雨宿り

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雨宿り - (2013/10/10 (木) 12:20:59) の1つ前との変更点

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73 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/24(水) 00:46:48.62 ID:6D4+coj9o 憧「――で、そこでリーチする場合は何を切ればいいと思う?」 京太郎「えーっと……これか?」カチッ \リーチ/ 憧「ちょ、どうしてそうなるのよ!」 京太郎「ダメェ?」 憧「切る前に訊いて欲しいんだけど……ちょっと貸して」スッ ギチギチ...カチャカチャ...カチッ カチカチッ 憧「ほら、こっちを切った方が待ちが広くなるでしょ?」カチッ \リーチ/ 京太郎「……」 憧「須賀くん?」 京太郎「お、ぉお? お、おう……おう」 憧「……分かってないなら分かってないって素直に言って」 京太郎「スミマセン」 76 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/24(水) 01:14:05.04 ID:6D4+coj9o 憧「まったく……もう一度巻き戻すわね」スッ 京太郎「あー、俺がやろうか?」 憧「? あたしがやるからいいわよ」 京太郎「いや……大変じゃね? マジックハンドでPC操作するの」 憧「別に平気だけど」 京太郎「あ、そうですか……」 憧「ほら、少し避けて」 京太郎「はい」サッ 説得を諦めて上半身を横に倒す。 そこに出来た空間をマジックハンドがギチギチと音を立てて通過していく。 玩具の手は驚くほど精密な動きでキーボードを叩き、マウスを動かす。 テーブルから遠く離れた位置にいる新子さんは、しかし決して操作を誤らない。 片手で構えた双眼鏡でマジックハンドの手元を完全に把握しているからだ。 最後に数度クリックをして、モニタの中の雀卓は数十秒前と同じ状態に巻き戻された。 84 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/24(水) 01:44:00.43 ID:6D4+coj9o 憧「じゃあまた説明するから、今度はちゃんと聞いててよね」 京太郎「へーい」 生返事をしながら居住まいを正す。 目の前には部費で購入されたノートパソコンが鎮座している。 俺が今プレイしているのは、ネット麻雀ではなくオフラインの麻雀ソフトの、更に練習モードだった。 これならCPU相手に何度でも対局を巻き戻すことが出来るので、初心者の指導にはうってつけというわけだ。 憧「だから、リーチする時はまずフリテンにならないように自分の捨て牌をよく見ること」 京太郎「ふんふむ」 メガホンにマジックハンドと双眼鏡を加えた三種の神器。 これらを装備したことにより、新子さんの俺への態度は若干ながら軟化したように思える。 しかし、物理的な距離は縮まるどころか遠ざかってしまった。 喜ぶべきか、悲しむべきか。 俺は答えを出しかねていた。 90 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/24(水) 02:38:01.19 ID:6D4+coj9o 主観で語らせてもらうなら、現在の俺と新子さんの関係は良好だ。 出会った当初の悪印象からよくぞここまで、と言いたい。 ただ、それはこの距離を保っている場合に限られた話で。 少しでも近付けば、また拒まれる。 それが分かりきっていて、だから俺も今の立ち位置に甘んじている。 触れず、交わらず。しかし突き放さず。 この曖昧な距離感が、新子さんの打ち出した俺への態度だった。 やっぱり、喜ばしくはない、よな。 憧「――賀くん? 須賀くん!!」 京太郎「っうぇ!?」 その時、メガホンで拡大された声が俺の思考を現実に引っ張り上げた。 振り返った先には、非難がましい表情の新子さん。 憧「……ねえ。ちゃんと聴いてた?」ジトッ 91 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/24(水) 03:01:16.93 ID:6D4+coj9o 京太郎「あ……悪い、考え事してた」 憧「どうせ頭使うんなら麻雀に使ってよ。覚える気がなくちゃいつまで経っても身につかないんだから」 京太郎「すまん。本当に悪かった。反省してる」 平謝りに謝りながら改めてPCにかじりつく。 今度こそ一打一打に集中して対局を進める――が、 京太郎「これは通るか……?」カチッ \ロン/ 京太郎「あ゛」 見事に振り込み最下位確定。 これで何連続だろうか。うなだれる俺。 背後で新子さんも嘆息しているようだった。 憧「少し休憩しましょうか。集中出来ないなら無理に続けても仕方ないし」 京太郎「だな……お茶淹れるわ」 立ち上がり、素早く給湯スペースに向かう。 人数分のお茶を用意しながら窓の外を見ると、今にも雨が降り出しそうな曇り空だった。 92 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/24(水) 03:42:05.01 ID:6D4+coj9o 憧「ていうか玄と宥姉どうしたんだろ……」 携帯をいじりながら新子さんがぼやく。 確かに普段ならもう部室に全員集まっている時間だった。 憧「今日はしずがいないんだから、二人が来てくれないと練習出来ないのに」ハァ また溜め息。 ちなみに穏乃は家の手伝いとやらで部活を休んでいる。 阿知賀学院麻雀部の女子部員は五名。 その内の一人が欠席となると、残り全員が揃わなくては麻雀は打てない。 俺が混ざっても勝負にならないし。 もっとも、だからこそ暇を持て余した新子さんに麻雀の指導をしてもらえていたのだが。 京太郎「ほいお茶」 憧「ありがとう」 新子さんの目の前に湯呑みを置いて、俺はまたPCのあるテーブルへ。 マインスイーパーなんぞ起動させながら、自分で淹れたお茶を啜った。 93 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/24(水) 04:27:14.72 ID:6D4+coj9o 『♪~』 憧「あ、ハルエからメールだ」 京太郎「監督から?」 部室に顔も出さずにどうしたんだろう。 なんとなく黙って様子を見る。 憧「ふんふむ……。………………はあ!?」 京太郎「!?」ビクッ カチカチと携帯を操作していた新子さんが突然大声を上げた。 危うく湯呑みを落としそうになる。 京太郎「ちょ、どうした?」 憧「……」ワナワナ 京太郎「新子さん?」 憧「……玄と宥姉、家の都合で急に帰らなくちゃいけなくなった……って」 94 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/24(水) 05:05:01.52 ID:6D4+coj9o 京太郎「え、てことは部活は……?」 憧「今日はナシ。雨が降る前に帰りなさい、だって」 京太郎「えぇー……」 待ちに待ってこのオチか。 拍子抜けだ。 京太郎「どうする?」 憧「どうもこうも……帰るしかないでしょ」 傘持ってきてないし、と続く。 そういえば俺も持ってない。 憧「まったくハルエったら、こういう大事な連絡はもっと早く……」ブツブツ この場にいない者への不満を呟きながら、あっという間に帰り支度を済ませる新子さん。 俺も鞄を肩から担ぐだけで準備完了だ。 というわけで、 京太郎「それじゃあ鷺森部長、お疲れ様でした」ペコッ 憧「お先でーす」ペコリ 灼「ん」モキュモキュ おにぎりを頬張る鷺森部長を残し、俺達は部室を後にした。 142 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/26(金) 00:51:53.51 ID:RvujjKUSo ~帰路~ 見上げれば、いつ降り出してもおかしくない空模様。 厚ぼったい雨雲の下を俺達は歩いていた。 京太郎「……」テクテク 憧「……」テクテク こうして二人きりになるのは珍しいことじゃない。 なにせ帰る方角が一緒だ。 同じ学校に通って、同じクラスで勉強して。 そして同じ部活を終えれば、必然的に下校のタイミングも一緒になる。 違うのはその日その日の会話量くらいか。 とりとめのない世間話をする日。 明日の提出物について確認する日。 部活で覚えたことをおさらいする日。 何も話さない日もある。 さて、今日は…… 145 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/26(金) 01:00:02.59 ID:RvujjKUSo 京太郎「新子さん」 憧「なに?」 京太郎「今日もありがとな。麻雀教えてくれて」 憧「ん……別に、暇だったしいいわよ」 京太郎「暇なら暇で自分のことだって出来たろ? わざわざ時間割いてくれてサンキュー」 憧「ど、どういたしまして」プイッ 京太郎「飲み込み悪い生徒でゴメンな」 憧「……自覚があるならもっと真剣に取り組んで欲しいんだけど」ジロリ 京太郎「う゛」 憧「真面目にやってれば怒ったりしないから、部活中に関係ないこと考えるのはやめてよね」 京太郎「うっす、気をつけます……」 一概に無関係ではない、なんて言い訳の出来る空気ではなかった。 147 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/26(金) 01:31:01.06 ID:RvujjKUSo 京太郎「あ、それとさ」 憧「?」 京太郎「次の指令についてなんだけど」 憧「ふきゅ」 変な声漏れた。 憧「っ………………急にどうしたの」 京太郎「いや、この分だとまた土曜にあるんだなと思って。明日で一週間だろ」 憧「……そうね……」 京太郎「次はどんなことやらされるんだろうなぁ」 憧「……。あの、須賀くん」 京太郎「どした?」 憧「その話は、あんまりして欲しくない、かも」 京太郎「え?」 憧「えっと、当日までは忘れていたいって言うか、心の準備は一人でしたいし……だから……」 京太郎「……あー……分かった、もうしない」 憧「うん。ごめん……」 京太郎「気にしなくていいって」 最後の言葉は、俯く新子さんに届いただろうか。 152 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/26(金) 02:45:43.07 ID:RvujjKUSo そして沈黙が訪れる。 聞こえるのは足音と、ここよりずっと遠くで響く雷の音。 いよいよ降り始めるのかもしれない。 そうなる前に家に着かなければならない。 だから、今日の会話がここで途切れても仕方ない。 今日もまた、二人の間に引かれた線を越えられなくても、仕方ない。 ――本当に、仕方ないことなのか? 俺達は今、お互いにとって最も面倒の少ない距離に留まっている。 新子さんの抱える事情を思えば、やはり「仕方ない」ことだと言える。 けれど青春は短い。 同じ学校の、同じクラスの、同じ部活の仲間なのに――どうしても、そんな風に考えてしまう。 こうして足踏みし続けることは、俺にとって正しい選択なのだろうか。 今この時間は、貴重な青春を浪費しているに過ぎないのではないか。 歩み寄れば何かが変わるかもしれないのに。 しかしそれは俺の欲目に過ぎない。 相手は変化を望んでいるかもしれないし、望んでいないかもしれない。 俺も人間なら新子さんも人間だ。 生身の人間関係の難しさを痛感しながら、重い足取りで帰路を辿った。 155 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/26(金) 03:50:19.00 ID:RvujjKUSo 京太郎「――ん?」 その時、その道中で、あることに気付いた。 憧「どうかした?」 京太郎「……なんか聞こえないか?」 最初は声に。 まくし立てるような調子で、しかし呂律が回っていない。 京太郎「ほら、向こうの方から」 憧「向こう……?」 次は姿に。 曇天が作る暗がりの先、大きな影がひとつ、小さな影がふたつ。 憧「け、ケンカ?」 京太郎「にしては様子が変だけど……くそ、よく見えねえな」 228 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 00:31:13.84 ID:NXc2CIjco 立ち止まり、二人して目を凝らす。 まだ夕方というにも早い時間なのに、太陽が隠れているだけでこんなにも見難いなんて。 それでも注視していると、まず大柄な方の影が男であるというのが分かった。 京太郎「あれって……」 憧「……酔っ払い?」 男は足元が覚束ない様子でフラフラと揺れていた。 呆れたことに昼間から酩酊しているようだ。 そして残る二人は、揃いの制服を着た女の子だった。 怯えたように身を縮こまらせているのが窺える。 京太郎「阿知賀……じゃないよな。どこの学校だ?」 憧「あれは近くの中学の――って、」 京太郎「新子さん?」 229 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 00:34:37.73 ID:NXc2CIjco 途切れた言葉が気になって隣を見る。 憧「なんで……」 かすかに呟く声。 驚きと戸惑いの入り交じった表情。 呆然と立つ新子さんは、しかし次の瞬間、 憧「――綾! 凛!」ダッ 三人の人影に向かって猛然と走り出していた。 京太郎「新子さん!?」 咄嗟の出来事に、何より新子さんの言動に面食らう。 彼女は誰かの名前を叫んだ。 それはつまり、 京太郎「知り合いかよ――!?」 ようやくおおよその状況を察した俺は、どんどん遠ざかる新子さんの背中を追った。 247 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 01:07:20.92 ID:NXc2CIjco 憧「何してるのアンタ達!」 凛「あ、憧先輩!?」 綾「憧ちゃん!」 「おっ? また可愛い子が増えたねぇ~」 憧「ひ……っ」 綾「が、学校から帰ってたら急にこのおじさんが話しかけてきて……」 「いやぁ、おじさん迷子になっちゃってさぁ。お嬢ちゃん達におじさんの家まで連れて行ってもらおうと思って」ヒック 凛「だから知りませんってば……!」 憧「……二人とも、あたしの後ろに来て」 綾「憧ちゃん……」 凛「でも先輩も……」 憧「大丈夫だから。ほら早く」 綾「う、うん」スッ 凛「ありがとうございますっ」スッ 252 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 02:13:12.84 ID:NXc2CIjco 憧「っ……」キッ 「ん~? なにかなお嬢ちゃん、おじさんに用事?」 憧「ぁ、の……こういうの、やめてください」 「へぇ?」 憧「こ、この子達、怖がってるから……だから、その、」 「いやだなぁ」ズイッ 憧「っ!?」 綾「ひっ」ギュッ 「おじさんは道を訊いてるだけだよ? 怖がらせるつもりなんてないんだよ? なのにそんな……悲しいなぁ、怒っちゃうなぁ」ヒクッ 凛「せ、先輩……!」ギュッ 憧「大丈夫……大丈夫だから……」 「ああもう、お嬢ちゃんでもいいから早く案内してくれないかなぁ。ねえ。ほら」ズイッ 憧「――!」 253 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 02:16:03.09 ID:NXc2CIjco #size(17){#aa{{{           /   /     |   | |   | |  :       l :l   |  |   :|   | |        / /    |    |__ | |   | |  |  :   l :l:  /|  |   :|   | | .      ///     |    |\ |‐\八 |  |  |    |__,l /-|‐ :リ   リ  | |      /  /   - 、     :|   x===ミx|‐-|  |:`ー /x===ミノ//  /  :∧{        /   |  :.八   _/ {::{:::刈`|  |  l:  /´{::{:::刈\,_|  イ  /ー―‐ ..__  .      / / :|  ::|/ \{^ヽ 乂辷ツ八 |\| /' 乂辷ソ ノ^l/ } :/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: `「⌒:. .       //  /|  ::l、   :    ー‐   \{  | /  ー‐    j/ /}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.      「ちょーっと待ったぁ!!」      / _,/:.:..|  ::| \ !           j/        ′/:.:|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.         / :.:.:.:.:{  ::|\ハ_,          ノ            ,___/{:.:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.∧ .    /:.:.:.:.:.:.:.::′ ::|:.:.|\圦                       / j/l/.:.:′:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:.:.∧ .   /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:′_,ノ⌒ヽ::|  、    、      _  -‐'     /:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:/:.:.::/:.:  /\:.:.:.:.:.:.:r‐ ' ´     ∨\/ ̄ )  ̄ ̄        /   /.:./:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:.:./:.:.: /:.:.:.:.:.:.\:.:.ノ  ----- 、  ∨/   / 、          /   ,/:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:/:.:.:.:.: :.:.:.:.:.:.:.:.:.: /        ‘,  ‘, ./、 \       /   /.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.://:.:.:.:.:.:.:.: :.:.:.:/:.:.:.:.:.{   ---- 、   ‘,  } /:.:.:} ̄ \ ̄ ̄ ̄/ ̄ /:.{/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:-<⌒:.:.:.:.: :.:./:.:.:.:.:./       ‘,  ‘,「l /⌒^\________/}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/´    \:.:.:.:.: :/:.:.:.:.:.:.{: .    . :    ‘, 人U{:.:.:.:.:.:.:.|:\        /:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.―‐┐:/        \:.: :.:.:.:.:.:.:.: }: : : :--:/\: . ノ:r/   / .: .:.:.:.:.|:.:.:.:\    ,/:.:.:. |:.:.:.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./ }}}} 261 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 02:59:09.30 ID:NXc2CIjco 伸びる手を、すんでのところで遮った。 そのまま体ごと男と新子さんの間に割り込む。 憧「す、須賀くん!?」 背中には新子さんの驚きに満ちた声。視線も感じる。 「んん、今度は男かぁ……誰だいボク?」 京太郎「後ろの子達の知り合いっす。なんか揉めてたみたいだったんで」 「別に揉めちゃいないよ? ただそっちの子がちょーっと失礼なことを言うもんだからね」 京太郎「ありゃ、そうだったんですか……それは失礼しました」ペコ あくまで愛想は良く、軽く会釈をしてから振り返る。 京太郎「今の内に走って逃げろ」ボソッ 凛「えっ?」 京太郎「俺が注意を引いておくから、ほら早く」 264 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 03:47:13.73 ID:NXc2CIjco 綾「でもそれじゃあ……」 京太郎「いーから任せとけって。怖かったろ? 転ばないように気を付けるんだぞ」 凛「……はい。綾、行こう」 綾「う、うん……あの、ありがとうございましたっ」ペコッ ダッ! 半ば強引な説得に応じてくれた二人が踵を返し、脇目も振らず走り出す。 「あ」 と男が声を漏らす間に、小道に飛び込んで姿を消してしまった。 この分なら無事に安全な所まで行けるはずだ。 後は―― 「ちょっとお、どうしてあの子達行っちゃったの?」 京太郎「いやぁどうしてでしょうね? 塾の時間かな?」 ――こっちをなんとかするだけだ。 265 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 04:36:31.25 ID:NXc2CIjco と言っても、やることはもう決めている。 「なんだよそれぇ、まだおじさんと話してる途中だったろ?」 男から視線を逸らさず、タイミングを見計らう。 憧「ねぇ、一体どうするつもりなの?」ボソッ と、俺の思惑を知らない新子さんが声を掛けてきた。 「どうする」なんて、そんなの決まってるのに。 京太郎「逃げる」 端的に答えた。 憧「………………は?」 