4:329~336

329 :名無しさんなんだじぇ:2011/07/02(土) 22:45:31 ID:4322JIo6
【伊達家 第一ターン 主従コンビと片目コンビとフォロー役コンビ】


 伊達政宗はモニターを前にまんじりともせず映る画像を眺めていた。
 隣に控える片倉小十郎は、頬をかきながら政宗に問う。
「これがげぇむというものですか。で、これをやろうという話で?」
「Yes! 皆も参加するというんでな。まっ、勝負事だ。やるからには勝つぜ小十郎」
 というわけで、二人はゲームをやる事にしたのだが、戦国出身の二人にゲームなぞそれこそ無理げーである。
 そこで、アドバイザーとして二人共に縁の深い人間にご出馬を願う。
「私もこういったものはあまりやらないので、お力になれるかどうかはわかりませんが頑張りますね」
 風越の聖女、福路美穂子である。
 ちゃんちゃららーんとゲームが開始されると、すぐに美穂子が声を上げる。
「あら、これは戦国時代のゲームなのですね。これならきっと政宗さんも選べますよ」
 そう、二人がやろうとしていたゲーム、それは『信長の野望』であった。
 美穂子が選択陣営を伊達に合わせると、政宗のグラフィックが映る。
「ほぉ、これが俺か。なかなかに渋いんじゃねえのか。まあ実物にゃ及ばねえがな」
 小十郎はしみじみと語る。
「後の世でもあの時代を語り継いでいると聞いていたが、こんなすげぇ仕掛けまで作る程とは」
 口元に手をやり、美穂子はくすりと笑う。
「ふふっ、では始めますね。えっと……あ、居ました。ほら、これが小十郎さんですよ」
 伊達家の将として、当然小十郎の名もある。
「少々照れくせぇな」
「お二人とも他の武将と比べても、かなり良い能力値ですね。……随分と年代が進んでいます。もしかしたら、オリジナルのシナリオなのかもしれません」
 それなりに学業を納めているらしい美穂子は、信長と政宗が同じ戦場に居る不思議に気付けた模様。
 もっともれっつぱーりーな政宗的には細かい事はのーさんきゅーらしいので、さらっと流されたが。
 説明書やら操作やらを確認した美穂子は、居住まいを正す。
「概ね理解出来ましたが……えっと、殿。方針はいかがなさいますか?」
 政宗も一応これが全国を制覇するゲームであるという事は理解出来た模様。
「おう! まずは信長に挨拶でもしてくるか!」
「……えっと、領地接してないので無理です。まずは周辺国を平定しない事には……」
 小十郎が美穂子の隣でうんうんと頷いている。
「政宗様、こいつは単騎で敵軍を粉砕出来るような戦じゃないみたいですし、ここは一つ、国を固めて軍を揃えるとしましょう」
 見るからに不満そうな様子で腕を組む政宗。
「まあゲームだしな、実際の俺なら即座に戦なんだが……いいさ、Partyは後のお楽しみとするさ」
 自らに言い聞かせるようにそう呟く政宗であったが、小十郎も美穂子もそちらを見てもいなかった。
「おっと、そこの金山は確保しなきゃならないんじゃないのか?」
「ええ、そのつもりです。……技術は伊達家の固有技術の鉄砲を狙うのが有利かもしれません。わざわざ固有というぐらいですし」
「鉄砲か、確かにありゃ強ぇ。だが、一度戦争がどんなものか見てみないと判別しずらいな」
「ですね……あっと、隣国で戦ですね。これ、ちょっと手出してみますか?」
「いいねぇ、っと、片方他国と同盟組んでるんじゃないか? 手出す相手間違えると面倒な事になりそうだな」
「はい、これ、実際やってみないと何ですが、もしかしたら米の消費がかなり厳しいかもしれませんね」
「ああ、俺も気になってた。なるほどなるほど、内政の技術もかなり抑えておかなきゃだな……そこの施設作るのは三人で出すのは止めた方がいい。僅かにだが、一人づつの方が速いっぽいぜ」
「あ、やっぱりそうだったんですね。多分ですけど……こういう細かい部分で他プレイヤーと差がつくんでしょうね」
「他の連中もほとんど初見なんだろ? なら逆に誰が一番速くコツを掴むか、有利なやり方を見つけられるかが肝だな」
 二人は夢中になって内政を行なっているわけで。他人の面倒を見るのを好む二人は、国が、人が育っていく内政に向いているのだろう。
 ふと思い出したように小十郎が振り返る。
「政宗様、とりあえず様子見の戦するんですが、よろしいですか?」
 政宗は何処か物寂しげな風情をかもし出しつつ、ぽつりと呟く。
「……おーけいだ。よきにはからえ」
 うっきうきで戦闘準備に入る二人。
 まずはこの技能を確認するだの、兵糧消費の勢いだの、兵種云々だのの話題で盛り上がり続け、ちょっと拗ねてみた政宗を構う事はなかった。


