エロパロ > 名無し > 日向×ユイで非エロ超SSS

いくら死なないといっても限度があるだろ。

と俺、日向は鳩尾を押さえた状態で額を(放課後のためにほぼ無人の)廊下の地べたに引っ付けたままうずくまる、といったなんとも情けない格好でそう思った。
何故俺がそんな体制になりなおかつそんな事を思っているのか。
理由は至極簡単。簡単すぎて説明するのも億劫になるほど簡単なのだがあえて簡潔にだけ述べるならそう

ユイ、ウザイ

俺、ムカつく

ユイ、さらにウザい

俺、パロスペシャル実行

ユイ、それを避けてカウンターで日向の鳩尾に頭突き

俺、ゲロが出そう(←今ここ)

といった感じである。ホラ単純。

「て、めェ……」
「やーいやーいバーカ! バーカ! いつまでもこのユイにゃんがそんな技を食らうと思うなよー!」

ああ、やっぱりウザい。
結果として痛い目を見て地面にはいつくばっているのは自分だが、ユイに飛び掛った自分の判断に間違いはなかったことを再確認した。
人間一人分の質量をそのままぶつけられた腹をさすりながら、徐々に痛みが引き始めたのを感じる。
流石は不死身というべきか、普通ならそれこそ嘔吐の上に腹部への痛みと違和感で気絶してもおかしくなかったかもしれない。
そう考えると目の前でさながらバッタのように跳ね回りながらはしゃいでるピンク娘に対する怒りが更に沸々と増してきた。
よし、復讐だ。

「いっ……てぇ……いてぇよぉ……」
「え……」


迫真の演技力(自称)でもって、まるで腹の底からぬれ雑巾を限界まで絞ったような苦しげでくぐもった声を上げる。
それを見たユイは一瞬、訝しむような警戒の構えを取ったが、俺のその状態がしばらく続くと、徐々にその瞳に不安の色を募らせる。
ユイ自身、この世界の仕組みについて十分に理解はしているのだし、そこを含めた上で普段から俺とやりあっているのだから
冷静に考えるとなんともおかしな光景なのだが、そこはおそらく理屈ではないのだろう。
ユイはおずおずと膝を屈めると、まるで衰弱したペットの様子を伺うかのように丸まっている俺の背中に手を伸ばす。

「ね、ねえ……そんなに痛いの?」
(…………)

一瞬、攻撃を食らった腹ではなく、そのもっと奥にあるもの、良心がズキリと痛んだ気がした。
予想としては、蹲っている自分にユイが「ハッハーン! いい様だわ、ずっとそのダンゴムシみたいな格好でいればいいのよ!」
といった感じでウザさ全開のサルぐらいの勢いで無様な自分の格好をより近くで見るために近づいてくることも想定していただけに
そんなユイの……なんというか『普通の女の子』のような姿を見せられると、なんだか自分が悪い人間のように思えて……

(いやいや、俺は悪くない!)

その考えを一瞬で振り切った。
そうとも、悪いのはそもそも本気で心配しなきゃならないほどに加減も考えずに鳩尾に頭を突っ込んだこいつではないか。
何? 元はといえば先に手を出そうとしたのはお前じゃないか?
いやそれを言ったら元はといえばこいつがウザいのが原因だもん。うん。ホラ、こいつが悪い。
という訳で無駄な躊躇やめ。計画を速やかに実行する。

「ちょ、ちょっと、なんとか言いなさいよぉ……どれぐらい痛いの? すごく?」
「ああ、痛いよ……すげえ痛い……どのくらいかというとだな」

グオッ
という空を切る音が確かに耳に届いた気がした。それぐらいの勢いで目の前の女に飛び掛った。
我ながら見事な身のこなしだったなと後にして思うことになる。多分天使と戦う時にもここまでいい動きはそうはできなかったのではないかとすら思う。
とにかくそれほどの敏捷さでもって行使した攻撃は、結果から言えば見事成功した。
俺の大きく広げた腕はがっしりと両側からユイの体を固定し、完全に身動きを封じる。
それこそ拳はおろか、もちろん先ほど繰り出したような頭突きすらままならない状態だ。
思いきりに強く締め上げているため、ユイのその表情すら伺い知ることができないが、さてどんな顔をしているのだろうか
虚をつかれたような間抜けな顔か? それとも屈辱の色をにじませた負け犬の顔か? そう考えると知らず知らず笑いがこみ上げてくる。

