憧れ

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70 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/18(火) 22:11:33.87 ID:puRMNJLZo  雨が降っている――ような。  根拠はぱたぱたと顔を叩く雫の感触のみ。  しかし、6月の雨にしても生暖かい。  雨ではないのか。  だとしたら何だろう。  知りたくて、目を開いた―― 京太郎「――――――、……あれ……」 穏乃「……っ」 玄「あ……」 京太郎「し、ずの? くろさん……なんで泣いて……」 穏乃「ぎょうだろお゛お゛お゛っ!」ズビーッ 玄「生ぎででよがっだぁー!」ズバーッ 京太郎「鼻水ゥー!?」ギャー 78 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/18(火) 22:42:04.69 ID:puRMNJLZo ガチャッ レジェンド「騒がしいけど、もしかして須賀くん起きた?」  しがみついてくる二人の鼻にティッシュを押し付けながら押し退けていると、レジェンドが部屋に入ってきた。  その後ろには宥さんと鷺森部長の姿もある。 レジェンド「須賀くん! 気が付いたんだね」 宥「よかったぁ……」 灼「心配させないでほし……」 京太郎「あの……一体どうしたんですか?」 穏乃「覚えてないの?」 京太郎「え?」 玄「京太郎くん、三箇牧の廊下で倒れたんだよ」 京太郎「……あ」  そうだ。  思い出した。  遠征で訪れた三箇牧高校で。  レジェンドから用事を頼まれて部室を出た直後に。  俺は、確かに倒れたんだった。 87 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/19(水) 00:02:39.68 ID:UP8TN7pco 京太郎「じゃあ、練習試合は……」 レジェンド「初日はもう終わったよ。今何時だと思ってんの?」 京太郎「え、何時ですか」 灼「十二時……ただし夜の」 京太郎「は!?」  耳を疑った。  三箇牧に着いたのが昼前だぞ?  半日以上も寝ていたのか、俺は。 レジェンド「その様子だと何も覚えてないみたいだね」 京太郎「……はい」 レジェンド「大変だったんだよー? 外が騒がしいから見てみたら須賀くんが倒れててさ」 レジェンド「慌てて保健室に運び込んで、向こうの保険医さんに診てもらって」 レジェンド「一応どこも異常なしとは言われたけど、夕方になっても起きないし」 レジェンド「ここが宿泊先のホテルってことも気付いてないんじゃない? みんなで担いできたんだからね」 京太郎「す、すみませ――」 レジェンド「――本当にごめん」 91 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/19(水) 01:07:29.27 ID:UP8TN7pco 京太郎「、え」  今まで聞いたことのない真面目な声。  今まで見たことのない真剣な表情のレジェンドが、俺に言う。 レジェンド「今回の件は全面的に私の責任だ」 レジェンド「部員の……教え子の不調を見抜けないなんて、教師失格だよ」 灼「そんなことない! いつでもハルちゃんはナンバーワン!」 京太郎「部長の言う通りですよ! 悪いのは自己管理の出来てない俺の方なのに……!」 レジェンド「そういう訳にもいかないんだって。これでも大人だからさ」ニッ  と、レジェンドは苦笑した。  ただ嬉しいから浮かべる笑顔とはまるで違って見えた。  それは、確かに『大人』の笑い方なのかもしれなかった。 レジェンド「ともかく、今は須賀くんが目を覚ましてくれたことを喜ぼう!」 京太郎「……はい。ご迷惑お掛けしました」 120 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/19(水) 22:07:09.14 ID:UP8TN7pco レジェンド「それにしても一日不眠で半日ダウンとは、随分燃費が悪いね? 若いのに」 京太郎「あー……そのことなんですけど」 レジェンド「ん?」 京太郎「実は一日じゃなかったり……」 レジェンド「え」 #size(15){#aa{{{                __  /⌒ヽ                  ⌒\ ∨   ヽ___               _, ----`      ∨   `ヽ、            /´               |     \           / ____    /  l|     | :.     \             ///    /   |     |l |  :       ヽ               /  /   //  ,∧    / ,イ  l| :.  .  .           / イ / // : l  |    ' / !  从 |  :   :.          .'/  ' ' /-|-{ {  |  /}/  | / } }  |    .          }'  / |Ⅵ { 从  '  ,     }/ /イ   }     .            / イ | l{   { ∨/      '    }   ∧ :   :.           ´  | {|从三三 /   三三三 /  /--、| ∧{   「徹夜自体は三日目で、そうでなくても最近ロクに寝てません」                 {从 |     ,            ムイ r 、 }} /} \                |                ノ ' }/イ/                 {               _,ノ                    人       _,..::ァ       r }/                      `     ゝ - '   イ   |/                         `  ーr  ´  ___|_                      ___|     |//////|                    {|___ノ  __|[_]//∧_                  /// |____|///////////> 、                      ///// |   /////////////////> 、                /////// { //////////////////////}              //////////∨///////////////////////| }}}} レジェンド「はあ!?」 穏乃「さ、最近って……具体的にはいつから!?」 京太郎「えっと、長野から帰ってきてからかな」 玄「二週間前だよ!?」 宥「そんなに寝ないで何してるの……?」 京太郎「マネージャー業と、執事修行の続きを……」 灼「呆れて物が言えな……」 133 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/19(水) 22:36:15.88 ID:UP8TN7pco レジェンド「そりゃ倒れもするわ……」ハァ  レジェンドの溜め息を皮切りに、その場にいた全員の冷ややかな視線が俺を滅多刺しにする。 京太郎「だ、だって仕方なくないですか!? トレーニングに家事に雑用、麻雀の勉強までやってたら寝てる暇なんてありませんよ!」 レジェンド「口答えしない!」ペシッ 京太郎「あでっ」 穏乃「そうだよ!」ペシッ 京太郎「たッ」 玄「ですのだ!」ペシッ 京太郎「わッ」 灼「おりゃ」ペシッ 京太郎「ばッ」 宥「え、えいっ」ペシッ 京太郎「宥さんまで!?」  次から次へと叩かれた。  俺のおでこはボロボロだ。  ぐらりと傾く身体を御せず、そのままベッドに倒れ込む。 140 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/19(水) 23:19:21.33 ID:UP8TN7pco レジェンド「さっき、全面的に私の責任だとは言ったけどさ」 レジェンド「無茶するのを止めようとしても、キミが聞く耳を持たなきゃ意味がないよね?」 京太郎「は、はい」 レジェンド「言葉で分かってくれないなら、次からは力尽くになるよ」 京太郎「力尽く……って」 レジェンド「謹慎処分。部活には出させないし、もちろん遠征にも同行させない」 京太郎「なっ!?」  それじゃあ。  それこそ意味がなくなる。  俺のしてきたこと、全て。 レジェンド「それは嫌だよね?」 京太郎「あ、当たり前ですよ!」 レジェンド「だったらさ」スッ 京太郎「え――」  伸びた手が、前髪を掻き分けて。  俺の額に添えられた。 京太郎「――、な」  戸惑う俺に、レジェンドは優しく微笑んで、 レジェンド「だったら、もう無理しないこと。どれだけ頑張ってくれても、この子らを泣かせたら台無しでしょ?」 京太郎「……はい」 147 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/19(水) 23:59:00.78 ID:UP8TN7pco 穏乃「だ、だけどねっ、京太郎に助けられてるのは本当だよ!」 玄「うん! 今日だって、京太郎くんが纏めてくれた牌譜が役に立ったし」 京太郎「本当ですか? じゃあ荒川さんにも勝てたんですか?」 宥「……負けちゃった……」プルプル 京太郎「」ズコー  負けたのかよ。  そりゃ一筋縄ではいかない相手だろうけど。 灼「流石に手強……」 レジェンド「アレは半端じゃなかったねー」 京太郎「どんなんだったんすか……」 穏乃「でも明日は勝つよ! 京太郎の敵討ちだ!」ムンッ 京太郎「死んでない」 玄「私達が荒川さんに勝たないと、京太郎くんが安心して未来に帰れないからねっ!」フンス 京太郎「帰らない」 155 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/20(木) 00:49:50.27 ID:cJKSkz1Lo レジェンド「そうだ。明日といえば、須賀くんは午前中に病院行くよ」 京太郎「うぇ、いいっすよそんな……」 レジェンド「ダーメ! 一度ちゃんと診てもらって、点滴でも打ってもらいな。紹介してくれた荒川さんにも悪いしね」 京太郎「はあ……え、荒川さん?」 穏乃「そうそう、あの人すごいんだよ!」 玄「お医者さんを目指してて、たまに地元の病院のお手伝いもしてるんだってー」 京太郎「へー」  一瞬で荒川さん+ナース服を幻視した。  まさに白衣の天使だった。  思考が自動的に夜のお医者さんごっこへとシフトするが、レジェンドが手を鳴らした音で現実に引き戻される。 レジェンド「というわけで、各自そろそろ部屋に戻って休もっか。後もつっかえてるしね」 京太郎「後?」  首を傾げる。 レジェンド「さ、寝るよ寝るよーっ」 宥「ゎゎっ」 灼「強引なハルちゃんも素敵……」キュンッ  しかしレジェンドは穏乃達の背を押し、そそくさと部屋を出てしまった。  残された俺が、半開きで放置されたドアを閉めようと思って上体を起こした――その時、 キィ... #aa{{{                 /. : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : .\                /. : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : .ヽ             / : . / : . : . : . ,. : . : . : .i. : . : . : . : .ヽ . : ',           , 'ニ/. : .:,'. : . : . : . :i . : . : . : |. : . : . : . :、. :! : ._{_}ミ ヽ          // /. : . :i: .,' . : . ,':/! . : . : . : |. : . : . : . :.:i .|: イ:|  \: \ .      //  .,' /: . :| :| ./: . |/ | |:ノ: .ヽ、 |: . : . : . : .:.|: |r:{: .|   \: \ .    /:, '    /:/! : .:.| .|/| :|: | ,|イ : . : . : ト:、{ :i:.:| : i: |: |/| : |     \: `. 、     /:/     !:| | :i . :!:.∧.斗匕 圦 : . ト : | ヽ`{:十t}: } :|: !: i |        ヽ: . :i .   /:/     |:!|:| . |.:|:{x示㍉xミヽ\:{ ヽ{xテヤ示xV!: :!,'.: .| |        ヽ:.|   ,' :i      {! .|∧: :! 圦 {トイ_刈`    ´{トイ_刈 灯:.:| : . :| |         |.::|   | :|       |:i :ヾ|: :{ 乂こソ      乂こソ |: :!|. : . :l |          !: |  「……京太郎」   | :|        |.| . : |:从 :xx         xx  | :|ノ . : . |:.|        |.::|   | :|       |l.|: . : |:.{ム "゙    '     ""゙  | :|: . : . : |: |      |:|   |: |      i| i!: :. :.|: |:.:ヽ.      __       イ:.|: |. : . : . :|: |        |.|   | :|      l|:.:| : . : | :|: .|: > .  ´ `   イ:.:..!.:|: | . : . : . |: |         |.::|   |: |     l|: . !.: . :..|: :i:.:|: . : r‐|`  -‐ ´ |入.:.|:.| :|. : . : . : l: |         !: |   | :|       l|: : |: : . : !_ l:_| _/ \    /   \j :!: . : . : . :|: |       |:|   |: |     |: : ,:|. : . : |ヽ{ |     /`Yバ      ノ/|. : . : . : . l: :|        ! :|   | :|    |:, イl: . : . .|   ヽr──ミ、__彡──y'  |. : . : . : :/ヽ:!     |:|   |: |   /  /. : . : .j    {    { }     } |: . : . :./   \      ! :| }}} 174 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/20(木) 22:31:57.25 ID:cJKSkz1Lo 京太郎「憧」  ここで登場か。  皆と一緒にいなかったから、もう来ないものかと思っていた。 憧「……」  半日ぶりに見る憧の表情は、暗い。  足取りも重く、ベッドの傍で立ち止まるまでに驚くほど時間が掛かった。  どこに腰を下ろそうともせず、俺に視線を据えることさえ無理をしているようだった。 憧「ごめん」  そして平坦な声。 京太郎「え? なんで憧が謝るんだよ」 憧「だって……」 京太郎「今日の件は俺の自業自得だよ。むしろ迷惑かけて悪かったな」 憧「ッ……違う! 悪いのはあたし!」  途端、憧は声を荒げる。  その声は怒りを孕んでいたが、しかし俺に宛てられたものではなかった。 憧「……迷惑かけてるのは、あたしの方だよ……」 179 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/20(木) 23:30:33.32 ID:cJKSkz1Lo  激情は長く続かなかった。  沈む。  声も、気持ちも、憧自身も。  自力で立っていられないかのように、その場にへたり込む。 京太郎「お、おい憧」 憧「倒れるほど無理させてごめん……気付いてあげられなくて、ごめん」 京太郎「いや、だからそれは俺が」 憧「あたしだよ。あたしのせい」 京太郎「どうして言い切れるんだよ」 憧「だって、あたしだけだもん。京太郎に優しく出来てないの」 京太郎「え?」  そんなことはない――と言う前に、 憧「しずはアレで気が利く子だし」 憧「玄だって忘れがちだけど家庭的だもん」 憧「宥姉なんてどこからどう見ても女の子って感じで」 憧「灼さんも、さっぱりしてるけど冷たいわけじゃないよね」  だから、と区切って、 憧「あたしだけ、こんなに迷惑ばっかり」 188 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/21(金) 00:31:25.89 ID:VQeSLRgzo 京太郎「……でも、俺が倒れたのとは無関係だろ」 憧「関係なくない。体質の分、他のみんなより負担かけてるでしょ」 京太郎「気にしなくていいってのに……」  思わず嘆息する。  俺がなんと言おうが、憧は自分を許すつもりはないらしい。  その罪悪感を何かで帳消しに出来ない限りは。 憧「……変なの」 京太郎「ん?」  ぎしり、と。  ベッドスプリングの軋む音がした。 憧「最近、すっごくモヤモヤするの」 京太郎「モヤモヤ?」 憧「うん……」  いつの間にか、憧が身を乗り出していた。 