330 :戦国武将に信長の野望をやらせてみた ~あの世編~:2011/07/02(土) 22:47:16 ID:4322JIo6
 遂に東北の雄、最上を追い詰める事に成功した伊達家。
 その頃には政宗もいい加減ゲームシステムを理解したのか、美穂子小十郎の話についていけるようになっていた。
「よしよし、きっちり数揃えて戦すりゃ楽勝じゃねえか。さーて、こいつも戦国の習いだ、きっちりトドメ刺しつつ君主一族は首をはねて……」
 政宗を無視して小十郎美穂子でさっさと降伏勧告してたりする。
「おいっ!」
「何を言ってるんですか政宗様。こいつは武将の数と質がそのまま国力に繋がるんですぜ。殺すなんてそんなもったいない事出来ますか」
「後は土地ですね。維持費も馬鹿になりませんし、登用でもしないと内政の手が足りません。戦する暇なくなっちゃいますよ」
 それに、と二人は口を揃える。
『計略S知略96殺すなんてとんでもない!』
 最上義光を如何に活用するか、戦争前から二人はずーっとそればかり考えていたらしい。ぶっちゃけ小十郎がもう一人増えるようなものであるので、そりゃもう夢広がりんぐである。
 何かもう、こいつらほっといたら光秀すら軽く登用しそうで怖いとか思った政宗であった。

