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*無謀な洞窟探検者 ◆.pKwLKR4oQ 人気のない教室に佇む一つの影。 それはおもむろにデイパックの中に手を入れて因縁のブツを取り出した。 そしてそのブツを思いっきり自身の身体へとぶつけた。 元より頑丈でないブツは身体にぶつかると、無残にも周囲にその破片を飛び散らせていた。 だがそれに満足しなかったのか、影はすぐさまデイパックからもう一つブツを取り出していた。 そして今後はそれを力一杯握りしめていた。 当然柔なブツは先程と同じように周囲に飛び散る結果となった。 その一連の行動を影――スペランカーは黙って実行していた。 一連の行動が終わると、スペランカーはふと周囲を眺めてみた。 自分以外誰もいない教室に先程撒き散らしたコウモリのフンが汚らしく点在している。 それを見たスペランカーの心の内には数時間前のような高揚感は湧いてこなかった。 数時間前にF-3の橋の上で爆弾の爆発を抑え込んだスペランカーは現在G-2のギャルゲ高校にいた。 ここに来たのは単なる偶然だった。 当初橋を渡り終えて北へ向かうつもりだったが、なんと爆弾騒ぎのせいで気付かないうちに北岸ではなく南岸に来てしまっていた。 本来なら以前とは違って超能力で川など軽く越えられるのだが、本能的に不味い気がしたので止めた。 そこでE-1の橋に向かうために因縁の支給品を使用した。 赤い薬。 服用すれば歩く速度が速くなり、ジャンプ距離も伸びる魔法の薬。 それゆえに以前の貧弱な身体では使用中は僅かなブレも許されぬ「死と隣り合わせの状態」だった。 だからハエ叩きの手の支給品にこれとコウモリのフンがあると分かった時、絶対に使わないと心に決めていた。 だが今のスペランカーは比類なき力を秘めた超能力者だ。 以前なら躊躇した薬を服用するのに迷いはなかった。 その強力な力と合わさってスペランカーの脚力は脅威的なものとなった。 そこで物はついでに目に付いたギャルゲ高校に足を運んだのだった。 と、ここでスペランカーの身体に異常が現れた。 吐血だ。 ギャルゲ高校の校舎に入った辺りで突然眩暈がしたかと思えば、次の瞬間鮮やかな赤い血が口を突いて外に流れ出ていた。 それまでの高揚感をかき消すかのように血は盛大に流れ出し、一気に血の気は下がった。 そのせいでスペランカーは冷や水を浴びせられたかのように我に返って、なんとなく理解した。 もう自分の身体は長くないのだと。 そもそもおかしいと思ったのだ。 これほどの力が何の代償もなく易々と手に入るはずなかったのだ。 今まで強大な力によって好き勝手暴れてきたツケがとうとう回ってきたに違いない。 そう悟った時、急に全て馬鹿らしくなった。 確かに今のスペランカーは以前の貧弱の身体とは比べ物にならないほどの力を得た。 赤い薬を使いこなして、コウモリのフンも脅威でも何でもない。 だがそれがどうした? その力を得たために死ぬのなら、その得た力に何の意味があるのだろう。 いや、そもそもすぐに死んでしまう身なのに必死に生き延びようとするのはおかしな事ではなかろうか。 あの洞窟の底で無駄に足掻かないで無謀な洞窟探検者らしくさっさと死んでおくべきではなかったのか。 (なぜ自分はあそこで生き延びようと思ってしまったのだろう……) そんな考えても詮のないような事に頭を巡らせつつ校舎をぶらついていた。 そんな時だった。 ある教室に数枚の置き手紙が残されている事に気付いたのは。 ◆ ◆ 『リゼルグくんへ。雪広あやかと、スペードの2より。』 その書き出しで始まる手紙には、様々な想いが丁寧な字で書かれていた。 送り主は雪広あやかとスペードの2。 宛先はリゼルグ・ダイゼル。 その手紙はまさしくリゼルグへの想いで溢れていた。 一人で悲しみを背負いこんで二人の元から去っていったリゼルグの身を案じている事。 ギャルゲ高校でしばらく時間を過ごして、その間にこの「手紙」を作って置こうとスペードの2が提案してくれた事。 放送を聞いて怪しい洞窟にリゼルグが向かうと考えて、二人で追って行くつもりである事。 雪広あやかの級友である椎名桜子の死、さらにあやかはその下手人を許そうと思っている事。 