京太郎「俺達も逃げる。合図したら走るぞ」 憧「ちょ、なにそれ、そんなのアリ!?」 京太郎「アリも何も、あの子達を助けたらもうここにいる理由もないだろ」 憧「それはそうだけど……!」 271 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 06:25:00.09 ID:NXc2CIjco 小声での口論。 それが男の怒りを誘ってくれた。 「おぉい、人の話を聞いて――」 京太郎「――いいから走れ!!」グイッ 憧「きゃ、ちょっと!?」 「っこら待て!!」 誰の制止にも耳を貸さず、新子さんの手を取って駆け出した。 憧「す、須賀くん! 手っ、手!」 京太郎「少し静かにしてろ!!」 この期に及んで言わせはしない。そんな気持ちで手に力を込めた。 ちらりと窺った表情が痛みに歪んだが、敢えて無視した。 無視して、強く握り続けた。 強く握って、ただただ走り続けた。 274 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 09:49:44.89 ID:NXc2CIjco ~アパート~ 京太郎「ここまで来れば大丈夫か……」 走り続けた末に転がり込んだのは俺の部屋だった。 もし男が追ってきていても、流石に屋内までは探せないだろう。 バタン 京太郎「……はあぁ……」 閉じたドアに背中を預けてへたり込む。 疲れた。 怖かった。 心臓が痛いくらいにバクバク鳴っている。 でも、 憧「はあ……はあ……」 これから、もっと痛くなる。 275 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 09:50:44.77 ID:NXc2CIjco 憧「はあ……もぉ、きっつ……」 京太郎「新子さん」 同じように玄関に座り込む新子さんに声を掛ける。 憧「なに……?」 息を整えながら応える彼女を、俺はじっと見ていた。 ともすれば、睨むように。 憧「……な、なに?」 視線に気付いたらしい。声に警戒の色が濃くなる。 俺は―― 京太郎「なんであんなことしたんだ?」 問い掛けた。 憧「あんなこと……?」 京太郎「さっきのことだよ。なんであの酔っ払いの前に飛び出したりしたんだ」 憧「あ……」 276 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 09:51:58.96 ID:NXc2CIjco 京太郎「聞かせてくれ。なんでだ?」 憧「なんで、って……そんなの、あの子達を助ける為に決まってるでしょ」 京太郎「知り合いなのか?」 憧「小学校が一緒だったの。しずも玄も、よく一緒に遊んでた」 京太郎「その子達を助ける為に飛び出したんだな」 憧「そうよ」 京太郎「男が苦手なのに、知らない大人の前に」 憧「っ……そ、そうよ」 やっぱり。 気丈に振る舞う新子さんは――何も分かっていない。 何も、何も。 だから、 京太郎「……この馬鹿野郎が」 気が付くと、吐き捨てるようにそう言っていた。 278 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 10:18:24.05 ID:NXc2CIjco 憧「ぇ……今、なんて、」 京太郎「馬鹿野郎って言ったんだ」 今度はよりハッキリと。新子さんの目を見据えて。 その目が大きく見開かれる。 動揺、していた。 京太郎「新子さん」 そんな彼女を、俺はもう一度呼んだ。 京太郎「男が嫌いなら嫌いでいい。治す気が無いなら無いでも、この際いい」 けどな、と繋ぐ。 京太郎「だったらそれ相応の行動をしろよ。男が嫌いで、力も弱い女の子に出来ることの限界を考えろよ」 新子さんにはそれが欠けていた。 正義感ばかりが先に立って、肝心な場面で自分を顧みることが出来ていない。 279 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 10:19:30.34 ID:NXc2CIjco 京太郎「無茶するなよ。相手は男で大人で、しかも酒まで飲んでたんだぞ? 常識なんて通じないんだ」 憧「でも、」 京太郎「でもじゃねえ。一歩間違えたら怪我しててもおかしくなかったんだぞ馬鹿」 憧「ッ……さっきから馬鹿馬鹿って……!」 キッと睨み返される。 けれど俺は退かない。 決して、一歩たりとも。 憧「だったらどうすれば良かったのよ!? 目の前で知り合いが困ってて、なのに知らんぷりしろっていうの!? そんなの――」 京太郎「――俺がいるだろうが!!」 叫ぶ。 ずっと感じていた、心の底にあった淀みの正体を。 284 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 10:40:36.31 ID:NXc2CIjco 憧「、え……?」 京太郎「……ッ」 ぽかんとする新子さんから顔を背けたくなって、それでも踏み止まる。 そして深呼吸をするように、ゆっくりと感情を言葉に置き換える。 京太郎「……あの時、言ってくれれば俺は先に走ったよ。言ってくれれば、もっと早く動けた」 京太郎「そりゃあ今まで散々バカなとこばっか見せてきたし、新子さんが嫌がることもしちまったけど……」 京太郎「……けど、こんな時に選択肢にすら挙がらないなんて、いくらなんでも情けねえよ」 分かってる。 これは八つ当たりだ。 新子さんと出会って一ヶ月が経とうとしていて。 なのに未だに信用を得られない自分が不甲斐なくて。 それが嫌なんだって腐る自分がいた。 京太郎「だから」 ずっと言いたかった。 ずっと言いたくなかった。 京太郎「だから……もう少しだけでいいから、俺を頼ってくれよ……」 ずっと抱えたままでは、いられなかった。 286 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 11:06:21.68 ID:NXc2CIjco 憧「あ、の……えっと……」 新子さんは明らかに困惑していた。 無理もないな。 俺は新子さんにとって取るに足らない、ただのクラスメイト。ただの部活仲間。 そんな俺が長々と喚き散らしたところで、何がどれだけ伝わるだろう。 憧「………………その、ごめんなさい……」 京太郎「いや……俺こそ悪い。急に大声出して」 だから、曖昧な謝罪の応酬。 だから、今までに体験した中で一番息苦しい沈黙。 そして、 ぽつ、という水音。 憧「あ……」 京太郎「雨か?」 287 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 11:23:46.50 ID:NXc2CIjco ぽつ、ぽつ、屋根に雨が当たる音が立て続けに聞こえる。 とうとう降り始めたようだ。 その時、新子さんがすっと立ち上がった。 憧「あ、あたし帰る」 京太郎「え?」 憧「帰る」 京太郎「でも雨……」 憧「今ならそんなに濡れないと思うし」 京太郎「じゃあ傘貸そうか」 憧「いい。いらない。それじゃ、お邪魔しました」 取り付く島もなくドアが開かれ、すり抜けるように新子さんは外へ出てしまった。 追いかける気力もなくて、俺はそれを見ているだけしか出来なかった。 ばたんと閉まるドアの内側で、激しい後悔の念に苛まれるだけしか出来なかった。 288 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 11:28:04.62 ID:NXc2CIjco その直後。 どかーーーん!!! 雷の落ちた音。 どざーーーーー!!! バケツをひっくり返したような雨音。 憧「み゛ゃーーーーーーーーーーっ!!?」 新子さんの悲鳴。 ドダダダダダダダダッッッ!!! 階段を駆け上がる足音。 バタンッ!!! 俺の部屋のドアが開け放たれる音。 憧「」 濡れ鼠の新子さん。 憧「………………ゴメン、やっぱ雨宿りさせて」 京太郎「………………おう、入って、どうぞ」 366 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 00:24:07.10 ID:M3ziMJFKo #size(13){#aa{{{ _人人 人人人人人人_ > これまでのあらすじ <  ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄ }}}} 部室で新子さんに麻雀を教わっていた俺 ↓ そこにレジェンドから部活中止の報せが舞い込む ↓ 帰宅中、酔っ払いに絡まれている新子さんの知り合いを発見! ↓ ハンサムの京太郎は颯爽とトラブルを解決する ↓ 我が家へランナウェイ。そこで突如キレる俺。気まずいこと山の如し ↓ 雨が降り出したので帰る新子さん ↓ 雨が降り過ぎなので戻る新子さん ↓ 濡れたブレザーを乾かそうと脱いだらシャツまで透けていたことに気付く新子さん ←NEW!! ↓ それを目撃した俺 ←NEW!! ↓ ビンタ ←NEW!! ↓ 痛い ←今ここ 372 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 00:48:30.04 ID:M3ziMJFKo そして現在―― 憧「見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた」ブツブツブツブツ 京太郎「……」カチャカチャ 新子さんは部屋の隅で膝を抱えてうずくまり、俺は粛々と飲み物の用意をしている。 ちなみに俺は頬に時期外れのもみじを貼り付けていて、 新子さんは非常手段として俺のTシャツを着ていてた。 (最初はYシャツを渡したけど、「は? Tシャツでいいでしょ(真顔)」って言われた。俺は泣いた) 傍らには濡れたブレザーとシャツが無造作に放られている。 ………………いかがわしい。 京太郎「」ハッ イカン。イカンですよ。 無心になるんだ須賀京太郎。 たとえ今この状況がどれほど魅力的なシチュエーションであろうと、変な気を起こしてはいけない。 同級生の女子が俺の部屋でびしょ濡れの制服を脱いで男物のTシャツを着ているからって、決して変な気を起こしてはいけないんだ! ………………出来るか? 374 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 01:13:00.33 ID:M3ziMJFKo 京太郎「っと」 そうこうしている内にコーヒーの用意が出来た。 先日お袋から届いた補給物資の中に入っていた、ぶっちゃけお歳暮の余りである。 とは言え結構お高い代物らしく、インスタントだてらに良い香りがしてくる。 京太郎「おーい新子さーん。コーヒー入ったぞー」 憧「見られた見られたなんでなんでなんでこんな日に限って無地の可愛くないやつなんてイヤ可愛かったら見せてもいいってわけじゃないけどああもう最悪最悪最悪最悪……え、なに?」 京太郎「……いや……だから、コーヒー」 憧「あ、う、うん。ありがと」 コト、とテーブルにカップを置く。 のそのそと近寄ってそれを手に取る新子さん。 ……いけませんよ新子さん。そのTシャツで四つん這いはいけませんよ。 件の「無地の可愛くないやつ」がちらりと……ゲフンゲフン。 378 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 01:32:36.24 ID:M3ziMJFKo 京太郎「ていうか、コーヒー大丈夫だったか?」 憧「あ、それは平気。……けど」 京太郎「?」 憧「あの、砂糖とミルク……」 あ、そうか。 テーブルの上にはカップが二つ。それだけしかなかった。 京太郎「悪い悪い。俺が使わないから持ってくんの忘れてたわ」 憧「!?」 京太郎「新子さんはいるよな。取ってくるからちょっと待っ」 がしっ。 京太郎「え?」 なんか腕を掴まれた。 掴んだ新子さんは、何やら悔しげというか、強張った表情をしていた。 382 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 01:56:58.32 ID:M3ziMJFKo 憧「い、いらない」 京太郎「へ?」 憧「あたしもいらない。須賀くんが使うんじゃないかと思って訊いただけだから」 京太郎「そ、そうか? それならいいけど……本当にいらない?」 憧「いらない(震え声)」 うーん。 まあ、無理強いするものでもないけどさぁ。 とりあえず座り直してコーヒーを一口。 京太郎「む」 美味い。 ていうか旨い。 普段コーヒーを飲みつけているわけではないけど、それでも味の違いが分かった。 気の利いたコメントこそ出来ないが、これはハッキリ良い品だと分かる。 サンキューお袋、これなら新子さんも、 憧「>Д<」 ダメっぽかった。 391 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 02:37:46.17 ID:M3ziMJFKo 憧「うぅ……」ソローッ 取り繕う余裕もなく顔をしかめたまま、もう一度カップに口をつける。 憧「>Д<」 ダメっぽかった。 京太郎「……」ズズッ 俺ももう一口。 京太郎「……うわー。なんだこれはー」 憧「えっ」 反射的にこちらを見た新子さんと目が合う。 敢えて気にする素振りは見せずに続ける。 京太郎「初めて飲んだけどこれはハズレだなー。とてもじゃないけど飲めないなー」 憧「す、須賀くん?」 京太郎「ごめんな新子さん、お客さんに出せるもんじゃなかったわー。無理して飲まなくてもいいぞー」 この喋り方、なんかワハハとか言いたくなってくるぞー。 394 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 02:59:29.36 ID:M3ziMJFKo 京太郎「とは言え体が冷えたままなのは良くないよなー。代わりを用意するからちょっと待っててくれー」 憧「ちょ、待っ!」 なにか言いたげな新子さんを華麗にスルー。台所へ。 そこで新しいカップに牛乳を注ぎ、そのままレンジで温める。 適当な時間が経ったら取り出して、仕上げにはちみつを少々。 ちなみにこのはちみつもお袋からの贈り物です。 家で親父と二人じゃ使う機会がないからって送りつけてきたんだろうが、俺だって同じだっつーの。 ……あったけどな使う機会。再びサンキューお袋。 戻る。 京太郎「お待たせ、ホットミルクしかなかったけどいいかな?」 憧「あ……」 京太郎「熱いから気をつけろよ」コトッ そう言って、ほとんど量の減ってないコーヒーの隣にホットミルクを置く。 新子さんは、それをじっと見つめていた。 401 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 03:24:51.25 ID:M3ziMJFKo 憧「……ねぇ、ホットミルクしかないの?」 京太郎「ないな」 憧「本当に?」 京太郎「本当に」 憧「他に何も?」 京太郎「なーんにも」 憧「水でもいいけど」 京太郎「水もねえ」 憧「水も!? それはそれでどうなの!?」 京太郎「あーもー食い下がるんじゃねえよ! 大人しく飲めばいいんだよ飲めば!!」 くそぅ、どうにも締まらない。 それでも一歩も退かない覚悟でプレッシャーを与え続ける。 すると、 憧「……」ズズ やがて観念したように、ゆっくりとホットミルクを啜った。 そして、 憧「………………おいし……」ホゥ ようやく表情を綻ばせた新子さんを見ながら、俺もすっかりぬるくなったコーヒーを口に運んだ。 403 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 03:45:42.61 ID:M3ziMJFKo 憧「……さっきは」 京太郎「んぉ?」 湯気を立てるマグカップを両手で包んで弄びながら、新子さんがぽつりと漏らした。 視線はホットミルクに落とされている。 憧「さっきはびっくりした」 京太郎「あ……」 さっき。 つまり、雨が降り出す直前の出来事。 憧「元々うるさい人だとは思ってたけど、あんな風に怒鳴られるなんて思ってなかった」 京太郎「う」 憧「……お父さん以外の男の人に叱られたのなんて、はじめてだった」 京太郎「うぅう……」 胸が痛い。 罪悪感と気恥ずかしさ、二つの「やっちまった」が俺を責める。 穴があったら入りたい…… 405 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 03:57:04.40 ID:M3ziMJFKo 憧「須賀くん」 京太郎「は、はい」 名前を呼ばれ、どんな恨み事を吐きかけられるのかと背筋が伸びる。 しかし、 憧「ごめんね」 俺の耳に届けられたのは、至極シンプルな謝罪の言葉だった。 京太郎「……はい?」 憧「今まで考えてたけど、やっぱり須賀くんが正しかったと思う」 そう言って新子さんはホットミルクを一口飲む。 またほぅと息を吐いて、 憧「本当にあの子達を助けたいなら、まずあたしだけじゃどうにも出来ないってことを認めるべきだったんだよね」 憧「あの時のあたしには……須賀くんには頼りたくない、って気持ちがあった……んだと、思う」 406 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 04:26:19.20 ID:M3ziMJFKo 憧「バカだよね、ほんと。敵と味方の区別がついてなかった」 憧「それであの子達まで危険な目に遭わせてたらって思うと、すごく怖いから」 新子さんの目が俺を見る。 そこに今までの遠慮や抵抗はない。 ただただ、素直な気持ちだけがあった。 憧「だから、ごめんね。心配かけちゃって」 そんな心からの言葉。 それに対して、俺はあくまで冷静に返す。 京太郎「……ふたつ、訂正させてくれ」 憧「訂正?」 京太郎「ああ。ひとつ、危険な目に遭って欲しくなかったのは新子さんも含めた全員だ。自分だけなら良いみたいに言うな」 憧「あ……うん、ごめん」 京太郎「そしてもうひとつ」 さっきから何度も頭を下げる新子さんに向かって、もうひとつ。 京太郎「こういう時は、ごめんじゃなくてありがとうって言うもんだぜ?」ニッ 憧「………………ふふ。じゃあ、ありがとっ」ニコ ――外から聞こえる雨の音が、まるでコンサート会場に響く拍手のように感じられた。 452 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 00:34:12.30 ID:1NtyRWbOo …… ………… ……………… それから、30分ばかりが経っただろうか。 依然雨は降り続け、止む気配を見せない。 俺達はただなんとなく窓の外を眺めていた。 会話こそなかったが、その沈黙は不思議と心地良いものだった。 京太郎「なんか、変な感じだな」 憧「なにが?」 京太郎「こんな風に落ち着いてるのが。初めてだよな、こういうの」 憧「あー……そうね、そうかもね」 色々と騒がしい一日だったが、こんな結末なら大いに意義もあったというものだろう。 憧「あたしも、どうして今まで須賀くんをあんなに目の敵にしてたのか分かんなくなっちゃった」 京太郎「………………」 それは俺がパンツを見たり追い掛け回したり追い掛け回したりパンツを見たり学校中を連れ回したり握手したり抱き留めたり匂いを嗅がせたりしたからだろう。 とは口が裂けても言わないでおこう。 ホットミルクの魔法は偉大だ。 453 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 00:49:37.06 ID:1NtyRWbOo 偉大ついでに、訊きたいことを訊いてしまおうと思った。 折角の、絶好のチャンスだと思った。 ので、 京太郎「新子さん」 憧「なに?」 京太郎「新子さん達は、どうして全国を目指してるんだ?」 訊いた。 ずっと訊きたかったこと。 あの日。みんなで学食に集まった日。 穏乃の口から聞いた麻雀部の目標――『全国優勝』。 じゃあ、そんな大きな目標を立てた動機は? それが知りたかった。 458 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 02:51:24.72 ID:1NtyRWbOo 新子さんは目をぱちくりとさせ、 憧「………………言ってなかったっけ?」 と尋ね返してきた。 京太郎「ああ」 何かにつけ訊こう訊こうと思っていたが、今に至るまでタイミングを逃し続けている。 憧「あちゃー……そっか、ごめんね、別に隠してるわけじゃなかったんだけど」 京太郎「俺も怒ってるわけじゃないけどな」 憧「うん。じゃあ須賀くんには一から話すわね」 居住まいを正す新子さん。 俺も釣られて身構える。 憧「って……そんな改まって聞く話じゃないわよ?」 京太郎「あ、そうなん?」 憧「そうよ」 でも、と続いた。 憧「もしかしたら、ちょっと長くなる……かも」 500 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 00:52:46.19 ID:fEvYA2Hlo 降りしきる雨。 その音を聞きながら、新子さんは静かに語り始める。 憧「――友達がいたんだ」 憧「名前は和。原村和」 憧「うちらと同い年で、小六の時に転校してきたの」 憧「その和を、あたしとしずが麻雀教室に誘った」 京太郎「麻雀教室?」 憧「あ、そっか。それも知らないのか」 憧「えーっと……ハルエが昔インターハイに出場したってことは知ってるっけ?」 京太郎「ああ、鷺森部長と喋ってた時に」 憧「そうだったわね。で、その話には続きがあってね」 憧「初出場の阿知賀は一回戦、二回戦を順調に勝ち上がった」 憧「怒涛の快進撃だって、ニュースでも話題になってたくらい」 501 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 01:04:19.62 ID:fEvYA2Hlo 京太郎「へえ、凄かったんだな」 憧「うん。あたしも、しずと一緒にテレビの前で大はしゃぎだった」クスッ 憧「けど」 憧「次の準決勝で、エースのハルエが大量失点して負けちゃったの」 京太郎「え……」 憧「……あれは子供心に悲しかったなぁ。地元一丸で応援してたからね」 憧「でもやっぱり一番辛かったのはハルエで、それからしばらくは牌に触れることも出来なかったみたい」 京太郎「監督が……」 憧「その後ハルエは部を辞めて、レギュラーもほとんどが卒業。そして翌年は初戦敗退」 憧「結局、女子校時代の麻雀部は自然消滅的に廃部になっちゃったってわけ」 そんなことがあったのか。 