「殺し合え、ねぇ……全くもって意味が分からん……」
『鋼の錬金術師』の二つ名を持つ少年、エドワード・エルリックはその時単純に困惑していた。
眼前には真っ黒な闇が広がっており、現在位置の特定すら叶わない。
朧気な視界で分かるのは、此処が森の中ということだけ。
明かりを点けようとも考えたが、
殺し合いとやらが本当に開始されてるならそれは拙い行動。
あの爺さんの言葉を信じ込み殺し合いに乗ってしまった馬鹿を引き寄せる可能性もある。
そういう奴が居ると思いたくないが、万が一の事態は念頭に入れておいた方が良いだろう。
「結構な数の人がいたよな……」
エドの脳裏に思い描かれるは先の謎の部屋での出来事。
自分同様に光の輪で椅子へと拘束された人々。
パッと見た限りだが二十や三十では効きそうにない人数があそこには居た。
そんな部屋へと唐突に入室してきたのは、長々とした服を着た白髭の爺さん……兵藤和尊。
兵藤は愉悦の表情でこの『ゲーム』とやらの説明をし、そして一人の男の命を奪った。
到底悪人には思えない眼鏡の男が、首輪の破壊力を知らしめる為の広告台として殺害されたのだ。
「……くそっ……」
バインドにより身動きが取れなかったとはいえ、眼前で罪もない人間をみすみす死なせてしまったのだ。
エドに思うところがない訳ではない。
「……確かあそこにはアルもいたな。合流できれば心強いんだけど……そう上手くいくとも思えねえな」
ため息とぼやきを零しながらと、エドは一際大きな木へと近付いていく。
一先ずそこで支給品の確認を行おうと思っていたのだが――
「止まりな、ガキ」
――エドが大樹へと接近し終えるよりも早く、その後頭部に言葉が掛けられた。
同時に頭部へ押し付けられるゴツゴツした固い感触。
銃口――その感触が意味する物を理解すると同時に、エドは両手を宙に向けて上げていた。
ガチャリ、と撃鉄をあげる音が響く。
「開始早々あたしの近くにいたのが運のツキってな。アンラッキーだったな、クソジャリ」
「ああ、本当にツいてねぇよ。んで、あんたは殺し合いに乗ってんのか?」
謎の脅し屋に皮肉を飛ばしながら、エドは冷静に事態の把握を努めていた。
声からして敵の性別は女性。
装備は拳銃。だが他に何か武器を持っている可能性もあり。
錬金術に携わっているかは現時点からは判断できない。
「無駄口を叩くな。質問してんのはあたしだ、てめえはこっちの質問に大人しく答えてりゃあ良い」
「……へいへい」
思考に集中していたとはいえ完全に後ろを取られたことは痛手だった。
現状の打開は可能だが、そのリスクが計れない。
もし敵が拳銃以外に強力な武器を隠し持っていたら、もし傷の男(スカー)のように常人離れした身体能力を有していたら……様々な不安材料が脳裏に浮かび上がる。
(とはいっても、このままじゃ殺されそうだしな……)
後方の脅迫者に聞こえないよう注意しながら、エドは小さく溜め息を吐く。
このまま敵の指示に従ったところで、無事にすむ保証はない。
覚悟を決めるしかないだろう。
「さてお待ちかねのクイズの時間だ。さっきのジジィについて何か知ってるか?」
「知らねえな。見たこともない爺さんだった」
「ちっ、使えねえな。じゃあ次の質問だ。お前、この首輪を外せるか?」
「さあな、試してないからまだ分からん」
「……外す方法を知ってんのか?」
「可能性の一つとして、だ。確証はない」
ふと後頭部に押し付けられていた感触が消失する。
食らいついた! ……と悪魔の微笑みを見せるは鋼の錬金術師エドワード・エルリック。
勿論その笑顔は後ろに立つ脅迫者の目には映らない。
エドは笑顔を引っ込めながら振り返り、脅迫者と対面を果たす。
「やってみろ。ただし少しでも怪しい素振りを見せたら、てめえの頭が吹き飛ぶぜ」
そこにいたのは冷たい瞳で銃口を向ける一人の女性。
右肩から首、二の腕にまで延びたタトゥーと、露出度の高い服装が印象的であった。
両腕を下げつつも、エドは敵の姿や装備を把握……充分に抗える範疇だと理解した。
肩に掛かっていたデイバックを地面に下ろし、その中身を確認する振りをしつつ膝を付く。
「まぁ、あんまり期待しない方が良いと思うぜ」
相手を刺激しないように、また反抗の意志がない事を伝えるように、エドは言葉を出す。
そして、デイバックへと手を伸ばす寸前、感づかれないよう揉むように両手を合わせた。
両腕がデイバックへと伸びていく。
デイバックの口へと手が掛けられ―――そのまま流れるように地面へと触れた。
