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第二回放送◆BEQBTq4Ltk



世界の針は止まらない。
血が流れようが、裏切りが起きようが、死者が出ようが殺し合いは止まらない。
止まると云えば死者の時間だけであり、個人の世界が永遠の停滞を引き起こすだけである。


云わば運命が終わる――与えられた時が使い果たされる。
この会場には運命に叛逆している参加者も存在している。死者が新たな生命を得ているのだ。
本来の時間軸ならば絶命しているはずの生命が、殺し合いの会場に形を以って現界している。
あり得ない現象であり、説明するならば日常に似合わない魔法だの錬金術だの――異能の仕業としか考えられない。


永遠に停止した世界の針を自分で再び動かすことなど不可能である。
他人による干渉だったとしても、簡単に出来ることではなく、平行世界でも限られた人間だけである。



もし殺し合いの運営に『世界』を動かす能力を所有している存在がいるならば。



それは『神』と同義なのかもしれない。










さて、私の声が聞こえた時点で察していると思うが放送の時間だ。
よく聞いて貰いたいが明るいこの時間帯中に外で棒立ちはおすすめしない。
それが原因で死なれても何も面白くないし、私にも責任は取れないからな……。


では禁止エリアの発表を行う。
この放送後に順次に侵入不可になるエリアは【C-6】【E-1】【G-1】だ。


閉鎖されたエリアに侵入すれば首輪が爆発するから気をつけたまえ。
最も僅かではあるが猶予の時間が発生するから誤って侵入しても安心してくれ。


弱者は強者を禁止エリアに放り込めばジャイアントキリング――下克上を狙えるかもしれないな。



次に死者の名前を読み上げる。






以上十二名だ。



殺し合いが始まってから半日が経過した。
十二時間の間に死んだ参加者の数は二十八名にも及ぶ。


その殆どが子どもや女性……何とも悲壮溢れる現実だな。
君達はその手で何人殺した? 何人守れなかった? 何人救えなかった?


力を持っている人間が大した戦果を挙げられずに守るべき存在の屍だけが積み上がる。
生きている人間の時は止まっていない。死んだ人間と違って君達はまだ行動出来るのだよ。


この言葉をどう受け止めるかは自由だ。
殺し合いを主催している人間の戯言なのだからな。有用に使える情報だけ切り取ればいい。


この世界に生まれ落ちたその命、最期の瞬間まで精一杯輝けるよう遠くから祈っているよ。


それでは六時間後に――と言いたいところだが、今回はもう一つ話すことがある。





半日が経過したところだが、ここで一つ新しいルールを追加させてもらう。
平行線を辿ってもつまらないだろう? 殺人鬼に怯え続けるだけは辛いからな。


救済システムに近い物だが――『首輪交換制度』と名付けさせてもらおうか。


なに、簡単だよ。その名の通り『首輪と引き換えに物資を提供するシステム』だ。


首輪を持って【武器庫】【アインクラッド】【古代の闘技場】に行けばそれで交換してもらえる。
今、指定した施設には【無人の首輪交換ボックス】が配置されているから確認してくれ。
色は黒で特に面白みも無い外見をしているからすぐに解るだろう。


参加者に支給された武器は全てランダムであった。
それでは積極的に殺し回っている参加者には失礼だからな。


願いのために戦っている人間に何も与えられなくて。怯えているだけの存在に武器が渡っては不公平だからな。


首輪を回収するには殺人或いは死者の解体が必要となるがそれぐらいは我慢してくれ。
今は武器だけしか交換出来ないが時間が経過すれば別の物資や情報も提供するように努力させてもらう。


……おっと、『首輪の数が多ければ多い程優れた武器が出る』のは当然の話だ。
労力に見合った報酬を与えられるのはシステムにとって当たり前だからな。


『異能など高い戦闘力を保有している参加者の首輪は単体でも価値がある』ということも加えておこう。
ただの学生と国家を担う軍人の首輪が同一では色々と問題があるのでね。すまない。


それと『出てくる武器の種類は完全にランダム』だ。狙撃手に刀剣が出て来ても恨まないでくれ。


さて――色々と話したが今回の放送はこれで終わりにするとしよう。
首輪交換制度は是非とも活用してほしい。
力のほしい者、殺したい存在が居る者、復讐したい存在が居る者……私は全ての参加者の味方だよ。信じるかは自由だがね。


一方的な放送のため君達の声は聞けないが――気付いている者もいるようだから黙っておこう。
その代わりと言っては何だが『武器が必要無い参加者には何か情報を与えるボタンを交換ボックスに備える』ようにしておこう。
首輪を投入して知りたい情報を言えば応えるかもしれないぞ。無論、武器と同じように等価交換だから情報の価値が上がれば必要な首輪の価値も上がる。



さて、これで本当に最期だ。
六時間後にまたこうして君達に話せることを祈っておこう。







放送を終えた広川は汗を拭う。
彼が言った【気付いている者】とは首輪の盗聴を把握してる参加者のことである。
首輪を通して彼らの声は主催陣営に響いており、全ての音声つが監視されている状態だ。


何処かに隠れて叛逆の可能性を示しても、敵に聞かれている。
世界が始まりの音を鳴らそうと、闇は全てを把握していた。



『首輪交換制度は君が思いついたのかね』




広川は声の方向へ――振り返る。


其処には無機質な空間が広がっていた。
構成される色素は灰と薄暗い黒だけ。天から差し込む光も存在しない。


何もない玉座のような物に座った金髪の老人が広川に疑問を投げていた。


「……………………力を持たない人間は奇跡に縋るしか無いのでね」


『そうか。私としては血が流れれば問題は無い』


「殺し合いはこれから加速するでしょう。だから鮮血が飛び交う」


金髪の老人が持っているワイングラスは静かに揺れていた。
中に注がれている液体が赤ワインかどうかは彼しか知らない。
金属音が響く中で、彼らは何をしているのか。殺し合いを監視しているのだろうか。


確かに広川が数分前に立っていた場所には巨大なモニターがあり、各参加者を映している。
しかし金髪の老人が気になっているのは一部の参加者だけらしく、人数の割に視線が動いていない。



『私にとっての時間はまだ先だ……もう少し死人が出てから動かせてもらう』


「まだ半日しか経過していませんからね……それでも多くの死人が出ているのは事実ですがね』


『少し席を外させてもらうぞ』












「解りました――――――――フラスコの中の小人」


【生存者 残り44人】



最終更新:2015年11月12日 10:50