 ともかく、何やかやと東北方面の半ばを抑える事に成功した伊達家は、同じく勢力を伸ばしている上杉家と国境を接する事となった。
 理想を言うならば東北を完全に制覇し後顧の憂いをなくしてからといきたかったのだが、国境付近に軍備を揃えてきている上杉を無視する事も出来ず、両国の間で緊張が高まる。
 が、敵情を調べた結果、美穂子は片方のみ開いた瞳を伏せ、小十郎は天を仰ぐ。
「……これは、将の質がとんでもないですね……」
「うちも随分と軍容が整ったとは思うが、これは幾らなんでも……」
 政宗はしかしふんと鼻で笑う。
「何言ってんだお前等。きっちり数揃えて行けばどうとでもなるって話だろ。あの上杉謙信が単騎で突っ込んで来るよりゃよっぽどマシじゃねえか」
 それに、と嬉々として画面を指差す。
「見ろこの鉄砲技術を! こんだけあって指揮するのが俺なんだ! 負けようがねえじゃねえか!」
 揃えられたのは美穂子と小十郎の内政のおかげであるのだが。
 既に二人はこのゲームにおける内政のコツともいうべき部分を抑えており、CPU操作の上杉を大きく上回っていた。
 出来れば不安要素を全て消して挑みたい美穂子であったが、ここで拡張の足止めを食ってしまうと他PLとの決戦で大きく後れを取る原因にもなりかねない。
「そうですね。正直統率が100を越えてるとはいえ、数がいれば上位の武将とも張り合えるはずですし……ただ、政宗さんでも統率差20以上とか、この方何なんでしょう……」
「しかし……政宗様はまだ面影が残ってるが、この謙信はもう見る影もねえな。女面は何処に落としたって髭だぜ」
「上杉さんってそうだったのですか?」
「ん? ああ、武将にしちゃエライ細身でな。あれで甲斐の武田と張り合ってるってんだから大したもんだよ」
「あ、そういえば先程ログに武田家が滅亡したとかありましたね」
「どうせ甲斐武田は真田幸村がやってるんだろ。確かに、奴には向かないだろうなこういうのは」
 ぎょっとした顔なのは政宗だ。
「何い!? アイツもう終わっちまったのかよ。へっ、口ほどにもねえ。そういう事なら先々も恐れる事はねえ、上杉潰して関東まで一息に飲み込むぜ!」
 兵数にして約二倍近い数を揃えた伊達軍は、政宗を先頭に上杉領へと兵を進める。
 そして、政宗率いる部隊が上杉謙信の部隊に触れた瞬間、それは起こった。
「嘘!?」
「何!?」
「何だよ、お前等いきなりどうした?」
「政宗様! 兵がものすげぇ勢いで削られてますぜ!」
「あん? ……ってこりゃ何だ一体!? おいちょっと待て! お前等何か見落としてたんじゃねえのか!?」
「こ、このペースはまずいです! 一旦引きます!」
「ば、馬鹿野朗! まだロクにぶつかってもいねえじゃねえか!」
「数字計算して下さい政宗様! これじゃ向こう削りきる前にこっちが潰されちまいます! って言ってる側からまた戦法かよ!?」
 更に美穂子が恐ろしい戦況予測を告げる。
「……多分、全軍で行っても、向こうがこちら削る……というか融かす方が速い、かも、です」