190 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/21(金) 01:04:38.88 ID:VQeSLRgzo 憧「それがあたしの中でどんどん大きくなってて」 憧「大きくなった分だけ、京太郎に辛く当たっちゃうの」 憧「今日は特に酷くて……そしたら、京太郎が倒れちゃって……」 京太郎「だから、自分のせいだってのか?」 憧「……おかしな理屈だって、分かってはいるんだけど」  言葉尻は消え入り、また顔を伏せてしまう。 京太郎「――」  今の話。  つまり、原因不明のストレスの捌け口を俺に向けてしまっていたという話なのだが――  ぶっちゃけ実被害はゼロに等しい。  “憧係”が俺に与える負担など微々たるもので、マネージャー業も単体では大した作業量ではない。  倒れた直接の原因はあくまで執事修行の詰め込みすぎにあると、言ったところで納得してくれるかどうか…… 憧「でも」 京太郎「ん?」 憧「京太郎が目を覚ましてくれて、本当に良かった」 京太郎「ああ、心配してくれてサンキューな」 憧「うん。本当に心配したんだから……」 京太郎「……お、おう」 憧「気分はどう? まだ具合悪い? お腹空いてない?」ズイッ 京太郎「ちょ、憧、待て、近」 憧「何かして欲しいことがあったら、なんでも言ってね」 京太郎「――ッ」 200 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/21(金) 01:29:58.91 ID:VQeSLRgzo  こいつは。  夜中、男の部屋で二人きりの時にこんなことを言って。  無事で済むと思っているのか。  普段、あれだけ世の中の男を警戒するように振る舞って。  本当の『有事』など、考えもしないのか。 京太郎「………………」  まあ、幸か不幸か、今は手を出す元気も勇気もないけどな。  だから、せめてチャンスとして利用させてもらおう。 京太郎「……そうだな……じゃあ、ひとついいか?」 憧「なに?」 京太郎「明日、荒川さんに勝ってくれよ」 憧「え、荒川さんに?」 京太郎「ああ。今日は負けちゃったんだろ?」 憧「……うん」 京太郎「だから、明日は勝ってくれよ。そしたら俺も浮かばれるし」  いや死んでないが。 204 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/21(金) 01:40:24.13 ID:VQeSLRgzo 憧「勝つ……荒川さんに……」 京太郎「無理そうか?」 憧「ば、バカ言わないでよ! やれるわよ、やってやろうじゃないの!」 京太郎「おっ。いいぞ、その意気だ」  憧に落ち込んだ顔は似合わない。  そう思うのは、俺の勝手なイメージだろうか。 憧「じゃあ……勝つから。絶対に」 京太郎「ああ、期待してるぞ」 憧「うん。京太郎の努力を無駄にしない為にも」 京太郎「いや、そんな風に気負わなくても――」 憧「そうと決まれば早く休まなきゃ! 京太郎、お大事にね!」ドヒューン 京太郎「はやいな!?」  あっという間だった。  今の今までベッドに乗っていた憧は、今やドアの向こうに姿を消していた。  やはり半開きだったので、今度こそ俺が閉めた。 212 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/21(金) 02:43:41.37 ID:VQeSLRgzo  閉めて、ベッドの方へ歩いて戻って、 京太郎「――」ボスンッ  そのまま倒れ込んだ。  眠かったり辛かったり、肉体的な理由ではない。  もっと内面、もっと根本的な事柄を振り返っていた。 京太郎「……はあ……」  やってしまった。  その一言に尽きる。  自分の限界も見極められず、虚勢で無理を押し通して。  その結果、かえって周囲に迷惑を掛けてしまった。  情けない。  言葉もない。  憧を自罰的だと評しながら、その実そうならないように必死だったのは俺の方だ。  レジェンドや穏乃達の声がなければ、俺は更に自分を苛み、傷付けていた。  それでいて憧には気に病むなと言うのだから、まったく滑稽だ。無責任でしかない。  だけど。 京太郎「――」 266 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/24(月) 22:16:46.83 ID:RBuPOEn2o …… ………… ……………… ◇  あたし達は三箇牧高校の廊下を歩いていた。  あたし達――あたしとしずと、玄、宥姉、灼さん。そしてハルエ。  そこに京太郎の姿はなかった。  あの金髪。あの長身。  いつの間にか見慣れていたあの姿はどこにもなかった。  もう病院で診察してもらえた頃かな。  大人しくしてたら、ゆっくり休めてたらいいんだけど。  この期に及んでハルエの付き添いまで断るお人好し。  あいつの為に出来ること。  あいつと約束したこと。 憧「しず、みんな」  絶対に、 憧「気合入れて行くわよ!」  負けられない――! 269 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/24(月) 22:20:59.34 ID:RBuPOEn2o 憩「ほな、今日もよろしくお願いしますーぅ」 275 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/24(月) 23:15:12.96 ID:RBuPOEn2o …… ………… ……………… ◆ 京太郎「ふぁあ……」  よく寝た――という程ずっと寝ていた訳ではないが。  身体が軽くなったのを実感しながら病院を後にした。  そのまま歩いて三箇牧を目指す。  目眩はしないし、足取りもしっかりしている。  この調子なら明日には完全復活か。  点滴の効果は覿面だったな。  口利きしてくれた荒川さんに感謝だ。  小さい病院だったが、とても丁寧な対応をしてくれたし。  ……そこの看護師さん達に荒川さんとの仲を疑われたのには参ったけど。  昨日が初対面だと正直に答えたら、納得したように笑っていたのも印象深い。  俺みたいな間抜けな病人や怪我人を放っておけない性分なのだろう。  彼女の眩しいばかりの笑顔を頭に浮かべ、三箇牧を目指した。 279 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/24(月) 23:39:07.09 ID:RBuPOEn2o ~三箇牧高校~  廊下を歩く。  倒れる直前の記憶が曖昧なので、迷わないか不安だ。  日曜の午後。  運動部は外で声を張り上げているが、校舎内は静かだった。  時間は……ちょうど昼時か。  対局中にのこのこ顔を出すのも気が引けるし、飯でも食っててくれないかな。  そんなことを考えながら廊下を歩いていると、 京太郎「あれ、憧?」  憧がいた。  人気のない校舎端の階段。  その半ばに腰を下ろし、立てた膝に顔を埋めていた。  まるで泣いているように蹲る――  憧が、いた。 285 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/25(火) 00:18:07.80 ID:ID+zcoa+o  俺の声が聞こえたのか、聞こえなかったのか。  身動ぎひとつせず俯いたままの憧。  もう一回話し掛けてみるか。 京太郎「どうした? こんなところで何やってんだ?」 憧「………………ほっといて」  反応が返ってきた。  震え、濡れた声が。 京太郎「泣いてるのか?」 憧「泣いてない」 京太郎「じゃあ顔上げろよ」 憧「ほっといてって言ってるでしょ」 京太郎「パンツ丸見えだぞ」 憧「ッ!?」バッ  階段で体育座りなんてしてるからだ。 293 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/25(火) 00:51:43.22 ID:ID+zcoa+o 京太郎「どうもごちそうさま、っと」  軽口を叩きながら階段を登る。  一段、二段、憧と同じ高さに。 京太郎「よっこいせ」ストン 憧「ちょっ……隣やめてよ!」 京太郎「えー」  しょうがない、ともう一段上へ。 憧「だから……」 京太郎「隣じゃありませーん斜め後ろですぅー」 憧「……バカ。小学生みたい」 京太郎「なんとでも言え」  しかし憧はそれ以上の罵倒をしなかった。  今度は伸ばした膝小僧の辺りを見つめ、押し黙っている。  この角度からでは表情は窺えない。  憧が何を考えているかなんて、いつだって分からない。  だから、 京太郎「で、何があったんだ?」  いつだって、言葉にするしかないんだ。 314 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/25(火) 22:01:40.65 ID:ID+zcoa+o 憧「……なんでもないってば」 京太郎「嘘つけ。こんなところに一人でいて、なんでもない訳ないだろ」 憧「っ……」 京太郎「今、休憩中か?」 京太郎「飯はちゃんと食ったのか?」 京太郎「穏乃達は?」 京太郎「練習試合はどうなった?」 憧「――」  俺が無造作に投げたいくつかの問い。  憧はそのどれかに対し、 憧「ごめん」  と、答えた。 315 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/25(火) 22:25:54.24 ID:ID+zcoa+o 京太郎「……そか」  こちらも簡潔に、努めて素っ気なく返す。  ここからの俺は聞き役だ。  憧から、憧自身の意思で言葉が出てくるのを待つ。  いつまでもというのは難しいから、出来るだけ。  やがて、また憧が口を開く。 憧「午前中、たくさん麻雀を打ったよ」 憧「三箇牧の色んな人と戦った」 憧「負けもしたけど、それよりずっと多く勝てたと思う」 京太郎「やるじゃん」 憧「でも」  痛みを堪えるように顔をしかめた。  そのまま、絞り出すような声。 憧「あの人には、たったの一度も勝てなかった」 318 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/25(火) 23:02:45.67 ID:ID+zcoa+o  『あの人』。  それが誰を指しているのかは明らかだ。  荒川憩。  昨年のインターハイ個人戦において第二位の成績を収めた、三箇牧のエース。 憧「ごめんね京太郎」 京太郎「え?」 憧「約束、守れなかった」 京太郎「約束……って」  昨夜のことか。  荒川さんに勝ってくれという、俺との約束。  今にして思えばあまりにも無責任な頼みだった。 京太郎「もしかして、それでそんなに落ち込んでるのか?」 憧「……」コクリ  言葉なく頷く。  本当に、本気で、あの約束を果たそうとしてくれていたのか。 322 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/25(火) 23:46:29.05 ID:ID+zcoa+o  だが、 京太郎「あのな、嫌な言い方になるけど、あれはお前を励ますためのただの方便だぞ?」 憧「でも、だからって負けていいなんてことはないでしょ」 京太郎「そりゃそうだけどさ……」  俺も、ハナから勝てないと思っていた訳ではない。  例えどれだけ微かであろうと、勝機はあると信じていた。 憧「少なくともあたしは、約束を抜きにしても負けたくなかった」 憧「だから何度でも立ち向かったし、最後まで食らいついた」 憧「だけどあの人は、それを笑顔で捩じ伏せた」  言いながら、憧はまた膝を抱える。  最初に見つけた時と同じ格好を、今度は後ろから見る。  その背中は驚く程に小さかった。 憧「……悔しいよ」  くぐもった声が漏れた。 325 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/26(水) 00:27:46.54 ID:0s4qaYv4o 京太郎「あー……そうだな、なんにせよ負けたら悔しいよな」 憧「それだけじゃなくて」 京太郎「え?」 憧「負けたこと自体も悔しいけど、それ以上に……荒川さんを怖いと感じた自分が情けないの」 京太郎「怖い……?」  それは、彼女の闘牌を目の当たりにしたからこその感想だろうか。  彼女の実力を身を持って体験したからからこその感情だろうか。  俺には知る由もなかった。 憧「昔から、玄や宥姉みたいなオカモチは身近にいたけど」 憧「荒川さんクラスの、それこそ魔物と呼ばれるような人と本気でやり合ったのって、初めてだから」 京太郎「だから怖くなったっていうのか?」  訊くと、憧は首を小さく縦に動かした。 憧「すごく怖かった。あんな化け物に勝てる訳ないって、ほんの少しだけ思っちゃった」 京太郎「……憧」 憧「それとね」 京太郎「ん?」 憧「ほんの少し、和のことを思い出しちゃった」 347 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/26(水) 22:07:08.68 ID:0s4qaYv4o 京太郎「和? 原村和のことか?」 憧「うん」  声色が変わる。  これまでにも何度か聞いたことのある、昔を懐かしむ声色。 憧「和はすごいんだよ」 憧「いつでも、どこにいても自分をしっかり持ってた」 京太郎「どういう意味だ?」 憧「ん……えっと、和が小六の時に引っ越してきたって話はしたよね?」 京太郎「ああ、東京からだっけか」 憧「そう。その頃は学校中……ううん、町中が和の話題で持ち切りだったの」 憧「「こんな田舎に東京からフリフリお化けがやってきた!」ってね」 京太郎「……フリフリお化け?」 憧「和の格好。いっつもフリフリのヒラヒラだったんだよ」 京太郎「あー、なるほど」 憧「ま、そう呼んでたのは主にあたしなんだけど」 京太郎「お前かよ」  憧は小さく笑って、「お前ってゆーな」と返してくれた。 348 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/26(水) 22:30:06.00 ID:0s4qaYv4o 憧「出会ってすぐの頃かな、訊いてみたんだ。「それ東京で流行ってんの?」って」 憧「そしたら和は、「これは私の趣味です」って、「それも非常にマイノリティな」って答えたの」 京太郎「自覚してんのな……」 憧「そう。だから凄いんだよ」 京太郎「え?」 憧「あたしはその頃からオシャレとか好きで、雑誌やテレビの真似をしてたからさ」 憧「そーゆーのに振り回されない、自分の『好き』を貫き通す和が、あたしの目には新鮮に映った」 憧「あたしもしずも、そんな和に惹かれたんだ」 憧「友達になりたいって、思ったんだ」  依然として――  憧の表情は窺えない。  でも、なんとなくだけど。  きっと穏やかな顔をしているだろう、というのは分かった。 352 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/26(水) 23:11:34.19 ID:0s4qaYv4o 京太郎「それだけか? 原村和の凄いところって」 憧「まだあるよ。例えば麻雀とか」 京太郎「そっか、相手もインターハイ出場だもんな……その頃から強かったのか?」 憧「うん。最初の対局はあたしとしずとハルエを相手にトップだった」 京太郎「そりゃ確かに凄いな」  俺なら勝てない。  しかし憧は首を横に振った。 憧「そういうんじゃないの。和が凄いのは、もっと別のところ」 京太郎「別のところ……?」 憧「あたしらに勝った和をハルエは褒めた」 憧「けどあの子は、半荘一回じゃ強さは測れないって言った」 憧「それからどうしたと思う?」 京太郎「え? それから……もう一局打ったとか?」 憧「玄を呼んだ」 京太郎「うわあ」 359 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/26(水) 23:57:36.45 ID:0s4qaYv4o 憧「だよね、玄を知ってる人ならそういうリアクションになるよね」クスクス 京太郎「なるわ……初見殺しってレベルじゃねーだろ」 憧「ま、その対局では玄は焼き鳥だったんだけど」 京太郎「あれっ!?」 憧「仕方ないじゃない。和も言ってたけど、麻雀ってそういう競技だから」 京太郎「そうだけどよ……」 憧「でも玄の怖さは勝ち負け関係なく分かるでしょ?」 京太郎「ああ、それは確かに。ドラ総取りとか洒落にならん」 憧「あの時もそのチートっぷりは遺憾なく発揮されたんだけど……和はね、認めなかったの」 京太郎「認めなかった?」 憧「そう。全てのドラが玄に集まるなんてありえない、偶然に決まってるって」 京太郎「偶然って……一度戦ったら嫌でも分かるもんじゃないか?」 憧「十回」 京太郎「え?」 憧「十回やっても和は認めなかったよ」 京太郎「なにそれこわい」 364 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/27(木) 00:51:32.12 ID:F2hPS83go 憧「ほんと凄いよね。あたしなんて初めて玄のドラ爆食らった時は一週間ぐらい立ち直れなかったのに」 京太郎「そういう凄さかよ……」 憧「麻雀では大事なことだよ。どんな相手でも折れない、自分のスタイルを曲げないって」  言いながら、憧は自分の掌を見ていた。  見て、何を思ったのだろう。  その手をぐっと握って、 憧「こうして逃げ出してみて、改めてそう思う」 京太郎「憧……」 憧「和の典型的――ううん、徹底的なデジタル打ちを真似ようとしたこともある」 憧「結局コピーし切れなかったけど、根っこの方では今でも意識してるつもり」 京太郎「打ち筋のルーツってことか」 憧「麻雀だけじゃない」  憧が立ち上がる。  その背中を見上げた。 