エロパロ > 名無し > 山の上のホテル

「……!!」
ベッドの中で岩沢は目覚めた。
全身にびっしょりと汗をかいて、べっとりとした嫌な感触が身体じゅうを包み込んでいる。
(…ここはどこ?)
おそるおそる手足を動かし、ゆっくりと伸ばしてみる。指のひとつひとつを注意深く曲げたり伸ばしたりしてみて、
ちゃんと意のままに動くかどうか確認する。
(よかった… ちゃんと動く…)
夢の中で感じていた、かちかちにこわばった身体の感触がまだ生々しく残っている。
岩沢はひたいに手をあてて、身の回りのいろんな事柄の名前を思い浮かべてみた。
(今いるのは“女子寮”… わたしたちのグループは“死んだ世界戦線”… バンドの名は“ガールズ・デッド・モンスター”…)
するすると言葉が出てきて、彼女はほっとした。
さっきまで見ていた夢の中で、彼女は、最後の日々がそうだったように、麻痺して動かせない身体で病床に
横たわっていた。
ありありとよみがえる、思い出したくない記憶。
外の世界と切り離された孤独な日々。
奇跡をむなしく待ち続け、わずかな期待に心をすり減らす。そして果てしなく続く絶望と自己憐憫の繰り返し。
無意味だったわたしの人生。
今のSSSでのバンド活動が、寝たきりの病人の見た夢の中の出来事だったらどうしよう、目が覚めたら、あいかわらず
病室のベッドに横たわっていて、口も利けず、手足も動かせないままだったらどうしよう…
そんな、自己の存在に対する不確かさを吹き飛ばしてくれるような、確かな現実感を求めて、岩沢は周りを見回した。

カーテンが開かれたままの窓から、月の光が差し込んで、部屋の中を青く照らし出していた。
ベッドの枕元に埋め込まれたデジタル時計が、ぼんやりと数字を示している。
(午前1時過ぎ…)
二段ベッドの上の段で寝ていた身を起こし、窓の外を見た。
敷地内のいたるところに立っている街灯が、夜の優しい闇を追い払うように、冷たく人工的な光を灯していた。
街灯はどれも、ついさっき電球を替えたばかりのように明るくて、暗くなったり切れたりしているものはひとつもなかった。
身を乗り出して下の段を覗いてみる。
「ひさ子…?」
下のベッドに、ルームメイトの長身はなかった。
一瞬、“消えて”しまったのかと、背筋に冷たいものが走ったが、気を取り直してベッドを降りる。
二段ベッドのはしごを降りてゆくと、身体の平衡感覚が戻ってきた。
はしごにつかまって立ち、薄闇の中に目をこらした。
部屋は、学生寮にしては間取りに余裕があるが、TVもラジオもない。ウォークマンもiPodもない。
岩沢もひさ子も、自分たちのバンドの演奏を除けば、長いこと音楽を聴いていなかった。
歩く感覚を一歩一歩確かめるようにして、ドアの横にあるユニットバスまで歩いていく。
戸を開けてバスルームに入り、汗のしみ込んだパジャマとショーツを脱いで、一緒くたに丸めて洗濯かごに放り入れる。
バスタブに立ってシャワーを浴び、水が身体をつたって流れ落ちていく心地よい感触を楽しむ。
寝たきりの身体だった頃は、汗をかいて身体がべとべとして気持ち悪くても、誰かに拭いてもらえるまで待っているしかなかった。
あの頃の不自由を思えば、 こうやって自分で歩いていって好きな時にシャワーを浴びられるのは本当に素晴らしいことだった。
バスルームの姿見には、健康的な若者がのびのびとシャワーを浴びる姿が映っている。
鏡の中の少女に向かって微笑みかけると、相手も岩沢に向かって微笑んだ。
そう、これがわたしの身体だ。
わたしの人生は決して幸せなものではなかった。あらゆるものを失った。でも、あの肉体から解放されて、わたしは今ここにいる。
これは夢なんかじゃない。現実だ。

