第三回定時放送、または蒼き星の挿話 ◆LJ21nQDqcs
『皆さん、今晩は。
これより
第三回定時放送を始めさせていただきます。
まずお詫びをさせていただきます。
前回、午後六時までに復旧を終了致します予定でした列車運行ですが、未だ一部区間におきまして、ダイヤの停止をさせていただいております。
代替措置としてC-6死者が眠る場所付近に仮設駅を設置しております。
現在、運行区間はB-4駅~C-6駅。F-5駅~D-2駅となっております。
なおC-6駅~F-5駅区間に致しましては、午後九時までに復旧する見通しとなっております。
参加者の皆様におかれましては、多大なるご迷惑をおかけ致しまして誠に申し訳ございません。
続きまして禁止エリアについてお知らせ致します。
今回の閉鎖エリアは【C-4】【G-2】【G-6】の三カ所です。
前回までと合わせて九カ所となります。
午後九時より追加されますのでご注意下さい。
では最後に、第二回放送時から現在までの死亡者を発表させて頂きます。
今回の死亡者は11名。
現時点で、残り参加者は26名になります。
以上で私からの放送は終えさせていただきます。
最後に遠藤から参加者の皆様への挨拶がございます』
◇
『諸君、よく昼間の攻防を生き抜いてきた。
残り生存者ももはや半数を過ぎて26人!あとたった25人を殺せば優勝出来るのだ。
今夜の月は美しい。
今夜は雲もない。夜空を見上げれば、美しい月が、血のように赤い月が見ることが出来るだろう。
まるで、君らが積み上げた血で塗り上げたような‥‥。
ところで私は君たちの必死の戦いをつぶさに見てきて、ひとつの事実を思い出した。
人類の歴史とは戦いの歴史だと。
戦って、戦い抜き、相手を出し抜くために技術を研鑽し、力をつけ、相手を騙す。
勝つために、ひたすらに勝つ為に続けられてきた技術の進歩と戦いの歴史!
そう、戦いこそは人類を邁進させてきた進化の原動力だ!
戦わなければ駄目なのだ。
勝たなければ駄目なのだ。
生き残ればそれでいい?生きてさえいれば儲け物?
そんな甘い、流されるだけの認識こそが己の進化を邪魔しているだけなのだと!
‥‥君たちは既にそれを実感しているはずだ。
闘うのだ!
競い、奪い、獲得し、支配しろ。
その果てに!未来(進化)がある!!』
◆
テープがかちりと音を立てて止まる。
マイクの前に立っていた
インデックスがニコリともせずに立ち去る。
それを見ながらブースの向こう側の編集室、別名金魚鉢でディートハルトが僅かに顔をしかめる。
最後の一節は今大会の実行委員長、つまり最大責任者からのたっての願いで付け足したものだ。
シャルル皇帝のあの演説を《彼》は実にお気に召してたようで、ビデオをくり返し見ていると言う。
文面に関しても《彼》からの大幅な修正を受け入れたため、遠藤とは思えないほど叙情的なものとなってしまった。
完璧を目指す放送屋としては、時間が差し迫っていたとは言え、至極残念な出来であると言わざるをえない。
やんぬる哉。納期に間に合わせることも仕事の一つだ。仕方がない。
妥協でしか無いと思うが、ディートハルトは繊細な自分の心を自ら慰めた。
散らばった吸殻とコーヒーの跡が染み付いたカップをゴミ箱に放り投げ、外の空気を吸おうとブースを出て階段を登る。
■
そこは荒野。
吹きすさぶ風が荒々しく、目を凝らせばそこらに大型生物の骨が散見する。
砂嵐によってぼやけた恒星の光が儚げに大地を照らす。
会場の方を見ればドーム型の結界がすべての光を遮断して鎮座している。
隅が爆発によって多大な損傷を受けており、そこからなにやら真っ黒なものがドンドンと侵入しているのが見えた。
専門でないのでよく分からないが、あの小さなシスターによれば《瘴気》だと言う。
よく見ればその反対方向からも微量ながらも《瘴気》とやらが流入している。
キモン・ウラキモンが開放されたのだから当然でしょう、と会場内から
忍野メメが説明していた。
儀式のために会場に奇跡だの神秘だのを仕掛けた為、真逆の存在の介入を呼び込みやすくなっているそうだ。
対応措置としてキモンに設置した櫓も、ダンとかいう機動兵器によって爆破された。
「会場を覆う結界そのものが、針を刺された風船のように破裂するのも時間の問題だねぇ」
無責任に放言する忍野の説明にいらっときたのは確かだが、その修復を任せられるのは彼をおいて他にはない。