331 :戦国武将に信長の野望をやらせてみた ~あの世編~:2011/07/02(土) 22:47:50 ID:4322JIo6
 小十郎はぼそりと呟く。
「これじゃ単騎で突っ込んでくれた方が、俺が抑えりゃそれで済む分よっぽど楽だ。軍神恐るべしですなぁ」
 実は上杉謙信、このゲームで最強の統率を誇り、そこに軍神やら車懸りやら騎馬Sやら更に官位やら家宝やらで統率強化してくれるので、最早手がつけられないチートユニットなのである。
「っておい! 殿俺かよ! いやむしろ望む所だけどよ! そういうの普通一言あってしかるべきじゃねえのか!?」
「いや、だって政宗さん名馬欲しいって言ってたじゃないですか。だったら絶対捕まらないんですしこういう時の為の馬ですよ。備えあれば憂い無しですね」
「まあ確かに馬寄越せって言ったのは俺だが……うぉい! 小十郎真っ先に逃げてんじゃねえてめえ!」
「このげぇむじゃ武勇低いですからね。ここは一つ政宗様にふんばってもらうって事で。ああ、これなら何とか撤退出来そうです。流石政宗様、見事な殿。まるで島津の捨て奸のようですぜ」
「大将捨て駒とか無茶が過ぎんだろお前等!」
 とにもかくにも最小限の被害で撤退を終えた伊達軍。
 政宗は、それまでユニット政宗が圧倒的に強かっただけに、どうにも釈然としない顔である。
「何かこれヒドクねえか? いやゲームに文句言うのも何だけどよ、これじゃまるっきり俺の方が下みたいじゃねえか」
「政宗さんも小十郎さんも随分とトンデモな能力値なんですし、こういうものだと割り切った方がよろしいかと」
 小十郎は武将画面を開き、各武将の能力値をざっと眺める。
「つまり、後世の評価がこの能力値って事なんでしょうね。なあ福路殿、もしかしたら俺達がこれからどうなるのかもあんた知ってるんじゃないのかい?」
 ちら、と小十郎を見上げる美穂子。
「……知りたい、ですか?」
「まあな。生きてるんなら是が非でも口にさせなかったんだが、こうなっちまったらしょうがねえ。気にならないって言えば嘘になるしよ」
 美穂子は自分の知る限りで、小十郎、そして政宗の歴史上での活躍を伝えた。
 これを聞き、派手にキレたのは政宗だ。
「なあああああああああんで俺が秀吉だかっつーモンキー野朗に頭下げなきゃなんねええんだああああああ! つか弟とか母とか父とか、ウチの家族どんだけドメスティックしてやがんだ!?」
「まあ、実際そんなもんでしたが。流石に政宗様相手に、そんな福路殿が言うような陰惨な真似は通用しねえですぜ」
「はい、ですから少し戸惑っています。何せ数百年後の話ですから、齟齬もあるのでしょうね」
 違う世界の戦国だとは思っていないらしい美穂子は、そんなフォローを入れてみたりする。
 それでも政宗は納得しがたいらしい。
「腹の立つ話だぜ! 大体だな、このゲームも『信長の野望』とかどんだけあの野朗持ち上げてくれてんだよ!」
 ちょっと困った顔の美穂子。
「はあ、ですが、織田信長さんや豊臣秀吉さん、そして最後の勝者徳川家康さんなんかは学校で習いますしね」
「あのちびっ子がねぇ。それに信長の最後は俺でも真田幸村でもなく、明智の野朗の裏切りとは……何とも締まらねえ話だ。その明智を殺るのも秀吉だかって奴なんだろ。俺はその間昼寝でもしてたってのかよ」
 更に首を大きく傾げる美穂子。
「それなんですよ。そもそも政宗さん、織田信長さんと同時期に生まれてなかったはずなんですよねぇ。そういった私の知る歴史を元にゲーム作ってありますから、色々と齟齬があるのかもしれません」
 しかし、と思い出し笑いを漏らす小十郎。
「白装束に十字架背負って頭下げに行くってな、如何にも政宗様がやりそうな気はしますな」
「くそっ、何にせよ天下は取り損ねたって話か。ええい、なら尚の事このゲーム負けらんねえぞ!」
 政宗の号令により、再度戦力を拡充する伊達家。
 東北を肥沃な大地に変えてしまう程のすーぱー内政のおかげか、はたまた政宗殿により被害を抑えられた故か、あっという間に先の戦力を大きく上回る兵力が集まる。
 危険な上杉謙信は釣りだしつつ封殺し、危なげなく上杉家を降伏にまで追いやる。
 政宗はもう慣れたのか、戦そのものより戦後処理に目を輝かせる小十郎と美穂子にその辺を任せつつ、とりあえず戦終わったーとお茶に手を伸ばしかける。
 ふと隣を見ると、何故か画面を見たまま小十郎と美穂子の二人が硬直していた。

『政宗様、一大事にございます! 真田家が我が方に向かって進軍を開始しました!』


332 :戦国武将に信長の野望をやらせてみた ~あの世編~:2011/07/02(土) 22:49:28 ID:4322JIo6
【真田家 第一ターン 真田の場合】