「くっ……ふふ、はっ、あーっはっはっ! 騙されやがったなこのアホめ!
 いくらてめーがサルのように身軽で小賢しくても、この状態からどうにかすることなんて出来まい!
 さーてこっからどうしてやろうかぁ? このまま回転して目を回すか? それともいっそジャーマンの要領で……」

そこでふと、違和感に気づいた。
おかしい。なんでこいつはまったく抵抗を見せない? それはまあ、抵抗を許さないほど強力な拘束はしたつもりだが
それはあくまで攻撃手段を封じただけであって、抵抗の表れである僅かな身じろぎすらないのは変だ。
声にしても、最初は口を俺の体に塞がれて出せないのかと思ったが、それにしたってくぐもった喚き声すら聞こえない。
まるで自分が彼女を抱きすくめた瞬間に、どこかにあるスイッチをOFFにしてしまい、彼女の動作を止めてしまったのではと思うほ……

(ん?)

そこでまた違和感に気づく。
えーと、今俺なに考えた? スイッチがどうこう、いやもうちょい前……だ、だ……抱きすくめ…………抱き?

「あ」

さーっと血の気が引いて同時に汗がどっと噴出した気がした。
例えば、例えばだが、この現場を誰か第三者が目撃したらどう思うだろうか?
いつものように後ろからの羽交い絞めや関節技とは違う。正面から、両腕で、決して話さないとばかりにユイの体を『抱きしめる』自分を見たら。

「へ?」
「ほ?」

突然の意味不明な連続台詞に当惑したことだろう。
なので説明すると、上は今まさに絶対に見られてはいけないと危惧していた俺たちの姿をまるで物語の主人公のようにタイムリー目撃した音無のもの。
下が突然の展開に頭がついていかず、半ば現実逃避も含めた俺の声だ。明らかに動揺しまくりなのが自分で分かる。

「日向……お前ら」
「ちっ、ちちちちちちちがうんだって音無! 聞いてくれよ、そういうじゃねえんだって本当!」

逆に怪しまれそうなぐらいにテンパった声色での言い訳だが、それでもしておかない訳にはいかない。
音無は親友(と、俺は思ってる)だ。こんな訳の分からない現場を見られたぐらいでお互い変な空気になるのは避けたい。
いやていうか言い訳っていうか俺は真実を話そうとしてるだけだからね、後ろめたいことなんかなんもないからねホント。

「ほら、お前からもなんとか言ってやれって!」

と、それこそ猫の手も借りたいとばかりに腕の中にいるユイに助力を求める俺。情けない? それがどうした。
ガッチリと錠前のように固定していた腕を少し緩め、彼女の顔を伺える程度の隙間を空ける。すると

「…………誰?」

いやそりゃユイなのだろう。ユイなのだろうけど、俺はその時一瞬でその判断を下すことができなかった。
激辛麻婆豆腐もかくやというレベルで朱に染まった顔に、目に見えて潤い塗れていることが分かる瞳。
俺の胸に口を押し付けられていた反動かはたまた別の理由かはあはあと荒く上気している呼吸。
その全ての要素が、俺にとって目の前のこの『可愛い女の子』をユイたらしめる決定打になってくれず
恥ずかしながら……いや、本当に恥ずかしいのだが、俺はまるで心を奪われたようにそんな表情の彼女に見蕩……

「っ~~~~~~! ぎきゃあああああああああああああああああああああああ!!」
ドゴォッ!!

前言撤回。
この鳩尾にドリルも裸足で逃げ出す勢いでえぐり込まれる鉄拳はまさしく自分がよく知る脳内お花畑のピンク女のものだった。
ユイの発言を求めるために腕の拘束力を弱めたのがいけなかったのだろう。
彼女は先述したとおり、俺の腹部に必殺の一撃を見舞うと、一目散という言葉がこれ以上ないほどの速さで走り去って行った。
その後に、まるで物語の最初に戻ったかのように蹲る俺と、どれにまず反応すればいいのか分からないといった風な音無
それから、色んな感情がミキサーばりにないまぜになった訳の分からない悲鳴だけを残して。

「…………誤解すんなよ、音無」
「何がお前の言う『誤解』で何がお前の言いたいであろう『本当』なのか分からないぞ」
「…………」

ぐぅの音も出なかった。

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最終更新:2010年05月09日 11:10