シャワーを止め、乾いたタオルで身体をていねいに拭いて、新しいショーツと半袖短パンのパジャマに着替えた。
SSSの制服を除けば、衣類はぜんぶ学生課から支給されたり寮の売店で買ったりしたものばかりで、どれも同じようなものだ。
サイズの違うブラ以外は、どちらの衣服なのか、岩沢もひさ子も区別することなく使っていた。
岩沢はドアを開けて部屋の外に出て、廊下にぼんやりと立ちすくんだ。
広々とした寮の廊下は、空気がひんやりして、しんとしている。
(ひさ子の奴、こんな夜中にどこ行っちまったんだ?)
フロアのほうに行けばルームメイトがいるかもしれないと思い、行ってみることにした。
ふらふらと行ってみると、壁沿いに幾つかのソファが置かれたフロアはがらんとして、誰もいなかった。
隅っこに設けられた自販機コーナーからはコンプレッサーのぶんぶんという音が響いて、しんとしたフロアの空気を
静かに震わせていた。
身体にしみ込んでくるような、その周期的な低周波音を聞いていると、岩沢はなんだかほっとした。
ふと、自分がひどく喉が渇いているのに気がついて、小銭を取りに部屋に戻り、自販機でミネラルウォーターを一本買った。
それを飲みながら外を眺めていると、隣にある二年生の入っている棟の、真っ暗になった窓の中に一つだけ、明かりが
ついているのが見えた。
「あそこは…」
関根と入江の部屋だった。
岩沢は階段を降り、ふらりと建物の外に出た。
寮は高台にあり、月に照らされた学園が一望できた。
学園はなだらかに続く丘の中腹にあり、どの建物も新築のように真新しかった。
外壁は塗り立てのように色鮮やかで、階段の縁石はひとつも欠けることなく、美しい直線を描いていた。
時間は海の底のように重く、ゆっくりと流れていった。
(ここは、どこなんだろう…?)

以前、ゆりから聞いた話では、体外離脱について書いた本があって、その本によると、人は死んだ後、天国に行くまでの途中に
一時的に魂を休めるところに立ち寄るのだそうだ。そこは、ホテルのような旅館のような場所なのだそうだ。
(ひょっとしたらここは、無理をして長居するような場所ではないかもしれない)と、岩沢は思った。
ここはただの境界線に過ぎないのかもしれない。わたしたちは、今はまだ新しい行き場所を与えられていないだけかもしれない。
そんなことを考えながら、2年生の棟に向かって、ひんやりと澄み切った外気の中を歩いていった。
建物に近づいていくと、明かりのついた窓から、笑い声と麻雀牌を混ぜるガシャガシャという音が聞こえてきた。

関根たちの部屋の前まで来ると、岩沢はドアを軽くノックした。
「はい」中から顔を出したのが遊佐だったので、岩沢は少し驚いた。
「ひさ子の奴、来てない?」
「いますよ」
「…他のメンツは?」
「関根さんと入江さん、それと音無さん」
「音無か」
(あいつら、また男子を連れ込んでハコにしてんのか)などと思いながら、岩沢は部屋に入った。
中は女臭かった。むっとする匂いに、同性ながら思わずくらっとする。
バンドメンバーたち三人と音無が雀卓を囲んでいた。案の定というか予想通りというか、音無が身包み剥がされて
パンツ一丁の格好になっていて、岩沢は思わず吹き出した。
(あ~あ、カモられてやんの)
関根がはしゃぎまくって、
「はーい罰ゲーム罰ゲーム」と、音無にトマトジュースの缶を突きつけていた。
「だーかーらー、それ何か混ざってるだろ?」音無が弱々しく抗議した。
「いーから飲め飲め」
岩沢が学習机に目をやると、レモンスカッシュやコカコーラ、ファンタグレープなどの缶がずらりと並んでいる。
缶を順々に持ち上げて振ってみると、どれも半分ほど残っていた。
「ちょっともらっていいかな」
「それ、さっき関根が混ぜ合わせてましたよ」学習机の椅子に座ってお菓子を食べている遊佐が言った。
「ファミレスのドリンクバーで遊んでるお子ちゃまかよ…」
いちばん無難そうなウーロン茶の缶を選んで、中身を口に含んでみる。
「なにこれ…」それは、およそ飲み物とは呼べない複雑怪奇な味がした。
「ウーロン茶にスポーツドリンクを混ぜたカクテルですね」口をモグモグさせながら遊佐が言った。
「…」まるで味覚が永遠に麻痺してしまいそうなその味に、岩沢は頭を抱えた。