憧「和は可愛くて、頭も良くて」 憧「服のセンスも独創的で」 憧「……胸だって大きくて」 憧「だから、和は――」 365 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/27(木) 00:53:18.65 ID:F2hPS83go #size(15){#aa{{{          , r '´ ̄ ̄)`ヽ      ./´     .|     1    \         /   , r ',´`ゝイ      /       i|     .|     ヽ        ./  ,r'彳 /   .|     ./ ./    , /|     |   ヽ.  ヽ       /// /  ./   ト、 ヽ   ./ /    / /|    i .ハ    1  ヽ      ./  / ./  ./    |ヾ  ヽ / /i-、,_  /j ./ |    .ル.j |   .|1.   1      ./  ./ ./  ./    .| ヾ  ヽj /.i  .>ト,/ j    /i j .|.ハ  | |.   |     /  / j  i     |  ヾ /j j | / ./ '、` j   /ノ/ .|.j |  .j .|   .i |     ./  / .|  .|    | |  >'´i |rt== ミ、 、 ./ / /' r t/'ー-/ |   .| |    ./  .| .j  .|    | | V´  | .| .ク心:::::ミヾ ' '´   '  - ' j /j |   ルj    j   .| .j  .|    .| |    | .| 毛:::::::ゝ       r==ミ,tノ/j j i  .从'    /   .| /  .|    | |   | .| ヾ:::::リ'       .ク:::C }./イ .|.j //' 1    「――和は、あたしの憧れなんだ」    |  | .| /   .|     i. |   | .| ,,,,,         .レ:::リ './ iイ i/ノ |'  ,1    |  1 .|./   |     ヽ.ト   | .|           ''ヾ / |'j j´  |  |1   .|  1 |'    .1ヽ    ヽ》、  | .|         '  ,,,,, /  |j /   .|  |.|   .|   、|    ヽ、ト    ヽ \| .|    ヽ、       /  .j ./    1 |.|   .|   ,V     ゝ 、、    \ i .|、      ´    ノ   /./    .| | |   .|   1、     .》、\ヽ    ゝ | ヽ、      , r ' ´   ././     | j |   .|   .1ヽ    / `ー-ヽ、、_   ゝi、./ `ヽ- j ' ´  .i   ./.イ      |.j .|   .|   1.ヽ  ./       ` ゝ 、 ` \'  ./ i   1  // 1|     .|.j  | }}}} 384 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/27(木) 22:12:38.76 ID:F2hPS83go 京太郎「――」  振り向きざまに見せた憧の表情。  満面の笑みではない。  だけど伝わる。憧の気持ちが。  言葉よりも雄弁に、心の声が胸に響く。  これだ。  この表情に、俺は何度でも見惚れてきた。 憧「……でも」  その表情が、不意に曇る。 憧「でも、こんなんじゃ和には届かないよね」  ぺたん、と。  また座り込む。 憧「あたし、和の前に立てないのかな……」 386 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/27(木) 22:35:37.22 ID:F2hPS83go  そして見る見る内に小さくなっていく背中に、どんな声を掛けよう。  考えて、答えはすぐに出た。  言わなくても分かるような、シンプルな答え。  だけど、 京太郎「かもな」 憧「え……」  俺から憧へは、確かな言葉として伝える。 京太郎「少なくとも、ここで立ち止まってたら絶対に無理だ」 憧「、――」  憧が息を呑んだ。  俺も、これから口にすることの滑稽さに、気恥ずかしさに、多少の緊張を覚える。  こういう真面目なノリ、苦手なんだけどな。 388 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/27(木) 23:13:21.29 ID:F2hPS83go 京太郎「憧。憧にとってのゴールはここなのか?」 憧「え?」 京太郎「お前の目的地は三箇牧か? お前の目標は荒川さんか?」 憧「ぁ……」 京太郎「違うよな。本当のゴールはインターハイ――原村和の筈だ」 憧「……うん」 京太郎「だったらさ、別にいいじゃねえか」 京太郎「負けても転んでも、立ち上がりさえすれば」 京太郎「また走り出しさえすれば」  終わらない。  まだ始まってもいないのだ。  憧自身が折れない限り、その夢は終わらない。 憧「でも」 京太郎「どうした?」  言うべきか否か、躊躇うような沈黙。  しかし結局は躊躇いがちに、 憧「京太郎との約束は、今日しか果たせないし……」 395 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/28(金) 00:11:44.39 ID:o7U/f+Nso 京太郎「まだ言うか」 憧「だって……」 京太郎「だってじゃない。そもそも、期待を裏切ったって意味なら俺の方が先だぞ?」  え、と呆けた顔が向いた。 京太郎「そうだろ? 皆をサポートするって決めたのに、こんなタイミングでぶっ倒れちまって」 京太郎「平気だと思って、出来ると思って、だけど倒れて、迷惑を掛けた」 京太郎「情けねえよなぁ。恥ずかしくて皆に合わせる顔がねーよ」 憧「そんなこと――!」 京太郎「でも」  遮る。  フォローしてくれるつもりだったんだろうけど、無用だ。 京太郎「でも俺は立った。また歩き出してここに来た」 京太郎「たっぷり寝て元気になって、恥ずかしながら戻ってきたぞ」 京太郎「ゴールが遠いからこそ、一度や二度ぐらいコケたって平気なんだ」 399 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/28(金) 01:01:25.46 ID:o7U/f+Nso 憧「京太郎……」 京太郎「だからさ、皆には悪いけど俺はまたコケるぞ」 憧「、は?」 京太郎「もちろんコケたくてコケる訳じゃないけどな」 京太郎「がむしゃらに走ってたら、やっぱりコケることもあると思うんだよ」 憧「……なにそれ、すっごい迷惑なんだけど」 京太郎「だろ? だから憧も俺に迷惑掛けていいぞ。お互い様だ」 憧「……ほんっとワケわかんない……」 京太郎「実は俺も分かってない」 憧「はあぁぁぁ……」  とうとう頭を抱えてしまった。  いい話風の詭弁が効いたようだ。  これで憧の罪悪感を拭えただろうか。  重荷を、ひとつでも取り去ってやれただろうか。 402 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/28(金) 01:40:55.84 ID:o7U/f+Nso 京太郎「でもな、ひとつだけ分かってることがある」 憧「……分かってること?」 京太郎「ああ」 京太郎「原村和がお前の憧れなら、俺の憧れはお前だよ」 京太郎「憧」 憧「へ――」 京太郎「マネージャーになろうって決めた時から、ずっとお前に憧れてた」 京太郎「まっすぐなお前に」 京太郎「不器用なお前に」 京太郎「ひたむきなお前に」 京太郎「臆病なお前に」 京太郎「全部ひっくるめて憧は憧だよ。強いとこも、弱いとこも」 京太郎「だから」  俺は、 #size(15){#aa{{{   ____           ̄ ` ヽ、.____                `ヽ、  )                  `ヽー‐、―- 、_                    \       `ヽ        「頑張れ、俺のヒーロー」       __                   ー―=ニ二′  ̄ ̄ ̄ ̄ヽ、 ヽ            ヽ、      ̄`ー―-、         `ー‐l             `ヽ- 、           |              ヽ                    ̄`ヽ―――'             ヽ                    `ヽ、                  \        lr――--- 、__    `ヽ                ヽ、        l            ̄ ` ー                 `ヽ、    l                    ヽ    ヽ,                     \    l                      V   l                       ヽ、- '|                        ヽ-' }}}}  憧の頭に、そっと手を乗せた。 429 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/28(金) 22:20:41.18 ID:o7U/f+Nso 憧「ッ」ビクッ  反射だろう、憧の肩が竦む。  しかし構わず、ぽん、ぽん、と優しく叩いた。 憧「……、――~~~~~~~~~~っ」  声にならない声。  物理的な拒絶はない。  これ幸いとばかりに続ける。  親が子供を寝かしつける時のような、安心を与える行為を。  遠い記憶の真似事だから、上手く出来ているかどうか不安だが。 憧「な」  ようやく言葉として聞き取れる声が憧から上がった。  とは言えたったの一文字だ。  その一文字からたっぷり間を空けて、 憧「撫でるの、だめって言ったのに……」ゴニョゴニョ 433 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/28(金) 23:05:09.08 ID:o7U/f+Nso 京太郎「撫でてませーん。これはぽんぽんしてるだけでーす」シレッ 憧「……なにそれ。ほんとに小学生みたい」 京太郎「気にすんなって」 憧「もー……」  不満気な口ぶりだったが、一向に手は振り払われず。  それはつまりそういうことだと、都合よく思い込むことにする。  ぽん。ぽん。  一定のリズムで憧の髪に触れる。 憧「……あのさ」 京太郎「ん?」 憧「しずには、いつもこんな風にしてるの……?」 京太郎「いや、あいつは普通に撫でてるよ。このやり方は憧用だ」  アドリブだけどな。 憧「………………そっか」  そこで会話は途切れた。  何を言いたかったのか分からないが、なんとなく憧の雰囲気が柔らかくなった気がした。 436 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/28(金) 23:34:09.23 ID:o7U/f+Nso  どれくらいの時間そうしていただろう。  ほんの数分のようにも思えるし、もっとずっと長かったような気もする。  そんな時間が過ぎて。  憧が動いた。 憧「ん……」モゾッ  緩慢に。  しかしそれだけで、俺の手は憧の髪を離れる。  手は伸ばしたままに、立ち上がった憧を見た。 京太郎「もういいのか?」 憧「……うん。もう大丈夫」 京太郎「なら良かった」  俺も立ち上がり、憧の隣に並んだ。  歩調を揃えて階段を下りる。 憧「逆に心配させちゃって悪かったわね」 京太郎「お互い様って言ったろ? 気にすんなよ」ニッ 442 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 00:32:40.96 ID:s2eDFP4bo 憧「まったく……相変わらず口が巧いなぁ、京太郎は」 京太郎「そうかぁ? ロクに考えずに喋ってるから、我ながら支離滅裂だと思うぞ?」 憧「それはそうだけども」ズバァッ  そうなのかよ。 憧「でもね、だからこそ心が動かされるってこと、あると思うな」 京太郎「そういうもんかね」 憧「うん。だって現にまず一人、ここにいるわけだし」  とん、と胸を指す憧。  その表情は笑顔。  かと思えば、今度は少し困った風に眉根を寄せて、 憧「……けどね、もうちょっとだけ後押しが欲しい……かな」 京太郎「後押し?」  憧が頷く。 京太郎「なんだ、まだ頭ぽんぽんするか?」 憧「そ、それはもういいっ。……それはもういいから、さ」 京太郎「?」 444 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 00:42:44.89 ID:s2eDFP4bo #size(15){#aa{{{                 /. : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : .\                /. : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : .ヽ             / : . / : . : . : . ,. : . : . : .i. : . : . : . : .ヽ . : ',           , 'ニ/. : .:,'. : . : . : . :i . : . : . : |. : . : . : . :、. :! : ._{_}ミ ヽ          // /. : . :i: .,' . : . ,':/! . : . : . : |. : . : . : . :.:i .|: イ:|  \: \ .      //  .,' /: . :| :| ./: . |/ | |:ノ: .ヽ、 |: . : . : . : .:.|: |r:{: .|   \: \ .    /:, '    /:/! : .:.| .|/| :|: | ,|イ : . : . : ト:、{ :i:.:| : i: |: |/| : |     \: `. 、     /:/     !:| | :i . :!:.∧.斗匕 圦 : . ト : | ヽ`{:十t}: } :|: !: i |        ヽ: . :i .   /:/     |:!|:| . |.:|:{x示㍉xミヽ\:{ ヽ{xテヤ示xV!: :!,'.: .| |        ヽ:.|   ,' :i      {! .|∧: :! 圦 {トイ_刈`    ´{トイ_刈 灯:.:| : . :| |         |.::|   | :|       |:i :ヾ|: :{ 乂こソ      乂こソ |: :!|. : . :l |          !: |  「みんなのところに戻るまで……手、繋いでてほしい……」   | :|        |.| . : |:从 :xx //////xx  | :|ノ . : . |:.|        |.::|   | :|       |l.|: . : |:.{ム "゙    '     ""゙  | :|: . : . : |: |      |:|   |: |      i| i!: :. :.|: |:.:ヽ.      __       イ:.|: |. : . : . :|: |        |.|   | :|      l|:.:| : . : | :|: .|: > .  ´ `   イ:.:..!.:|: | . : . : . |: |         |.::|   |: |     l|: . !.: . :..|: :i:.:|: . : r‐|`  -‐ ´ |入.:.|:.| :|. : . : . : l: |         !: |   | :|       l|: : |: : . : !_ l:_| _/ \    /   \j :!: . : . : . :|: |       |:|   |: |     |: : ,:|. : . : |ヽ{ |     /`Yバ      ノ/|. : . : . : . l: :|        ! :|   | :|    |:, イl: . : . .|   ヽr──ミ、__彡──y'  |. : . : . : :/ヽ:!     |:|   |: |   /  /. : . : .j    {    { }     } |: . : . :./   \      ! :|           /   /     |   | |   | |  :       l :l   |  |   :|   | |        / /    |    |__ | |   | |  |  :   l :l:  /|  |   :|   | | .      ///     |    |\ |‐\八 |  |  |    |__,l /-|‐ :リ   リ  | |      /  /   - 、     :|   x===ミx|‐-|  |:`ー /x===ミノ//  /  :∧{        /   |  :.八   _/ {::{:::刈`|  |  l:  /´{::{:::刈\,_|  イ  /ー―‐ ..__ .      / / :|  ::|/ \{^ヽ 乂辷ツ八 |\| /' 乂辷ソ ノ^l/ } :/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: `「⌒:. .       //  /|  ::l、   :    ー‐   \{  | /  ー‐    j/ /}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.      / _,/:.:..|  ::| \ !           j/        ′/:.:|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.    「っ……ああ。お安い御用だよ、お姫様」         / :.:.:.:.:{  ::|\ハ_,          ノ            ,___/{:.:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.∧ .    /:.:.:.:.:.:.:.::′ ::|:.:.|\圦                       / j/l/.:.:′:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:.:.∧ .   /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:′_,ノ⌒ヽ::|  、    、      _  -‐'     /:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:/:.:.::/:.:  /\:.:.:.:.:.:.:r‐ ' ´     ∨\/ ̄ )  ̄ ̄        /   /.:./:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:.:./:.:.: /:.:.:.:.:.:.\:.:.ノ  ----- 、  ∨/   / 、          /   ,/:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:/:.:.:.:.: :.:.:.:.:.:.:.:.:.: /        ‘,  ‘, ./、 \       /   /.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.://:.:.:.:.:.:.:.: :.:.:.:/:.:.:.:.:.{   ---- 、   ‘,  } /:.:.:} ̄ \ ̄ ̄ ̄/ ̄ /:.{/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:-<⌒:.:.:.:.: :.:./:.:.:.:.:./       ‘,  ‘,「l /⌒^\________/}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/´    \:.:.:.:.: :/:.:.:.:.:.:.{: .    . :    ‘, 人U{:.:.:.:.:.:.:.|:\        /:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.―‐┐:/        \:.: :.:.:.:.:.:.:.: }: : : :--:/\: . ノ:r/   / .: .:.:.:.:.|:.:.:.:\    ,/:.:.:. |:.:.:.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./ }}}} 452 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 01:27:14.89 ID:s2eDFP4bo ◆  それから部室までの道中は、静かすぎるくらいに静かだった。  会話はない。  聞こえるのは二人分の足音と、窓の外からの喧騒。  握った手。他人の体温が心地良いようで、居心地が悪いようで。  お互い、わざとらしく前だけを向いて歩いていた。  そして、 憧「こ、ここで、いい」  扉の前で立ち止まる。  ゆっくりと、汗ばんだ手から力が抜けていく。 京太郎「どうだ? もう後押しは十分か?」 憧「当たり前でしょっ……!」 京太郎「声震えてんぞ」 憧「う、うっさい! 本当に平気よ、これならリベンジだって出来るわ!」フンス 京太郎「おいおい……無理しなくていいんだぞ?」 憧「アンタに言われたくないし、負けっぱなしなんて悔しいじゃない」  返す憧の声には、いつも通りのふてぶてしさが戻っていた。 456 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 01:46:07.59 ID:s2eDFP4bo 京太郎「また負けて泣かされてもしらねーぞー」 憧「な、泣かされてないっ! よしんば泣かされたとしても泣いてない!」 京太郎「どっちだよ……」 憧「泣いてないの! 今度は勝つから見てなさいよ!」 京太郎「へいへい。ま、高みの見物させてもらうわ」 憧「……本当に見ててよね」 京太郎「あん?」 憧「頑張るからさ、ちゃんと近くで見守っててよ」 京太郎「憧……」 憧「あ、アンタが言ったんでしょ! お前は俺のヒーローだとかなんとか、こっ恥ずかしいこと!」 京太郎「おい馬鹿やめろ、蒸し返されるとマジで恥ずかしい」 憧「あたしだって恥ずかしいわよ……けど」 京太郎「けど?」 憧「不本意だけど勇気もらっちゃったから」 憧「負けられない理由、また増えたから」 憧「だから――」 #size(15){#aa{{{                      . : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :r‐、〉―: .                  /: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :\ : : : : : : :人ナ: =ミ : `丶                    / : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : \ー─ : : : |: :ハ \ : : \               /′: :./: : : : : : : : : :/ : : : : : : : : : : : : : :\: : : : : : : : : : :.|.: : : :.   : : : :\               / /: : : :/ : : : : : : : : : ; : : : : : : : : : : : :\ : : : \ : :〈/: :/: : : : : : :,    : : : :\               . : :/ : : : : : : : : : : : : : /:| : : : : : : : : : : l\: \: : : : : : :゙ : :/: : : : |: : : :,    \ : : : : .            /: :/ : : : : :| : :|: : : : : :./ |: :│: : : : : :|: :|  \: \: : : : : ∨.:/ : : :| : : : :,     丶: : : : .             /: :/ |: : : : | : :|: : : : : :  |: :│: : : : : :|: :| /  : :│ :│: : ∨: : : : : : : : :|       : : : : : .            .: : :| │: : : : : :.| : : : : : |¬ト:八 : : : : : | イ   __|:_: |: :.∧: : : :/∨: : : : : |        : : : : :|             |: : :| │: : : : : :.|: |: : : | |_|:│ \ : : : : : : /斗午冬ミ ハ: : :| ⌒: : : : : :│      |: : : : :|             |: : :| │: :|: :| : :|八: : {\仏冬ミ \|\∨ 〃{ト。 : : ハ }| : :|l /: : : : : : |      |: : : : :|             | : : :  |.: :.|: :| : :|:い\ア{ト。: : : ハヾ        __)::::ノ }  | : :|__, : :_ : : j: :|      |: : : : :|             l : : :   : :|: :| : :|: :∧{{   ,,)::::ノ }        乂__,,ン   : : :|/ : :{ ∨: :|      |: : : : :|     「目を離さないでよね、京太郎っ!」             |: : : |  \ : :| : :|: { lヘヽ 乂__,,ソ                  | :(゙\: :  | : :|/ )     |: : : : :|             |: : : |    |\: : ト: \∧            ,      /// | :_|\ ヽ} | :  /     :|: : : : :|             |: : : |    |: : :| : : :  ̄トヘ ///               イ(`ヽ: }    j/ ,∧     |: : : : :.             |: : : |    |: : :| :│ : : | : : : .       __ ノ      / |:ハ }ノ / / /| : :,     │: : : : :,             |: : : |    |: : :| : ∨: : |: : : : :ゝ              /ト、/}丿       ∧| : : :,     | : : : : : ,             |: : : |    |: : :| : : : /| : : : : //>   .,,_     イ  :|>'´ )____/| } : |: :,    |: : : : : : :,             |: : : |    |: : :|: ,、.: :∨ : : : : : // /  \| ̄  _,,.. ´  イ/  |  |  厶 : | : :,     : : : : : : : :、             |: : : |    |: : :|/ \:|: : : : : :/      __>ァ'´ _/|___,,{.   |  | /` 〉:|、 : :,    : : : : : : : \               : : : |    |: : /     |∨: : :/ {/   イ{/ {    ̄¨二二つ/|,,/   /| :|ハ: : .      : : : : : : : \             ; : : :|    ,: :/    |/: : :/  / ∠\リ/⌒{  ´_,,. -─一’/    /{ | :|  : : : .      : : : : : : : .\           ,: : : :|   , :ノ    /: : : :|  ⌒【__/{  /}  ──=ミ/_/      〉 | :|  |.: : : .     \: : : : : : : .\           . : : : :|  , 〈  {  /: : : : :|   〈      / 人_x┬……'’         /  :|  | : : : : ..      \: : : : : : : .\         /: : : : :|  /: ∧    |: : /: :.:|    丿   レ     く\           イ  | :.  |: : : : : : .        \: : : : : : : .\           / : : : : :  /: /     \|: /l: : :.|  /}    、_/  /  ー〉       / | ( 人 ∨| : : : : : : \         : : : : : : : . \ .         /: : : : : : ' /: 〈/       |/八: :,,ン´      |  /    /          |  \ \\ : : : : : : : \         : : : : : : : . \         /. : : : : :.//: : : |.      /|/  ∨           \   /_/       /   │     \\ : : : : : : : \         : : : : : : : . \ }}}} 463 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 02:15:46.13 ID:s2eDFP4bo …… ………… ………………  結局のところ――  憧は、阿知賀は荒川さんに一度も勝てないまま二日間の対外試合を終えた。  そりゃもうボロクソに負けていた。  生で見ると迫力が違った。  最後の方なんて玄さんとか泣いてたし。  穏乃も宥さんも鷺森部長も、健闘虚しく敗れ去った。  中でも一番果敢に挑み、一番無残に蹂躙されたのは憧だ。  何度か惜しいところまで迫ったものの、敢えなく返り討ちに遭っていた。  そして憧は―― 憧「憩さーん! 帰ったらメールしますね!」ダキッ 憩「うん、待っとるよーぅ。憧ちゃんも元気でな」ギュー  ――すっかり荒川さんと打ち解けていた。 466 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 02:41:40.46 ID:s2eDFP4bo 京太郎「……」  こういう時、どんな顔すればいいのか分からない。  しかしやることはひとつだ。 京太郎「俺も混ぜて!」ガバッ 憧「来んな!」ゲシッ 京太郎「ぐえー!」バタッ  瞬殺された。 憩「こらこら、病み上がりの人には優しくしたげなあきませんよーぅ?」 憧「ぁ……そか、ごめん京太郎」 京太郎「いいけどさ……」ヨロッ 憩「大丈夫ーぅ?」 京太郎「問題ないっす。色々お世話になりました、荒川さん」ペッコリン 憩「あはは、もう苗字呼びは堅苦しいんとちゃう? 憩でええのに」 京太郎「憩」キリッ 憩「ほぇっ!?」ドキッ 469 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 02:56:06.32 ID:s2eDFP4bo 憧「ヒェェー!」バキィッ  悲鳴を上げながら殴られた。 憧「いきなりなに言ってんの!?」 京太郎「いや、呼んでいいって言うから……」 憧「そーゆー意味じゃないでしょ常識的に考えて!」 憩「ぁ、あはははー。もぅ、ビックリするやないのー」テレテレ 憧「ごめんなさい憩さん、後でキツく躾けておきますから!」  え、躾けられるの?  何を隠そう俺は躾ける方の達人だから、逆は自信ないぞ。 憩「気にせんでええよーぅ。だから二人とも仲良う、な?」ニコッ 憧「う゛……はい」 京太郎「はい!」 憩「ほんならバイバイ、お大事になー」フリフリ  憩さんと三箇牧高校麻雀部一同に見送られ。  俺達の北大阪遠征は本当の終わりを迎えた。 470 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 03:06:08.38 ID:s2eDFP4bo 憩「あ、白糸台の宮永照は人でなしですよーぅ」 京太郎「何その捩じ込み」 473 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 03:22:36.41 ID:s2eDFP4bo …… ………… ……………… ◇ 穏乃「憧ー、お菓子残ってたらちょーだい……って、あれ」 玄「しー。憧ちゃん寝ちゃってるから、起こさないであげてね」 穏乃「分かりましたっ。じゃあ京太郎、後ろのリュックからお菓子~……京太郎?」 灼「こっちも寝てる」 宥「あったかそうな寝顔……」ポワ 穏乃「わ、ほんとだ」クスッ レジェンド「今までの反動だろうね。憧は憧で無邪気な寝顔しちゃって」 玄「京太郎くんと何かあったのかな?」 宥「お昼休憩の後、ふたり一緒に戻ってきたもんね……」 灼「落ち込んでたのがすっかり元気になってたし、こちらとしてはありがた……」 穏乃「……うん! よく分かんないけど、きっといいことがあったんだと思う!」 京太郎「……がん、ばれ、よ……あこ」 憧「むにゃ……きょうたろう……えへ」 【TO BE CONTINUED...】 ---- #bold(){ 【須賀京太郎のステータスが更新されました!】  称号:七転び八起き系マネージャー&font(red){(new!)}  憧への印象:..→いつか、ちゃんと恋が出来たらいいな   →あの笑顔はドキドキする&font(red){(new!)} 【新子憧のステータスが更新されました!】  称号:旧友に憧れる途上の少女&font(red){(new!)}  京太郎への印象:...→最近デレデレしすぎなんじゃないの。どーでもいいけど   →モヤモヤが少し小さくなった&font(red){(new!)}