本当に、何も知らなかったんだと実感する。 黙り込む俺を見て、新子さんは困ったように小さく笑った――ような、気がした。 502 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 01:27:03.97 ID:fEvYA2Hlo 憧「話を戻すわね」 京太郎「あ、おう」 憧「そんなハルエに勧められたのが、麻雀教室の先生だった」 憧「近所の子供相手に麻雀を教えるっていう……言わばリハビリみたいなものね」 憧「勧めたのはうちのお姉ちゃん。ハルエのチームメイトだったんだ」 京太郎「へえ」 監督のチームメイトって、つまりインターハイに出場した選手だよな。 そんな凄い人が身内にいたのか。 憧「あたしとしずと玄、それからさっき助けた子達も、その阿知賀こども麻雀クラブの仲間だったの」 京太郎「なるほど、そういう仲だったんだな」 憧「うん。いつも一緒だった」 憧「いつも一緒に遊んで、いつも一緒に麻雀を打ってた」 503 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 02:05:31.19 ID:fEvYA2Hlo 憧「で、そこに和が加わったの」 憧「それからはもっと楽しかったなぁ」 憧「和が前に住んでたのって東京でさ。物知りだし麻雀も強いし、あたし達の持ってないものをいっぱい持ってた」 昔を懐かしむ新子さんの表情は、とても優しかった。 友達との綺麗な思い出。 新子さんの心にはそれが詰まっているのだろう。 憧「でも」 でも、 憧「それも長くは続かなかったんだけどね」 その表情に、陰が生まれる。 504 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 02:50:59.14 ID:fEvYA2Hlo 京太郎「え、なんでだ? 何かあったのか?」 憧「秋口だったかな。ハルエに実業団からスカウトが来たの」 京太郎「スカウト……」 憧「そう。それ自体は喜ばしいことだから、みんなで背中を押してあげたんだ」 憧「お別れ会では玄もしずも涙目で、和なんてボロボロ泣いてたっけ。……あたしは泣いてないからね?」 京太郎「別に疑ってねーよ。ていうか、泣いてもいいだろそこは」 まあね、と返す新子さんは、笑っていたが、笑っていなかった。 すぐに下を向いてしまう。 憧「……まあ、時間の問題ではあったんだけどね」 憧「その頃にはあたしも別の中学に進学することを決めてたし、和だって中二になると同時にまた転校しちゃったし」 憧「残ったしずと玄は学年が違うし……誰も一緒にはいられなくなった」 憧「あたし達はバラバラになった」 506 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 03:21:01.57 ID:fEvYA2Hlo 憧「でも、仕方ないって思った」 憧「これから先、こういうことは何度もあるんだって」 憧「だから前を向こうって」 憧「そうするしかないって」 憧「思ってた」 憧「のに」 憧「あのバカは、そうじゃなかったみたい」 京太郎「あのバカ……って、」 憧「お察しの通り、高鴨穏乃よ」クス 憧「あいつがやらかしてくれたから、あたし達はまた集まることが出来た」 507 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 03:55:33.47 ID:fEvYA2Hlo 憧「キッカケは中三の夏休み」 憧「テレビを見てたらね、和がインターミドルの個人戦で優勝したってニュースが流れたの」 京太郎「え、優勝って……凄いことだよな?」 憧「うん。和はほんとに凄いよ」 憧「しずもそれを見てたらしくって、あたしに電話してきたんだ」 憧「なんて言ったんだっけなぁ……確か、「私もあの大会に出たい!」だったかな」 京太郎「うわぁ」 憧「まさにしず! って感じだよね。もう中三だっての」クスクス 憧「でも、言いたいことは分かっちゃったんだよね」 憧「友達が頑張ってる。頑張って、凄い結果を出した」 憧「じっとしてなんかいられない。それはあたしだって同じ気持ち」 憧「しずは、インターミドルが無理ならインターハイに出るって言った」 憧「それも阿知賀で、麻雀部のない阿知賀で全国に行くって」 京太郎「そりゃあ……凄いな。ある意味」 憧「凄いでしょ。ある意味」クスッ 508 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 04:28:40.03 ID:fEvYA2Hlo 憧「……本当はね、あたしは高校も阿知賀じゃなくって、違う高校に進学するつもりだったの」 憧「でも……、なんて言ったらいいかな……。……アテられちゃったのよね、しずに」 憧「しずと一緒なら、って思った」 憧「しずが一緒なら、って」 憧「だからあたしはしずの無茶に乗っかった」 憧「玄も同じで、それから宥姉と灼さんも加わって」 憧「そこにハルエも戻ってきて」 憧「またみんなが揃った。前よりも賑やかになった」 憧「後は和だけ」 憧「全国の舞台で、和の前に立つ」 憧「それがあたし達の本当の目標」 憧「またみんなではしゃいで、」 憧「そして――」 509 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 04:29:29.07 ID:fEvYA2Hlo #aa{{{               -r‐:/..:../..:..:..:..:..:./.:..:..:..:.{..:..:..:..:、..:ヽ..:..:..:∀ニ=- 、               /...:'⌒7..:../..:..:..:..:..:./..:..:..:..:..:|..:..:..:、:゚。..:..゚,:..:..}:゚, \:..:ヽ              /..:..:/  /..:..:.′..:..:.:/./′..:..:..:..:|..:..:..:.i..:..゚。..:.゚:..イ:..:。   丶:.:.、          /..:..:/  /   ! l..:..:..:'./ ! l..:..:..:..|..|v :..:..|..:..:.}..:..i/:}:..:.    ゚。:..:。            /..:..:/   ′:..:..:|..ト-.:.、l |..l,:..:..:..:|..| ゚。,.斗-‐.|..:..|/j..:..:|     :。.:.:。          :..:..:..′  !..:..:..:..|..|リ、.:{リ\:{ ゚。..:..:{..{/\{ }ノ|..:..|:.:..:..:.|     ∨ハ         i..:..:.    |..!:..:..:.|..|,.イ芹℡x{ \..{リxrf芹ミト│..:|:.′ :|     |:..         |..:..:|    リ!..:..:.l..代{:.トil刈    `  {:.トil刈 〉..:.j}:゚. ..,'.|     |:..  「――遊ぶんだ、和と」         |..:..:|     |i.:..:.|.. 弋こ,ノ       弋こ,ノ |..:..′:.゚:.|     |:..         |..:..:|     |i.:..:.|..|:.  :.:.:.   ,      :.:.:.   |..:。..:.。:.:l      |:..         |..:..:|     |i.:..:.|..「}              /|..:′.:゚:.:.:l       |:.:.         |..:..:|     |i.:..:.|..|人     ー‐'     イ:.゚./..:..:。.:.:.!     |.:..         |..:..:|     |i.:..:ハ..゚。:.i.≧o。..    .。o≦:|:.://..:..:.:゚:.:.:.:.l      |:..         |..:..:|     小..:.:.:.ハ.゚。!:.:.:.-r| ` ´  |=ミ:.:|://..:..:./:.:.:.:.:.l      |:..        .:..:..:.|   / :|..:..:.:.:.∧{<=「ノ     }`iニ/イ..:..:..:___:.:.:.:.l    |:..        .:..:..:..:|   f¨¨~}..:..:.:./ 乂二|___     ____|=/=′ :.{ニニニ>ュ.   |:..         / :..:..:..|  ∧ .′.:.:.′ニニ=|_, -―‐- ,_|ニニj:..:..:..|/ニニニ/、  ::..      / :..:....:..:| / ∨..:..:./二ニニニl          lニニ{..:..:..:|ニニニ// }  }:.. }}} 557 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 00:44:29.56 ID:X0v+YFCho 語り終えて―― 新子さんは長く深く息を吐いた。 憧「はぁぁ……あー、疲れた」 どこかおどけたように言って、僅かに残っていたホットミルクを飲み干す。 憧「ぷはっ」 そして俺を見る。 清々しいような、気恥ずかしいような表情で。 憧「本当に長くなっちゃってごめんね」 新子さんはそう言った。 それに対して俺が何かを言い返すより早く、 言い返す隙を与えないように早く、 憧「軽蔑した?」 と言った。 559 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 00:52:40.69 ID:X0v+YFCho 俺は―― #size(20){#aa{{{           /   /     |   | |   | |  :       l :l   |  |   :|   | |        / /    |    |__ | |   | |  |  :   l :l:  /|  |   :|   | | .      ///     |    |\ |‐\八 |  |  |    |__,l /-|‐ :リ   リ  | |      /  /   - 、     :|   x===ミx|‐-|  |:`ー /x===ミノ//  /  :∧{        /   |  :.八   _/ {::{:::刈`|  |  l:  /´{::{:::刈\,_|  イ  /ー―‐ ..__ .      / / :|  ::|/ \{^ヽ 乂辷ツ八 |\| /' 乂辷ソ ノ^l/ } :/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: `「⌒:. .       //  /|  ::l、   :    ー‐   \{  | /  ー‐    j/ /}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.        / _,/:.:..|  ::| \ !           j/        ′/:.:|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.         / :.:.:.:.:{  ::|\ハ_,          ノ            ,___/{:.:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.∧      「――感動した!!!!!!!!!!」 .    /:.:.:.:.:.:.:.::′ ::|:.:.|\圦                       / j/l/.:.:′:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:.:.∧ .   /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:′_,ノ⌒ヽ::|  、    、      _  -‐'     /:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:/:.:.::/:.:  /\:.:.:.:.:.:.:r‐ ' ´     ∨\/ ̄ )  ̄ ̄        /   /.:./:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:.:./:.:.: /:.:.:.:.:.:.\:.:.ノ  ----- 、  ∨/   / 、          /   ,/:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:/:.:.:.:.: :.:.:.:.:.:.:.:.:.: /        ‘,  ‘, ./、 \       /   /.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.://:.:.:.:.:.:.:.: :.:.:.:/:.:.:.:.:.{   ---- 、   ‘,  } /:.:.:} ̄ \ ̄ ̄ ̄/ ̄ /:.{/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:-<⌒:.:.:.:.: :.:./:.:.:.:.:./       ‘,  ‘,「l /⌒^\________/}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/´    \:.:.:.:.: :/:.:.:.:.:.:.{: .    . :    ‘, 人U{:.:.:.:.:.:.:.|:\        /:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.―‐┐:/        \:.: :.:.:.:.:.:.:.: }: : : :--:/\: . ノ:r/   / .: .:.:.:.:.|:.:.:.:\    ,/:.:.:. |:.:.:.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./ }}}} と叫んだ。 563 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 01:08:57.88 ID:X0v+YFCho 憧「、は……!?」 絶句。 絶句する新子さん。 俺に馬鹿呼ばわりされた時の比ではないくらいに目を見開いている。 京太郎「新子さん!!」ガシッ 憧「ひっ!?」ビクッ そんな新子さんの手を、握り締めた。 力強く、力強く。 憧「ちょ、手、手っ///」 京太郎「俺は感動した! 猛烈に感動したぞ!」 憧「か、感動って……、軽蔑じゃなくて?」 京太郎「軽蔑? さっきも言ってたけど、なんで軽蔑なんかするんだよ?」 憧「だって、友達と遊びたいなんて理由で全国を目指すなんて……」 京太郎「そこがいいんじゃねえか!!!」グワッ 憧「ひぃぃ……」ビクビク 566 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 01:41:44.57 ID:X0v+YFCho 京太郎「たったそれだけの為に毎日あんなに練習してるんだろ!?」 憧「そ、そうだけど」 京太郎「やっぱすげえ! 俺だったら絶対に途中で投げ出しちまうよ、断言する!!」 情けないが事実だ。 京太郎「全国に行けるかどうかも分からない。行ったって友達に会える保証なんてない」 京太郎「それでも行ける、会えるって信じて努力してる奴を、どうやって軽蔑しろって言うんだよ!!」 憧「ぅ……ぁぅ……」タジタジ 燃えていた。 滾っていた。 迸っていた。 目の前の美少女が、もはや女神のように見えていた。 彼女の為に。 みんなの為に。 何かしてあげたい、力になりたい。 無性にそう感じた。 570 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 02:11:43.22 ID:X0v+YFCho 京太郎「なあ、俺に出来ることってないか!?」 憧「は、はぁ?」 京太郎「なんでもいいから! ほら、言ってみ?」 憧「………………じゃ、手、離して」 京太郎「やだよ」 憧「なんでよぅ!?」グスッ なんか半泣きだ。 まったく男嫌いもほどほどに―― 京太郎「――そうだ!!!」クワァッ 憧「」ビクーンッ 京太郎「男嫌いを治そう! 本気で!!」 憧「ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛」 新子さんは今日一番の嫌な顔をした。 573 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 02:44:24.55 ID:X0v+YFCho 憧「い、今だってやってるじゃない」 京太郎「俺が本気じゃなかったんだよ! ぶっちゃけ監督に言われるがまま、なあなあでやってた!」 京太郎「でも、もう受け身は卒業だ。これからはガンガン! 積極的に! 全力で協力させてもらう!!」 京太郎「そう! 何を隠そう――俺は特訓(をする方)の達人だぁああああああああああ!!!」ゴッッッ 憧「ッ~~~……あーもーうるさい! それと近い! さっきからなんなのよそのハイテンションは!?」 京太郎「なんなのって言われてもなぁ。俺もアテられちまったんだよ、お前らの夢に」 憧「ちょ、お前呼ばわりって……」カチン 京太郎「あ、悪い」 勢い余って失礼をば。 ちゃんと呼ばないとな――ちゃんと? 京太郎「……新子さん」 憧「な、なによ」 呼ぶ――違う。 京太郎「新子」 憧「!?」 呼ぶ――違う! ちゃんと呼ぶなら――こうだ!! #size(15){#aa{{{           /   /     |   | |   | |  :       l :l   |  |   :|   | |        / /    |    |__ | |   | |  |  :   l :l:  /|  |   :|   | | .      ///     |    |\ |‐\八 |  |  |    |__,l /-|‐ :リ   リ  | |      /  /   - 、     :|   x===ミx|‐-|  |:`ー /x===ミノ//  /  :∧{        /   |  :.八   _/ {::{:::刈`|  |  l:  /´{::{:::刈\,_|  イ  /ー―‐ ..__ .      / / :|  ::|/ \{^ヽ 乂辷ツ八 |\| /' 乂辷ソ ノ^l/ } :/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: `「⌒:. .       //  /|  ::l、   :    ー‐   \{  | /  ー‐    j/ /}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.      / _,/:.:..|  ::| \ !           j/        ′/:.:|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.         / :.:.:.:.:{  ::|\ハ_,          ノ            ,___/{:.:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.∧      「憧!」 .    /:.:.:.:.:.:.:.::′ ::|:.:.|\圦                       / j/l/.:.:′:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:.:.∧ .   /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:′_,ノ⌒ヽ::|  、    、      _  -‐'     /:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:/:.:.::/:.:  /\:.:.:.:.:.:.:r‐ ' ´     ∨\/ ̄ )  ̄ ̄        /   /.:./:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:.:./:.:.: /:.:.:.:.:.:.\:.:.ノ  ----- 、  ∨/   / 、          /   ,/:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:/:.:.:.:.: :.:.:.:.:.:.:.:.:.: /        ‘,  ‘, ./、 \       /   /.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.://:.:.:.:.:.:.:.: :.:.:.:/:.:.:.:.:.{   ---- 、   ‘,  } /:.:.:} ̄ \ ̄ ̄ ̄/ ̄ /:.{/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:-<⌒:.:.:.:.: :.:./:.:.:.:.:./       ‘,  ‘,「l /⌒^\________/}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/´    \:.:.:.:.: :/:.:.:.:.:.:.{: .    . :    ‘, 人U{:.:.:.:.:.:.:.|:\        /:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.―‐┐:/        \:.: :.:.:.:.:.:.:.: }: : : :--:/\: . ノ:r/   / .: .:.:.:.:.