音無のほうも、トマトジュースの缶の中身を飲んで目を白黒させていた。
「げえー、なんだよこれ、何と何混ぜたの?」
「リポビタンDと牛乳」関根が得意そうに言った。
「全部飲まないと駄目だよ~」入江がはやし立てる。
「うへえ」ロクに味わいもせずにゴキュゴキュと飲み干す音無。
「うわ~、マジで飲んでる」ひさ子が笑った。
音無の顔がみるみるうちに真っ青になった。全身から脂汗を吹き出させながら立ち上がる。
「なんだ、そのパンツは?」びっくりする岩沢。
音無はぴっちぴちの黒いビキニパンツを穿いていた。
「吐きそう…」変態チックな黒のビキニ野郎は、身もだえしながらバスルームに駆け込んでいった。
「あいつ、変な趣味してんな」あきれる岩沢。
「あー、あのパンツ、高松の穿いてたやつなんだ。丸裸じゃ可哀想だから貸した」と、ひさ子が言った。
「高松の?」
(なんで、お前が高松のパンツなんか持ってるんだ?)とでも言いたげな岩沢の目線に、ひさ子は苦笑いした。
「この前、高松をカモってハコテンにして、パンツ一丁にひん剥いてやったら、あまりにキモいカラダしてて気持ち悪かったんで
つい、最後に残ったパンツも取り上げてフルチンにして、窓から叩き出してやったんよ」
「…」
「あのときの高松、悲惨だったね~」関根がけたけたと笑った。
「リーチかけても、ひさ子の追っかけリーチに一発で振り込んじゃうし」そう言って入江も笑った。
「一発掴まされの、振り込みマシーンと化していました」遊佐が論評した。
「ひさ子はひさ子で、ハネ満ツモりまくるし」と関根。
「高松の奴、最後に、『負け分は、この身体で払います!』なんてエロいこと抜かしてたけど、ひさ子が『バカヤロー、金で払え』って
窓から叩き出したんだ」と入江。
「窓の下で、『本物の博打うちだぜ、姐さん…』と言い残して、全裸で息絶えていました」遊佐がこともなげに言った。
「もし、近くに海がありゃあ、ポリバケツに詰め込んで投げ込んでるところさ」とひさ子。

全身真っ青になった音無がバスルームからよろよろと出てきて、カーペットの上にばったりと倒れた。それをつつく関根と入江。
「つんつん、音無生きてるー?」
「死んだ?」
関根と入江は点棒代わりのピックを集めると、まるで子供が遊んでいるように、音無の身体にぺたぺた貼り付けていった。
音無ががばっと身を起こすと、くっ付いていたピックがぱらぱらと落ちた。
「お前ら三人グルだな? グルなんだな?」今にも泣きそうな表情で、音無が言った。
「気づくの遅せーよ」と岩沢は呟いた。
「いまさらですねえ」と遊佐。
「ごちそーさま」とひさ子。
「男のくせに往生際が悪いよ」と関根がせせら笑う。
「それって負け犬の遠吠えだよね」突き放す入江。
SSSの男性陣は、ほとんどがひさ子のカモになっている。娯楽の無いこの学園で、すらっと背の高い美人から
「ねえ、あたしと麻雀しない?」と誘われて、ホイホイ付いていかない男は、変人の野田を除けばそういない。
卓を囲めば、関根や入江から、「ハイ、おしぼりどうぞ~」「なにか飲みませんか~?」と持ち上げられて舞い上がったところで、
洗牌のたびに触れてくる彼女たちの手の感触や、トイメンに座ったひさ子の大きな胸に気を取られたりしているうちに、
ケツの毛まで毟られてしまうのがオチだった。
音無がため息をついた。
「はあ~、明日からもう、缶コーヒー代も無えよ」
「音無さん缶コーヒー好きですよね、よく飲んでますよね」遊佐が言った。
「うん、まあ… 畜生、ただでさえ財布の中身が侘しいってのに、コーヒー代すら無えってのかよ…」
「よしよし、あたしが奢ってやるよ」岩沢が慰める。
「岩沢も来たことだし、ここらでお開きにすっか」ひさ子がにこにこしながら言い、音無のほうを向いた。
「負け分はツケといてやるよ。…それとも、身体で払ってくかい?」
「…えっ?」びっくりする音無。
「ひさ子?」岩沢も驚く。
関根と入江が、赤くなった顔を見合わせる。
「そうこなくちゃ」と、遊佐が呟いた。