70 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/18(火) 22:11:33.87 ID:puRMNJLZo  雨が降っている――ような。  根拠はぱたぱたと顔を叩く雫の感触のみ。  しかし、6月の雨にしても生暖かい。  雨ではないのか。  だとしたら何だろう。  知りたくて、目を開いた―― 京太郎「――――――、……あれ……」 穏乃「……っ」 玄「あ……」 京太郎「し、ずの? くろさん……なんで泣いて……」 穏乃「ぎょうだろお゛お゛お゛っ!」ズビーッ 玄「生ぎででよがっだぁー!」ズバーッ 京太郎「鼻水ゥー!?」ギャー 78 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/18(火) 22:42:04.69 ID:puRMNJLZo ガチャッ レジェンド「騒がしいけど、もしかして須賀くん起きた?」  しがみついてくる二人の鼻にティッシュを押し付けながら押し退けていると、レジェンドが部屋に入ってきた。  その後ろには宥さんと鷺森部長の姿もある。 レジェンド「須賀くん! 気が付いたんだね」 宥「よかったぁ……」 灼「心配させないでほし……」 京太郎「あの……一体どうしたんですか?」 穏乃「覚えてないの?」 京太郎「え?」 玄「京太郎くん、三箇牧の廊下で倒れたんだよ」 京太郎「……あ」  そうだ。  思い出した。  遠征で訪れた三箇牧高校で。  レジェンドから用事を頼まれて部室を出た直後に。  俺は、確かに倒れたんだった。 87 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/19(水) 00:02:39.68 ID:UP8TN7pco 京太郎「じゃあ、練習試合は……」 レジェンド「初日はもう終わったよ。今何時だと思ってんの?」 京太郎「え、何時ですか」 灼「十二時……ただし夜の」 京太郎「は!?」  耳を疑った。  三箇牧に着いたのが昼前だぞ?  半日以上も寝ていたのか、俺は。 レジェンド「その様子だと何も覚えてないみたいだね」 京太郎「……はい」 レジェンド「大変だったんだよー? 外が騒がしいから見てみたら須賀くんが倒れててさ」 レジェンド「慌てて保健室に運び込んで、向こうの保険医さんに診てもらって」 レジェンド「一応どこも異常なしとは言われたけど、夕方になっても起きないし」 レジェンド「ここが宿泊先のホテルってことも気付いてないんじゃない? みんなで担いできたんだからね」 京太郎「す、すみませ――」 レジェンド「――本当にごめん」 91 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/19(水) 01:07:29.27 ID:UP8TN7pco 京太郎「、え」  今まで聞いたことのない真面目な声。  今まで見たことのない真剣な表情のレジェンドが、俺に言う。 レジェンド「今回の件は全面的に私の責任だ」 レジェンド「部員の……教え子の不調を見抜けないなんて、教師失格だよ」 灼「そんなことない! いつでもハルちゃんはナンバーワン!」 京太郎「部長の言う通りですよ! 悪いのは自己管理の出来てない俺の方なのに……!」 レジェンド「そういう訳にもいかないんだって。これでも大人だからさ」ニッ  と、レジェンドは苦笑した。  ただ嬉しいから浮かべる笑顔とはまるで違って見えた。  それは、確かに『大人』の笑い方なのかもしれなかった。 レジェンド「ともかく、今は須賀くんが目を覚ましてくれたことを喜ぼう!」 京太郎「……はい。ご迷惑お掛けしました」 120 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/19(水) 22:07:09.14 ID:UP8TN7pco レジェンド「それにしても一日不眠で半日ダウンとは、随分燃費が悪いね? 若いのに」 京太郎「あー……そのことなんですけど」 レジェンド「ん?」 京太郎「実は一日じゃなかったり……」 レジェンド「え」 #size(15){#aa{{{                __  /⌒ヽ                  ⌒\ ∨   ヽ___               _, ----`      ∨   `ヽ、            /´               |     \           / ____    /  l|     | :.     \             ///    /   |     |l |  :       ヽ               /  /   //  ,∧    / ,イ  l| :.  .  .           / イ / // : l  |    ' / !  从 |  :   :.          .'/  ' ' /-|-{ {  |  /}/  | / } }  |    .          }'  / |Ⅵ { 从  '  ,     }/ /イ   }     .            / イ | l{   { ∨/      '    }   ∧ :   :.           ´  | {|从三三 /   三三三 /  /--、| ∧{   「徹夜自体は三日目で、そうでなくても最近ロクに寝てません」                 {从 |     ,            ムイ r 、 }} /} \                |                ノ ' }/イ/                 {               _,ノ                    人       _,..::ァ       r }/                      `     ゝ - '   イ   |/                         `  ーr  ´  ___|_                      ___|     |//////|                    {|___ノ  __|[_]//∧_                  /// |____|///////////> 、                      ///// |   /////////////////> 、                /////// { //////////////////////}              //////////∨///////////////////////| }}}} レジェンド「はあ!?」 穏乃「さ、最近って……具体的にはいつから!?」 京太郎「えっと、長野から帰ってきてからかな」 玄「二週間前だよ!?」 宥「そんなに寝ないで何してるの……?」 京太郎「マネージャー業と、執事修行の続きを……」 灼「呆れて物が言えな……」 133 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/19(水) 22:36:15.88 ID:UP8TN7pco レジェンド「そりゃ倒れもするわ……」ハァ  レジェンドの溜め息を皮切りに、その場にいた全員の冷ややかな視線が俺を滅多刺しにする。 京太郎「だ、だって仕方なくないですか!? トレーニングに家事に雑用、麻雀の勉強までやってたら寝てる暇なんてありませんよ!」 レジェンド「口答えしない!」ペシッ 京太郎「あでっ」 穏乃「そうだよ!」ペシッ 京太郎「たッ」 玄「ですのだ!」ペシッ 京太郎「わッ」 灼「おりゃ」ペシッ 京太郎「ばッ」 宥「え、えいっ」ペシッ 京太郎「宥さんまで!?」  次から次へと叩かれた。  俺のおでこはボロボロだ。  ぐらりと傾く身体を御せず、そのままベッドに倒れ込む。 140 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/19(水) 23:19:21.33 ID:UP8TN7pco レジェンド「さっき、全面的に私の責任だとは言ったけどさ」 レジェンド「無茶するのを止めようとしても、キミが聞く耳を持たなきゃ意味がないよね?」 京太郎「は、はい」 レジェンド「言葉で分かってくれないなら、次からは力尽くになるよ」 京太郎「力尽く……って」 レジェンド「謹慎処分。部活には出させないし、もちろん遠征にも同行させない」 京太郎「なっ!?」  それじゃあ。  それこそ意味がなくなる。  俺のしてきたこと、全て。 レジェンド「それは嫌だよね?」 京太郎「あ、当たり前ですよ!」 レジェンド「だったらさ」スッ 京太郎「え――」  伸びた手が、前髪を掻き分けて。  俺の額に添えられた。 京太郎「――、な」  戸惑う俺に、レジェンドは優しく微笑んで、 レジェンド「だったら、もう無理しないこと。どれだけ頑張ってくれても、この子らを泣かせたら台無しでしょ?」 京太郎「……はい」 147 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/19(水) 23:59:00.78 ID:UP8TN7pco 穏乃「だ、だけどねっ、京太郎に助けられてるのは本当だよ!」 玄「うん! 今日だって、京太郎くんが纏めてくれた牌譜が役に立ったし」 京太郎「本当ですか? じゃあ荒川さんにも勝てたんですか?」 宥「……負けちゃった……」プルプル 京太郎「」ズコー  負けたのかよ。  そりゃ一筋縄ではいかない相手だろうけど。 灼「流石に手強……」 レジェンド「アレは半端じゃなかったねー」 京太郎「どんなんだったんすか……」 穏乃「でも明日は勝つよ! 京太郎の敵討ちだ!」ムンッ 京太郎「死んでない」 玄「私達が荒川さんに勝たないと、京太郎くんが安心して未来に帰れないからねっ!」フンス 京太郎「帰らない」 155 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/20(木) 00:49:50.27 ID:cJKSkz1Lo レジェンド「そうだ。明日といえば、須賀くんは午前中に病院行くよ」 京太郎「うぇ、いいっすよそんな……」 レジェンド「ダーメ! 一度ちゃんと診てもらって、点滴でも打ってもらいな。紹介してくれた荒川さんにも悪いしね」 京太郎「はあ……え、荒川さん?」 穏乃「そうそう、あの人すごいんだよ!」 玄「お医者さんを目指してて、たまに地元の病院のお手伝いもしてるんだってー」 京太郎「へー」  一瞬で荒川さん+ナース服を幻視した。  まさに白衣の天使だった。  思考が自動的に夜のお医者さんごっこへとシフトするが、レジェンドが手を鳴らした音で現実に引き戻される。 レジェンド「というわけで、各自そろそろ部屋に戻って休もっか。後もつっかえてるしね」 京太郎「後?」  首を傾げる。 レジェンド「さ、寝るよ寝るよーっ」 宥「ゎゎっ」 灼「強引なハルちゃんも素敵……」キュンッ  しかしレジェンドは穏乃達の背を押し、そそくさと部屋を出てしまった。  残された俺が、半開きで放置されたドアを閉めようと思って上体を起こした――その時、 キィ... #aa{{{                 /. : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : .\                /. : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : .ヽ             / : . / : . : . : . ,. : . : . : .i. : . : . : . : .ヽ . : ',           , 'ニ/. : .:,'. : . : . : . :i . : . : . : |. : . : . : . :、. :! : ._{_}ミ ヽ          // /. : . :i: .,' . : . ,':/! . : . : . : |. : . : . : . :.:i .|: イ:|  \: \ .      //  .,' /: . :| :| ./: . |/ | |:ノ: .ヽ、 |: . : . : . : .:.|: |r:{: .|   \: \ .    /:, '    /:/! : .:.| .|/| :|: | ,|イ : . : . : ト:、{ :i:.:| : i: |: |/| : |     \: `. 、     /:/     !:| | :i . :!:.∧.斗匕 圦 : . ト : | ヽ`{:十t}: } :|: !: i |        ヽ: . :i .   /:/     |:!|:| . |.:|:{x示㍉xミヽ\:{ ヽ{xテヤ示xV!: :!,'.: .| |        ヽ:.|   ,' :i      {! .|∧: :! 圦 {トイ_刈`    ´{トイ_刈 灯:.:| : . :| |         |.::|   | :|       |:i :ヾ|: :{ 乂こソ      乂こソ |: :!|. : . :l |          !: |  「……京太郎」   | :|        |.| . : |:从 :xx         xx  | :|ノ . : . |:.|        |.::|   | :|       |l.|: . : |:.{ム "゙    '     ""゙  | :|: . : . : |: |      |:|   |: |      i| i!: :. :.|: |:.:ヽ.      __       イ:.|: |. : . : . :|: |        |.|   | :|      l|:.:| : . : | :|: .|: > .  ´ `   イ:.:..!.:|: | . : . : . |: |         |.::|   |: |     l|: . !.: . :..|: :i:.:|: . : r‐|`  -‐ ´ |入.:.|:.| :|. : . : . : l: |         !: |   | :|       l|: : |: : . : !_ l:_| _/ \    /   \j :!: . : . : . :|: |       |:|   |: |     |: : ,:|. : . : |ヽ{ |     /`Yバ      ノ/|. : . : . : . l: :|        ! :|   | :|    |:, イl: . : . .|   ヽr──ミ、__彡──y'  |. : . : . : :/ヽ:!     |:|   |: |   /  /. : . : .j    {    { }     } |: . : . :./   \      ! :| }}} 174 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/20(木) 22:31:57.25 ID:cJKSkz1Lo 京太郎「憧」  ここで登場か。  皆と一緒にいなかったから、もう来ないものかと思っていた。 憧「……」  半日ぶりに見る憧の表情は、暗い。  足取りも重く、ベッドの傍で立ち止まるまでに驚くほど時間が掛かった。  どこに腰を下ろそうともせず、俺に視線を据えることさえ無理をしているようだった。 憧「ごめん」  そして平坦な声。 京太郎「え? なんで憧が謝るんだよ」 憧「だって……」 京太郎「今日の件は俺の自業自得だよ。むしろ迷惑かけて悪かったな」 憧「ッ……違う! 悪いのはあたし!」  途端、憧は声を荒げる。  その声は怒りを孕んでいたが、しかし俺に宛てられたものではなかった。 憧「……迷惑かけてるのは、あたしの方だよ……」 179 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/20(木) 23:30:33.32 ID:cJKSkz1Lo  激情は長く続かなかった。  沈む。  声も、気持ちも、憧自身も。  自力で立っていられないかのように、その場にへたり込む。 京太郎「お、おい憧」 憧「倒れるほど無理させてごめん……気付いてあげられなくて、ごめん」 京太郎「いや、だからそれは俺が」 憧「あたしだよ。あたしのせい」 京太郎「どうして言い切れるんだよ」 憧「だって、あたしだけだもん。京太郎に優しく出来てないの」 京太郎「え?」  そんなことはない――と言う前に、 憧「しずはアレで気が利く子だし」 憧「玄だって忘れがちだけど家庭的だもん」 憧「宥姉なんてどこからどう見ても女の子って感じで」 憧「灼さんも、さっぱりしてるけど冷たいわけじゃないよね」  だから、と区切って、 憧「あたしだけ、こんなに迷惑ばっかり」 188 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/21(金) 00:31:25.89 ID:VQeSLRgzo 京太郎「……でも、俺が倒れたのとは無関係だろ」 憧「関係なくない。体質の分、他のみんなより負担かけてるでしょ」 京太郎「気にしなくていいってのに……」  思わず嘆息する。  俺がなんと言おうが、憧は自分を許すつもりはないらしい。  その罪悪感を何かで帳消しに出来ない限りは。 憧「……変なの」 京太郎「ん?」  ぎしり、と。  ベッドスプリングの軋む音がした。 憧「最近、すっごくモヤモヤするの」 京太郎「モヤモヤ?」 憧「うん……」  いつの間にか、憧が身を乗り出していた。 