延命処置に過ぎないけどね、と言っていたが、実際そうなのだろう。
これ以上会場内で破壊活動が続けば、結界の自壊は忍野の修復があったとしても免れない。
バトルロワイアルというものについて、ディートハルトはさほど執着もなければ完遂させる意志もさほど無い。
だが、大会が中途に終わり、失敗した場合の保身については考察することも出来ない。そうなった場合途方にくれるしか無い。
■
反対側を見れば巨大なオブジェが見える。
巨大という修飾さえバカバカしくなるほどに巨大。
両手を広げたような形のそれは、《彼》に言わせれば人型の機動兵器なのだそうだ。
かつてこの星の全てを塗り替えたという、伝説的な存在なのだという。
《彼》がこれを使ってなにをやらかすつもりなのか、ディートハルトには見当もつかないし、興味も無かった。
《彼》にははるか遠くのスポンサー達に一瞬のタイムラグも無く会場内の様子を中継することもできるし、
スポンサー達になんら不思議に思わせない速さで対応する術もある。
おそらくは一瞬にしてスポンサー達の前に顔をだすこともできるのだろう。
16世紀の日本に赴き戦国武将を拉致し、数々の異世界から数々の物品を持ってきて、数々の魔術と科学をコピーせしめた。
《彼》に不可能などあるのだろうか。
《彼》に他に望むべきものなどあるのだろうか。
ドキュメンタリーの題材として、《彼》は実に興味深い。
だが、
ディートハルト・リートにとって《彼》はやや完璧すぎた。
彼にとって題材とすべきなのはむしろ結界の中の参加者たちだった。
脱出不可能と思えるゲームを如何にして乗り切るのか。
それを想像するだけで歓喜が内から湧いてくる。
そして出来る事ならば自分をも、ここから連れ出して欲しい。ディートハルトはそう願わずにはいられなかった。
天を見上げる。
朧気ながらに見える太陽は、小さいものと大きいものが重なるように二つ。
宇宙の底にあるおとぎの国。かつては荒野に夢、町に暴力があふれたボンクラたちの理想郷。
この星の名はエンドレスイリュージョン。
その成れの果て。
◆
飛行船の一室。
原村和は、目の前の老人に作成した書類を渡した。
阿良々木暦とのやり取りや、麻雀の合間に作成した、なにやら難しい数式の羅列である。
組成やら反応やら書いてあるが、要は面倒な数式パターンを無数のバリエーションで求めてくる、
数学のテストではよくあるタイプの嫌らしい、面倒なだけの問題だ。
それだけに学生の計算力を伸ばすにはうってつけの材料なのだが。
「大したものですね。一問解くのに何分くらいかかりましたか?」
「二分少々です。条件にもよりますが、慣れれば一分ほどで解き終わると思います」
「では30秒で解き終わるように調整して下さい」
老人はしれっと無理難題を押し付けてくる。
だが了承する他、選択肢はない。拒否すればどうなるのか。どうなってしまうのかは明白だからだ。
穏やかな物腰の老人はソファーによっこいしょと腰掛けて、和を見据えて続ける。
「君には夢があるかね?」
その佇まいはまるで老成しきった老哲学者である。
眉間には深い思案によって刻まれた皺が深く深く刻まれていた。
「あります。咲さんと一緒に、いつまでも一緒に。そして二人で全国へ、一緒に優勝するんです」
カウンセラーのように自分の心に優しく深く語りかけてくる老人に、和はいつしか心の全てを語りかけるほどになっていた。
だが、その表情は夢を語るもののそれではない。唇を噛みしめ、拳に力がこもり、目は伏せられて今にも泣き出しそうだ。
悲しい夢になってしまった。そう自覚せざるを得ない状況に彼女はおかれてしまっていた。
「この星は宇宙の底にあります。だからかは知りませんが、宇宙の全てがここに落ちてきます。夢も希望も美しいものも汚いものも。
全てが混沌となって織りなす風景は美しい。ですが、たったひとつだけ。此処に無いものがあるんですよ。お分かりですか?」
問いかける表情は穏やかだ。とてもこの陰惨なゲームに関わっているとは思えぬ老人の佇まいに、和は引き込まれていた。
答えることも出来ずに居る和に、老人は静かに続ける。
「怒り、ですよ。何故かこの星には、その感情が全くと言っていいほど欠落しているのです」
故に進化出来ずに衰退していた、と彼は続けた。
自らではなにも生み出せず、過去の技術の模倣しか繰り返せなかった、と。
そこに一つのデータが舞い降りてきた。それはシャルル皇帝の演説データであった。