「身体で払えって… いったい何言ってんだよ」赤くなりながら、音無がおろおろと言った。
ひさ子は笑いながら、
「なーにとぼけてんだよ、わかってるくせに」と、音無の背中をばしばし叩いた。
「ひさ子、てめーは… タチの悪い冗談だぜ」岩沢が首を振る。
「冗談で言ってるんじゃないよ」ひさ子が言った。
「なんだって?」
「だってこいつ、けっこうイイ男じゃん」そう言いながらひさ子は音無の腰に手を回し、ビキニパンツの上をとんとんと叩いた。
「細身の割になかなかいいモノ持ってるし」
「普通だよ普通!!」赤面する音無。
「音無ってさ、なんか後腐れがなさそうっていうか、セフレ向きの男だって思うんだ」ひさ子がこともなげに爆弾発言。
「セフレ!!」関根と入江が同時に叫んだ。
「いや、セフレつーとなんか聞こえが悪いな」とひさ子。
「彼氏代行サービスというのはどうでしょう」遊佐が提案した。
「彼氏!」「代行!」関根と入江が繰り返した。
「その… セフレと彼氏はどこが違うんだ?」疑問に思った岩沢は訊いてみた。
「彼氏は要りませんが、セフレは必要です」遊佐が言った。
「束縛とか、されたくないしなー」とひさ子。
「たまに性欲を満たしてくれる相手がいれば、それで充分ですよね」と遊佐。
「冴えない彼氏作るより、イケメンのセフレだよな」とひさ子。
(…それって、どう違うんだろう?)と岩沢は思った。

ひさ子は部屋にいる面々をぐるりと見回し、全員に向かって提案した。
「そう言うことで、ここにいる皆で順番に音無とエッチするっていうのはどうかなあ? なんか面白そうじゃない?」
「順番にエッチ!!」関根と入江がハモる。
こうなると流石に岩沢も、ルームメイトが何か悪いものでも喰ったのかもしれないと心配になってきた。
「…さっきからなに言ってんだオメ?」
「なにって… グループ交際?」
「グループ交際って言ったって、男が一人しかいねーじゃん! 1対1じゃねーじゃん!」
「でも、好きでもない相手とくっつけられるよか、イイ男を皆でシェアしたほうが得じゃん?」
「シェア!!」と関根と入江。
「それのどこがグループ交際なんだよ」
「んー… だから、グループ交際じゃなくってグループセックス?」
「それってけっきょく乱交じゃん…」岩沢が溜め息混じりに言った。
オフビートな女子の応酬に音無も目を丸くする。
「女の子ってすげえ…」

さらに言いつのる岩沢を制止し、ひさ子は言い放った。
「リーダーのあんたがそんな超奥手だから、うちら毎年、オトコ無しの淋しいクリスマスを送ることになるんじゃんか。いい加減オトナになれよ。
ここいらでばしっと、恋人いない歴にピリオド打っちまえよ」
「…へっ?」
ひさ子が続ける。
「みんな血気盛んでヤりまくりたい年頃なんだよ? うちら、花の命は全ッ然短くねーっつうか、ずっとピチピチギャルのまんまだけどさ、
恋しないでいるのにも限度ってものがあるんだ…」
ひさ子はそう言うと、関根と入江の肩を掴んでシャワールームに押し込んだ。
「あたしは遊佐の部屋でシャワー浴びてくっから、お前らもさっさと身体洗っとけ」
「ちょっと、ひさ子」関根が言いかけたが、ひさ子はシャワールームのドアを閉め、岩沢のほうを向いた。
「いちおうリーダーなんだし、こいつの初物は岩沢が貰っちまえよ」
そう言って、ひさ子と遊佐は部屋を出て行った。