「なあセイバー。これ、俺が手を貸すのって卑怯な気がしないでもないんだが……」
 衛宮士郎はそんな事を言ってみたが、セイバーはまるで聞く耳を持たない。
「それを言うのであれば、ユキムラにゲームをやらせようというのがそもそもおかしいのです。こういうのはやはり慣れた者の手ほどきがあってしかるべきでしょう」
「言う程俺もそういうのやってる訳じゃないんだけどな……」
 部屋に入ると、大きな画面を前にした真田幸村がコントローラーを握ってああでもないこうでもないと色々苦戦している最中であった。
「おおっ! 援軍を連れてきていただけたかせいばあ殿! かたじけない、それがしこのように面妖なモノ扱った事もない故」
「よろしく真田さん。とりあえず、やり方ぐらいはわかる?」
「本は読み申したが、正直何からどう手をつけたものかさっぱりでござる」
 わかった、と士郎は一通りの操作を確認する。
「ん、大体わかった。けど、俺もそれほどゲームは得意じゃないからあまり期待しないでくれよ」
「機械は得意なんじゃないんですの?」
「コンピューターはまた別の話さ……って、え?」
 何故かすぐ後ろから白井黒子が顔を覗かせていた。
「ならわたくしも少しはお役に立てるかもしれませんわね」
「い、何時の間に……」
 驚く士郎を他所にさっさかと画面を調べる黒子。
「えっと、勢力は武田家、じゃなくて真田家っての作れますわね」
 一応それなりにだがゲームシステムを理解していた幸村はいきなり大慌てである。
「い、いやしかし、某は御館様と共に天下を……」
「ゲームに言っても仕方ありませんわ。へぇ、真田十勇士揃い踏みとは、これ結構な有力勢力なんじゃありませんこと? 後はきっと近くにあるだろう武田軍の武将引っこ抜ければ序盤からかなり飛ばせそうですわね」
「た、武田に反するような真似を某がするわけにはまいりませぬ!」
 そこで、セイバーが幸村の肩をぽんと叩く。
「ユキムラ。私はゲームの事はわかりませんが、君主の心得を教える事は出来ます。領民の為、自らを慕い信じる将の為、敢えて鬼にもなるのが王たる者の役目なのですよ」
 士郎も画面を見ながら少し乗り気になったのか、ふむふむと頷く。
「真田の一族、これ、何か物凄いんじゃないのか? うん、これなら勝てそうな気してきたよ」
 ふふんと無い胸をそらす黒子。
「当たり前ですわ。やるからには完勝を目指しますわよ」
 まだぎゃーぎゃー喚いている幸村に、黒子が仕方がないと妥協案を提示する。
「いずれ真田と武田は同盟関係にあるでしょうし、共に天下をというのであれば、それほど問題ではないでしょう。同盟のままでも勝利条件を満たせるようですし」
「そ、そうでござったか。ならばこの幸村! 御館様と共に見事天へと昇ってみせましょうぞ!」
 ぼそぼそっと黒子はセイバーに耳打ち。
「……武田落とす時は、幸村さん取り押さえておいていただけますか? 戦国武将の大暴れ抑えられるのセイバーさんぐらいですし」
「そこまでせねばならぬものなのですか? ユキムラの言うように共に天下をというのは無理なのでしょうか」
「武将の数と質は重要なファクターですわ。なのに人材の宝庫武田軍を放置しつつ勝利なんてありえません」


333 :戦国武将に信長の野望をやらせてみた ~あの世編~:2011/07/02(土) 22:50:41 ID:4322JIo6
 そんなこんなで始まったゲーム。
 案の定武田のすぐ側の土地で開始となった真田軍は、これ幸いと、同盟国武田を背後の壁とし、近隣諸国を瞬く間に平らげていく。
 北條やら徳川やら織田やら有力大名のプレッシャーは全て武田軍が抑えてくれているので、すこぶる快調に話は進む。
 そして、運命の時を迎える。
「北條、今川が武田へと攻め込んだだと!? おのれ待っていてくだされ御館様! この幸村が疾く馳せ参じますぞ!」
 しかし士郎は幸村の反応に眉根を寄せる。
「でも、こっちの主力は戦闘中、ここから戻るのもこのまま攻め落とすのも大して時間はかわらないぜ。まいったな最悪のタイミングだよ」
 ならばとセイバーが口を開く。
「次の一手を考えるのであれば、この城を一刻も早く落とし、救援に駆けつけるべきでしょう。今川、北條を相手にしつつ後ろから逆襲でもされては事です」
 確かに、全てはセイバーの言う通りだ。
 歯噛みしつつ祈るようにログを見守る幸村。
 そして黒子は、誰にも見られぬ角度で、会心の笑みを漏らしていた。
『計算どおりですわ! 北條も今川も、織田と手を結んでいる今、狙うは武田と我々真田。ふふふっ、わざわざ全力でこちらに出向いた甲斐があったというものですわ。この位置からならば戻るまでに一戦、いや二戦は行なわれるはず。後は弱体化した武田を……くっくっくっくっく』
 全ては黒子の思惑通りだったらしい。同盟の組み合わせを細かに調整し続けた成果である。
 更に現在武田は上杉との戦いにより消耗激しく、領土の半ばまでを奪い取られてしまうだろう事も織り込み済み。
 しかし、黒子の計算を上回る速度で話は進む。
 武田の各城が落とされるログが次々流れ、敵城を落とし軍を武田へと差し向けた真田軍が国境を越えようとした時、最後のログが流れた。