瞬間青白い閃光が闇を切り裂き、地面がまるで飴細工の如く歪んだ。
「なっ……!?」
突然の異変に驚愕する青刺の女。
波打つ地面に足を取られ、その体勢が崩れる。
向けられていた銃口も体勢の崩れと共にズレが生じる。
そして、その機を見過ごすことなく鋼の錬金術師が動いた。
再び両手を合わせながら一歩、二歩と地面を蹴り加速。
勢いそのままに、女の豊満な胸部へと前蹴りを打ち込み―――そこで銃声が轟く。
強烈な蹴撃を喰らいつつも、引き金は執念で引かれていた。
火薬の炸裂により急加速した弾丸が、空を切りエドの頬を掠める。
「ッのやろ!」
だがエドは怯む事なく、倒れる女に空中で組み付く。
そして馬乗りの形で着地、錬成により刃の如く変化した手甲を女の喉元へと押し付けた。
「人に物頼む時はもうちっと礼儀正しくすんだな」
「……あーあーあー! レヴェッカ姉さんも焼きが回ったもんだぜ! こんなクソガキにぶっ倒されるなんてよお!」
女―――レヴィは存外素直に負けを認めた。
抑えられた右手が持つ拳銃を遠くに放り投げ、ふてくされたような表情を浮かべる。
この素直さはエドにとっても予想外。
エドは、拍子抜けを覚えつつも武装の解除を確認し、レヴィから身体をどける。
二三発殴っておこうか、それともふんじばろってやうか考えながら、レヴィを睨むエド。
その瞳には歴然とした警戒心が宿っている。
「それにしても分かんねえな、さっきの天変地異はお前の仕業か?」
「……質問の続きだ。あんたは殺し合いに乗ってるのか?」
「はっ、シカトってか」
「質問に答えな」
「さあねえ。金にならねえ殺しは正直ごめんだし、面倒くせえとも思ってる。ただ――」
と、そこでレヴィは言葉を切り、エドへ視線をやる。
その不自然な言葉切りに不審を感じつつ、エドはレヴィの視線を受ける。
何となく、イヤな予感がした。
「……ただ?」
「――ムカつく奴は話が別だ」
その言葉を口にすると同時に、レヴィがまるで親睦の握手を求めるように軽く右手を差し出す。
エドの視線がその右手に移っていく。
そして、視界に映り込む物は、拳銃よりも更に小さい手の平サイズのガン―――デリンジャー。
銃撃戦に用いるには最悪の、だが暗殺に用いるには最適の拳銃。
エドの世界の技術力では到底有り得ないサイズに凝縮された拳銃が、レヴィの手に握られていた。
レヴィは、それを隠し持っていたのだ。
「なっ……!?」
もしエドが綿密なボディーチェックを行っていれば、気付けたかもしれない。
もしエドが『手の平に隠し持てる小ささの銃』という存在を知っていれば、気付けたかもしれない。
一つは甘い見通しにより、一つは世界の違いというイレギュラーにより……エドは窮地へと追い込まれた。
距離は至近、加えて射手は拳銃を日常的に扱うプロ―――常人であれば回避は不可能な状況。
だが、
「うおおおおおおおおおお!!?」
その窮地を前にエドの身体は行動を起こしていた。
理解が追い付くよりも早く、脳が反応するよりも早く、様々な戦いを経験してきた身体が動いていた。
思い切り、受け身も体勢も何も考えずに横っ飛び。
その無茶な回避が影響してか、空気を切り裂く高音が頬の直ぐ横を通過するに終わる。
後方に聳える木々にデリンジャーから射出された鉛が着弾した。
「shit! このガキ、避けやがった!」
勝利を確信していたレヴィであったが、獲物が取った土壇場での超回避に、その顔は驚きに変わっていた。
とはいえ驚愕により身動きを忘れる事はなく、先程手離した拳銃を拾い上げデリンジャーと共にエドへと向ける。
そして、間髪いれず銃撃。デリンジャーと拳銃から、同時に弾丸が放たれた。
対するエドは地面に転がる形で両手を合わせ、地面に触れる。
錬成による発光現象と共に地面がせり上がり、エドを守護する防壁へと変貌した。
二発の弾丸は防壁に命中し、その進行を止める。
「あ、危ねえ、死ぬかと思った……なんつー危ない女なんだ、アイツは!」
「チッ、また避けやがった……ヒョイヒョイとすばしっこいガキだぜ」
防壁を隔てて互いに互いの敵に対する愚痴をこぼす両者。
レヴィは空になったデリンジャーをデイバックに詰め込み、エドは頬を流れる鮮血と冷や汗を拭う。
小休止から、再び闘争に足を踏み込むのは両者同じタイミングであった。
「オ……ラッ!」
レヴィが拳銃を構えると同時に、エドが壁を飛び越えて現れる。
同時に右手の鋼義手を振り、壁に隠れている際に拾い上げた拳大の岩塊を投擲。