憎しみは新たな憎しみを生むだけで何も解決しない事。 だからリゼルグにはその力を誰かのために使ってほしい事。 手紙はそこで終わっていた。 後書きとして、手紙をリゼルグに届けてくれる人が居たらお願いします、と書かれていた。 さらにリゼルグと面識がなくても分かるように、丁寧にリゼルグの特徴を記した絵が描かれていた。 なぜか『小さい少年』という文字が目立っていたが、その絵にもリゼルグへの想いは溢れていた。 そして手紙を読み終わったスペランカーは――。 「…………ッ!?」 ――困惑していた。 ◆ ◆ スペランカーが手紙の内容で最も不思議でならなかった点。 それはあやかが桜子の死を悼んで受け止めて、尚且つその死を与えた者を許そうと言っている点だった。 スペランカーにとって死とは些細な事で訪れるもので、命とは路傍の石ほどの存在でしかなかった。 ゲーム開始直後のゴンドラからの落下、自分の身長ほどの浅い穴に落下、コウモリのフンに接触、少々勾配のある下り坂で前方にジャンプ、爆弾の爆発、自分の出したフラッシュに接触、赤い薬を飲んで自身の速度が上がり制御しきれない等々。 そんな些細な事でスペランカーは死を迎え、そしてまた新たな命を与えられてゲームの場に戻る。 だから初対面のしんのゆうしゃを撃ち殺すのに何の躊躇いもなかったし、それなりに行動を共にしたハエ叩きの手を実験台にしても躊躇いはなかった。 だがこの雪広あやかという者は違った。 彼女は椎名桜子という級友の死を心から悼んでいる。 そしてさらに彼女はその桜子の命を奪った者を許すと言う。 それはスペランカーにとって理解しがたいものだった。 死や命の重さが毛ほどの軽い『スペランカー』というゲームの主人公にとって、一つの死や命に対してこれほど想いを傾ける者の気持ちは測りかねるものだった。 なぜそれほど他人の死を悼む事ができるのか。 なぜそれほど悼んだ死の原因を許す事ができるのか。 「最期に会って答えを聞いてみるのも一興か」 だが会って答えを聞いた後はどうするべきか。 スペードの2やリゼルグといった近しい者を殺して反応を見るか。 危機的状況にあるところで助けに入って反応を見るか。 なぜか反応を見る方法が極端なのは探検者の性か。 一度探検に赴いた身ならば何かしらの名を残す事を望むのは極自然な考えだ。 「これがおそらくスペランカー最期の冒険か」 悪行にしろ善行にしろ、まずは追い付いて会わない事には始まらない。 一本残っていた赤い薬を服用したので上手くいけば洞窟に着く前に追い付けるかもしれない。 どちらにせよ、どうするかは追い付いてから決めたらいいだろう。 【1日目 昼/G-2 ギャルゲ高校前】 【スペランカー@スペランカー】 【状態】暴走、超能力者化 、変調(なんとなく死期が近い事に気付いている) 【装備】デスクリムゾン@デスクリムゾン、懐中電灯@現実、ブライオン@LIVEALIVE 【道具】基本支給品一式、ピッケル@真女神転生if 【思考】 基本方針:超能力で好き勝手暴れまわる。 1:雪広あやかに会って答えを聞く。 2:1の後、何かしらの行動を起こして反応を見る。 【備考】 ※殺し合いの事は忘れています。 ※第1回放送を聞き逃しました。 ※あと一回超能力を使うと死にます。 【コウモリのフン@スペランカー】 スペランカーに出てくる敵キャラのコウモリが落とすウンコ。 これに触れるとスペランカー先生は死んでしまう。 【赤い薬@スペランカー】 瓶に入っている赤いものという点から梅干しとも言われる隠しアイテム。 効能は「歩く速度がやたらと速くなる」「それに伴ってジャンプ距離も伸びる」である。 ただしスペランカー先生は死にやすいので服用中は「死と隣り合わせのエンペラータイム」である。 *時系列順で読む Back:[[触れ得ざる声也]] Next:[[ふたりはウソツキ Wounded Heart]] *投下順で読む Back:[[触れ得ざる声也]] Next:[[ふたりはウソツキ Wounded Heart]] |[[Flame and bomb]]|スペランカー|[[ ]]| ----
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