好奇心は猫をも殺す ◆kALKGDcAIk



「さて、どうしましょうか……」

男子トイレに入った海原は頭をフル回転させ、思考を巡らせた。
流石に人が居ないとはいえ、女子トイレに入るのは人として越えられないラインである。
なので、いつも通りの男子トイレに入ったのはいい。
ただ、いつも使い慣れている立ったまま用を足せる便器は使用出来ない。
この姿で立ったまま用を足すのは無理がある。
試したことはないが、構造上不可能なのは容易に想像がつく。
そんな事を考えている内にも、海原の尿意というダムは決壊へのカウントダウンを始めていた。
女性の体は男性よりも我慢するのが大変だ。とか、感心する余裕も無い。
一度元の姿に戻ってから用を足す。こんな簡単な解決法も海原の頭からスッカリ消え去っている。

覚悟を決めて個室の方に入った。
ジーパンと下着を脱ぎ、便座に座る。
この辺りは男の時と同様だ。
ただし、一連の動作の間は全て目を閉じている。
目を開ければ、スムーズに出来たのだろうが、そんな勇気は持ち得ていなかった。
あくまで、この変身はこのバトルロワイヤルを有利に進めるために、仕方がなくやっていること。決してイヤらしい目的ではない。
目を閉じ、出来るだけ意識しないように。
それが姿を借りている少女への、少しばかりの配慮だった。


そして僅かな静寂の後。
海原は安堵のため息をついた。
この開放感。こればかりは男も女も一緒だと海原は実感する。
だがその直後、海原はとてつもない問題が残っていることに気づいた。
自分の試練はこれからが本番だという事に。

男性が小の方を足した時、紙で拭く必要はない。
しかし、女性の場合はその構造上、拭かないとマズイのだ。
拭かないで下着とジーパンを穿いてしまうと、それこそ取り返しのつかないことになってしまう。
拭くには女性の股間に触れる必要がある。
しかし、それは紛う方無き変態の所業。
女性の姿になって、自分の股間に触るなど人として、絶対に踏み入れてはならない禁断の領域だ。
あの世にいる本物の加治木ゆみに呪い殺されても文句は言えない。
紙を捩って、直接触れずに拭こうと考えたが、どうもキレがイマイチなのか拭きとることが困難だった。
これは加治木ゆみの体質によるものかも知れないが、そんな事は海原に分からない。
他にもいくつか対案を考えたが、全て実用には不向きだった。
よって取るべき道は一つ。もはや正攻法しか残されていない。

「スイマセン。あの世に行ったら、土下座しますので勘弁してください」

覚悟を決めて、紙を取る。
そして、厚めに折りたたむ。出来るだけ手に感触が伝わらないようにする為だ。
そして手に意識を向けないようにしながら、慎重に慎重に折りたたんだ紙を動かす。
何度拭けば十分なのか。そのノウハウも海原は持っていない。
故に念入りに。慎重に。ゆっくりと。
雑念を一切取り払うように。




「………………ふう」

何度この作業を繰り返しただろう。
緊張のせいか、手は汗で湿っている。
だが、任務は完了した。
ミッションコンプリートである。
海原の表情は達成感に満ち溢れていた。
かなりの時間を要してしまったが、その分考えられる中で最も被害の少ない方法を選ぶことが出来た。
女体の神秘。変身の魔術を使う者として、その知識がいかさか足りなかったようだ。
しかし、この経験がかけがえの無い糧になってくれるだろう。
こういった事は実際に経験を積まなければならない。書物で得られる知識とは大違いであった。


満足して、手を拭きながら蒼崎橙子の居る部屋へと向かう。
扉を開けたとき、蒼崎橙子は既に目覚め、出発の準備も終えていた。

「随分と長い時間篭っていたようだが、体調でも悪いのか?」
「いえ、大丈夫ですよ」

海原には本当の事など口が裂けても言えなかった。

◇◇◇◇◇



バイクの音が響く。
憩いの館を出発したが、二人は終始無言であった。
そもそも、二人ともあまり関係ないことをベラベラと喋る性格ではない。
理由がなければ沈黙が続くのも当然であった。

しかし、その沈黙もC-4の橋を渡り終え、B-4に入った頃に破られた。

「蒼崎さん、何か聞こえませんか?」
「歌のようだ。方向からすると円形闘技場の辺りか」

歌が聞こえる。
まるで、どうしようもない程の悲しみとそれ以上の激しい衝動を含むような。
そんな不思議で、しかし人を惹きつける歌声だった。

「どうしますか?」
「無視しよう。参加者を誘き寄せる罠の可能性もある。残念ながら今の私達には罠だと分かっていて、飛び込める力はない」

今は蒼崎橙子の姿になっている魔術師。荒耶宗蓮にはこの歌声の持ち主が誰であるか理解出来た。
参加者のデータを把握している荒耶にとって、聞けば声の主が秋山澪である事は容易に分かる。
蒼崎橙子の肉体になる前。意識を移す前に知った情報では、秋山澪は危険な参加者の一人。明智光秀と行動を共にしていたはずだ。
そして、秋山澪の起源である『畏怖』と『逃避』に逆らえぬまま、明智光秀に遊ばれていたはずだ。
恐らくはこの歌声も明智光秀の手引きに違いない。
よって、この歌が参加者を誘き寄せる撒き餌である事は確信に近い。
明智光秀の力は多くの猛者が集うこの殺し合いの場においても、上位に位置する戦国武将である。
そして、間違いなく戦闘を楽しみ、そして飽きることなど決して無い男だ。
体調が万全でも、出来るだけ接触を避けたい参加者の一人であり、今の状態では出会った時点で恐らく詰み。
それ程危険な参加者に近づくリスクは犯せなかった。