岩石が、唸りを上げてレヴィの顔面部へと急迫する。
「チィッ!」
その一撃をレヴィは身を捻りだけで易々と回避。
ダメージを与えるには至らなかい……が、それでも隙は発生する。
レヴィが体勢を立て直した時には、既に疾走を始めているエド。
俊敏な動作で見る見る内に距離を詰める。
だが、レヴィも銃が生活必需品とされている街で、二丁拳銃と呼ばれ恐れられているガンマン。
瞬きの間に、銃口を攻撃の為に走らせていた。
疾走するエドに銃を操るレヴィ……二者の距離が急速に縮まっていく。
そして二人が遂に交錯する―――
「隠者の紫(ハーミット・パープル)!!」
―――かと思われたその時、両者の身体に紫色の茨が巻き付いた。
予期せぬ事態にさしもの二人も驚愕し、動く事を忘却してしまう。
「――and 波紋!!」
そして、茨を介して二人の身体に流れる、電流のような衝撃。
疑問を挟む余地すらない。
二人はすんなりと意識を失い、その身体を地面へと横たえた。
「悪いのぉ、頭が冷えるまで少し眠ってもらうぞい」
立つ者が誰もいなくなった闘争の場……そこに颯爽と現れる初老の男性。
男は茨を駆使して二人を引き寄せ、その肩に担ぎ上げる。
「銃声が聞こえたから向かってみれば全く……喧嘩っ早い若者たちじゃな……」
溜め息一つ、男は二人を肩に乗せ歩き出す。
この男の名はジョセフ・ジョースター。
理解不能なゲームに参加させられ、途方に暮れていたところで二人の戦闘音に引き寄せられた哀れな老人。
様々な戦いを経験してきた狡猾な老兵である。
「……全くもって厄介な事に巻き込まれてしまったわい……そろそろ隠居させてくれても良いと思うんだが……」
現状は最悪と言っても過言ではない。
謎の首輪により命が握られ、あの兵藤とかいうクソジジィの居場所も分からない。
自身の能力を使えば内部構造を読み取る事は可能かもしれないが……自分を参加させてる時点で何らかの対策が成されてると考えた方が良いだろう。
「さて、何処かこの二人を休められる場所を探さなくては……流石のジョセフ・ジョースターといえど気絶者二人を背負った状態では戦えん。
それに支給品の確認もしておきたいしのう」
客観的に見れば、この二人はゲーム開始早々に殺し合ってた危険人物である。
このまま放置しておいても何ら問題はないだろう。
だが、どうしてもジョセフにはその選択が出来なかった。
眼前の少年等は、老いぼれた自分とは違う前途ある若者達だ。
彼等はこれからの時代を切り開くに不可欠な存在なのだ。
自分の孫やお調子者のフランス人と同様に、未来に必要な存在なのだ。
その若者達を、こんな腐った『ゲーム』などで死なせたくない。
未来に花開くその芽を、こんな狂った『ゲーム』などで枯らせたくない。
だからこそ、放っておく事が出来なかった。
ジョセフ・ジョースターは未来への遺産を護ろうと行動を起こしたのだ。
老兵は二人の若者を背負って歩き出す。
彼が自身の孫や宿敵の参戦を知るのはこの少し後。
彼の戦闘潮流は、まだ始まったばかり―――……
【一日目/深夜/A-6・森林】
【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3、ウルフウッドの拳銃(7/10)
@トライガン・マキシマム、デリンジャー(0/2)@トライガン・マキシマム
[思考]
0:殺し合いの転覆
1:二人を休められそうな場所を探す
2:1の後『隠者の紫』で首輪の解析
3:襲われたら応戦
4:若者には死んで欲しくない
[備考]
※承太郎達の参戦をまだ知りません
【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]気絶中、頬に傷、疲労(小)
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:気絶中
1:アルと合流、殺し合いを止める
[備考]
※マスタングとブラッドレイの参戦に気付いてません
【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]気絶中、胸部にダメージ(小)
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×0~1、予備弾薬(10/10)×2
[思考]
0:気絶中
1:首輪を解除する。襲ってきた奴、ムカつく奴は殺す
最終更新:2009年08月13日 21:06