が、さらさらと床に広がった。
「「おお~~~っ」」
二人は同時に声を上げる。普段は髪を結い、男以上に漢らしいなどと
評判のアグリアスが見せる、意外な乙女としての一面。
元々顔立ちが整っているため、美しい黄金色の長髪をはだけ、
手足の自由を奪われたその姿はさながら囚われの姫君…
というよりも頬を真紅に染め、「見るな…見るな…」と
つぶやくアグリアスの姿は、女から見ても妙に扇情的であった。
「貴女長髪も似合うじゃない。女の子っぽいわよ」
「わ、私は元々女だ!」
「これはイジりがいがありますね~!まず何から試しましょうか?
 ポニーテール?ツインテール?」
リボンを両手にわくわくとした表情で迫るレーゼ。
「リボンだけじゃなくてバレッタとかカチューシャとか…
 他にも香水とか指輪なんかも持ってきたから、今日は存分に女の子の
 オシャレを堪能するがいいわ」
「や…やめろぉ…」
結局この後、アグリアスは二人が知りうる限りの髪型を試され、
しかもそれを逐一鏡でアグリアスに見せつけ、感想を聞かれる事になった。
調子に乗った二人はくつやら服やら帽子やらローブなどを
かき集め、それらを拘束中のアグリアスにあてがい、
アグリアスの町娘バージョン、白衣の天使バージョン、
ウエディングドレスバージョン、ゴシック&ロリータバージョン、
お姫様バージョン、メイドバージョンなど、ありとあらゆる服飾を施し、
あまつさえそれらの姿を他の女性隊員達に自由公開した。
アグリアスは始終恥辱で顔を真っ赤に染め、吸血鬼になるのを待たずに
今ここで死にたいと思った。そしてその前に二人の息の根を止めたいとも思った。


最終更新:2010年03月26日 23:50