『武田家が滅亡しました』

 その後のこの部屋の混沌っぷりは筆舌に尽くしがたい。
 喚き暴れる幸村がその主な、というか全ての要因であったが。
 号泣する幸村に、セイバーがその矛先となるべく剣を抜き、士郎が必死になって慰める。
 そして黒子である。
『危機? いえ、これは真田軍唯一の急所が失われたという事。この機を活かせずして勝利の道はありませんわ!』
 さんざっぱら暴れ回り、無駄に広い室内でエクスカリバーまでぶっぱなすような大騒ぎ(無論壁はぶちぬかれ、偶々偶然運悪く通りかかった池田の眼前を光の軌跡が貫いていった。へたり込んだ池田がその後トイレに駆け込んだとか、何故か下ジャージに着替えたらしいとかいう話があるとかないとか)の最中、黒子の凜とした声が響く。
「合戦の準備、全て整いましたわ。いかがなさいますか?」
 ぴたりと、幸村の動きが止まる。
「……かっせん、でござると?」
「無論、武田領を接収し分割した北條今川連合軍にですわ」
 技術はこちらがリードしており、兵力差はこれで埋め得ると黒子は判断したのだ。
 ゲームとは思えぬ程激しく感情移入している幸村の号令一下、真田軍はその総力を挙げ戦に挑む。
 きらーんと光る黒子の瞳。獅子心中の虫を抱える幸村がちょっと哀れになってくるが、それに気付ける者もこの場には居ないのであった。


334 :戦国武将に信長の野望をやらせてみた ~あの世編~:2011/07/02(土) 22:51:07 ID:4322JIo6

『武田信玄を登用しますか?』
 流浪の身となっていた信玄を発見。
「おやかたさまああああああああああ! おいたわしや……すぐにこの幸村が参りますぞ!」
 北條今川領への逆侵攻こそ成らなかったものの、旧武田の所領をほぼ全て取り返した真田軍。
 戦闘と同時に引き抜き工作も行なっていた為、かなりの数の武田武将を確保する事に成功した真田軍は、ようやくちょっと大きくなった小国を脱し、上杉やらと張り合える強国へと成長した。
 家督を信玄に譲るだの駄々をこねる幸村に、システム上不可能ですとさらっと切り返す黒子。
 そんな中、士郎が皆に注意を促す。
「これ伊達がかなり大きくなってないか? ……っていうかこのゲームって誰がどの大名担当してるかわかる?」
 これには幸村が即答する。
「何でも公平を期すため、それは秘密のままげーむをするという事でござった」
 とはいえここまでゲームが進めば予想ぐらいは立つ。
 西方に勢力を伸ばす織田家、東北で覇を唱える伊達家、この二つはほぼ間違いなくPLアリであろう。
 というか、多分やってるプレイヤーも何となくだが想像はつく。
 戦国武将はもう一人いるが、彼がゲームをやっている姿が想像出来ないし、そもそも開始時よりゲーム間違ってんだろお前な勢いで何処とも同盟も結ばず鎖国している徳川絡みなので、これは非参戦の可能性が高い。
 いずれ、戦国武将のみでのゲームは厳しいので、アドバイザーを見つけているだろうが。
 そこでセイバーが更に疑問を投げかける。
「……彼に、手を貸す者は居るのでしょうか?」
 彼とは言うまでもない。徳川ロボの次ぐらいにゲームやってる姿が想像しずらい、明智の光秀君である。
 ロワ内での大暴れを考えるに、誰かに協力を求めるといった行為は不可能に近いであろう。
 と、妙なログが流れてきた。