|:.:.:.:\    ,/:.:.:. |:.:.:.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./ }}}} 憧「ふきゅっ!!?」 581 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 03:22:21.43 ID:X0v+YFCho うむ。これだ。 しっくり来た。 だが新子さん――もとい憧はそうでもないらしく、 憧「な、ななな、なん、名前、なんで、なんで……?」パクパク 京太郎「いやぁ、やっぱり呼ぶなら名前だよなと思って」 咲。穏乃。そして憧。 仲良くなった同学年の女子を苗字でさん付けとか、俺のキャラじゃなかったんだよ。 やっと喉に引っかかっていた小骨が取れた。そんな気分だ。 あるいは新しいパンツをは履いたばかりの正月元旦の朝のような。 京太郎「というわけで、改めてよろしくな、憧!」ニッ 憧「~~~~~っ!?」 声にならない悲鳴が上がった。 目をグルグルと回した憧が思い切り後ずさろうとする。 しかし手は俺がしっかりと掴んでいた。 ので、 憧「あっ」ツルッ 京太郎「おっ」グラッ お 待 た せ 。 587 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 03:57:21.57 ID:X0v+YFCho 憧「きゃっ!?」ドテッ 京太郎「うおっ!?」ドサッ 滑った。 転んだ。 押し倒した。 憧「ったぁ……、」ピタッ 瞑っていた目を開き、憧が現状を認識する。 畳の上に仰向けに倒れた自分。 ばさりと広がる髪。 それぞれ俺に押さえつけられている両手。 トドメは何らかの力によってめくれあがったTシャツから覗く、小さなおへそ。 京ッピー知ってるよ。こういうの、数え役満って言うこと。 591 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 04:33:54.97 ID:X0v+YFCho しかし、 やはり今日という日は特別らしかった。 憧「あ、わ、ゎわ」 様子がおかしい。 憧「あわわあわわ、あわわあわわ」 いつもなら罵声なり鉄拳なりが飛んでくるタイミングだというのに、あわわあわわするばかりの憧。 その顔は茹で蛸のように真っ赤だ。 京太郎「――」 よくない。 これはよくない。 ここでしおらしくなられてしまっては、俺も収まりがつかない。 普段ならリセットされていたテンションが限界を突破しつつあるのを感じる。 やばい、テンパる。 憧「な、ゃ、なに、こんな、なんで、なにをっ、」アワワアワワ 京太郎「あ、あのっ、憧――」 憧「ふきゅっ!? ま、また! また憧って!」 京太郎「ちょ、落ち着け憧、頼む、マジで!」 憧「あ! あぁああ! あた、あたしっ、あたし――!」 595 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 04:46:12.95 ID:X0v+YFCho #size(17){#aa{{{ .             xァ′ /       |                ヽ {__j__            '   /   ′       / |     |      .         :, `丶 \       /  / /    i |    i  | |     |     i |  i     :,    \ \       /  /         | |  ‐-L_ | |     | j |i  | |  |         \ \    .         |    |:八  人j ト八      i |斗匕|「 | |  |   l: .,        ヽ       /     |    |  Ⅳj]xぅ妝斥 \    i/≫ぅ妝ミxV|  |   |: .′       , .      ′     八  :{  |  |坏´_)「:::ハ   \ ∨  _)「:::ハⅥ  |   |: .        ′   ;           \乂_|  |八 rヘしi::::}     \   rヘしi::::} オ |  . .|: . i           ;   「あたし処女ですからっ!!!」   |   i        l .⌒|  |   乂__/ソ          乂__/ソ |  |  . .|: . |       i   |   |   |          | . . .|  |    ,,,      ,      ,,,   |  |  . .|: . |       |   |   |   |         /:| . . .|  |\i                 |  |  . .|: . |       |   |   |   |          | . . .|  |:::八     r'ア ̄`ヽ       /::|  |  . .|: . |       |   |   |   |       i | . . :|  {::::::个:...   ∨     ノ    イ:::::}  |  . .|: . |       |   |   |   |       | | . .八  V斗ri:i:i:〕ト       ィ:〔:i:i:iTV  八   .|: . |       |   |   |   |       | | . . . :\ Vi:i:i:i:i:i:i:|. : j>--<. : .{: |:i:i:i:iV //   廴_|       |   |   |   |     r七i| . . . . : |\i:i:i:i:i:i:i:|: . : . : . : . : . : . :|:i:i:i:/i:i/    // /i:\       |   |   |   |     ∧ Ⅵ. . . . . :|:i:i:\i:i:i:i:|─-. : . : . : .-─|:/i:i:i:/    // /:i:i:i:i∧    |   |           /   /     |   | |   | |  :       l :l   |  |   :|   | |        / /    |    |__ | |   | |  |  :   l :l:  /|  |   :|   | | .      ///     |    |\ |‐\八 |  |  |    |__,l /-|‐ :リ   リ  | |      /  /   - 、     :|   x===ミx|‐-|  |:`ー /x===ミノ//  /  :∧{        /   |  :.八   _/ {::{:::刈`|  |  l:  /´{::{:::刈\,_|  イ  /ー―‐ ..__ .      / / :|  ::|/ \{^ヽ 乂辷ツ八 |\| /' 乂辷ソ ノ^l/ } :/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: `「⌒:. .       //  /|  ::l、   :    ー‐   \{  | /  ー‐    j/ /}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.        / _,/:.:..|  ::| \ !           j/        ′/:.:|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.         / :.:.:.:.:{  ::|\ハ_,          ノ            ,___/{:.:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.∧      「お、俺だって童貞だ!!!」 .    /:.:.:.:.:.:.:.::′ ::|:.:.|\圦                       / j/l/.:.:′:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:.:.∧ .   /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:′_,ノ⌒ヽ::|  、    、      _  -‐'     /:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:/:.:.::/:.:  /\:.:.:.:.:.:.:r‐ ' ´     ∨\/ ̄ )  ̄ ̄        /   /.:./:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:.:./:.:.: /:.:.:.:.:.:.\:.:.ノ  ----- 、  ∨/   / 、          /   ,/:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:/:.:.:.:.: :.:.:.:.:.:.:.:.:.: /        ‘,  ‘, ./、 \       /   /.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.://:.:.:.:.:.:.:.: :.:.:.:/:.:.:.:.:.{   ---- 、   ‘,  } /:.:.:} ̄ \ ̄ ̄ ̄/ ̄ /:.{/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:-<⌒:.:.:.:.: :.:./:.:.:.:.:./       ‘,  ‘,「l /⌒^\________/}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/´    \:.:.:.:.: :/:.:.:.:.:.:.{: .    . :    ‘, 人U{:.:.:.:.:.:.:.|:\        /:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.―‐┐:/        \:.: :.:.:.:.:.:.:.: }: : : :--:/\: . ノ:r/   / .: .:.:.:.:.|:.:.:.:\    ,/:.:.:. |:.:.:.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./ }}}} 597 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 04:47:02.76 ID:X0v+YFCho #size(17){#aa{{{ .             xァ′ /       |                ヽ {__j__            '   /   ′       / |     |      .         :, `丶 \       /  / /    i |    i  | |     |     i |  i     :,    \ \       /  /         | |  ‐-L_ | |     | j |i  | |  |         \ \    .         |    |:八  人j ト八      i |斗匕|「 | |  |   l: .,        ヽ       /     |    |  Ⅳj]xぅ妝斥 \    i/≫ぅ妝ミxV|  |   |: .′       , .      ′     八  :{  |  |坏´_)「:::ハ   \ ∨  _)「:::ハⅥ  |   |: .        ′   ;           \乂_|  |八 rヘしi::::}     \   rヘしi::::} オ |  . .|: . i           ;    |   i        l .⌒|  |   乂__/ソ          乂__/ソ |  |  . .|: . |       i   |   |   |          | . . .|  |    ,,,      ,      ,,,   |  |  . .|: . |       |   |   |   |         /:| . . .|  |\i                 |  |  . .|: . |       |   |   |   |          | . . .|  |:::八     r'ア ̄`ヽ       /::|  |  . .|: . |       |   |   |   |       i | . . :|  {::::::个:...   ∨     ノ    イ:::::}  |  . .|: . |       |   |   |   |       | | . .八  V斗ri:i:i:〕ト       ィ:〔:i:i:iTV  八   .|: . |       |   |   |   |       | | . . . :\ Vi:i:i:i:i:i:i:|. : j>--<. : .{: |:i:i:i:iV //   廴_|       |   |   |   |     r七i| . . . . : |\i:i:i:i:i:i:i:|: . : . : . : . : . : . :|:i:i:i:/i:i/    // /i:\       |   |   |   |     ∧ Ⅵ. . . . . :|:i:i:\i:i:i:i:|─-. : . : . : .-─|:/i:i:i:/    // /:i:i:i:i∧    |   | 「「…………………………………………………………………………………………あ」」           /   /     |   | |   | |  :       l :l   |  |   :|   | |        / /    |    |__ | |   | |  |  :   l :l:  /|  |   :|   | | .      ///     |    |\ |‐\八 |  |  |    |__,l /-|‐ :リ   リ  | |      /  /   - 、     :|   x===ミx|‐-|  |:`ー /x===ミノ//  /  :∧{        /   |  :.八   _/ {::{:::刈`|  |  l:  /´{::{:::刈\,_|  イ  /ー―‐ ..__ .      / / :|  ::|/ \{^ヽ 乂辷ツ八 |\| /' 乂辷ソ ノ^l/ } :/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: `「⌒:. .       //  /|  ::l、   :    ー‐   \{  | /  ー‐    j/ /}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.        / _,/:.:..|  ::| \ ! 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l.  l i.  i |        /  ,/  ! !  l||   ! |、 ll !  |  ヽ、       /_ -7 , | l ト、| |ヽ!  N , 斗 r  ,'_  ト--`      ̄  //!  ! Nヽ!\|,//l/ l/! N ,ハ !|        ´ / ,i丶 {=== l/ == =l/ ' ノ リ   「……やらかしたなぁ、お互い」         // l i `i           _/,、/         ´   {ハ!ヽ{    ′      /!}/ ′               丶  ー ―‐ '  / |′                \    /  |                 __ i ー '     ! __           , ィ'´:.:/-‐ ´}     /  `Y´:.:.\       , -‐'' ´:.:./:.:.:./― - 、   ,/__ /:.:.:.:.:.:/`丶、       ハ:.:.:.i:.,:.:,′:.:i     `    ̄    /:.:.:.:.:../:.:.:.:.:.:.:.丶、     /:.:.:.i:.:.:|,':.:i:.:.:.:.:!   ヽ  /   /:.:.:.:.:.:/:.:.,:.:.:.:.:.:.:.:.:,.ヽ      !:.:.:.:.ヽ:.{:.:.l:.:.:.:.:l.     i     /:.:.:.:.:.:/:.:./:.:.:.:.:.:./:.:.:.i }}} 632 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/03(土) 00:43:07.58 ID:GYIdsQf8o ◇ …… ………… ……………… ~憧の部屋~ ガチャッ 憧「た、ただいまー……」フラフラ ボフン 憧「はあ……やっと帰ってこれた……」 ゴロン 憧「今日は散々だったなぁ……」 憧「須賀くんに怒られたり……」 憧「雨に降られたり……」 憧「須賀くんに、ぶ、ブラが透けてるのを見られたり……」 憧「す、須賀くんに押し倒された、り……」 憧「須賀くんに……しょ、処っ、バレ、言っ、すが、きゅっ、ふ、~~~~~っ!!」カァァァッ 憧「っあ゛ーーーーーーーーーー!/// もうマジなに言っちゃってんのよあたしはぁぁぁぁぁっ!!///」ゴロンゴロンゴロンゴロン 637 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/03(土) 01:25:51.07 ID:GYIdsQf8o 憧「だいたい須賀くんも須賀くんよ!」ピタッ 憧「あんなにグイグイ迫ってきたら動揺もするっての!」 憧「こっちの気持ちなんてお構いなしなんだから!」 憧「その上どれだけ突き放しても諦めないし」 憧「たまーーーーーにまともなことも言うし」 憧「もう、本当にお節介で……」 憧「……本当に、変なヤツ……」 憧「……」 憧「」ブルルッ 憧「そうだ、早くシャワー浴びなきゃ!」ガバッ 憧「濡れて生乾きの服なんて着てたら風邪ひいちゃうわ」モゾモゾ 憧「ブレザーもシャツも洗濯よね……しずじゃないけど、明日の部活はジャージで出なきゃかなー」プチプチ 憧「よ、っと」ヌギヌギ バサッ 憧「あ」 憧「そういえばこのTシャツ、須賀くんのだっけ……」 640 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/03(土) 02:28:56.84 ID:GYIdsQf8o 憧「……これ、どうしよ」 憧「洗濯して返したいから着たまま帰って来ちゃったけど……」 憧「冷静に考えたら洗濯物に紛れ込ませるのって無理じゃない……?」 憧「バレるよね、絶対バレるよね」カタカタ 憧「けど洗わず返すのも女子として、いや人として流石に……」 憧「やっぱり洗濯機に放り込……んでも干す時に見つかるし……」 憧「やっぱりやっぱりそのまま返……したら匂いとか気になるし……」 憧「……」 憧「……匂い……」 憧「」キョロ 憧「」キョロキョロ 憧「……」 憧「すんすん」 憧「んー……」 憧「あたしの匂いしかしない……かな?」 憧「Σ」ハッ 憧「だからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……///」ゴロンゴロンゴロンゴロンゴロンゴロンゴロンゴロン 【TO BE CONTINUED...】