海原もこの場ではその意見に同意し、意義を唱えることはなかった。
後ろ髪を引かれるところもあったが、だからといって近づく事が無謀である事も海原自身がよく分かっていた。

Curiosity killed the cat.
英語の諺であり、日本語訳は好奇心は猫をも殺す。
無闇矢鱈に好奇心で首を突っ込めば、命がいくつあっても足りないという意味だ。
海原は一般人ではなく、れっきとした魔術師。その事は過去の経験からも十分承知していた。
現在の目的は『敵のアジト』であり、それ以外の寄り道などする余裕は無い。



結局、停車もせず目的地である『敵のアジト』へ一直線に向かう事になった。
そして、次第に目的地の姿が肉眼でも確認出来るようになった。

「見えてきたな。あれが目的地だ」
「あれが『敵のアジト』ですか…」

その姿形は、誰もが抱く“アジト”のイメージとは少し異なる。
最初の印象は、少々変わったマンション。
しかし、明らかに異質な妖しい空気に包まれていた。
魔術に縁のある海原にはその異常さが理解出来た。

荒耶宗蓮は僅かな安堵を抱いて。
海原光貴は僅かな恐怖を抱いて。

異なる思いの二人を乗せ、V-MAXは目的地へ走っていく。


【A-5/南西/1日目/午後】

【荒耶宗蓮@空の境界】
[状態]:身体適合率(中)、発現可能魔力低下、格闘戦闘力多少低下、蒼崎橙子に転身
[服装]:白のワイシャツに黒いズボン
[装備]:バイク(V-MAX)@現実
[道具]:オレンジ色のコート
[思考]
基本:式を手に入れ根源へ到る。しかし今は体を完全に適合させる事に専念する。
0:なるべくゲームに乗った者に出会わないよう、主催に気づかれないように行動する。
1:『敵のアジト』に向かい、体を適合させる。
2:道中の危険に対し、エツァリを利用して乗り切る。
3:必要最小限の範囲で障害を排除する。
4:機会があるようなら伊達政宗を始末しておきたい。
5:利用できそうなものは利用する。

※B-3の安土城跡にある「荒耶宗蓮の工房」に続く道がなくなりました。扉だけが残っており先には進めません。
※D-5の政庁に「荒耶宗蓮の工房」へと続く隠し扉があります。
※現在の状態で使用できる結界は『蛇蝎』のみです。常時展開し続ける事も不可能です。
※エリア間の瞬間移動も不可能となりました。
※時間の経過でも少しは力が戻ります。
※接触している加治木ゆみの正体がエツァリであることには気づいていますが、気づかないフリをしています。
※今現在、体は蒼崎橙子そのものですが、完全適合した場合に外見が元に戻るかは後の書き手にお任せします。
※海原光貴(エツァリ)と情報を交換しました。
※エツァリに話した内容は「一応は」真実です。ただしあくまで荒耶の主観なので幾らか誤りのある可能性もあります。
※体の調整により多少適合率が上昇しました。どの程度回復しているかは後の書き手にお任せします。

【海原光貴@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康、疲労(中)、加治木ゆみに変身状態
[服装]:白いシャツにジーパン
[装備]:S&W M686 7ショット(7/7)in衝槍弾頭 包丁@現地調達 、黒曜石のパワーストーン@現地調達
[道具]:支給品一式、コイン20束(1束50枚)、衝槍弾頭予備弾薬35発   
    洗濯ロープ二本とタオル数枚@現地調達 、変装用の護符(蒼崎橙子)、加治木ゆみの首輪、変装用の衣類
[思考]
基本:主催者を打倒し死者蘇生の業を手に入れて御坂美琴を生き返らせる。
0:蒼崎橙子(荒耶)について行き、首輪の解除と、主催を倒す方法を見つけ出す。
1:蒼崎橙子(荒耶)に対して警戒を怠らないようにする。
2:上条当麻白井黒子を保護
3:バーサーカー本多忠勝を危険視
4:敵のアジトの雰囲気に警戒
5:円形闘技場から聞こえた歌声に少し興味

[備考]
※この海原光貴は偽者でその正体はアステカのとある魔術師。
 現在使える魔術は他人から皮膚を15センチほど剥ぎ取って護符を作る事。使えばその人物そっくりに化けることが出来る。海原光貴の姿

も本人の皮膚から作った護符で化けている。
※主催者は本当に人を生き返らせる業を持っているかもしれないと思っていますが信用はしていません。
※上条当麻には死者蘇生は効かないのでは、と予想しました。
※加治木ゆみを殺したのは学園都市の能力者だと予想しています。
ヴァンと情報交換を行いました。
東横桃子の外見的特徴を把握しました。
※『「上条当麻」か「魔術に秀でた者」、それに「異世界技術に対応した複数の技術者」を一同に揃える事』で首輪の解除が可能かもしれ

ないと考察しています。
※荒耶宗蓮によって首輪の盗聴機能が無効化されています。破壊ではなく無効化なので、主催者側に察知される事はありません。
※蒼崎橙子の正体が荒耶宗蓮である事には気づいていません。
※加治木ゆみに化ける為に護符を使用しました。今現在の姿は加治木ゆみそのものです。
※荒耶宗蓮の話には懐疑ですが、半分程度は真実であると思っています。


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186:secret faces 荒耶宗蓮 203:Paradox Spiral(前編)
186:secret faces 海原光貴 203:Paradox Spiral(前編)



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最終更新:2010年02月18日 11:30