残った二人は顔を見合わせた。
「バンドやってる女の子ってすげえよなあ… なあ、お前ら、いつもこんなことやってんのかよ…」音無が呆れたように言った。
「…なわけね~だろ」
バンド仲間として長い付き合いになるからよく知っているけど、ひさ子はボンクラな性格だけど、意外に(?)硬派なところがあって、
誰とでも寝たりするような女の子じゃあない。
「あたしら、そんな尻軽じゃねーから」そう言いながら、岩沢は床に散らばったピックを拾い集めた。
音無は横目でちらりと岩沢を見て、
「だったらいいけど」と言った。
二人は無言で、散らかった部屋を片付けた。
卓の周りに転がったkeyコーヒーの空き缶、眠眠打破の空き瓶、ピーナッツ、点棒代わりのピック。それらを片付けながら岩沢は、さっきの
相棒の言葉を頭の中で反すうしていた。
(いい加減オトナになれよ、か…)

いつまでも子供のままでいられるなら、それでいいと思ってたんだけどね。
ひさ子は、あたしなんかよりずっと大人で、ものの考え方が怖いくらいクールだ。
うちは別にアイドルグループじゃないから、異性と交際しようがセックスしようが各メンバーの自由だ。見つかれば即刻バンドを脱退、なーんてことはない。
とはいえ、ロックバンドなんて派手なことやってるわりに、四六時中音楽漬けで、いい年して男と付き合ったこともないあたし…。
そんなのがリーダーやってたら、他のメンバーだって自由に恋愛なんかできないよね。
「…」
岩沢は見るともなく、横に立った半裸の少年を眺めた。
(若い男の子のプリプリした肉体か…)
みごとな逆三角形をした背中が、腰にかけてぐっとくびれて、ほとんどむき出しになった尻へと続いていく。
少年らしい引き締まった尻はきゅっと上にあがっていて、自分たち女子のような余分な肉が付いていなかった。
黒のビキニパンツの正面からは、ペニスの形がくっきりと分かった。
岩沢はゴクリ、と唾を呑み込んだ。
もし自分が彼を受け入れるなら、おそらく自分は、この肉体の味に夢中になってしまうに違いない。
人生の最後の日々、病院のベッドでひとりぼっちで過ごしながらも、大人っぽくなっていく同世代の男の子たちの身体に、どうしたって
興味を持たずにはいられなかった。
寝たきりになる前は、スタイルには自分でも結構自信があるほうだったし、ストリートライヴをやっていても、大学生や若いサラリーマンによく声をかけられた。
身体がベッドにしばり付けられていたときでも、いつか病気が治ったら一度でいいから好きな男の子にめちゃめちゃに抱かれて、この若く美しい身体を
荒々しいセックスに酷使したい、頭がおかしくなるような快感を味わってみたいと願っていた。
そんな、自分の肉欲が空恐ろしかった。

そして今、美しくよみがえったこの肉体が、いつか誰かに愛される時に備えて、パジャマの中で静かに出番を待って息づいていた。

「なあ、記憶無し男」
「なんだよ」
「男子って、パンツを穿くときに、その… そうやってチンコを上に向けて穿くんだな」
「は?」
「てっきり、下向きにするんだと思ってた」
「なんで」
「みんな、チンコをタマタマのあいだに挟むみたいにして、パンツにいれてるのかと思ってた」
「それ、勃ったら痛えじゃん」
「そっか」
パンツの下でぴんと上を向いたペニスを見ながら、
(なんか萌えるな…)と岩沢は思った。
「横向きとかにはしないんだ?」
「デッカい奴はするかもな」
「あんたのソレは、デッカくないのか?」
「知らねえよ」
音無の引き締まった身体からは、すてきな匂いがした。
彼には、同世代の若者らしく虚勢を張ったり見栄っ張りなところがまったくなく、自分たちに自然体に接しているところも、岩沢には好感が持てた。
岩沢は、半袖のパジャマの下の全身のうぶ毛が、ざわざわと立ってくるのを感じた。
そのようすを、パジャマの上からじろじろ見ていた音無がふと、冗談めかして訊いた。
「なあ、お前らのバンドってさ、みんな揃ってルックスいいよな」
「人並みだと思うけど?」
「なんかオーディションでもやって、ルックスのいい奴ばっかり選んでんじゃねえか?仕掛けられた商業ロックバンドみたいに」
「とりあえず、『しょせんはガールズバンド』ってバカにされない技術は持ってる」
「へえ」
「一見さわやかそうに見えて、でもちょっとひねくれた音楽やってるから」

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最終更新:2010年06月03日 20:00