『織田家が滅亡しました』

 全員一斉に目が点になる。
 そして新たに明智家が立つとの話を聞き、誰もが心より納得したとか。


335 :戦国武将に信長の野望をやらせてみた ~あの世編~:2011/07/02(土) 22:51:39 ID:4322JIo6
【明智家 第一ターン ああ、下克上】


「…………これは、予想外、でしたね」
 明智光秀は画面を呆然としたまま見つめている。
 史実イベントである本能寺の変の直前、光秀が信長を安土城に置いたのは僅かな感傷がそうさせたのだが、まさかこんな結果が出てくるとは。
 隣で攻略情報をプリントアウトしたものを見ていた上条当麻も、驚きを隠せずにいた。
「すっげぇ……知ってたのかこれ?」
「いえ、ただ、こうであったならもう少し楽しめたのにと思っただけだったのですが……いやはや、わからないものですね」
「いやわからないっつーか、これいきなりものすげー不利になったんですけど」
 にこやかに光秀は笑う。
「そこを何とかしてください。頼りにしてますよ」
「おーけいわかった。だからその鎌引っ込めてぷりーず」
 ゲームをやるとなった光秀は、さてどうしたものかとこういった未来のものに詳しそうな奴を適当に探した所、幸運の女神に飛び膝蹴りでも喰らったらしい上条当麻君がすぐそこに居たというわけだ。
「不幸だああああああああああああ!」
「はいはい、泣き言はいいですからさっさとやってください。それに何だかんだ言って貴方も結構楽しんでいるじゃありませんか」
「そりゃ……まあ、ゲームで勝負ってんなら平和だし、俺も口で言ってくれりゃ協力だってしたさ。……だから! その鎌引っ込めろって!」
「いえいえ、これは脅しているのではなく、上条君の反応が楽しいからそうしてるだけですよ」
「一緒だろうがああああああああああ!」
 そこで、振り返る光秀。
「そういう事なのですが、何か御用ですかお嬢さん?」
 部屋の入り口からふらりと姿を現したのは、御坂美琴であった。
 いきなりいなくなった当麻が心配になったとか、口が裂けても彼女は言ってあげないだろう。
「ん、わかった。ならいいわ、私も協力してあげる」
 実に快い御坂さんのお言葉に、当麻は即座に返事を返す。
「いらん帰れ」
「なっ!? 何よその言い草! 私が手伝ってあげるって言ってるのよ! 素直に感謝感激雨霰を表現しなさい!」
「いや別にいらねえし。お前居ると大抵ロクでもない事に…………」
 そこで当麻ははたと気付いた。
 脅し抜きでもこの戦国生命体と会話を交わすのは神経が疲れる。
 ならば、会話やらはぜーんぶ美琴に押し付けてしまえば、らくらくかつ楽しいゲーム環境が約束されるのではないかと。
 そう考えた当麻は態度を急変させる。
「いや! 居ろ! むしろ(光秀の)側に居てくださいお願いします! もうビリビリさんが居るだけでこの部屋に彩りが増す事間違いなし! そうでしょう明智の光秀さん!」
「ええ、協力してくれる方が増えるのはとても嬉しいですねぇ」
「つーわけだ、ビリビリ。お前も手伝って……って、おい、お前どうした?」
 美琴は顔を抑えたまま俯き加減、上目遣いで当麻を睨む。
「……~~~っ!! あ、アンタッ!」
「何だよ。どうかしたのか?」
「何でもないわよ! と、ともかく! さっさと説明書寄越しなさい!」
 超理不尽な逆ギレであるが、まあ何時もの事なので当麻はさらっと流す。
 結構な時間この部屋に缶詰だった当麻は、コントローラーをゲームに慣れる意味でも美琴に任せ、ちょっと食事でも取ってくると部屋を出た。