190 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/21(金) 01:04:38.88 ID:VQeSLRgzo 憧「それがあたしの中でどんどん大きくなってて」 憧「大きくなった分だけ、京太郎に辛く当たっちゃうの」 憧「今日は特に酷くて……そしたら、京太郎が倒れちゃって……」 京太郎「だから、自分のせいだってのか?」 憧「……おかしな理屈だって、分かってはいるんだけど」  言葉尻は消え入り、また顔を伏せてしまう。 京太郎「――」  今の話。  つまり、原因不明のストレスの捌け口を俺に向けてしまっていたという話なのだが――  ぶっちゃけ実被害はゼロに等しい。  “憧係”が俺に与える負担など微々たるもので、マネージャー業も単体では大した作業量ではない。  倒れた直接の原因はあくまで執事修行の詰め込みすぎにあると、言ったところで納得してくれるかどうか…… 憧「でも」 京太郎「ん?」 憧「京太郎が目を覚ましてくれて、本当に良かった」 京太郎「ああ、心配してくれてサンキューな」 憧「うん。本当に心配したんだから……」 京太郎「……お、おう」 憧「気分はどう? まだ具合悪い? お腹空いてない?」ズイッ 京太郎「ちょ、憧、待て、近」 憧「何かして欲しいことがあったら、なんでも言ってね」 京太郎「――ッ」 200 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/21(金) 01:29:58.91 ID:VQeSLRgzo  こいつは。  夜中、男の部屋で二人きりの時にこんなことを言って。  無事で済むと思っているのか。  普段、あれだけ世の中の男を警戒するように振る舞って。  本当の『有事』など、考えもしないのか。 京太郎「………………」  まあ、幸か不幸か、今は手を出す元気も勇気もないけどな。  だから、せめてチャンスとして利用させてもらおう。 京太郎「……そうだな……じゃあ、ひとついいか?」 憧「なに?」 京太郎「明日、荒川さんに勝ってくれよ」 憧「え、荒川さんに?」 京太郎「ああ。今日は負けちゃったんだろ?」 憧「……うん」 京太郎「だから、明日は勝ってくれよ。そしたら俺も浮かばれるし」  いや死んでないが。 204 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/21(金) 01:40:24.13 ID:VQeSLRgzo 憧「勝つ……荒川さんに……」 京太郎「無理そうか?」 憧「ば、バカ言わないでよ! やれるわよ、やってやろうじゃないの!」 京太郎「おっ。いいぞ、その意気だ」  憧に落ち込んだ顔は似合わない。  そう思うのは、俺の勝手なイメージだろうか。 憧「じゃあ……勝つから。絶対に」 京太郎「ああ、期待してるぞ」 憧「うん。京太郎の努力を無駄にしない為にも」 京太郎「いや、そんな風に気負わなくても――」 憧「そうと決まれば早く休まなきゃ! 京太郎、お大事にね!」ドヒューン 京太郎「はやいな!?」  あっという間だった。  今の今までベッドに乗っていた憧は、今やドアの向こうに姿を消していた。  やはり半開きだったので、今度こそ俺が閉めた。 212 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/21(金) 02:43:41.37 ID:VQeSLRgzo  閉めて、ベッドの方へ歩いて戻って、 京太郎「――」ボスンッ  そのまま倒れ込んだ。  眠かったり辛かったり、肉体的な理由ではない。  もっと内面、もっと根本的な事柄を振り返っていた。 京太郎「……はあ……」  やってしまった。  その一言に尽きる。  自分の限界も見極められず、虚勢で無理を押し通して。  その結果、かえって周囲に迷惑を掛けてしまった。  情けない。  言葉もない。  憧を自罰的だと評しながら、その実そうならないように必死だったのは俺の方だ。  レジェンドや穏乃達の声がなければ、俺は更に自分を苛み、傷付けていた。  それでいて憧には気に病むなと言うのだから、まったく滑稽だ。無責任でしかない。  だけど。 京太郎「――」 266 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/24(月) 22:16:46.83 ID:RBuPOEn2o …… ………… ……………… ◇  あたし達は三箇牧高校の廊下を歩いていた。  あたし達――あたしとしずと、玄、宥姉、灼さん。そしてハルエ。  そこに京太郎の姿はなかった。  あの金髪。あの長身。  いつの間にか見慣れていたあの姿はどこにもなかった。  もう病院で診察してもらえた頃かな。  大人しくしてたら、ゆっくり休めてたらいいんだけど。  この期に及んでハルエの付き添いまで断るお人好し。  あいつの為に出来ること。  あいつと約束したこと。 憧「しず、みんな」  絶対に、 憧「気合入れて行くわよ!」  負けられない――! 269 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/24(月) 22:20:59.34 ID:RBuPOEn2o 憩「ほな、今日もよろしくお願いしますーぅ」 275 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/24(月) 23:15:12.96 ID:RBuPOEn2o …… ………… ……………… ◆ 京太郎「ふぁあ……」  よく寝た――という程ずっと寝ていた訳ではないが。  身体が軽くなったのを実感しながら病院を後にした。  そのまま歩いて三箇牧を目指す。  目眩はしないし、足取りもしっかりしている。  この調子なら明日には完全復活か。  点滴の効果は覿面だったな。  口利きしてくれた荒川さんに感謝だ。  小さい病院だったが、とても丁寧な対応をしてくれたし。  ……そこの看護師さん達に荒川さんとの仲を疑われたのには参ったけど。  昨日が初対面だと正直に答えたら、納得したように笑っていたのも印象深い。  俺みたいな間抜けな病人や怪我人を放っておけない性分なのだろう。  彼女の眩しいばかりの笑顔を頭に浮かべ、三箇牧を目指した。 279 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/24(月) 23:39:07.09 ID:RBuPOEn2o ~三箇牧高校~  廊下を歩く。  倒れる直前の記憶が曖昧なので、迷わないか不安だ。  日曜の午後。  運動部は外で声を張り上げているが、校舎内は静かだった。  時間は……ちょうど昼時か。  対局中にのこのこ顔を出すのも気が引けるし、飯でも食っててくれないかな。  そんなことを考えながら廊下を歩いていると、 京太郎「あれ、憧?」  憧がいた。  人気のない校舎端の階段。  その半ばに腰を下ろし、立てた膝に顔を埋めていた。  まるで泣いているように蹲る――  憧が、いた。 285 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/25(火) 00:18:07.80 ID:ID+zcoa+o  俺の声が聞こえたのか、聞こえなかったのか。  身動ぎひとつせず俯いたままの憧。  もう一回話し掛けてみるか。 京太郎「どうした? こんなところで何やってんだ?」 憧「………………ほっといて」  反応が返ってきた。  震え、濡れた声が。 京太郎「泣いてるのか?」 憧「泣いてない」 京太郎「じゃあ顔上げろよ」 憧「ほっといてって言ってるでしょ」 京太郎「パンツ丸見えだぞ」 憧「ッ!?」バッ  階段で体育座りなんてしてるからだ。 293 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/25(火) 00:51:43.22 ID:ID+zcoa+o 京太郎「どうもごちそうさま、っと」  軽口を叩きながら階段を登る。  一段、二段、憧と同じ高さに。 京太郎「よっこいせ」ストン 憧「ちょっ……隣やめてよ!」 京太郎「えー」  しょうがない、ともう一段上へ。 憧「だから……」 京太郎「隣じゃありませーん斜め後ろですぅー」 憧「……バカ。小学生みたい」 京太郎「なんとでも言え」  しかし憧はそれ以上の罵倒をしなかった。  今度は伸ばした膝小僧の辺りを見つめ、押し黙っている。  この角度からでは表情は窺えない。  憧が何を考えているかなんて、いつだって分からない。  だから、 京太郎「で、何があったんだ?」  いつだって、言葉にするしかないんだ。 314 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/25(火) 22:01:40.65 ID:ID+zcoa+o 憧「……なんでもないってば」 京太郎「嘘つけ。こんなところに一人でいて、なんでもない訳ないだろ」 憧「っ……」 京太郎「今、休憩中か?」 京太郎「飯はちゃんと食ったのか?」 京太郎「穏乃達は?」 京太郎「練習試合はどうなった?」 憧「――」  俺が無造作に投げたいくつかの問い。  憧はそのどれかに対し、 憧「ごめん」  と、答えた。 315 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/25(火) 22:25:54.24 ID:ID+zcoa+o 京太郎「……そか」  こちらも簡潔に、努めて素っ気なく返す。  ここからの俺は聞き役だ。  憧から、憧自身の意思で言葉が出てくるのを待つ。  いつまでもというのは難しいから、出来るだけ。  やがて、また憧が口を開く。 憧「午前中、たくさん麻雀を打ったよ」 憧「三箇牧の色んな人と戦った」 憧「負けもしたけど、それよりずっと多く勝てたと思う」 京太郎「やるじゃん」 憧「でも」  痛みを堪えるように顔をしかめた。  そのまま、絞り出すような声。 憧「あの人には、たったの一度も勝てなかった」 318 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/25(火) 23:02:45.67 ID:ID+zcoa+o  『あの人』。  それが誰を指しているのかは明らかだ。  荒川憩。  昨年のインターハイ個人戦において第二位の成績を収めた、三箇牧のエース。 憧「ごめんね京太郎」 京太郎「え?」 憧「約束、守れなかった」 京太郎「約束……って」  昨夜のことか。  荒川さんに勝ってくれという、俺との約束。  今にして思えばあまりにも無責任な頼みだった。 京太郎「もしかして、それでそんなに落ち込んでるのか?」 憧「……」コクリ  言葉なく頷く。  本当に、本気で、あの約束を果たそうとしてくれていたのか。 322 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/25(火) 23:46:29.05 ID:ID+zcoa+o  だが、 京太郎「あのな、嫌な言い方になるけど、あれはお前を励ますためのただの方便だぞ?」 憧「でも、だからって負けていいなんてことはないでしょ」 京太郎「そりゃそうだけどさ……」  俺も、ハナから勝てないと思っていた訳ではない。  例えどれだけ微かであろうと、勝機はあると信じていた。 憧「少なくともあたしは、約束を抜きにしても負けたくなかった」 憧「だから何度でも立ち向かったし、最後まで食らいついた」 憧「だけどあの人は、それを笑顔で捩じ伏せた」  言いながら、憧はまた膝を抱える。  最初に見つけた時と同じ格好を、今度は後ろから見る。  その背中は驚く程に小さかった。 憧「……悔しいよ」  くぐもった声が漏れた。 325 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/26(水) 00:27:46.54 ID:0s4qaYv4o 京太郎「あー……そうだな、なんにせよ負けたら悔しいよな」 憧「それだけじゃなくて」 京太郎「え?」 憧「負けたこと自体も悔しいけど、それ以上に……荒川さんを怖いと感じた自分が情けないの」 京太郎「怖い……?」  それは、彼女の闘牌を目の当たりにしたからこその感想だろうか。  彼女の実力を身を持って体験したからからこその感情だろうか。  俺には知る由もなかった。 憧「昔から、玄や宥姉みたいなオカモチは身近にいたけど」 憧「荒川さんクラスの、それこそ魔物と呼ばれるような人と本気でやり合ったのって、初めてだから」 京太郎「だから怖くなったっていうのか?」  訊くと、憧は首を小さく縦に動かした。 憧「すごく怖かった。あんな化け物に勝てる訳ないって、ほんの少しだけ思っちゃった」 京太郎「……憧」 憧「それとね」 京太郎「ん?」 憧「ほんの少し、和のことを思い出しちゃった」 347 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/26(水) 22:07:08.68 ID:0s4qaYv4o 京太郎「和? 原村和のことか?」 憧「うん」  声色が変わる。  これまでにも何度か聞いたことのある、昔を懐かしむ声色。 憧「和はすごいんだよ」 憧「いつでも、どこにいても自分をしっかり持ってた」 京太郎「どういう意味だ?」 憧「ん……えっと、和が小六の時に引っ越してきたって話はしたよね?」 京太郎「ああ、東京からだっけか」 憧「そう。その頃は学校中……ううん、町中が和の話題で持ち切りだったの」 憧「「こんな田舎に東京からフリフリお化けがやってきた!」ってね」 京太郎「……フリフリお化け?」 憧「和の格好。いっつもフリフリのヒラヒラだったんだよ」 京太郎「あー、なるほど」 憧「ま、そう呼んでたのは主にあたしなんだけど」 京太郎「お前かよ」  憧は小さく笑って、「お前ってゆーな」と返してくれた。 348 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/26(水) 22:30:06.00 ID:0s4qaYv4o 憧「出会ってすぐの頃かな、訊いてみたんだ。「それ東京で流行ってんの?」って」 憧「そしたら和は、「これは私の趣味です」って、「それも非常にマイノリティな」って答えたの」 京太郎「自覚してんのな……」 憧「そう。だから凄いんだよ」 京太郎「え?」 憧「あたしはその頃からオシャレとか好きで、雑誌やテレビの真似をしてたからさ」 憧「そーゆーのに振り回されない、自分の『好き』を貫き通す和が、あたしの目には新鮮に映った」 憧「あたしもしずも、そんな和に惹かれたんだ」 憧「友達になりたいって、思ったんだ」  依然として――  憧の表情は窺えない。  でも、なんとなくだけど。  きっと穏やかな顔をしているだろう、というのは分かった。 352 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/26(水) 23:11:34.19 ID:0s4qaYv4o 京太郎「それだけか? 原村和の凄いところって」 憧「まだあるよ。例えば麻雀とか」 京太郎「そっか、相手もインターハイ出場だもんな……その頃から強かったのか?」 憧「うん。最初の対局はあたしとしずとハルエを相手にトップだった」 京太郎「そりゃ確かに凄いな」  俺なら勝てない。  しかし憧は首を横に振った。 憧「そういうんじゃないの。和が凄いのは、もっと別のところ」 京太郎「別のところ……?」 憧「あたしらに勝った和をハルエは褒めた」 憧「けどあの子は、半荘一回じゃ強さは測れないって言った」 憧「それからどうしたと思う?」 京太郎「え? それから……もう一局打ったとか?」 憧「玄を呼んだ」 京太郎「うわあ」 359 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/26(水) 23:57:36.45 ID:0s4qaYv4o 憧「だよね、玄を知ってる人ならそういうリアクションになるよね」クスクス 京太郎「なるわ……初見殺しってレベルじゃねーだろ」 憧「ま、その対局では玄は焼き鳥だったんだけど」 京太郎「あれっ!?」 憧「仕方ないじゃない。和も言ってたけど、麻雀ってそういう競技だから」 京太郎「そうだけどよ……」 憧「でも玄の怖さは勝ち負け関係なく分かるでしょ?」 京太郎「ああ、それは確かに。ドラ総取りとか洒落にならん」 憧「あの時もそのチートっぷりは遺憾なく発揮されたんだけど……和はね、認めなかったの」 京太郎「認めなかった?」 憧「そう。全てのドラが玄に集まるなんてありえない、偶然に決まってるって」 京太郎「偶然って……一度戦ったら嫌でも分かるもんじゃないか?」 憧「十回」 京太郎「え?」 憧「十回やっても和は認めなかったよ」 京太郎「なにそれこわい」 364 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/27(木) 00:51:32.12 ID:F2hPS83go 憧「ほんと凄いよね。あたしなんて初めて玄のドラ爆食らった時は一週間ぐらい立ち直れなかったのに」 京太郎「そういう凄さかよ……」 憧「麻雀では大事なことだよ。どんな相手でも折れない、自分のスタイルを曲げないって」  言いながら、憧は自分の掌を見ていた。  見て、何を思ったのだろう。  その手をぐっと握って、 憧「こうして逃げ出してみて、改めてそう思う」 京太郎「憧……」 憧「和の典型的――ううん、徹底的なデジタル打ちを真似ようとしたこともある」 憧「結局コピーし切れなかったけど、根っこの方では今でも意識してるつもり」 京太郎「打ち筋のルーツってことか」 憧「麻雀だけじゃない」  憧が立ち上がる。  その背中を見上げた。 