ボーナスステージ――――第二回定時放送 ◆Wf0eUCE.vg
『こんにちは。皆様ご機嫌いかがでしょうか。
インデックスです。
6時間が経過しましたので、これより第二回定時放送を開始します。
前回と同じく放送内容に関する問い合わせには一切応じられませんので、聞き逃しの無いよう放送の間は戦闘行為などの手を止めることを推奨します。
………………。
…………。
……。
よろしいでしょうか。
まずは前回放送でお伝えした列車の運行に関してお伝えします。
今時間を持って復旧予定とお伝えしましたが、いまだ復旧の目処が立っておりません。
皆様にご不便をおかけして申し訳ありませんが、どうぞご了承ください。
駅構内の電光掲示板にて作業の復旧状態を確認できるように致しておりますので、列車を利用する予定のある方は電光掲示板に目を通していただくようお願いします。
続いて禁止エリアの発表を行います。
皆様、お手元の島内地図をご覧下さい。
今回指定される禁止エリアは【】【】【】の三ヶ所です。
前回指定された三エリアを含み、この放送より三時間後の十五時以降、進入禁止となるのでお気をつけください。
続いて前回放送終了から今放送開始までの死亡者の発表に移ります。
読み上げる順番は前回と同じく、此方で死亡の確認できた死亡順になります。
厳密な死亡時間とは齟齬がある可能性がありますのでご了承下さい。
今回の死亡者は十三名。現時点での残り参加者の人数は三十七名になります。
私からの連絡事項は以上です。それでは六時間後の
第三回定時放送でお会いしましょう。
最後に、遠藤の方から皆様へのメッセージがございます。それでは』
■
『やあ、諸君、遠藤だ。
ゲーム開始から半日が経過したが、元気に生を謳歌しているかな?
喜びたまえ、君たちは約半数が脱落した今もなお生き残っているのだ。
大した努力もせず何もせずに生き残ったというものもいるだろう。
だがそれもまた実力のうち…………少なくともこれまで死んでいった人間よりも間違いなく優秀だ…………っ!
そんな優秀な者たちにこちらからも誠意を見せねばなるまい。
諸君、初めに我々が交わした約束を覚えているかな?
まさか忘れたという人間はいないとは思うが念のためだ、もう一度繰り返しておこう。
優勝者には賞金として10億ペリカが支払われる。
そして死者蘇生には4億、元の世界への帰還は1億支払えば実行される。
ここで何か疑問を持ったものをいるのではないか?
そう。2人死者を蘇らせれば残りは2億……そうなってはもとの世界に戻れるのは2人だけ。
2人蘇らせて2人帰れるのならば、一見辻褄が合うように思えるが…………これが罠……思考的落とし穴……っ!
なぜなら蘇らせた2人に加え、彼らを蘇らせた君らも数に含まれなければならないのだから、還るべき人数は3人………………っ!!
苦労して優勝した先に一人だけ取り残されるなどという事態…………あまりにも残酷……あまりにも酷い仕打ち。
これは落ち度…………完全なるこちらの落ち度…………っ! これではそこまで頑張った優勝者に申し訳が立たない……っ!
…………そこで、だ。我々は考えた…………ここまで頑張ってくれている君たちに何か報いる方法はないだろうか、と。
その結論として…………殺した者の数に応じてボーナスを支給することを決定した…………っ!
ボーナス額は殺害数×1億…………っ!!
つまり……! 10人殺して優勝すれば総額20億の賞金が手に入るということ…………っ!
…………いわば、これはサービス…………功労者へのこちらからの心ばかりのサービス…………っ!
そう受け取ってもらって構わない…………っ!
だが、優勝後など長すぎる……報酬はスグに受け取りたい……そう言う人間もいるだろう。
実に即物的……っ。実に人間的な考え……っ! だが私はそれを否定しない……っ!
故に、用意した…………っ! 即時報酬を受け取れる、そんなシステムを…………っ!!
しかるべき場所で申請すれば、その場で報酬が受け取れるよう手配した……っ!
ただし……っ! 当然ながらそのままという訳にはいかない……っ!
その場合に手に入れられる額は本来支払われる額の1/10。つまりは受け取れる報酬は一名殺害につき1000万となる……っ!
少なすぎるというものもいるだろうが勘違いしないでもらいたい。
相応の手続きを踏まぬ前払い……当然…………これくらいは当然の手数料……っ!