73 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/24(水) 00:46:48.62 ID:6D4+coj9o 憧「――で、そこでリーチする場合は何を切ればいいと思う?」 京太郎「えーっと……これか?」カチッ \リーチ/ 憧「ちょ、どうしてそうなるのよ!」 京太郎「ダメェ?」 憧「切る前に訊いて欲しいんだけど……ちょっと貸して」スッ ギチギチ...カチャカチャ...カチッ カチカチッ 憧「ほら、こっちを切った方が待ちが広くなるでしょ?」カチッ \リーチ/ 京太郎「……」 憧「須賀くん?」 京太郎「お、ぉお? お、おう……おう」 憧「……分かってないなら分かってないって素直に言って」 京太郎「スミマセン」 76 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/24(水) 01:14:05.04 ID:6D4+coj9o 憧「まったく……もう一度巻き戻すわね」スッ 京太郎「あー、俺がやろうか?」 憧「? あたしがやるからいいわよ」 京太郎「いや……大変じゃね? マジックハンドでPC操作するの」 憧「別に平気だけど」 京太郎「あ、そうですか……」 憧「ほら、少し避けて」 京太郎「はい」サッ 説得を諦めて上半身を横に倒す。 そこに出来た空間をマジックハンドがギチギチと音を立てて通過していく。 玩具の手は驚くほど精密な動きでキーボードを叩き、マウスを動かす。 テーブルから遠く離れた位置にいる新子さんは、しかし決して操作を誤らない。 片手で構えた双眼鏡でマジックハンドの手元を完全に把握しているからだ。 最後に数度クリックをして、モニタの中の雀卓は数十秒前と同じ状態に巻き戻された。 84 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/24(水) 01:44:00.43 ID:6D4+coj9o 憧「じゃあまた説明するから、今度はちゃんと聞いててよね」 京太郎「へーい」 生返事をしながら居住まいを正す。 目の前には部費で購入されたノートパソコンが鎮座している。 俺が今プレイしているのは、ネット麻雀ではなくオフラインの麻雀ソフトの、更に練習モードだった。 これならCPU相手に何度でも対局を巻き戻すことが出来るので、初心者の指導にはうってつけというわけだ。 憧「だから、リーチする時はまずフリテンにならないように自分の捨て牌をよく見ること」 京太郎「ふんふむ」 メガホンにマジックハンドと双眼鏡を加えた三種の神器。 これらを装備したことにより、新子さんの俺への態度は若干ながら軟化したように思える。 しかし、物理的な距離は縮まるどころか遠ざかってしまった。 喜ぶべきか、悲しむべきか。 俺は答えを出しかねていた。 90 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/24(水) 02:38:01.19 ID:6D4+coj9o 主観で語らせてもらうなら、現在の俺と新子さんの関係は良好だ。 出会った当初の悪印象からよくぞここまで、と言いたい。 ただ、それはこの距離を保っている場合に限られた話で。 少しでも近付けば、また拒まれる。 それが分かりきっていて、だから俺も今の立ち位置に甘んじている。 触れず、交わらず。しかし突き放さず。 この曖昧な距離感が、新子さんの打ち出した俺への態度だった。 やっぱり、喜ばしくはない、よな。 憧「――賀くん? 須賀くん!!」 京太郎「っうぇ!?」 その時、メガホンで拡大された声が俺の思考を現実に引っ張り上げた。 振り返った先には、非難がましい表情の新子さん。 憧「……ねえ。ちゃんと聴いてた?」ジトッ 91 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/24(水) 03:01:16.93 ID:6D4+coj9o 京太郎「あ……悪い、考え事してた」 憧「どうせ頭使うんなら麻雀に使ってよ。覚える気がなくちゃいつまで経っても身につかないんだから」 京太郎「すまん。本当に悪かった。反省してる」 平謝りに謝りながら改めてPCにかじりつく。 今度こそ一打一打に集中して対局を進める――が、 京太郎「これは通るか……?」カチッ \ロン/ 京太郎「あ゛」 見事に振り込み最下位確定。 これで何連続だろうか。うなだれる俺。 背後で新子さんも嘆息しているようだった。 憧「少し休憩しましょうか。集中出来ないなら無理に続けても仕方ないし」 京太郎「だな……お茶淹れるわ」 立ち上がり、素早く給湯スペースに向かう。 人数分のお茶を用意しながら窓の外を見ると、今にも雨が降り出しそうな曇り空だった。 92 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/24(水) 03:42:05.01 ID:6D4+coj9o 憧「ていうか玄と宥姉どうしたんだろ……」 携帯をいじりながら新子さんがぼやく。 確かに普段ならもう部室に全員集まっている時間だった。 憧「今日はしずがいないんだから、二人が来てくれないと練習出来ないのに」ハァ また溜め息。 ちなみに穏乃は家の手伝いとやらで部活を休んでいる。 阿知賀学院麻雀部の女子部員は五名。 その内の一人が欠席となると、残り全員が揃わなくては麻雀は打てない。 俺が混ざっても勝負にならないし。 もっとも、だからこそ暇を持て余した新子さんに麻雀の指導をしてもらえていたのだが。 京太郎「ほいお茶」 憧「ありがとう」 新子さんの目の前に湯呑みを置いて、俺はまたPCのあるテーブルへ。 マインスイーパーなんぞ起動させながら、自分で淹れたお茶を啜った。 93 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/24(水) 04:27:14.72 ID:6D4+coj9o 『♪~』 憧「あ、ハルエからメールだ」 京太郎「監督から?」 部室に顔も出さずにどうしたんだろう。 なんとなく黙って様子を見る。 憧「ふんふむ……。………………はあ!?」 京太郎「!?」ビクッ カチカチと携帯を操作していた新子さんが突然大声を上げた。 危うく湯呑みを落としそうになる。 京太郎「ちょ、どうした?」 憧「……」ワナワナ 京太郎「新子さん?」 憧「……玄と宥姉、家の都合で急に帰らなくちゃいけなくなった……って」 94 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/24(水) 05:05:01.52 ID:6D4+coj9o 京太郎「え、てことは部活は……?」 憧「今日はナシ。雨が降る前に帰りなさい、だって」 京太郎「えぇー……」 待ちに待ってこのオチか。 拍子抜けだ。 京太郎「どうする?」 憧「どうもこうも……帰るしかないでしょ」 傘持ってきてないし、と続く。 そういえば俺も持ってない。 憧「まったくハルエったら、こういう大事な連絡はもっと早く……」ブツブツ この場にいない者への不満を呟きながら、あっという間に帰り支度を済ませる新子さん。 俺も鞄を肩から担ぐだけで準備完了だ。 というわけで、 京太郎「それじゃあ鷺森部長、お疲れ様でした」ペコッ 憧「お先でーす」ペコリ 灼「ん」モキュモキュ おにぎりを頬張る鷺森部長を残し、俺達は部室を後にした。 142 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/26(金) 00:51:53.51 ID:RvujjKUSo ~帰路~ 見上げれば、いつ降り出してもおかしくない空模様。 厚ぼったい雨雲の下を俺達は歩いていた。 京太郎「……」テクテク 憧「……」テクテク こうして二人きりになるのは珍しいことじゃない。 なにせ帰る方角が一緒だ。 同じ学校に通って、同じクラスで勉強して。 そして同じ部活を終えれば、必然的に下校のタイミングも一緒になる。 違うのはその日その日の会話量くらいか。 とりとめのない世間話をする日。 明日の提出物について確認する日。 部活で覚えたことをおさらいする日。 何も話さない日もある。 さて、今日は…… 145 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/26(金) 01:00:02.59 ID:RvujjKUSo 京太郎「新子さん」 憧「なに?」 京太郎「今日もありがとな。麻雀教えてくれて」 憧「ん……別に、暇だったしいいわよ」 京太郎「暇なら暇で自分のことだって出来たろ? わざわざ時間割いてくれてサンキュー」 憧「ど、どういたしまして」プイッ 京太郎「飲み込み悪い生徒でゴメンな」 憧「……自覚があるならもっと真剣に取り組んで欲しいんだけど」ジロリ 京太郎「う゛」 憧「真面目にやってれば怒ったりしないから、部活中に関係ないこと考えるのはやめてよね」 京太郎「うっす、気をつけます……」 一概に無関係ではない、なんて言い訳の出来る空気ではなかった。 147 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/26(金) 01:31:01.06 ID:RvujjKUSo 京太郎「あ、それとさ」 憧「?」 京太郎「次の指令についてなんだけど」 憧「ふきゅ」 変な声漏れた。 憧「っ………………急にどうしたの」 京太郎「いや、この分だとまた土曜にあるんだなと思って。明日で一週間だろ」 憧「……そうね……」 京太郎「次はどんなことやらされるんだろうなぁ」 憧「……。あの、須賀くん」 京太郎「どした?」 憧「その話は、あんまりして欲しくない、かも」 京太郎「え?」 憧「えっと、当日までは忘れていたいって言うか、心の準備は一人でしたいし……だから……」 京太郎「……あー……分かった、もうしない」 憧「うん。ごめん……」 京太郎「気にしなくていいって」 最後の言葉は、俯く新子さんに届いただろうか。 152 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/26(金) 02:45:43.07 ID:RvujjKUSo そして沈黙が訪れる。 聞こえるのは足音と、ここよりずっと遠くで響く雷の音。 いよいよ降り始めるのかもしれない。 そうなる前に家に着かなければならない。 だから、今日の会話がここで途切れても仕方ない。 今日もまた、二人の間に引かれた線を越えられなくても、仕方ない。 ――本当に、仕方ないことなのか? 俺達は今、お互いにとって最も面倒の少ない距離に留まっている。 新子さんの抱える事情を思えば、やはり「仕方ない」ことだと言える。 けれど青春は短い。 同じ学校の、同じクラスの、同じ部活の仲間なのに――どうしても、そんな風に考えてしまう。 こうして足踏みし続けることは、俺にとって正しい選択なのだろうか。 今この時間は、貴重な青春を浪費しているに過ぎないのではないか。 歩み寄れば何かが変わるかもしれないのに。 しかしそれは俺の欲目に過ぎない。 相手は変化を望んでいるかもしれないし、望んでいないかもしれない。 俺も人間なら新子さんも人間だ。 生身の人間関係の難しさを痛感しながら、重い足取りで帰路を辿った。 155 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/26(金) 03:50:19.00 ID:RvujjKUSo 京太郎「――ん?」 その時、その道中で、あることに気付いた。 憧「どうかした?」 京太郎「……なんか聞こえないか?」 最初は声に。 まくし立てるような調子で、しかし呂律が回っていない。 京太郎「ほら、向こうの方から」 憧「向こう……?」 次は姿に。 曇天が作る暗がりの先、大きな影がひとつ、小さな影がふたつ。 憧「け、ケンカ?」 京太郎「にしては様子が変だけど……くそ、よく見えねえな」 228 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 00:31:13.84 ID:NXc2CIjco 立ち止まり、二人して目を凝らす。 まだ夕方というにも早い時間なのに、太陽が隠れているだけでこんなにも見難いなんて。 それでも注視していると、まず大柄な方の影が男であるというのが分かった。 京太郎「あれって……」 憧「……酔っ払い?」 男は足元が覚束ない様子でフラフラと揺れていた。 呆れたことに昼間から酩酊しているようだ。 そして残る二人は、揃いの制服を着た女の子だった。 怯えたように身を縮こまらせているのが窺える。 京太郎「阿知賀……じゃないよな。どこの学校だ?」 憧「あれは近くの中学の――って、」 京太郎「新子さん?」 229 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 00:34:37.73 ID:NXc2CIjco 途切れた言葉が気になって隣を見る。 憧「なんで……」 かすかに呟く声。 驚きと戸惑いの入り交じった表情。 呆然と立つ新子さんは、しかし次の瞬間、 憧「――綾! 凛!」ダッ 三人の人影に向かって猛然と走り出していた。 京太郎「新子さん!?」 咄嗟の出来事に、何より新子さんの言動に面食らう。 彼女は誰かの名前を叫んだ。 それはつまり、 京太郎「知り合いかよ――!?」 ようやくおおよその状況を察した俺は、どんどん遠ざかる新子さんの背中を追った。 247 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 01:07:20.92 ID:NXc2CIjco 憧「何してるのアンタ達!」 凛「あ、憧先輩!?」 綾「憧ちゃん!」 「おっ? また可愛い子が増えたねぇ~」 憧「ひ……っ」 綾「が、学校から帰ってたら急にこのおじさんが話しかけてきて……」 「いやぁ、おじさん迷子になっちゃってさぁ。お嬢ちゃん達におじさんの家まで連れて行ってもらおうと思って」ヒック 凛「だから知りませんってば……!」 憧「……二人とも、あたしの後ろに来て」 綾「憧ちゃん……」 凛「でも先輩も……」 憧「大丈夫だから。ほら早く」 綾「う、うん」スッ 凛「ありがとうございますっ」スッ 252 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 02:13:12.84 ID:NXc2CIjco 憧「っ……」キッ 「ん~? なにかなお嬢ちゃん、おじさんに用事?」 憧「ぁ、の……こういうの、やめてください」 「へぇ?」 憧「こ、この子達、怖がってるから……だから、その、」 「いやだなぁ」ズイッ 憧「っ!?」 綾「ひっ」ギュッ 「おじさんは道を訊いてるだけだよ? 怖がらせるつもりなんてないんだよ? なのにそんな……悲しいなぁ、怒っちゃうなぁ」ヒクッ 凛「せ、先輩……!」ギュッ 憧「大丈夫……大丈夫だから……」 「ああもう、お嬢ちゃんでもいいから早く案内してくれないかなぁ。ねえ。ほら」ズイッ 憧「――!」 253 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 02:16:03.09 ID:NXc2CIjco #size(17){#aa{{{           /   /     |   | |   | |  :       l :l   |  |   :|   | |        / /    |    |__ | |   | |  |  :   l :l:  /|  |   :|   | | .      ///     |    |\ |‐\八 |  |  |    |__,l /-|‐ :リ   リ  | |      /  /   - 、     :|   x===ミx|‐-|  |:`ー /x===ミノ//  /  :∧{        /   |  :.八   _/ {::{:::刈`|  |  l:  /´{::{:::刈\,_|  イ  /ー―‐ ..__  .      / / :|  ::|/ \{^ヽ 乂辷ツ八 |\| /' 乂辷ソ ノ^l/ } :/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: `「⌒:. .       //  /|  ::l、   :    ー‐   \{  | /  ー‐    j/ /}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.      「ちょーっと待ったぁ!!」      / _,/:.:..|  ::| \ !           j/        ′/:.:|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.         / :.:.:.:.:{  ::|\ハ_,          ノ            ,___/{:.:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.∧ .    /:.:.:.:.:.:.:.::′ ::|:.:.|\圦                       / j/l/.:.:′:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:.:.∧ .   /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:′_,ノ⌒ヽ::|  、    、      _  -‐'     /:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:/:.:.::/:.:  /\:.:.:.:.:.:.:r‐ ' ´     ∨\/ ̄ )  ̄ ̄        /   /.:./:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:.:./:.:.: /:.:.:.:.:.:.\:.:.ノ  ----- 、  ∨/   / 、          /   ,/:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:/:.:.:.:.: :.:.:.:.:.:.:.:.:.: /        ‘,  ‘, ./、 \       /   /.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.://:.:.:.:.:.:.:.: :.:.:.:/:.:.:.:.:.{   ---- 、   ‘,  } /:.:.:} ̄ \ ̄ ̄ ̄/ ̄ /:.{/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:-<⌒:.:.:.:.: :.:./:.:.:.:.:./       ‘,  ‘,「l /⌒^\________/}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/´    \:.:.:.:.: :/:.:.:.:.:.:.{: .    . :    ‘, 人U{:.:.:.:.:.:.:.|:\        /:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.―‐┐:/        \:.: :.:.:.:.:.:.:.: }: : : :--:/\: . ノ:r/   / .: .:.:.:.:.|:.:.:.:\    ,/:.:.:. |:.:.:.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./ }}}} 261 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 02:59:09.30 ID:NXc2CIjco 伸びる手を、すんでのところで遮った。 そのまま体ごと男と新子さんの間に割り込む。 憧「す、須賀くん!?」 背中には新子さんの驚きに満ちた声。視線も感じる。 「んん、今度は男かぁ……誰だいボク?」 京太郎「後ろの子達の知り合いっす。なんか揉めてたみたいだったんで」 「別に揉めちゃいないよ? ただそっちの子がちょーっと失礼なことを言うもんだからね」 京太郎「ありゃ、そうだったんですか……それは失礼しました」ペコ あくまで愛想は良く、軽く会釈をしてから振り返る。 京太郎「今の内に走って逃げろ」ボソッ 凛「えっ?」 京太郎「俺が注意を引いておくから、ほら早く」 264 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 03:47:13.73 ID:NXc2CIjco 綾「でもそれじゃあ……」 京太郎「いーから任せとけって。怖かったろ? 転ばないように気を付けるんだぞ」 凛「……はい。綾、行こう」 綾「う、うん……あの、ありがとうございましたっ」ペコッ ダッ! 半ば強引な説得に応じてくれた二人が踵を返し、脇目も振らず走り出す。 「あ」 と男が声を漏らす間に、小道に飛び込んで姿を消してしまった。 この分なら無事に安全な所まで行けるはずだ。 後は―― 「ちょっとお、どうしてあの子達行っちゃったの?」 京太郎「いやぁどうしてでしょうね? 塾の時間かな?」 ――こっちをなんとかするだけだ。 265 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 04:36:31.25 ID:NXc2CIjco と言っても、やることはもう決めている。 「なんだよそれぇ、まだおじさんと話してる途中だったろ?」 男から視線を逸らさず、タイミングを見計らう。 憧「ねぇ、一体どうするつもりなの?」ボソッ と、俺の思惑を知らない新子さんが声を掛けてきた。 「どうする」なんて、そんなの決まってるのに。 京太郎「逃げる」 端的に答えた。 憧「………………は?」 京太郎「俺達も逃げる。合図したら走るぞ」 憧「ちょ、なにそれ、そんなのアリ!?」 京太郎「アリも何も、あの子達を助けたらもうここにいる理由もないだろ」 憧「それはそうだけど……!」 271 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 06:25:00.09 ID:NXc2CIjco 小声での口論。 それが男の怒りを誘ってくれた。 「おぉい、人の話を聞いて――」 京太郎「――いいから走れ!!」グイッ 憧「きゃ、ちょっと!?」 「っこら待て!!」 誰の制止にも耳を貸さず、新子さんの手を取って駆け出した。 憧「す、須賀くん! 手っ、手!」 京太郎「少し静かにしてろ!!」 この期に及んで言わせはしない。そんな気持ちで手に力を込めた。 ちらりと窺った表情が痛みに歪んだが、敢えて無視した。 無視して、強く握り続けた。 強く握って、ただただ走り続けた。 274 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 09:49:44.89 ID:NXc2CIjco ~アパート~ 京太郎「ここまで来れば大丈夫か……」 走り続けた末に転がり込んだのは俺の部屋だった。 もし男が追ってきていても、流石に屋内までは探せないだろう。 バタン 京太郎「……はあぁ……」 閉じたドアに背中を預けてへたり込む。 疲れた。 怖かった。 心臓が痛いくらいにバクバク鳴っている。 でも、 憧「はあ……はあ……」 これから、もっと痛くなる。 275 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 09:50:44.77 ID:NXc2CIjco 憧「はあ……もぉ、きっつ……」 京太郎「新子さん」 同じように玄関に座り込む新子さんに声を掛ける。 憧「なに……?」 息を整えながら応える彼女を、俺はじっと見ていた。 ともすれば、睨むように。 憧「……な、なに?」 視線に気付いたらしい。声に警戒の色が濃くなる。 俺は―― 京太郎「なんであんなことしたんだ?」 問い掛けた。 憧「あんなこと……?」 京太郎「さっきのことだよ。なんであの酔っ払いの前に飛び出したりしたんだ」 憧「あ……」 276 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 09:51:58.96 ID:NXc2CIjco 京太郎「聞かせてくれ。なんでだ?」 憧「なんで、って……そんなの、あの子達を助ける為に決まってるでしょ」 京太郎「知り合いなのか?」 憧「小学校が一緒だったの。