その演説には怒りが込められていた。彼には理解できない、存在すら知らぬ感情であった。
すぐに他の世界との違いが検証され、結果、この星には怒りという感情がないことが判明した。
そしてそれが進化を妨げていたことを彼と彼らは知った。
さらにはこの星から怒りを取り去った現象、事件すらも発覚した。
"幸せの時"と呼称される実験。怒りを知らぬ人間の因子を世界中に振りまいた事件。それが原因であった。
「ならば、その実験の逆を行えばいい。そう思い立った私たちは究極の怒りを求めて、様々な方法を思案しました。
他世界からの協力者によって、バトル・ロワイアルこそが、それにふさわしいという結論に至り、このゲームが開催されたのです」
「そんな。そんなの完全にエゴではないですかっ!」
「えぇ。私の罪は大層なものです。ですから…ここからは誰にも内緒ですよ?」
老人はそう言って人差し指を自分の口元に押し当てた。
■
「優勝者の怒りをこの星中に振りまいたら、わたしは過去現在未来にいたるまでの自分の存在、つまり因果を完全に消去する予定です。
つまりこの大会が起こったことさえ消去出来る。この大会の参加者も貴方も私が連れてきた人間です。
この大会で死んだ人間も死んだと言う因果がすべて消えてなくなり、全てが元通りになるのですよ」
「でもそれでは、貴方がせっかく手に入れた怒りとやらも消えてなくなってしまうのではないのですか?」
「聡明なお嬢さんですね。勿論、それは想定済みです。その為に言峰神父には働いてもらっています。
ヘブンズフィールでしたかな。その魔法さえ発動すれば問題はないそうですよ」
原村和は呆然とするしか無かった。
老人の語ること全てが慮外のことだった。これはまさに魔法だろう。
「ですから」
老人の言葉を原村和は聴き続けることしか、原村和は出来なかった。
「このゲームを完遂させること。それが貴方にとって最も大切な事なのです。
そうすれば
竹井久も蘇りますし、貴方も
宮永咲も元の世界に戻れます。
63名の犠牲者のためにも、私たちはこのゲームを優勝者が出るまで続けなければいけないのですよ」
此の男には経過など問題ではないのだ。結果さえあればそれでいいのだ。
原村和は初めてこの老人に恐怖した。
此の男は怒りだけが欠落しているのではない。根幹の部分で何かが抜け落ちているのだ。
だが、もう起こってしまった現実を巻き戻せる。それは他のなにをおいても原村和にはとてつもなく魅力的だった。
「私の夢を一緒に叶えてくれませんか?」
老人はソファーから立ち上がり、椅子に座ったまま身動ぎも出来ない原村和に手を差し伸べた。
これが悪魔の囁きなのだと、魂を売り渡す契約書なのだと原村和は理解していた。
だが、原村和は老人の引力に逆らえなかった。自らの願望に欲望に逆らえなかった。
「はい、よろしくお願いします」
少女は老人に魂を売り渡した。
【???/飛行船内・原村和の部屋/1日目/第三回定時放送終了後】
【クー・クライング・クルー@ガンソード】
[状態]:健康、怒りの欠如
[服装]:私服
[装備]:???
[道具]:???
[思考]
基本:大会を遂行し、純粋な怒りを手に入れる。
1.全てが終わった後、自らの存在を完全に消去する。
[備考]
※ガンソードにおいて幸せの時が完遂したのちの世界の住人です。
※
カギ爪の男と同一の容姿・思考回路を持ちますが鉤爪はありませんし、腕の欠損もありません。
【原村和@咲-Saki-】
[状態]:健康
[服装]:私服
[装備]:エトペン@現実
[道具]:デスクトップPC×数台、会場監視モニタ×数台、質問対応マニュアル(電子ファイル)
質問対応マニュアル追加分(追加参加者とドロップアウトカードに関するもの)
[思考]
基本:帝愛に従い、咲さんを救う
1:大会を滞りなく遂行させる。
2:役割(麻雀・サポート窓口)をこなす。
3:咲さんが心配。一目だけでも無事な事を確認したい。
4:どうせ打つなら守る為の麻雀を打ちたい。
5:忍野メメを警戒。
[備考]
※登場時期は最終回の合宿終了後です。
※基本的に自分の部屋から離れられません。部屋に監視カメラがついていることを知っています。
※参加者が異世界から集められていることを知っています。
※以下の事柄はSOA!(そんなオカルトありえません)と思っています。
・死者が蘇る。
最終更新:2010年04月02日 02:04