憧「和は可愛くて、頭も良くて」 憧「服のセンスも独創的で」 憧「……胸だって大きくて」 憧「だから、和は――」 365 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/27(木) 00:53:18.65 ID:F2hPS83go #size(15){#aa{{{          , r '´ ̄ ̄)`ヽ      ./´     .|     1    \         /   , r ',´`ゝイ      /       i|     .|     ヽ        ./  ,r'彳 /   .|     ./ ./    , /|     |   ヽ.  ヽ       /// /  ./   ト、 ヽ   ./ /    / /|    i .ハ    1  ヽ      ./  / ./  ./    |ヾ  ヽ / /i-、,_  /j ./ |    .ル.j |   .|1.   1      ./  ./ ./  ./    .| ヾ  ヽj /.i  .>ト,/ j    /i j .|.ハ  | |.   |     /  / j  i     |  ヾ /j j | / ./ '、` j   /ノ/ .|.j |  .j .|   .i |     ./  / .|  .|    | |  >'´i |rt== ミ、 、 ./ / /' r t/'ー-/ |   .| |    ./  .| .j  .|    | | V´  | .| .ク心:::::ミヾ ' '´   '  - ' j /j |   ルj    j   .| .j  .|    .| |    | .| 毛:::::::ゝ       r==ミ,tノ/j j i  .从'    /   .| /  .|    | |   | .| ヾ:::::リ'       .ク:::C }./イ .|.j //' 1    「――和は、あたしの憧れなんだ」    |  | .| /   .|     i. |   | .| ,,,,,         .レ:::リ './ iイ i/ノ |'  ,1    |  1 .|./   |     ヽ.ト   | .|           ''ヾ / |'j j´  |  |1   .|  1 |'    .1ヽ    ヽ》、  | .|         '  ,,,,, /  |j /   .|  |.|   .|   、|    ヽ、ト    ヽ \| .|    ヽ、       /  .j ./    1 |.|   .|   ,V     ゝ 、、    \ i .|、      ´    ノ   /./    .| | |   .|   1、     .》、\ヽ    ゝ | ヽ、      , r ' ´   ././     | j |   .|   .1ヽ    / `ー-ヽ、、_   ゝi、./ `ヽ- j ' ´  .i   ./.イ      |.j .|   .|   1.ヽ  ./       ` ゝ 、 ` \'  ./ i   1  // 1|     .|.j  | }}}} 384 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/27(木) 22:12:38.76 ID:F2hPS83go 京太郎「――」  振り向きざまに見せた憧の表情。  満面の笑みではない。  だけど伝わる。憧の気持ちが。  言葉よりも雄弁に、心の声が胸に響く。  これだ。  この表情に、俺は何度でも見惚れてきた。 憧「……でも」  その表情が、不意に曇る。 憧「でも、こんなんじゃ和には届かないよね」  ぺたん、と。  また座り込む。 憧「あたし、和の前に立てないのかな……」 386 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/27(木) 22:35:37.22 ID:F2hPS83go  そして見る見る内に小さくなっていく背中に、どんな声を掛けよう。  考えて、答えはすぐに出た。  言わなくても分かるような、シンプルな答え。  だけど、 京太郎「かもな」 憧「え……」  俺から憧へは、確かな言葉として伝える。 京太郎「少なくとも、ここで立ち止まってたら絶対に無理だ」 憧「、――」  憧が息を呑んだ。  俺も、これから口にすることの滑稽さに、気恥ずかしさに、多少の緊張を覚える。  こういう真面目なノリ、苦手なんだけどな。 388 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/27(木) 23:13:21.29 ID:F2hPS83go 京太郎「憧。憧にとってのゴールはここなのか?」 憧「え?」 京太郎「お前の目的地は三箇牧か? お前の目標は荒川さんか?」 憧「ぁ……」 京太郎「違うよな。本当のゴールはインターハイ――原村和の筈だ」 憧「……うん」 京太郎「だったらさ、別にいいじゃねえか」 京太郎「負けても転んでも、立ち上がりさえすれば」 京太郎「また走り出しさえすれば」  終わらない。  まだ始まってもいないのだ。  憧自身が折れない限り、その夢は終わらない。 憧「でも」 京太郎「どうした?」  言うべきか否か、躊躇うような沈黙。  しかし結局は躊躇いがちに、 憧「京太郎との約束は、今日しか果たせないし……」 395 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/28(金) 00:11:44.39 ID:o7U/f+Nso 京太郎「まだ言うか」 憧「だって……」 京太郎「だってじゃない。そもそも、期待を裏切ったって意味なら俺の方が先だぞ?」  え、と呆けた顔が向いた。 京太郎「そうだろ? 皆をサポートするって決めたのに、こんなタイミングでぶっ倒れちまって」 京太郎「平気だと思って、出来ると思って、だけど倒れて、迷惑を掛けた」 京太郎「情けねえよなぁ。恥ずかしくて皆に合わせる顔がねーよ」 憧「そんなこと――!」 京太郎「でも」  遮る。  フォローしてくれるつもりだったんだろうけど、無用だ。 京太郎「でも俺は立った。また歩き出してここに来た」 京太郎「たっぷり寝て元気になって、恥ずかしながら戻ってきたぞ」 京太郎「ゴールが遠いからこそ、一度や二度ぐらいコケたって平気なんだ」 399 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/28(金) 01:01:25.46 ID:o7U/f+Nso 憧「京太郎……」 京太郎「だからさ、皆には悪いけど俺はまたコケるぞ」 憧「、は?」 京太郎「もちろんコケたくてコケる訳じゃないけどな」 京太郎「がむしゃらに走ってたら、やっぱりコケることもあると思うんだよ」 憧「……なにそれ、すっごい迷惑なんだけど」 京太郎「だろ? だから憧も俺に迷惑掛けていいぞ。お互い様だ」 憧「……ほんっとワケわかんない……」 京太郎「実は俺も分かってない」 憧「はあぁぁぁ……」  とうとう頭を抱えてしまった。  いい話風の詭弁が効いたようだ。  これで憧の罪悪感を拭えただろうか。  重荷を、ひとつでも取り去ってやれただろうか。 402 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/28(金) 01:40:55.84 ID:o7U/f+Nso 京太郎「でもな、ひとつだけ分かってることがある」 憧「……分かってること?」 京太郎「ああ」 京太郎「原村和がお前の憧れなら、俺の憧れはお前だよ」 京太郎「憧」 憧「へ――」 京太郎「マネージャーになろうって決めた時から、ずっとお前に憧れてた」 京太郎「まっすぐなお前に」 京太郎「不器用なお前に」 京太郎「ひたむきなお前に」 京太郎「臆病なお前に」 京太郎「全部ひっくるめて憧は憧だよ。強いとこも、弱いとこも」 京太郎「だから」  俺は、 #size(15){#aa{{{   ____           ̄ ` ヽ、.____                `ヽ、  )                  `ヽー‐、―- 、_                    \       `ヽ        「頑張れ、俺のヒーロー」       __                   ー―=ニ二′  ̄ ̄ ̄ ̄ヽ、 ヽ            ヽ、      ̄`ー―-、         `ー‐l             `ヽ- 、           |              ヽ                    ̄`ヽ―――'             ヽ                    `ヽ、                  \        lr――--- 、__    `ヽ                ヽ、        l            ̄ ` ー                 `ヽ、    l                    ヽ    ヽ,                     \    l                      V   l                       ヽ、- '|                        ヽ-' }}}}  憧の頭に、そっと手を乗せた。 429 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/28(金) 22:20:41.18 ID:o7U/f+Nso 憧「ッ」ビクッ  反射だろう、憧の肩が竦む。  しかし構わず、ぽん、ぽん、と優しく叩いた。 憧「……、――~~~~~~~~~~っ」  声にならない声。  物理的な拒絶はない。  これ幸いとばかりに続ける。  親が子供を寝かしつける時のような、安心を与える行為を。  遠い記憶の真似事だから、上手く出来ているかどうか不安だが。 憧「な」  ようやく言葉として聞き取れる声が憧から上がった。  とは言えたったの一文字だ。  その一文字からたっぷり間を空けて、 憧「撫でるの、だめって言ったのに……」ゴニョゴニョ 433 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/28(金) 23:05:09.08 ID:o7U/f+Nso 京太郎「撫でてませーん。これはぽんぽんしてるだけでーす」シレッ 憧「……なにそれ。ほんとに小学生みたい」 京太郎「気にすんなって」 憧「もー……」  不満気な口ぶりだったが、一向に手は振り払われず。  それはつまりそういうことだと、都合よく思い込むことにする。  ぽん。ぽん。  一定のリズムで憧の髪に触れる。 憧「……あのさ」 京太郎「ん?」 憧「しずには、いつもこんな風にしてるの……?」 京太郎「いや、あいつは普通に撫でてるよ。このやり方は憧用だ」  アドリブだけどな。 憧「………………そっか」  そこで会話は途切れた。  何を言いたかったのか分からないが、なんとなく憧の雰囲気が柔らかくなった気がした。 436 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/28(金) 23:34:09.23 ID:o7U/f+Nso  どれくらいの時間そうしていただろう。  ほんの数分のようにも思えるし、もっとずっと長かったような気もする。  そんな時間が過ぎて。  憧が動いた。 憧「ん……」モゾッ  緩慢に。  しかしそれだけで、俺の手は憧の髪を離れる。  手は伸ばしたままに、立ち上がった憧を見た。 京太郎「もういいのか?」 憧「……うん。もう大丈夫」 京太郎「なら良かった」  俺も立ち上がり、憧の隣に並んだ。  歩調を揃えて階段を下りる。 憧「逆に心配させちゃって悪かったわね」 京太郎「お互い様って言ったろ? 気にすんなよ」ニッ 442 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 00:32:40.96 ID:s2eDFP4bo 憧「まったく……相変わらず口が巧いなぁ、京太郎は」 京太郎「そうかぁ? ロクに考えずに喋ってるから、我ながら支離滅裂だと思うぞ?」 憧「それはそうだけども」ズバァッ  そうなのかよ。 憧「でもね、だからこそ心が動かされるってこと、あると思うな」 京太郎「そういうもんかね」 憧「うん。だって現にまず一人、ここにいるわけだし」  とん、と胸を指す憧。  その表情は笑顔。  かと思えば、今度は少し困った風に眉根を寄せて、 憧「……けどね、もうちょっとだけ後押しが欲しい……かな」 京太郎「後押し?」  憧が頷く。 京太郎「なんだ、まだ頭ぽんぽんするか?」 憧「そ、それはもういいっ。……それはもういいから、さ」 京太郎「?」 444 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 00:42:44.89 ID:s2eDFP4bo #size(15){#aa{{{                 /. : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : .\                /. : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : .ヽ             / : . / : . : . : . ,. : . : . : .i. : . : . : . : .ヽ . : ',           , 'ニ/. : .:,'. : . : . : . :i . : . : . : |. : . : . : . :、. :! : ._{_}ミ ヽ          // /. : . :i: .,' . : . ,':/! . : . : . : |. : . : . : . :.:i .|: イ:|  \: \ .      //  .,' /: . :| :| ./: . |/ | |:ノ: .ヽ、 |: . : . : . : .:.|: |r:{: .|   \: \ .    /:, '    /:/! : .:.| .|/| :|: | ,|イ : . : . : ト:、{ :i:.:| : i: |: |/| : |     \: `. 、     /:/     !:| | :i . :!:.∧.斗匕 圦 : . ト : | ヽ`{:十t}: } :|: !: i |        ヽ: . :i .   /:/     |:!|:| . |.:|:{x示㍉xミヽ\:{ ヽ{xテヤ示xV!: :!,'.: .| |        ヽ:.|   ,' :i      {! .|∧: :! 圦 {トイ_刈`    ´{トイ_刈 灯:.:| : . :| |         |.::|   | :|       |:i :ヾ|: :{ 乂こソ      乂こソ |: :!|. : . :l |          !: |  「みんなのところに戻るまで……手、繋いでてほしい……」   | :|        |.| . : |:从 :xx //////xx  | :|ノ . : . |:.|        |.::|   | :|       |l.|: . : |:.{ム "゙    '     ""゙  | :|: . : . : |: |      |:|   |: |      i| i!: :. :.|: |:.:ヽ.      __       イ:.|: |. : . : . :|: |        |.|   | :|      l|:.:| : . : | :|: .|: > .  ´ `   イ:.:..!.:|: | . : . : . |: |         |.::|   |: |     l|: . !.: . :..|: :i:.:|: . : r‐|`  -‐ ´ |入.:.|:.| :|. : . : . : l: |         !: |   | :|       l|: : |: : . : !_ l:_| _/ \    /   \j :!: . : . : . :|: |       |:|   |: |     |: : ,:|. : . : |ヽ{ |     /`Yバ      ノ/|. : . : . : . l: :|        ! :|   | :|    |:, イl: . : . .|   ヽr──ミ、__彡──y'  |. : . : . : :/ヽ:!     |:|   |: |   /  /. : . : .j    {    { }     } |: . : . :./   \      ! :|           /   /     |   | |   | |  :       l :l   |  |   :|   | |        / /    |    |__ | |   | |  |  :   l :l:  /|  |   :|   | | .      ///     |    |\ |‐\八 |  |  |    |__,l /-|‐ :リ   リ  | |      /  /   - 、     :|   x===ミx|‐-|  |:`ー /x===ミノ//  /  :∧{        /   |  :.八   _/ {::{:::刈`|  |  l:  /´{::{:::刈\,_|  イ  /ー―‐ ..__ .      / / :|  ::|/ \{^ヽ 乂辷ツ八 |\| /' 乂辷ソ ノ^l/ } :/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: `「⌒:. .       //  /|  ::l、   :    ー‐   \{  | /  ー‐    j/ /}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.      / _,/:.:..|  ::| \ !           j/        ′/:.:|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.    「っ……ああ。お安い御用だよ、お姫様」         / :.:.:.:.:{  ::|\ハ_,          ノ            ,___/{:.:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.∧ .    /:.:.:.:.:.:.:.::′ ::|:.:.|\圦                       / j/l/.:.:′:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:.:.∧ .   /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:′_,ノ⌒ヽ::|  、    、      _  -‐'     /:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:/:.:.::/:.:  /\:.:.:.:.:.:.:r‐ ' ´     ∨\/ ̄ )  ̄ ̄        /   /.:./:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:.:./:.:.: /:.:.:.:.:.:.\:.:.ノ  ----- 、  ∨/   / 、          /   ,/:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:/:.:.:.:.: :.:.:.:.:.:.:.:.:.: /        ‘,  ‘, ./、 \       /   /.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.://:.:.:.:.:.:.:.: :.:.:.:/:.:.:.:.:.{   ---- 、   ‘,  } /:.:.:} ̄ \ ̄ ̄ ̄/ ̄ /:.{/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:-<⌒:.:.:.:.: :.:./:.:.:.:.:./       ‘,  ‘,「l /⌒^\________/}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/´    \:.:.:.:.: :/:.:.:.:.:.:.{: .    . :    ‘, 人U{:.:.:.:.:.:.:.|:\        /:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.―‐┐:/        \:.: :.:.:.:.:.:.:.: }: : : :--:/\: . ノ:r/   / .: .:.:.:.:.|:.:.:.:\    ,/:.:.:. |:.:.:.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./ }}}} 452 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 01:27:14.89 ID:s2eDFP4bo ◆  それから部室までの道中は、静かすぎるくらいに静かだった。  会話はない。  聞こえるのは二人分の足音と、窓の外からの喧騒。  握った手。他人の体温が心地良いようで、居心地が悪いようで。  お互い、わざとらしく前だけを向いて歩いていた。  そして、 憧「こ、ここで、いい」  扉の前で立ち止まる。  ゆっくりと、汗ばんだ手から力が抜けていく。 京太郎「どうだ? もう後押しは十分か?」 憧「当たり前でしょっ……!」 京太郎「声震えてんぞ」 憧「う、うっさい! 本当に平気よ、これならリベンジだって出来るわ!」フンス 京太郎「おいおい……無理しなくていいんだぞ?」 憧「アンタに言われたくないし、負けっぱなしなんて悔しいじゃない」  返す憧の声には、いつも通りのふてぶてしさが戻っていた。 456 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 01:46:07.59 ID:s2eDFP4bo 京太郎「また負けて泣かされてもしらねーぞー」 憧「な、泣かされてないっ! よしんば泣かされたとしても泣いてない!」 京太郎「どっちだよ……」 憧「泣いてないの! 今度は勝つから見てなさいよ!」 京太郎「へいへい。ま、高みの見物させてもらうわ」 憧「……本当に見ててよね」 京太郎「あん?」 憧「頑張るからさ、ちゃんと近くで見守っててよ」 京太郎「憧……」 憧「あ、アンタが言ったんでしょ! お前は俺のヒーローだとかなんとか、こっ恥ずかしいこと!」 京太郎「おい馬鹿やめろ、蒸し返されるとマジで恥ずかしい」 憧「あたしだって恥ずかしいわよ……けど」 京太郎「けど?」 憧「不本意だけど勇気もらっちゃったから」 憧「負けられない理由、また増えたから」 憧「だから――」 #size(15){#aa{{{                      . : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :r‐、〉―: .                  /: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :\ : : : : : : :人ナ: =ミ : `丶                    / : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : \ー─ : : : |: :ハ \ : : \               /′: :./: : : : : : : : : :/ : : : : : : : : : : : : : :\: : : : : : : : : : :.|.: : : :.   : : : :\               / /: : : :/ : : : : : : : : : ; : : : : : : : : : : : :\ : : : \ : :〈/: :/: : : : : : :,    : : : :\               . : :/ : : : : : : : : : : : : : /:| : : : : : : : : : : l\: \: : : : : : :゙ : :/: : : : |: : : :,    \ : : : : .            /: :/ : : : : :| : :|: : : : : :./ |: :│: : : : : :|: :|  \: \: : : : : ∨.:/ : : :| : : : :,     丶: : : : .             /: :/ |: : : : | : :|: : : : : :  |: :│: : : : : :|: :| /  : :│ :│: : ∨: : : : : : : : :|       : : : : : .            .: : :| │: : : : : :.| : : : : : |¬ト:八 : : : : : | イ   __|:_: |: :.∧: : : :/∨: : : : : |        : : : : :|             |: : :| │: : : : : :.|: |: : : | |_|:│ \ : : : : : : /斗午冬ミ ハ: : :| ⌒: : : : : :│      |: : : : :|             |: : :| │: :|: :| : :|八: : {\仏冬ミ \|\∨ 〃{ト。 : : ハ }| : :|l /: : : : : : |      |: : : : :|             | : : :  |.: :.|: :| : :|:い\ア{ト。: : : ハヾ        __)::::ノ }  | : :|__, : :_ : : j: :|      |: : : : :|             l : : :   : :|: :| : :|: :∧{{   ,,)::::ノ }        乂__,,ン   : : :|/ : :{ ∨: :|      |: : : : :|     「目を離さないでよね、京太郎っ!」             |: : : |  \ : :| : :|: { lヘヽ 乂__,,ソ                  | :(゙\: :  | : :|/ )     |: : : : :|             |: : : |    |\: : ト: \∧            ,      /// | :_|\ ヽ} | :  /     :|: : : : :|             |: : : |    |: : :| : : :  ̄トヘ ///               イ(`ヽ: }    j/ ,∧     |: : : : :.             |: : : |    |: : :| :│ : : | : : : .       __ ノ      / |:ハ }ノ / / /| : :,     │: : : : :,             |: : : |    |: : :| : ∨: : |: : : : :ゝ              /ト、/}丿       ∧| : : :,     | : : : : : ,             |: : : |    |: : :| : : : /| : : : : //>   .,,_     イ  :|>'´ )____/| } : |: :,    |: : : : : : :,             |: : : |    |: : :|: ,、.: :∨ : : : : : // /  \| ̄  _,,.. ´  イ/  |  |  厶 : | : :,     : : : : : : : :、             |: : : |    |: : :|/ \:|: : : : : :/      __>ァ'´ _/|___,,{.   |  | /` 〉:|、 : :,    : : : : : : : \               : : : |    |: : /     |∨: : :/ {/   イ{/ {    ̄¨二二つ/|,,/   /| :|ハ: : .      : : : : : : : \             ; : : :|    ,: :/    |/: : :/  / ∠\リ/⌒{  ´_,,. -─一’/    /{ | :|  : : : .      : : : : : : : .\           ,: : : :|   , :ノ    /: : : :|  ⌒【__/{  /}  ──=ミ/_/      〉 | :|  |.: : : .     \: : : : : : : .\           . : : : :|  , 〈  {  /: : : : :|   〈      / 人_x┬……'’         /  :|  | : : : : ..      \: : : : : : : .\         /: : : : :|  /: ∧    |: : /: :.:|    丿   レ     く\           イ  | :.  |: : : : : : .        \: : : : : : : .\           / : : : : :  /: /     \|: /l: : :.|  /}    、_/  /  ー〉       / | ( 人 ∨| : : : : : : \         : : : : : : : . \ .         /: : : : : : ' /: 〈/       |/八: :,,ン´      |  /    /          |  \ \\ : : : : : : : \         : : : : : : : . \         /. : : : : :.//: : : |.      /|/  ∨           \   /_/       /   │     \\ : : : : : : : \         : : : : : : : . \ }}}} 463 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 02:15:46.13 ID:s2eDFP4bo …… ………… ………………  結局のところ――  憧は、阿知賀は荒川さんに一度も勝てないまま二日間の対外試合を終えた。  そりゃもうボロクソに負けていた。  生で見ると迫力が違った。  最後の方なんて玄さんとか泣いてたし。  穏乃も宥さんも鷺森部長も、健闘虚しく敗れ去った。  中でも一番果敢に挑み、一番無残に蹂躙されたのは憧だ。  何度か惜しいところまで迫ったものの、敢えなく返り討ちに遭っていた。  そして憧は―― 憧「憩さーん! 帰ったらメールしますね!」ダキッ 憩「うん、待っとるよーぅ。憧ちゃんも元気でな」ギュー  ――すっかり荒川さんと打ち解けていた。 466 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 02:41:40.46 ID:s2eDFP4bo 京太郎「……」  こういう時、どんな顔すればいいのか分からない。  しかしやることはひとつだ。 京太郎「俺も混ぜて!」ガバッ 憧「来んな!」ゲシッ 京太郎「ぐえー!」バタッ  瞬殺された。 憩「こらこら、病み上がりの人には優しくしたげなあきませんよーぅ?」 憧「ぁ……そか、ごめん京太郎」 京太郎「いいけどさ……」ヨロッ 憩「大丈夫ーぅ?」 京太郎「問題ないっす。色々お世話になりました、荒川さん」ペッコリン 憩「あはは、もう苗字呼びは堅苦しいんとちゃう? 憩でええのに」 京太郎「憩」キリッ 憩「ほぇっ!?」ドキッ 469 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 02:56:06.32 ID:s2eDFP4bo 憧「ヒェェー!」バキィッ  悲鳴を上げながら殴られた。 憧「いきなりなに言ってんの!?」 京太郎「いや、呼んでいいって言うから……」 憧「そーゆー意味じゃないでしょ常識的に考えて!」 憩「ぁ、あはははー。もぅ、ビックリするやないのー」テレテレ 憧「ごめんなさい憩さん、後でキツく躾けておきますから!」  え、躾けられるの?  何を隠そう俺は躾ける方の達人だから、逆は自信ないぞ。 憩「気にせんでええよーぅ。だから二人とも仲良う、な?」ニコッ 憧「う゛……はい」 京太郎「はい!」 憩「ほんならバイバイ、お大事になー」フリフリ  憩さんと三箇牧高校麻雀部一同に見送られ。  俺達の北大阪遠征は本当の終わりを迎えた。 470 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 03:06:08.38 ID:s2eDFP4bo 憩「あ、白糸台の宮永照は人でなしですよーぅ」 京太郎「何その捩じ込み」 473 名前:6月23日(日)[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 03:22:36.41 ID:s2eDFP4bo …… ………… ……………… ◇ 穏乃「憧ー、お菓子残ってたらちょーだい……って、あれ」 玄「しー。憧ちゃん寝ちゃってるから、起こさないであげてね」 穏乃「分かりましたっ。じゃあ京太郎、後ろのリュックからお菓子~……京太郎?」 灼「こっちも寝てる」 宥「あったかそうな寝顔……」ポワ 穏乃「わ、ほんとだ」クスッ レジェンド「今までの反動だろうね。憧は憧で無邪気な寝顔しちゃって」 玄「京太郎くんと何かあったのかな?」 宥「お昼休憩の後、ふたり一緒に戻ってきたもんね……」 灼「落ち込んでたのがすっかり元気になってたし、こちらとしてはありがた……」 穏乃「……うん! よく分かんないけど、きっといいことがあったんだと思う!」 京太郎「……がん、ばれ、よ……あこ」 憧「むにゃ……きょうたろう……えへ」 【TO BE CONTINUED...】 ---- #bold(){ 【須賀京太郎のステータスが更新されました!】  称号:七転び八起き系マネージャー&font(red){(new!)}  憧への印象:..→いつか、ちゃんと恋が出来たらいいな   →あの笑顔はドキドキする&font(red){(new!)} 【新子憧のステータスが更新されました!】  称号:旧友に憧れる途上の少女&font(red){(new!)}  京太郎への印象:...→最近デレデレしすぎなんじゃないの。どーでもいいけど   →モヤモヤが少し小さくなった&font(red){(new!)} }

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