しずも玄も、よく一緒に遊んでた」 京太郎「その子達を助ける為に飛び出したんだな」 憧「そうよ」 京太郎「男が苦手なのに、知らない大人の前に」 憧「っ……そ、そうよ」 やっぱり。 気丈に振る舞う新子さんは――何も分かっていない。 何も、何も。 だから、 京太郎「……この馬鹿野郎が」 気が付くと、吐き捨てるようにそう言っていた。 278 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 10:18:24.05 ID:NXc2CIjco 憧「ぇ……今、なんて、」 京太郎「馬鹿野郎って言ったんだ」 今度はよりハッキリと。新子さんの目を見据えて。 その目が大きく見開かれる。 動揺、していた。 京太郎「新子さん」 そんな彼女を、俺はもう一度呼んだ。 京太郎「男が嫌いなら嫌いでいい。治す気が無いなら無いでも、この際いい」 けどな、と繋ぐ。 京太郎「だったらそれ相応の行動をしろよ。男が嫌いで、力も弱い女の子に出来ることの限界を考えろよ」 新子さんにはそれが欠けていた。 正義感ばかりが先に立って、肝心な場面で自分を顧みることが出来ていない。 279 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 10:19:30.34 ID:NXc2CIjco 京太郎「無茶するなよ。相手は男で大人で、しかも酒まで飲んでたんだぞ? 常識なんて通じないんだ」 憧「でも、」 京太郎「でもじゃねえ。一歩間違えたら怪我しててもおかしくなかったんだぞ馬鹿」 憧「ッ……さっきから馬鹿馬鹿って……!」 キッと睨み返される。 けれど俺は退かない。 決して、一歩たりとも。 憧「だったらどうすれば良かったのよ!? 目の前で知り合いが困ってて、なのに知らんぷりしろっていうの!? そんなの――」 京太郎「――俺がいるだろうが!!」 叫ぶ。 ずっと感じていた、心の底にあった淀みの正体を。 284 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 10:40:36.31 ID:NXc2CIjco 憧「、え……?」 京太郎「……ッ」 ぽかんとする新子さんから顔を背けたくなって、それでも踏み止まる。 そして深呼吸をするように、ゆっくりと感情を言葉に置き換える。 京太郎「……あの時、言ってくれれば俺は先に走ったよ。言ってくれれば、もっと早く動けた」 京太郎「そりゃあ今まで散々バカなとこばっか見せてきたし、新子さんが嫌がることもしちまったけど……」 京太郎「……けど、こんな時に選択肢にすら挙がらないなんて、いくらなんでも情けねえよ」 分かってる。 これは八つ当たりだ。 新子さんと出会って一ヶ月が経とうとしていて。 なのに未だに信用を得られない自分が不甲斐なくて。 それが嫌なんだって腐る自分がいた。 京太郎「だから」 ずっと言いたかった。 ずっと言いたくなかった。 京太郎「だから……もう少しだけでいいから、俺を頼ってくれよ……」 ずっと抱えたままでは、いられなかった。 286 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 11:06:21.68 ID:NXc2CIjco 憧「あ、の……えっと……」 新子さんは明らかに困惑していた。 無理もないな。 俺は新子さんにとって取るに足らない、ただのクラスメイト。ただの部活仲間。 そんな俺が長々と喚き散らしたところで、何がどれだけ伝わるだろう。 憧「………………その、ごめんなさい……」 京太郎「いや……俺こそ悪い。急に大声出して」 だから、曖昧な謝罪の応酬。 だから、今までに体験した中で一番息苦しい沈黙。 そして、 ぽつ、という水音。 憧「あ……」 京太郎「雨か?」 287 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 11:23:46.50 ID:NXc2CIjco ぽつ、ぽつ、屋根に雨が当たる音が立て続けに聞こえる。 とうとう降り始めたようだ。 その時、新子さんがすっと立ち上がった。 憧「あ、あたし帰る」 京太郎「え?」 憧「帰る」 京太郎「でも雨……」 憧「今ならそんなに濡れないと思うし」 京太郎「じゃあ傘貸そうか」 憧「いい。いらない。それじゃ、お邪魔しました」 取り付く島もなくドアが開かれ、すり抜けるように新子さんは外へ出てしまった。 追いかける気力もなくて、俺はそれを見ているだけしか出来なかった。 ばたんと閉まるドアの内側で、激しい後悔の念に苛まれるだけしか出来なかった。 288 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/28(日) 11:28:04.62 ID:NXc2CIjco その直後。 どかーーーん!!! 雷の落ちた音。 どざーーーーー!!! バケツをひっくり返したような雨音。 憧「み゛ゃーーーーーーーーーーっ!!?」 新子さんの悲鳴。 ドダダダダダダダダッッッ!!! 階段を駆け上がる足音。 バタンッ!!! 俺の部屋のドアが開け放たれる音。 憧「」 濡れ鼠の新子さん。 憧「………………ゴメン、やっぱ雨宿りさせて」 京太郎「………………おう、入って、どうぞ」 366 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 00:24:07.10 ID:M3ziMJFKo #size(13){#aa{{{ _人人 人人人人人人_ > これまでのあらすじ <  ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄ }}}} 部室で新子さんに麻雀を教わっていた俺 ↓ そこにレジェンドから部活中止の報せが舞い込む ↓ 帰宅中、酔っ払いに絡まれている新子さんの知り合いを発見! ↓ ハンサムの京太郎は颯爽とトラブルを解決する ↓ 我が家へランナウェイ。そこで突如キレる俺。気まずいこと山の如し ↓ 雨が降り出したので帰る新子さん ↓ 雨が降り過ぎなので戻る新子さん ↓ 濡れたブレザーを乾かそうと脱いだらシャツまで透けていたことに気付く新子さん ←NEW!! ↓ それを目撃した俺 ←NEW!! ↓ ビンタ ←NEW!! ↓ 痛い ←今ここ 372 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 00:48:30.04 ID:M3ziMJFKo そして現在―― 憧「見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた」ブツブツブツブツ 京太郎「……」カチャカチャ 新子さんは部屋の隅で膝を抱えてうずくまり、俺は粛々と飲み物の用意をしている。 ちなみに俺は頬に時期外れのもみじを貼り付けていて、 新子さんは非常手段として俺のTシャツを着ていてた。 (最初はYシャツを渡したけど、「は? Tシャツでいいでしょ(真顔)」って言われた。俺は泣いた) 傍らには濡れたブレザーとシャツが無造作に放られている。 ………………いかがわしい。 京太郎「」ハッ イカン。イカンですよ。 無心になるんだ須賀京太郎。 たとえ今この状況がどれほど魅力的なシチュエーションであろうと、変な気を起こしてはいけない。 同級生の女子が俺の部屋でびしょ濡れの制服を脱いで男物のTシャツを着ているからって、決して変な気を起こしてはいけないんだ! ………………出来るか? 374 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 01:13:00.33 ID:M3ziMJFKo 京太郎「っと」 そうこうしている内にコーヒーの用意が出来た。 先日お袋から届いた補給物資の中に入っていた、ぶっちゃけお歳暮の余りである。 とは言え結構お高い代物らしく、インスタントだてらに良い香りがしてくる。 京太郎「おーい新子さーん。コーヒー入ったぞー」 憧「見られた見られたなんでなんでなんでこんな日に限って無地の可愛くないやつなんてイヤ可愛かったら見せてもいいってわけじゃないけどああもう最悪最悪最悪最悪……え、なに?」 京太郎「……いや……だから、コーヒー」 憧「あ、う、うん。ありがと」 コト、とテーブルにカップを置く。 のそのそと近寄ってそれを手に取る新子さん。 ……いけませんよ新子さん。そのTシャツで四つん這いはいけませんよ。 件の「無地の可愛くないやつ」がちらりと……ゲフンゲフン。 378 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 01:32:36.24 ID:M3ziMJFKo 京太郎「ていうか、コーヒー大丈夫だったか?」 憧「あ、それは平気。……けど」 京太郎「?」 憧「あの、砂糖とミルク……」 あ、そうか。 テーブルの上にはカップが二つ。それだけしかなかった。 京太郎「悪い悪い。俺が使わないから持ってくんの忘れてたわ」 憧「!?」 京太郎「新子さんはいるよな。取ってくるからちょっと待っ」 がしっ。 京太郎「え?」 なんか腕を掴まれた。 掴んだ新子さんは、何やら悔しげというか、強張った表情をしていた。 382 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 01:56:58.32 ID:M3ziMJFKo 憧「い、いらない」 京太郎「へ?」 憧「あたしもいらない。須賀くんが使うんじゃないかと思って訊いただけだから」 京太郎「そ、そうか? それならいいけど……本当にいらない?」 憧「いらない(震え声)」 うーん。 まあ、無理強いするものでもないけどさぁ。 とりあえず座り直してコーヒーを一口。 京太郎「む」 美味い。 ていうか旨い。 普段コーヒーを飲みつけているわけではないけど、それでも味の違いが分かった。 気の利いたコメントこそ出来ないが、これはハッキリ良い品だと分かる。 サンキューお袋、これなら新子さんも、 憧「>Д<」 ダメっぽかった。 391 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 02:37:46.17 ID:M3ziMJFKo 憧「うぅ……」ソローッ 取り繕う余裕もなく顔をしかめたまま、もう一度カップに口をつける。 憧「>Д<」 ダメっぽかった。 京太郎「……」ズズッ 俺ももう一口。 京太郎「……うわー。なんだこれはー」 憧「えっ」 反射的にこちらを見た新子さんと目が合う。 敢えて気にする素振りは見せずに続ける。 京太郎「初めて飲んだけどこれはハズレだなー。とてもじゃないけど飲めないなー」 憧「す、須賀くん?」 京太郎「ごめんな新子さん、お客さんに出せるもんじゃなかったわー。無理して飲まなくてもいいぞー」 この喋り方、なんかワハハとか言いたくなってくるぞー。 394 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 02:59:29.36 ID:M3ziMJFKo 京太郎「とは言え体が冷えたままなのは良くないよなー。代わりを用意するからちょっと待っててくれー」 憧「ちょ、待っ!」 なにか言いたげな新子さんを華麗にスルー。台所へ。 そこで新しいカップに牛乳を注ぎ、そのままレンジで温める。 適当な時間が経ったら取り出して、仕上げにはちみつを少々。 ちなみにこのはちみつもお袋からの贈り物です。 家で親父と二人じゃ使う機会がないからって送りつけてきたんだろうが、俺だって同じだっつーの。 ……あったけどな使う機会。再びサンキューお袋。 戻る。 京太郎「お待たせ、ホットミルクしかなかったけどいいかな?」 憧「あ……」 京太郎「熱いから気をつけろよ」コトッ そう言って、ほとんど量の減ってないコーヒーの隣にホットミルクを置く。 新子さんは、それをじっと見つめていた。 401 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 03:24:51.25 ID:M3ziMJFKo 憧「……ねぇ、ホットミルクしかないの?」 京太郎「ないな」 憧「本当に?」 京太郎「本当に」 憧「他に何も?」 京太郎「なーんにも」 憧「水でもいいけど」 京太郎「水もねえ」 憧「水も!? それはそれでどうなの!?」 京太郎「あーもー食い下がるんじゃねえよ! 大人しく飲めばいいんだよ飲めば!!」 くそぅ、どうにも締まらない。 それでも一歩も退かない覚悟でプレッシャーを与え続ける。 すると、 憧「……」ズズ やがて観念したように、ゆっくりとホットミルクを啜った。 そして、 憧「………………おいし……」ホゥ ようやく表情を綻ばせた新子さんを見ながら、俺もすっかりぬるくなったコーヒーを口に運んだ。 403 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 03:45:42.61 ID:M3ziMJFKo 憧「……さっきは」 京太郎「んぉ?」 湯気を立てるマグカップを両手で包んで弄びながら、新子さんがぽつりと漏らした。 視線はホットミルクに落とされている。 憧「さっきはびっくりした」 京太郎「あ……」 さっき。 つまり、雨が降り出す直前の出来事。 憧「元々うるさい人だとは思ってたけど、あんな風に怒鳴られるなんて思ってなかった」 京太郎「う」 憧「……お父さん以外の男の人に叱られたのなんて、はじめてだった」 京太郎「うぅう……」 胸が痛い。 罪悪感と気恥ずかしさ、二つの「やっちまった」が俺を責める。 穴があったら入りたい…… 405 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 03:57:04.40 ID:M3ziMJFKo 憧「須賀くん」 京太郎「は、はい」 名前を呼ばれ、どんな恨み事を吐きかけられるのかと背筋が伸びる。 しかし、 憧「ごめんね」 俺の耳に届けられたのは、至極シンプルな謝罪の言葉だった。 京太郎「……はい?」 憧「今まで考えてたけど、やっぱり須賀くんが正しかったと思う」 そう言って新子さんはホットミルクを一口飲む。 またほぅと息を吐いて、 憧「本当にあの子達を助けたいなら、まずあたしだけじゃどうにも出来ないってことを認めるべきだったんだよね」 憧「あの時のあたしには……須賀くんには頼りたくない、って気持ちがあった……んだと、思う」 406 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 04:26:19.20 ID:M3ziMJFKo 憧「バカだよね、ほんと。敵と味方の区別がついてなかった」 憧「それであの子達まで危険な目に遭わせてたらって思うと、すごく怖いから」 新子さんの目が俺を見る。 そこに今までの遠慮や抵抗はない。 ただただ、素直な気持ちだけがあった。 憧「だから、ごめんね。心配かけちゃって」 そんな心からの言葉。 それに対して、俺はあくまで冷静に返す。 京太郎「……ふたつ、訂正させてくれ」 憧「訂正?」 京太郎「ああ。ひとつ、危険な目に遭って欲しくなかったのは新子さんも含めた全員だ。自分だけなら良いみたいに言うな」 憧「あ……うん、ごめん」 京太郎「そしてもうひとつ」 さっきから何度も頭を下げる新子さんに向かって、もうひとつ。 京太郎「こういう時は、ごめんじゃなくてありがとうって言うもんだぜ?」ニッ 憧「………………ふふ。じゃあ、ありがとっ」ニコ ――外から聞こえる雨の音が、まるでコンサート会場に響く拍手のように感じられた。 452 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 00:34:12.30 ID:1NtyRWbOo …… ………… ……………… それから、30分ばかりが経っただろうか。 依然雨は降り続け、止む気配を見せない。 俺達はただなんとなく窓の外を眺めていた。 会話こそなかったが、その沈黙は不思議と心地良いものだった。 京太郎「なんか、変な感じだな」 憧「なにが?」 京太郎「こんな風に落ち着いてるのが。初めてだよな、こういうの」 憧「あー……そうね、そうかもね」 色々と騒がしい一日だったが、こんな結末なら大いに意義もあったというものだろう。 憧「あたしも、どうして今まで須賀くんをあんなに目の敵にしてたのか分かんなくなっちゃった」 京太郎「………………」 それは俺がパンツを見たり追い掛け回したり追い掛け回したりパンツを見たり学校中を連れ回したり握手したり抱き留めたり匂いを嗅がせたりしたからだろう。 とは口が裂けても言わないでおこう。 ホットミルクの魔法は偉大だ。 453 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 00:49:37.06 ID:1NtyRWbOo 偉大ついでに、訊きたいことを訊いてしまおうと思った。 折角の、絶好のチャンスだと思った。 ので、 京太郎「新子さん」 憧「なに?」 京太郎「新子さん達は、どうして全国を目指してるんだ?」 訊いた。 ずっと訊きたかったこと。 あの日。みんなで学食に集まった日。 穏乃の口から聞いた麻雀部の目標――『全国優勝』。 じゃあ、そんな大きな目標を立てた動機は? それが知りたかった。 458 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 02:51:24.72 ID:1NtyRWbOo 新子さんは目をぱちくりとさせ、 憧「………………言ってなかったっけ?」 と尋ね返してきた。 京太郎「ああ」 何かにつけ訊こう訊こうと思っていたが、今に至るまでタイミングを逃し続けている。 憧「あちゃー……そっか、ごめんね、別に隠してるわけじゃなかったんだけど」 京太郎「俺も怒ってるわけじゃないけどな」 憧「うん。じゃあ須賀くんには一から話すわね」 居住まいを正す新子さん。 俺も釣られて身構える。 憧「って……そんな改まって聞く話じゃないわよ?」 京太郎「あ、そうなん?」 憧「そうよ」 でも、と続いた。 憧「もしかしたら、ちょっと長くなる……かも」 500 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 00:52:46.19 ID:fEvYA2Hlo 降りしきる雨。 その音を聞きながら、新子さんは静かに語り始める。 憧「――友達がいたんだ」 憧「名前は和。原村和」 憧「うちらと同い年で、小六の時に転校してきたの」 憧「その和を、あたしとしずが麻雀教室に誘った」 京太郎「麻雀教室?」 憧「あ、そっか。それも知らないのか」 憧「えーっと……ハルエが昔インターハイに出場したってことは知ってるっけ?」 京太郎「ああ、鷺森部長と喋ってた時に」 憧「そうだったわね。で、その話には続きがあってね」 憧「初出場の阿知賀は一回戦、二回戦を順調に勝ち上がった」 憧「怒涛の快進撃だって、ニュースでも話題になってたくらい」 501 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 01:04:19.62 ID:fEvYA2Hlo 京太郎「へえ、凄かったんだな」 憧「うん。あたしも、しずと一緒にテレビの前で大はしゃぎだった」クスッ 憧「けど」 憧「次の準決勝で、エースのハルエが大量失点して負けちゃったの」 京太郎「え……」 憧「……あれは子供心に悲しかったなぁ。地元一丸で応援してたからね」 憧「でもやっぱり一番辛かったのはハルエで、それからしばらくは牌に触れることも出来なかったみたい」 京太郎「監督が……」 憧「その後ハルエは部を辞めて、レギュラーもほとんどが卒業。そして翌年は初戦敗退」 憧「結局、女子校時代の麻雀部は自然消滅的に廃部になっちゃったってわけ」 そんなことがあったのか。 本当に、何も知らなかったんだと実感する。 黙り込む俺を見て、新子さんは困ったように小さく笑った――ような、気がした。 502 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 01:27:03.97 ID:fEvYA2Hlo 憧「話を戻すわね」 京太郎「あ、おう」 憧「そんなハルエに勧められたのが、麻雀教室の先生だった」 憧「近所の子供相手に麻雀を教えるっていう……言わばリハビリみたいなものね」 憧「勧めたのはうちのお姉ちゃん。ハルエのチームメイトだったんだ」 京太郎「へえ」 監督のチームメイトって、つまりインターハイに出場した選手だよな。 そんな凄い人が身内にいたのか。 憧「あたしとしずと玄、それからさっき助けた子達も、その阿知賀こども麻雀クラブの仲間だったの」 京太郎「なるほど、そういう仲だったんだな」 憧「うん。いつも一緒だった」 憧「いつも一緒に遊んで、いつも一緒に麻雀を打ってた」 503 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 02:05:31.19 ID:fEvYA2Hlo 憧「で、そこに和が加わったの」 憧「それからはもっと楽しかったなぁ」 憧「和が前に住んでたのって東京でさ。物知りだし麻雀も強いし、あたし達の持ってないものをいっぱい持ってた」 昔を懐かしむ新子さんの表情は、とても優しかった。 友達との綺麗な思い出。 新子さんの心にはそれが詰まっているのだろう。 憧「でも」 でも、 憧「それも長くは続かなかったんだけどね」 その表情に、陰が生まれる。 504 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 02:50:59.14 ID:fEvYA2Hlo 京太郎「え、なんでだ? 何かあったのか?」 憧「秋口だったかな。ハルエに実業団からスカウトが来たの」 京太郎「スカウト……」 憧「そう。それ自体は喜ばしいことだから、みんなで背中を押してあげたんだ」 憧「お別れ会では玄もしずも涙目で、和なんてボロボロ泣いてたっけ。……あたしは泣いてないからね?」 京太郎「別に疑ってねーよ。ていうか、泣いてもいいだろそこは」 まあね、と返す新子さんは、笑っていたが、笑っていなかった。 すぐに下を向いてしまう。 