第二回放送候補話 (第二回放送案B)◆rZaHwmWD7k
太陽が会場の丁度真上に上がり、A-2に位置する時計塔の張りが正午を指す。
ここに至るまで多くの出会いがあった、闘いがあった、別れがあった。
そして、変革があった。
しかし、その事象だけは6時間前と同一に。
広川による放送は、再びの時を迎える。
☆
やあ、諸君。私だ、広川だ。
今回は放送とは別に報告しなければならない事があるので、
前置き無しで先に連絡しておこう。
報告するのは他でも無い、君たちが身に付けている首輪の事だ。
現状でも君たちの命を握っている首輪だが――
さらなる緊張感を持ってこのバトル・ロワイアルを昇華させるために、特典を付けたいと思う。
特典とは、すなわちこのバトル・ロワイアルを促進させてくれている諸君らに対する報酬に他ならない。
だが、公平さを保つために、報酬を得るための条件を付けさせて貰うとしよう。
首輪を三つ集めたまえ。繰り返す。首輪を三つだ。
ただし、その内の一つは必ずこの放送時に生存している参加者の物に限る。
それ以外の二つに関しては第二回の放送前に死亡した参加者の物でも構わないが、
この放送時に生存している参加者の首輪の数によって報酬にも差が出る。
まず、一つの場合の報酬は肉体の消耗及び欠損の治療だ。
千切れた手足の再生から、疲労の回復までの一手に引き受けよう。
……ただし、これから死に行こうとする者を治療するほど、私は無粋では無いがね。
次に、二つの場合の報酬は追加の支給品の支給だ。
支給品の内容は期待してくれて良い。有益な物が手に入るだろう。
最後に三つの首輪全てが二回目の放送後まで生存していた強者、あるいは幸運な者の場合。
その場合は一つ、このバトルロワイアルに関する情報を開示しよう。
殺したい者の居場所。弱点。何人で行動しているか―――
あるいは、もっと踏み込んだ事も…な。
ただし、質問権は一度だ。良く考えて質問して欲しい。
勿論の事だが、条件を満たして入れば報酬は選べると付け加えておく。
報酬の受け渡しについては手に入れた首輪に報酬を受け取る、とふき込むだけでいい。
直に使いの者を送ろう。
なお、その報酬の受け渡しを阻害した者については即刻首輪の爆破を覚悟してもらう。
私及びこの究極の遊戯に叛逆する、英雄(ヒーロー)は幻想殺しの少年ただ一人で良い。
……説明は以上だ、続いて前回と同じく禁止エリアの発表に移ろうと思う。
30秒、猶予を与えるので準備をして欲しい。
準備はできたと思うので、今回の禁止エリアを発表しよう。
禁止エリアは、
A-8
D-3
H-6
の三つだ。
くれぐれも禁止エリアに足を踏み入れる事の無いよう気をつけたまえ。
では、脱落者の発表に移ろうと思う。
今回の脱落者は
以上12名だ。
この放送で全体の三分の一が脱落した訳だが、
第一回の放送時よりもペースは緩やかになっている様だ、
三回目の放送は前述の報酬もあるので頑張って欲しい。
それでは、今回の放送はここまでにしようと思う。
また6時間後に会おう。
諸君らがまた私の声を聞くことができる様、健闘を祈る。
☆
成すべきことを成し、広川は放送のための設備を切った。
それと同時に、背後から皺がれた声で語りかけられる。
「お疲れ様、広川君」
「あぁ、アナタか」
どこまでも淡々とした、市長として活動していた頃の様に広川は背後の老人に返事をする。
「フォフォ…経過は良好の様だね。
特に第三位は『灰被り』の少女と『鋼の錬金術師』君のお陰で面白い変質が見られるようだ」
どこか高揚した様子で、老人は語る。
その雰囲気は人と言うより、陰謀と老獪さが服を着て歩いている
『物の怪』と形容する方が正確かもしれない。
だが、広川は興味無さげに席を立ち、出口の方へと向かった。
すれ違いざま、老人に問いを投げる。
「このバトル・ロワイアルが幕を降ろせば、アナタもタダでは済まないのでは?」
直に答えは返っては来なかった。
だが、僅かな空白の時間の後、老人は染みの浮かんだ禿頭を撫でながら、返答する。
「確かにそうかもしれない。“彼”は統括理事長のお気に入りだったからねぇ。
だが、僕としてはこの実験が最後まで達成されればそれでいいんだ
だって、科学の発展には犠牲は付き物だろう?
……例えその犠牲が“僕”だったとしてもね」
一考。
やはり広川にはこの老人の真意を理解できなかった。
後藤が、広川を最後まで理解する事が出来なかった様に。
だが、自分なりの結論だけを伝え、部屋を後にする。
「…願わくば、貴方のその情熱はこのバトル・ロワイアルの
完遂のために向けてもらいたいものだな」
男が振り返る事は無く、重苦しい音と共に、扉が閉ざされる。
そして、その場には老人だけが残された。
モニターに映る多くの人間達を見て、老人の細い瞳が開かれいていく。
これから起きる全てを観測せんがために。
「さぁ、絶対能力進化実験(じっけん)はまだまだ始まったばかり」
独りごちたその言葉は、まるで夢見る少年の様な無邪気さが感じられた。
彼は、学園都市という伏魔に幾星霜、身を置きながら、
その名の如く、幻の生を生きている。
「彼ら彼女らは、天上の意志に辿り着けるかな?」
老人の名は、『木原』。―――『木原幻生』
【死亡者12名 残り44名】
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最終更新:2015年10月18日 19:37