予約被ったので、推敲も何もしてないが没投下



 長さは十センチ程、色は灰色。
 棒状で硬く、感触はひんやりと冷たい。
 握られる為に作られたであろうグリップの握り心地は中々で、手の中に良く馴染んでいた。
 特徴的なのは、その先端にある赤い半球状のボタン。
 そのボタンは押されることを、今か今かと待っているようであり、指を這わせると手の中にうまく納まる。

 それは、スイッチだった。

「これは………………………」
 そのスイッチに対して、一人の青年が困惑の含んだ言葉を漏らした。
 青年にはその手に持ったスイッチに何の知識もなく、当然これが何のスイッチなのか、誰の物なのか、押すとどうなるのか、そもそも押すとどうにかなるのか、全く分かっていない。
 全く分からない物なら、分からない物として何となく自己完結できるが、それがスイッチであるということがなまじ分かっている分、それが何なのか理解することを妨げているのであった。

(えーと、これが支給品……って奴で良いのか?)

 その青年――衛宮士郎はスイッチを握り締めながら、とりあえず分かりそうなことから思考を始めた。
 あまりにも突飛な状況に理解がうまく付いていけず、とりあえずということで配られたデイパックを開けてみた所、出てきたのはそんな物だった。
 自分が先程妙な部屋で言われたことと照らし合わせながら、士郎はこのスイッチは自分の支給品であると当たりを付けた。
 が、何故自分の手の元にこんなものがあるのかが分かった所で、これがどのようなものであるかはやっぱり分からず、結局得るものは何もなかった。

 ところで、今現在、衛宮士郎はこのスイッチが何であるか分かっていないが、それがスイッチであるということは理解している。


 そして、そのスイッチはスイッチである以上、ボタンを有しており、それは彼の手の中にある。
 大抵の人間は目の前に謎のボタンがあった時、どう思うだろうか。

「押していい……のか?」
 押したい、と思うのだ。
 例えそれが怪しくとも、いや怪しいからこそ人間はそのボタンを押すことに奇妙な背徳感と好奇心を覚え、押したいという衝動が生まれる。
 生まれてしまった以上、人間はその衝動に従おうとし、本能の導くままにボタンに指を這わせ、静かに力を込めてボタンを押そうとしてしまう。

「配られたってことはいいん……だよな?」

 彼は再度問うも、無論誰かからの返答を期待している訳ではなく、その問いは謎のボタンを押すことへの躊躇いと、同時に目の前のボタンを押したいと思っていることも示していた。
 そうして衛宮士郎の中でしばしの間、理性と好奇心の熾烈な戦いを広げられ、徐々に好奇心が優勢になっていった。
 それと呼応して、彼のスイッチを持つ手にも力が入り、汗を滲ませながらボタンを押そうと指をボタンに静かに這わせてボタンを――

「て、それは迂闊過ぎるだろ……」

 押さなかった。
 すんでの所で理性が戦局を逆転させ、好奇心に打ち勝ったのだ。
 この状況下でそのような行動を取ることが危険なのは、考えるまでもないことなのだが、それでも迷ってしまうのが人間の短所であり、同時に美徳であると言えるかもしれない。
 閑話休題。

「落ち着け。普通、説明書くらい付いてる筈」

 士郎は気を取り直して、再びデイパックの中を探った。
 最初に出てきたスイッチに気を取られていたせいで、まだ士郎は中身をほとんど知らないのだ。

「お、やっぱりあった」
 そうしてデイパックの中を探すと、士郎の考え通り、確かにスイッチへの説明書はあった。
 書いてある絵が目の前のスイッチであることを確かめながら、士郎はそれを開き読む。

【支給品説明:自爆装置】
  • これはある世界のとあるテロリストが使用した物と同一の物であり、この会場ではモビルスーツの代わりに使用者の首輪が爆発する。
  • 本人は間違いなく死亡するが、他人を巻き込める可能性あり。
  • 複数回使用可能。

「てっ危ねぇ!」
 思わず、士郎はスイッチを放り投げた。
 綺麗な放物線を描きながら空を舞いコロン、と地面に落ちるスイッチ。


 こんなモン、支給すんな!と心の中で叫びながら、今自分が生きていることの大切さを士郎は確かに噛み締めた。
 好奇心は猫をも殺すというが、衛宮士郎は先程、好奇心に殺されかけたのだ。

(落ち着け……流石にこれだけってことはないだろう)

 士郎はそう気を取り直して、再びデイパックを探った。
 ガサゴソという音を響かせながら、士郎はデイパックを漁る。
 そうして出てきたのは―

「これは…………」

 またスイッチだった。

「……………」
 先程の物とは違い、色合いが橙であるが、棒状で先端にはボタンがあり、それは紛れもなくスイッチであった。
 その姿を拝みながら、士郎は祈るように思考する。

(…………待て。
 これはまだ自爆装置と決まった訳じゃない。流石に自爆装置を色違い二個支給されるのはない筈だ……多分)

 士郎はふぅ、と一度溜息を付き、心を落ち着けた。
 先程と違い、絶対にスイッチのボタンを押さないようにしながら、デイパックの中から説明書を探し出した。

【支給品説明:起爆装置】
  • これはある世界のとあるテロリストが使用した物と同一の物であり、この会場では流体サクラダイトの代わりに付属の爆弾が爆発する。
  • 本人を巻き込むかもしれないが、うまく使えば複数人を殺害できる可能性あり。
  • 複数回使用不可。一度押すと、付属の爆弾が全て爆発する。

最近のテロリストの間ではスイッチで何かを爆破するのが流行っているらしい。
そんなことを先ずは思った。



この後、オレンジとニアミスする、みたいな話だったんだけどなぁ

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最終更新:2009年10月28日 21:55