むしろ破格……っ! 優勝という手続きを踏まず金を手に入れられる破格の処置……っ!!
それを理解いただきたい……っ!
私からは以上だ。それでは諸君健闘を祈る。六時間後、日の暮れるころにまた会おう……っ!』
■
「――――遠藤様」
放送を終えた遠藤に、背後から声がかけられた。
遠藤が振り向いた先にいるのは、当然ながら傍らにいた黒服だ。
「よろしいのですか? あのような……」
「ん? ボーナスの事か? もちろん俺の独断じゃない。クライアントの要望だ。
むこうとしては逃げて隠れて漁夫の利狙いの輩に優勝されても興ざめなのだろう。
荒耶宗蓮が死亡した影響もあるのかも知れんが…………詳しいことは俺も知らん」
「…………はぁ。クライアント、ですか…………?」
遠藤の言葉に黒服は僅かに気のない返答を返した。
そんな黒服の様子を横目に見ながら遠藤は胸元からタバコを取り出し口にくわえる。
「……ん。なんだ、知りたいか? クライアントの事を?」
「っ……いえ、そのような事は…………」
見透かしたような遠藤の問いかけに黒服は慌てたように取り繕う。
だが、サングラスの上からでも見てとれるほどの動揺の表情は、いくら否定しようともその興味を如実に表していた。
「…………ふん。隠さなくてもいい。
こんなイカれたゲームを開こうって人間がどんな輩なのか……なんてのは気になって当然だろう……っ」
『クライアント』
これまで雑務をこなすうちその言葉を何度か耳にする事はあったのだろうが、黒服達はその存在について詳細を知らされていない。
正体不明の存在に殺し合いの進行という常識外の行為を手伝わされる。
如何に彼らがプロフェッショナルとはいえ、不気味さや不信感を一切抱かずに働けというのも酷な話である。
そんな気持ちが理解できるからこそ、ニコチンとタールの味に一服した後、遠藤は口を開いた。
「…………教えてやってもいいのだが…………実のところ……俺も詳しくは知らん。
俺もクライアントと直接会ったのは一度きり……その後はあのインデックスとかいう小娘を通しての連絡しか受けていない。
……何より、俺の会った男がクラアント側のどのポジションにいる男なのかも分からない……っ。
クライアントは俺の会った男個人なのかもしれないし、あの男は組織のただの交渉役だったのかもしれん」
遠藤の言葉を要約すると『何もわからない』ということである。
結局のところ黒服の疑問は何一つとして解消されることはなかった。
それどころか、わからないことが増えただけだ。
「だがな……俺のあった男に関してならば、一つだけ言えることがある」
そう言って、遠藤は肺を煙で満たす。
そして一息。煙を吐き出しながら、遠藤は何一つ確かではないあやふやな存在に対して断言した。
「あれは…………まごうことなき人間のクズ…………っ!!」
老若男女を一つの島に閉じ込めて殺し合いをさせるなど、前帝愛会長、兵藤を上回る狂気の沙汰。
だが、遠藤が評価を下した理由はそれだけではない。
一瞬とはいえ直接言葉を交わしたことのある遠藤だから言える、ある種の強い確信を持た言葉。
「くくく……っ。
もっとも俺がいえた立場ではないだろうがな。
こんなことに手を貸した時点でもう引き下がれんのだよ、俺もお前もな。
俺から言えることは…………どうせなら楽しめ…………それだけだ」
遠藤の手にしたタバコの先端が僅かに震え、地面に灰が落ちた。
それを見ながら、黒服は渇いた喉を潤すように、たまった唾をゴクリと飲み込んだ。
『――――遠藤様』
それと同時にスピーカーから抑揚のない無機質な少女の声が響いた。
別室にいるインデックスだ。
遠藤は近くの内線のボタンを押しこれに対応する。
「なんだ?」
『来客です』
「…………すぐに行く。応接間にお通ししておけ」
『かしこまりました』
淡々としたやり取りを終えた遠藤は、まだ十分な長さを残したタバコをポケットから取り出した携帯灰皿に押し付けた。
そして足早に放送室の出口へと向かい、ドアノブに手をかけた。
「……噂をすれば、という奴だ。クライアント様のご到着だ。
どうだ、なんなら、お前も来るか?」
振り返った遠藤は皮肉気に笑いながらそう黒服に語りかけた。
【第二回定時放送終了(ゲーム開始十二時間経過)@残り三十七人】
最終更新:2010年01月03日 14:56