336 :戦国武将に信長の野望をやらせてみた ~あの世編~:2011/07/02(土) 22:52:28 ID:4322JIo6
【インターミッション これがやりたかっただけ。後悔はしていない】


 ものっそい驚いた顔をしている美琴を尻目に部屋を出た当麻は、開放感と共に大きく伸びをする。
「いっやぁ、ようやく羽を伸ばせる。こりゃビリビリ様々だな」
 なんとなく興が乗ったので、お礼に食事でも作ってやるかと調理室へ。
 そこには先客が待っていた。
「おっと、確か……衛宮、だったか」
 キッチンで妙に似合っているエプロンをつけていたのは、衛宮士郎であった。
「ん? 上条か。そっちも食事か?」
「まあな。お前、メシ作れるのか?」
 ちょっと苦笑いの士郎。
「家に欠食児童が居たもんでな」
 ぷっと吹き出す当麻。
「ははっ、俺の所もそうだ。ひでぇもんだぜ、ちょっとメシ忘れると頭に食いつかれるんだ」
「あー、わかるわかる。ウチもそんな感じだった」
 あっという間に意気投合した二人は、一緒にやるかと食事の準備を始める。
 会場での出来事を話題に出すとどちらもドへこみするのがわかっていたので、それ以外の話題をとなり、自然と食に関する話をする事になる。
 というより、やたら食うだけの同居人の話題がメインだ。
「最初の内はそれこそ残飯でも食い漁る勢いだったからなぁ、一食でも抜かすとエライ顔して怒り出すし、勘弁して欲しいよ」
「俺はせめても食事作るのが一人じゃない分楽だったかもな。……いやまあ、欠食児童途中から一人増えたんだが」
 調理を進めながら和やかに談笑する男二人。
 これを、調理室の入り口から覗き込む影があった。
「……アイツ、人にゲーム押し付けといて何やってるかと思えば……」
 歯軋りが聞こえそうな勢いの御坂美琴であった。
 いや、お前こそ何やってんだという話な気がしないでもない。
「本当ですわ。まったく、誰の為にゲーム手伝ってると思ってるんですか」
「そうよそうよ。大体ね、アイツは何時も…………へ?」
 ひょこっと美琴の脇より室内を覗き込んで居るのは、黒子であった。
「ちょっ! 何で黒子まで居るのよ!」
「お、お姉様、しーっ、しーっ、バレちゃいますわよ」
 突然の登場に驚く美琴であったが、黒子と士郎の話は聞いていたので黒子がここに居る訳はそれなりに察する。
 美琴はやたら非生産的な嗜好に傾倒する黒子を、何とかならないものかと頭を悩ませていた事もあり、士郎との仲に関してはとても嬉しい話と受け止めていた。
「……やっぱり気になる?」
「うっ……まあ、その、正直に申しますと、ものすごーく気になります。それほど士郎さんの事を知っているわけではありませんし」
 微笑ましい顔で美琴はこれを見守ってやろうと考えるのだが、ちょっとだけ気になる事を黒子に問いかける。
「そっか、応援してるわ。頑張りなさい……と思うんだけど、何でそんなに引っ付くのよ」
「役得……いえ、こうしないと良く見えないんですの」
「いやいや、顔だけ無理矢理室内に向けつつ、人に抱きついてる体勢って、そっちのが苦しくない?」
「お姉様のぬくもりを感じられる好機をわたくしが見逃すはずありませんわ」
「……衛宮さんはどーしたー」
 黒子は真顔で美琴を見上げる。

「それはそれ、これはこれですわ」

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最終更新:2012年05月03日 17:48
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