憧「……まあ、時間の問題ではあったんだけどね」 憧「その頃にはあたしも別の中学に進学することを決めてたし、和だって中二になると同時にまた転校しちゃったし」 憧「残ったしずと玄は学年が違うし……誰も一緒にはいられなくなった」 憧「あたし達はバラバラになった」 506 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 03:21:01.57 ID:fEvYA2Hlo 憧「でも、仕方ないって思った」 憧「これから先、こういうことは何度もあるんだって」 憧「だから前を向こうって」 憧「そうするしかないって」 憧「思ってた」 憧「のに」 憧「あのバカは、そうじゃなかったみたい」 京太郎「あのバカ……って、」 憧「お察しの通り、高鴨穏乃よ」クス 憧「あいつがやらかしてくれたから、あたし達はまた集まることが出来た」 507 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 03:55:33.47 ID:fEvYA2Hlo 憧「キッカケは中三の夏休み」 憧「テレビを見てたらね、和がインターミドルの個人戦で優勝したってニュースが流れたの」 京太郎「え、優勝って……凄いことだよな?」 憧「うん。和はほんとに凄いよ」 憧「しずもそれを見てたらしくって、あたしに電話してきたんだ」 憧「なんて言ったんだっけなぁ……確か、「私もあの大会に出たい!」だったかな」 京太郎「うわぁ」 憧「まさにしず! って感じだよね。もう中三だっての」クスクス 憧「でも、言いたいことは分かっちゃったんだよね」 憧「友達が頑張ってる。頑張って、凄い結果を出した」 憧「じっとしてなんかいられない。それはあたしだって同じ気持ち」 憧「しずは、インターミドルが無理ならインターハイに出るって言った」 憧「それも阿知賀で、麻雀部のない阿知賀で全国に行くって」 京太郎「そりゃあ……凄いな。ある意味」 憧「凄いでしょ。ある意味」クスッ 508 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 04:28:40.03 ID:fEvYA2Hlo 憧「……本当はね、あたしは高校も阿知賀じゃなくって、違う高校に進学するつもりだったの」 憧「でも……、なんて言ったらいいかな……。……アテられちゃったのよね、しずに」 憧「しずと一緒なら、って思った」 憧「しずが一緒なら、って」 憧「だからあたしはしずの無茶に乗っかった」 憧「玄も同じで、それから宥姉と灼さんも加わって」 憧「そこにハルエも戻ってきて」 憧「またみんなが揃った。前よりも賑やかになった」 憧「後は和だけ」 憧「全国の舞台で、和の前に立つ」 憧「それがあたし達の本当の目標」 憧「またみんなではしゃいで、」 憧「そして――」 509 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 04:29:29.07 ID:fEvYA2Hlo #aa{{{               -r‐:/..:../..:..:..:..:..:./.:..:..:..:.{..:..:..:..:、..:ヽ..:..:..:∀ニ=- 、               /...:'⌒7..:../..:..:..:..:..:./..:..:..:..:..:|..:..:..:、:゚。..:..゚,:..:..}:゚, \:..:ヽ              /..:..:/  /..:..:.′..:..:.:/./′..:..:..:..:|..:..:..:.i..:..゚。..:.゚:..イ:..:。   丶:.:.、          /..:..:/  /   ! l..:..:..:'./ ! l..:..:..:..|..|v :..:..|..:..:.}..:..i/:}:..:.    ゚。:..:。            /..:..:/   ′:..:..:|..ト-.:.、l |..l,:..:..:..:|..| ゚。,.斗-‐.|..:..|/j..:..:|     :。.:.:。          :..:..:..′  !..:..:..:..|..|リ、.:{リ\:{ ゚。..:..:{..{/\{ }ノ|..:..|:.:..:..:.|     ∨ハ         i..:..:.    |..!:..:..:.|..|,.イ芹℡x{ \..{リxrf芹ミト│..:|:.′ :|     |:..         |..:..:|    リ!..:..:.l..代{:.トil刈    `  {:.トil刈 〉..:.j}:゚. ..,'.|     |:..  「――遊ぶんだ、和と」         |..:..:|     |i.:..:.|.. 弋こ,ノ       弋こ,ノ |..:..′:.゚:.|     |:..         |..:..:|     |i.:..:.|..|:.  :.:.:.   ,      :.:.:.   |..:。..:.。:.:l      |:..         |..:..:|     |i.:..:.|..「}              /|..:′.:゚:.:.:l       |:.:.         |..:..:|     |i.:..:.|..|人     ー‐'     イ:.゚./..:..:。.:.:.!     |.:..         |..:..:|     |i.:..:ハ..゚。:.i.≧o。..    .。o≦:|:.://..:..:.:゚:.:.:.:.l      |:..         |..:..:|     小..:.:.:.ハ.゚。!:.:.:.-r| ` ´  |=ミ:.:|://..:..:./:.:.:.:.:.l      |:..        .:..:..:.|   / :|..:..:.:.:.∧{<=「ノ     }`iニ/イ..:..:..:___:.:.:.:.l    |:..        .:..:..:..:|   f¨¨~}..:..:.:./ 乂二|___     ____|=/=′ :.{ニニニ>ュ.   |:..         / :..:..:..|  ∧ .′.:.:.′ニニ=|_, -―‐- ,_|ニニj:..:..:..|/ニニニ/、  ::..      / :..:....:..:| / ∨..:..:./二ニニニl          lニニ{..:..:..:|ニニニ// }  }:.. }}} 557 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 00:44:29.56 ID:X0v+YFCho 語り終えて―― 新子さんは長く深く息を吐いた。 憧「はぁぁ……あー、疲れた」 どこかおどけたように言って、僅かに残っていたホットミルクを飲み干す。 憧「ぷはっ」 そして俺を見る。 清々しいような、気恥ずかしいような表情で。 憧「本当に長くなっちゃってごめんね」 新子さんはそう言った。 それに対して俺が何かを言い返すより早く、 言い返す隙を与えないように早く、 憧「軽蔑した?」 と言った。 559 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 00:52:40.69 ID:X0v+YFCho 俺は―― #size(20){#aa{{{           /   /     |   | |   | |  :       l :l   |  |   :|   | |        / /    |    |__ | |   | |  |  :   l :l:  /|  |   :|   | | .      ///     |    |\ |‐\八 |  |  |    |__,l /-|‐ :リ   リ  | |      /  /   - 、     :|   x===ミx|‐-|  |:`ー /x===ミノ//  /  :∧{        /   |  :.八   _/ {::{:::刈`|  |  l:  /´{::{:::刈\,_|  イ  /ー―‐ ..__ .      / / :|  ::|/ \{^ヽ 乂辷ツ八 |\| /' 乂辷ソ ノ^l/ } :/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: `「⌒:. .       //  /|  ::l、   :    ー‐   \{  | /  ー‐    j/ /}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.        / _,/:.:..|  ::| \ !           j/        ′/:.:|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.         / :.:.:.:.:{  ::|\ハ_,          ノ            ,___/{:.:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.∧      「――感動した!!!!!!!!!!」 .    /:.:.:.:.:.:.:.::′ ::|:.:.|\圦                       / j/l/.:.:′:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:.:.∧ .   /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:′_,ノ⌒ヽ::|  、    、      _  -‐'     /:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:/:.:.::/:.:  /\:.:.:.:.:.:.:r‐ ' ´     ∨\/ ̄ )  ̄ ̄        /   /.:./:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:.:./:.:.: /:.:.:.:.:.:.\:.:.ノ  ----- 、  ∨/   / 、          /   ,/:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:/:.:.:.:.: :.:.:.:.:.:.:.:.:.: /        ‘,  ‘, ./、 \       /   /.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.://:.:.:.:.:.:.:.: :.:.:.:/:.:.:.:.:.{   ---- 、   ‘,  } /:.:.:} ̄ \ ̄ ̄ ̄/ ̄ /:.{/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:-<⌒:.:.:.:.: :.:./:.:.:.:.:./       ‘,  ‘,「l /⌒^\________/}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/´    \:.:.:.:.: :/:.:.:.:.:.:.{: .    . :    ‘, 人U{:.:.:.:.:.:.:.|:\        /:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.―‐┐:/        \:.: :.:.:.:.:.:.:.: }: : : :--:/\: . ノ:r/   / .: .:.:.:.:.|:.:.:.:\    ,/:.:.:. |:.:.:.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./ }}}} と叫んだ。 563 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 01:08:57.88 ID:X0v+YFCho 憧「、は……!?」 絶句。 絶句する新子さん。 俺に馬鹿呼ばわりされた時の比ではないくらいに目を見開いている。 京太郎「新子さん!!」ガシッ 憧「ひっ!?」ビクッ そんな新子さんの手を、握り締めた。 力強く、力強く。 憧「ちょ、手、手っ///」 京太郎「俺は感動した! 猛烈に感動したぞ!」 憧「か、感動って……、軽蔑じゃなくて?」 京太郎「軽蔑? さっきも言ってたけど、なんで軽蔑なんかするんだよ?」 憧「だって、友達と遊びたいなんて理由で全国を目指すなんて……」 京太郎「そこがいいんじゃねえか!!!」グワッ 憧「ひぃぃ……」ビクビク 566 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 01:41:44.57 ID:X0v+YFCho 京太郎「たったそれだけの為に毎日あんなに練習してるんだろ!?」 憧「そ、そうだけど」 京太郎「やっぱすげえ! 俺だったら絶対に途中で投げ出しちまうよ、断言する!!」 情けないが事実だ。 京太郎「全国に行けるかどうかも分からない。行ったって友達に会える保証なんてない」 京太郎「それでも行ける、会えるって信じて努力してる奴を、どうやって軽蔑しろって言うんだよ!!」 憧「ぅ……ぁぅ……」タジタジ 燃えていた。 滾っていた。 迸っていた。 目の前の美少女が、もはや女神のように見えていた。 彼女の為に。 みんなの為に。 何かしてあげたい、力になりたい。 無性にそう感じた。 570 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 02:11:43.22 ID:X0v+YFCho 京太郎「なあ、俺に出来ることってないか!?」 憧「は、はぁ?」 京太郎「なんでもいいから! ほら、言ってみ?」 憧「………………じゃ、手、離して」 京太郎「やだよ」 憧「なんでよぅ!?」グスッ なんか半泣きだ。 まったく男嫌いもほどほどに―― 京太郎「――そうだ!!!」クワァッ 憧「」ビクーンッ 京太郎「男嫌いを治そう! 本気で!!」 憧「ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛」 新子さんは今日一番の嫌な顔をした。 573 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 02:44:24.55 ID:X0v+YFCho 憧「い、今だってやってるじゃない」 京太郎「俺が本気じゃなかったんだよ! ぶっちゃけ監督に言われるがまま、なあなあでやってた!」 京太郎「でも、もう受け身は卒業だ。これからはガンガン! 積極的に! 全力で協力させてもらう!!」 京太郎「そう! 何を隠そう――俺は特訓(をする方)の達人だぁああああああああああ!!!」ゴッッッ 憧「ッ~~~……あーもーうるさい! それと近い! さっきからなんなのよそのハイテンションは!?」 京太郎「なんなのって言われてもなぁ。俺もアテられちまったんだよ、お前らの夢に」 憧「ちょ、お前呼ばわりって……」カチン 京太郎「あ、悪い」 勢い余って失礼をば。 ちゃんと呼ばないとな――ちゃんと? 京太郎「……新子さん」 憧「な、なによ」 呼ぶ――違う。 京太郎「新子」 憧「!?」 呼ぶ――違う! ちゃんと呼ぶなら――こうだ!! #size(15){#aa{{{           /   /     |   | |   | |  :       l :l   |  |   :|   | |        / /    |    |__ | |   | |  |  :   l :l:  /|  |   :|   | | .      ///     |    |\ |‐\八 |  |  |    |__,l /-|‐ :リ   リ  | |      /  /   - 、     :|   x===ミx|‐-|  |:`ー /x===ミノ//  /  :∧{        /   |  :.八   _/ {::{:::刈`|  |  l:  /´{::{:::刈\,_|  イ  /ー―‐ ..__ .      / / :|  ::|/ \{^ヽ 乂辷ツ八 |\| /' 乂辷ソ ノ^l/ } :/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: `「⌒:. .       //  /|  ::l、   :    ー‐   \{  | /  ー‐    j/ /}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.      / _,/:.:..|  ::| \ !           j/        ′/:.:|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.         / :.:.:.:.:{  ::|\ハ_,          ノ            ,___/{:.:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.∧      「憧!」 .    /:.:.:.:.:.:.:.::′ ::|:.:.|\圦                       / j/l/.:.:′:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:.:.∧ .   /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:′_,ノ⌒ヽ::|  、    、      _  -‐'     /:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:/:.:.::/:.:  /\:.:.:.:.:.:.:r‐ ' ´     ∨\/ ̄ )  ̄ ̄        /   /.:./:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:.:./:.:.: /:.:.:.:.:.:.\:.:.ノ  ----- 、  ∨/   / 、          /   ,/:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:/:.:.:.:.: :.:.:.:.:.:.:.:.:.: /        ‘,  ‘, ./、 \       /   /.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.://:.:.:.:.:.:.:.: :.:.:.:/:.:.:.:.:.{   ---- 、   ‘,  } /:.:.:} ̄ \ ̄ ̄ ̄/ ̄ /:.{/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:-<⌒:.:.:.:.: :.:./:.:.:.:.:./       ‘,  ‘,「l /⌒^\________/}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/´    \:.:.:.:.: :/:.:.:.:.:.:.{: .    . :    ‘, 人U{:.:.:.:.:.:.:.|:\        /:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.―‐┐:/        \:.: :.:.:.:.:.:.:.: }: : : :--:/\: . ノ:r/   / .: .:.:.:.:.|:.:.:.:\    ,/:.:.:. |:.:.:.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./ }}}} 憧「ふきゅっ!!?」 581 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 03:22:21.43 ID:X0v+YFCho うむ。これだ。 しっくり来た。 だが新子さん――もとい憧はそうでもないらしく、 憧「な、ななな、なん、名前、なんで、なんで……?」パクパク 京太郎「いやぁ、やっぱり呼ぶなら名前だよなと思って」 咲。穏乃。そして憧。 仲良くなった同学年の女子を苗字でさん付けとか、俺のキャラじゃなかったんだよ。 やっと喉に引っかかっていた小骨が取れた。そんな気分だ。 あるいは新しいパンツをは履いたばかりの正月元旦の朝のような。 京太郎「というわけで、改めてよろしくな、憧!」ニッ 憧「~~~~~っ!?」 声にならない悲鳴が上がった。 目をグルグルと回した憧が思い切り後ずさろうとする。 しかし手は俺がしっかりと掴んでいた。 ので、 憧「あっ」ツルッ 京太郎「おっ」グラッ お 待 た せ 。 587 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 03:57:21.57 ID:X0v+YFCho 憧「きゃっ!?」ドテッ 京太郎「うおっ!?」ドサッ 滑った。 転んだ。 押し倒した。 憧「ったぁ……、」ピタッ 瞑っていた目を開き、憧が現状を認識する。 畳の上に仰向けに倒れた自分。 ばさりと広がる髪。 それぞれ俺に押さえつけられている両手。 トドメは何らかの力によってめくれあがったTシャツから覗く、小さなおへそ。 京ッピー知ってるよ。こういうの、数え役満って言うこと。 591 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 04:33:54.97 ID:X0v+YFCho しかし、 やはり今日という日は特別らしかった。 憧「あ、わ、ゎわ」 様子がおかしい。 憧「あわわあわわ、あわわあわわ」 いつもなら罵声なり鉄拳なりが飛んでくるタイミングだというのに、あわわあわわするばかりの憧。 その顔は茹で蛸のように真っ赤だ。 京太郎「――」 よくない。 これはよくない。 ここでしおらしくなられてしまっては、俺も収まりがつかない。 普段ならリセットされていたテンションが限界を突破しつつあるのを感じる。 やばい、テンパる。 憧「な、ゃ、なに、こんな、なんで、なにをっ、」アワワアワワ 京太郎「あ、あのっ、憧――」 憧「ふきゅっ!? ま、また! また憧って!」 京太郎「ちょ、落ち着け憧、頼む、マジで!」 憧「あ! あぁああ! あた、あたしっ、あたし――!」 595 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 04:46:12.95 ID:X0v+YFCho #size(17){#aa{{{ .             xァ′ /       |                ヽ {__j__            '   /   ′       / |     |      .         :, `丶 \       /  / /    i |    i  | |     |     i |  i     :,    \ \       /  /         | |  ‐-L_ | |     | j |i  | |  |         \ \    .         |    |:八  人j ト八      i |斗匕|「 | |  |   l: .,        ヽ       /     |    |  Ⅳj]xぅ妝斥 \    i/≫ぅ妝ミxV|  |   |: .′       , .      ′     八  :{  |  |坏´_)「:::ハ   \ ∨  _)「:::ハⅥ  |   |: .        ′   ;           \乂_|  |八 rヘしi::::}     \   rヘしi::::} オ |  . .|: . i           ;   「あたし処女ですからっ!!!」   |   i        l .⌒|  |   乂__/ソ          乂__/ソ |  |  . .|: . |       i   |   |   |          | . . .|  |    ,,,      ,      ,,,   |  |  . .|: . |       |   |   |   |         /:| . . .|  |\i                 |  |  . .|: . |       |   |   |   |          | . . .|  |:::八     r'ア ̄`ヽ       /::|  |  . .|: . |       |   |   |   |       i | . . :|  {::::::个:...   ∨     ノ    イ:::::}  |  . .|: . |       |   |   |   |       | | . .八  V斗ri:i:i:〕ト       ィ:〔:i:i:iTV  八   .|: . |       |   |   |   |       | | . . . :\ Vi:i:i:i:i:i:i:|. : j>--<. : .{: |:i:i:i:iV //   廴_|       |   |   |   |     r七i| . . . . : |\i:i:i:i:i:i:i:|: . : . : . : . : . : . :|:i:i:i:/i:i/    // /i:\       |   |   |   |     ∧ Ⅵ. . . . . :|:i:i:\i:i:i:i:|─-. : . : . : .-─|:/i:i:i:/    // /:i:i:i:i∧    |   |           /   /     |   | |   | |  :       l :l   |  |   :|   | |        / /    |    |__ | |   | |  |  :   l :l:  /|  |   :|   | | .      ///     |    |\ |‐\八 |  |  |    |__,l /-|‐ :リ   リ  | |      /  /   - 、     :|   x===ミx|‐-|  |:`ー /x===ミノ//  /  :∧{        /   |  :.八   _/ {::{:::刈`|  |  l:  /´{::{:::刈\,_|  イ  /ー―‐ ..__ .      / / :|  ::|/ \{^ヽ 乂辷ツ八 |\| /' 乂辷ソ ノ^l/ } :/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: `「⌒:. .       //  /|  ::l、   :    ー‐   \{  | /  ー‐    j/ /}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.        / _,/:.:..|  ::| \ !           j/        ′/:.:|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.         / :.:.:.:.:{  ::|\ハ_,          ノ            ,___/{:.:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.∧      「お、俺だって童貞だ!!!」 .    /:.:.:.:.:.:.:.::′ ::|:.:.|\圦                       / j/l/.:.:′:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:.:.∧ .   /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:′_,ノ⌒ヽ::|  、    、      _  -‐'     /:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:/:.:.::/:.:  /\:.:.:.:.:.:.:r‐ ' ´     ∨\/ ̄ )  ̄ ̄        /   /.:./:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:.:./:.:.: /:.:.:.:.:.:.\:.:.ノ  ----- 、  ∨/   / 、          /   ,/:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:/:.:.:.:.: :.:.:.:.:.:.:.:.:.: /        ‘,  ‘, ./、 \       /   /.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.://:.:.:.:.:.:.:.: :.:.:.:/:.:.:.:.:.{   ---- 、   ‘,  } /:.:.:} ̄ \ ̄ ̄ ̄/ ̄ /:.{/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:-<⌒:.:.:.:.: :.:./:.:.:.:.:./       ‘,  ‘,「l /⌒^\________/}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/´    \:.:.:.:.: :/:.:.:.:.:.:.{: .    . :    ‘, 人U{:.:.:.:.:.:.:.|:\        /:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.―‐┐:/        \:.: :.:.:.:.:.:.:.: }: : : :--:/\: . ノ:r/   / .: .:.:.:.:.|:.:.:.:\    ,/:.:.:. |:.:.:.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./ }}}} 597 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 04:47:02.76 ID:X0v+YFCho #size(17){#aa{{{ .             xァ′ /       |                ヽ {__j__            '   /   ′       / |     |      .         :, `丶 \       /  / /    i |    i  | |     |     i |  i     :,    \ \       /  /         | |  ‐-L_ | |     | j |i  | |  |         \ \    .         |    |:八  人j ト八      i |斗匕|「 | |  |   l: .,        ヽ       /     |    |  Ⅳj]xぅ妝斥 \    i/≫ぅ妝ミxV|  |   |: .′       , .      ′     八  :{  |  |坏´_)「:::ハ   \ ∨  _)「:::ハⅥ  |   |: .        ′   ;           \乂_|  |八 rヘしi::::}     \   rヘしi::::} オ |  . .|: . i           ;    |   i        l .⌒|  |   乂__/ソ          乂__/ソ |  |  . .|: . |       i   |   |   |          | . . .|  |    ,,,      ,      ,,,   |  |  . .|: . |       |   |   |   |         /:| . . .|  |\i                 |  |  . .|: . |       |   |   |   |          | . . .|  |:::八     r'ア ̄`ヽ       /::|  |  . .|: . |       |   |   |   |       i | . . :|  {::::::个:...   ∨     ノ    イ:::::}  |  . .|: . |       |   |   |   |       | | . .八  V斗ri:i:i:〕ト       ィ:〔:i:i:iTV  八   .|: . |       |   |   |   |       | | . . . :\ Vi:i:i:i:i:i:i:|. : j>--<. : .{: |:i:i:i:iV //   廴_|       |   |   |   |     r七i| . . . . : |\i:i:i:i:i:i:i:|: . : . : . : . : . : . :|:i:i:i:/i:i/    // /i:\       |   |   |   |     ∧ Ⅵ. . . . . :|:i:i:\i:i:i:i:|─-. : . : . : .-─|:/i:i:i:/    // /:i:i:i:i∧    |   | 「「…………………………………………………………………………………………あ」」           /   /     |   | |   | |  :       l :l   |  |   :|   | |        / /    |    |__ | |   | |  |  :   l :l:  /|  |   :|   | | .      ///     |    |\ |‐\八 |  |  |    |__,l /-|‐ :リ   リ  | |      /  /   - 、     :|   x===ミx|‐-|  |:`ー /x===ミノ//  /  :∧{        /   |  :.八   _/ {::{:::刈`|  |  l:  /´{::{:::刈\,_|  イ  /ー―‐ ..__ .      / / :|  ::|/ \{^ヽ 乂辷ツ八 |\| /' 乂辷ソ ノ^l/ } :/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: `「⌒:. .       //  /|  ::l、   :    ー‐   \{  | /  ー‐    j/ /}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.        / _,/:.:..|  ::| \ !           j/        ′/:.:|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.         / :.:.:.:.:{  ::|\ハ_,          ノ            ,___/{:.:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.∧  .    /:.:.:.:.:.:.:.::′ ::|:.:.|\圦                       / j/l/.:.:′:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:.:.∧ .   /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:′_,ノ⌒ヽ::|  、    、      _  -‐'     /:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:/:.:.::/:.:  /\:.:.:.:.:.:.:r‐ ' ´     ∨\/ ̄ )  ̄ ̄        /   /.:./:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:.:./:.:.: /:.:.:.:.:.:.\:.:.ノ  ----- 、  ∨/   / 、          /   ,/:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. /:.:/:.:/:.:.:.:.: :.:.:.:.:.:.:.:.:.: /        ‘,  ‘, ./、 \       /   /.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.://:.:.:.:.:.:.:.: :.:.:.:/:.:.:.:.:.{   ---- 、   ‘,  } /:.:.:} ̄ \ ̄ ̄ ̄/ ̄ /:.{/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:-<⌒:.:.:.:.: :.:./:.:.:.:.:./       ‘,  ‘,「l /⌒^\________/}/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/´    \:.:.:.:.: :/:.:.:.:.:.:.{: .    . :    ‘, 人U{:.:.:.:.:.:.:.|:\        /:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.―‐┐:/        \:.: :.:.:.:.:.:.:.: }: : : :--:/\: . ノ:r/   / .: .:.:.:.:.|:.:.:.:\    ,/:.:.:. |:.:.:.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./ }}}} 604 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 05:11:59.38 ID:X0v+YFCho …… ………… ……………… 京太郎「じゃあ、気をつけて帰るんだぞ」 憧「……ウン」 京太郎「本当に一人で平気か? 送って行こうか?」 憧「……ダイジョウブ」 京太郎「そっか。傘は学校で返してくれればいいから」 憧「……ウン。アリガトウ」 京太郎「………………本当の本当に一人で平気か?」 憧「……ロンオブモチ」 京太郎「ならいいけど……じゃ、また明日な、憧」 憧「っ!」ビクッ だだだーっ、と。 小降りになった雨の中を憧が駆け抜ける。 俺はその背中を眺めていた。 正確には、後ろからでもハッキリ見える、赤く染まった耳を。 605 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 05:13:18.26 ID:X0v+YFCho #aa{{{                     /\-――‐- 、               , --=7   丶      `ヽ          /,             ヽ  ヽ         ∠/       /      、 、  丶  i         /       i     ! l.  l i.  i |        /  ,/  ! !  l||   ! |、 ll !  |  ヽ、       /_ -7 , | l ト、| |ヽ!  N , 斗 r  ,'_  ト--`      ̄  //!  ! Nヽ!\|,//l/ l/! N ,ハ !|        ´ / ,i丶 {=== l/ == =l/ ' ノ リ   「……やらかしたなぁ、お互い」         // l i `i           _/,、/         ´   {ハ!ヽ{    ′      /!}/ ′               丶  ー ―‐ '  / |′                \    /  |                 __ i ー '     ! __           , ィ'´:.:/-‐ ´}     /  `Y´:.:.\       , -‐'' ´:.:./:.:.:./― - 、   ,/__ /:.:.:.:.:.:/`丶、       ハ:.:.:.i:.,:.:,′:.:i     `    ̄    /:.:.:.:.:../:.:.:.:.:.:.:.丶、     /:.:.:.i:.:.:|,':.:i:.:.:.:.:!   ヽ  /   /:.:.:.:.:.:/:.:.,:.:.:.:.:.:.:.:.:,.ヽ      !:.:.:.:.ヽ:.{:.:.l:.:.:.:.:l.     i     /:.:.:.:.:.:/:.:./:.:.:.:.:.:./:.:.:.i }}} 632 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/03(土) 00:43:07.58 ID:GYIdsQf8o ◇ …… ………… ……………… ~憧の部屋~ ガチャッ 憧「た、ただいまー……」フラフラ ボフン 憧「はあ……やっと帰ってこれた……」 ゴロン 憧「今日は散々だったなぁ……」 憧「須賀くんに怒られたり……」 憧「雨に降られたり……」 憧「須賀くんに、ぶ、ブラが透けてるのを見られたり……」 憧「す、須賀くんに押し倒された、り……」 憧「須賀くんに……しょ、処っ、バレ、言っ、すが、きゅっ、ふ、~~~~~っ!!」カァァァッ 憧「っあ゛ーーーーーーーーーー!/// もうマジなに言っちゃってんのよあたしはぁぁぁぁぁっ!!///」ゴロンゴロンゴロンゴロン 637 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/03(土) 01:25:51.07 ID:GYIdsQf8o 憧「だいたい須賀くんも須賀くんよ!」ピタッ 憧「あんなにグイグイ迫ってきたら動揺もするっての!」 憧「こっちの気持ちなんてお構いなしなんだから!」 憧「その上どれだけ突き放しても諦めないし」 憧「たまーーーーーにまともなことも言うし」 憧「もう、本当にお節介で……」 憧「……本当に、変なヤツ……」 憧「……」 憧「」ブルルッ 憧「そうだ、早くシャワー浴びなきゃ!」ガバッ 憧「濡れて生乾きの服なんて着てたら風邪ひいちゃうわ」モゾモゾ 憧「ブレザーもシャツも洗濯よね……しずじゃないけど、明日の部活はジャージで出なきゃかなー」プチプチ 憧「よ、っと」ヌギヌギ バサッ 憧「あ」 憧「そういえばこのTシャツ、須賀くんのだっけ……」 640 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/03(土) 02:28:56.84 ID:GYIdsQf8o 憧「……これ、どうしよ」 憧「洗濯して返したいから着たまま帰って来ちゃったけど……」 憧「冷静に考えたら洗濯物に紛れ込ませるのって無理じゃない……?」 憧「バレるよね、絶対バレるよね」カタカタ 憧「けど洗わず返すのも女子として、いや人として流石に……」 憧「やっぱり洗濯機に放り込……んでも干す時に見つかるし……」 憧「やっぱりやっぱりそのまま返……したら匂いとか気になるし……」 憧「……」 憧「……匂い……」 憧「」キョロ 憧「」キョロキョロ 憧「……」 憧「すんすん」 憧「んー……」 憧「あたしの匂いしかしない……かな?」 憧「Σ」ハッ 憧「だからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……///」ゴロンゴロンゴロンゴロンゴロンゴロンゴロンゴロン 【TO BE CONTINUED...】 ---- #bold(){ 【須賀京太郎のステータスが更新されました!】  称号:童貞(new!)  憧への印象:...→いい匂いがした   →憧ー!俺だー!特訓するぞー!(new!) 【新子憧のステータスが更新されました!】  称号:処女(new!)  京太郎への印象:...→不思議な匂い……   →見られた、知られた、叱られた(new!) }

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