ハローミシェーラ、元気ですか?
兄ちゃんは元気です。
ヘルサレズム・ロッドに来てからもう一月ばかりが経ちました。
外からはとやかく言われる事の多い街だけれど暮らしてみれば意外に居心地もよく、しなしながら残念な事にあまり平穏な日々は送れていません。
まあ、それでもそれなりに楽しく、飽きの来ない日々だとは思います。
さて、そんな兄ちゃんですが今現在とんでも無い事に巻き込まれています。
というか、なんなんでしょうか、これ。
真っ暗闇の空間に人がひい、ふう、みい……ざっと数えて三十人ほどが椅子に座っています。
というか、兄ちゃんみたいに座らされているものが殆どなのでしょう。
今現在、兄ちゃんは手足を椅子につなぎ止められ椅子から立つ事もできません。
多分みんなそんな感じなんだと思います。
加えてなんか、それらの人々は不自然な黒色にベタ塗りされていて、その外見を把握することができません。
普通の闇ならば『眼』のお陰で見通す事ができるのですが、何故かこればっかりは無理みたいです。
いやはや、さっぱり理解不能。
頼むからドッキリとかであって欲しいんですけれど、どうなんでしょうか。
「―――いや、待たせてしまったかな」
とか何とか言ってる内に事態は進展していきます。
唐突に灯るスポットライト。その中心に悠然と立つ一人の男。
……何か見覚えのある男です。もういやな予感しかしません、助けて。
「さてまず自己紹介といこうか。僕は堕落王フェムト。このゲームを仕切る者さ」
堕落王フェムト。
それはヘルサレズム・ロッドに住む者であれば誰もが誰も、それこそ人間から化け物までが知る怪人。
普通と退屈を嫌う、変人奇人の化け物だ。
つい数週間前にもヘルサレズム・ロッド中を震撼させた『ゲーム』を行い、何十もの犠牲者を生み出した。
……と、その怪人が眼前にいます。
もう何だろう。お先真っ暗としか言えません。
ミシェーラ、このままお兄ちゃんはグッバイしそうです。
「まあ何だ、回りくどいのは君達も嫌だろう。単刀直入に言うと、ゲームとは―――
殺し合いだ。ルールは単純明快。最後の一人になるまで殺し合い、生き残れば良い」
……案の定でした。
なんですか、そのバイオレンス溢れるゲームは。
ゲームって単語の意味理解してんのかな、このひとは。
一回ゲームって単語辞書で引いてみろよ、頼むから。
しかもニヤニヤと笑ってるしよお。ああ腹たってきたな、もう。
「フェムト、我が輩がそのような『ゲーム』を許すと思うか」
フェムトの演説に立ち上がる人物が、一人いた。
その人は僕も良く知る人物で、こういう場面でこの人以上頼りになる人を僕は知らない。
クラウス・V・ラインエルツ。
秘密結社ライブラの一員であり、僕等のボス。
強く優しくそれでいて短気で理不尽で、世界を軽く数十回救っている(らしい)男だ。
先程まではベタ塗りされていた筈の全身が、何故か今は普通に戻っている。
フェムト同様にスポットライトがクラウスさんを照らし、暗闇を切り裂いて、その姿が浮かび上がっていた。
クラウスさんの側には、ひしゃげた拘束具を無惨にもぶら下げた椅子が在る。
どうやら拘束具を無理矢理に壊して立ち上がったようである。
流石というか、クラウスさんなら当然に思えるから不思議だ。
「僕もそこのジェントルマンに賛成かな。そんなツマラナそうなゲームやんなくても良いでしょ、ねぇ? フェムトさん。何が目的かは知らないけどさ」
驚いた事にそんなクラウスさんに追随する人が一人現れた。
クラウスさん同様に、拘束具を無理矢理ぶっ壊して立ち上がる男。
ド派手な赤コートと天に向かってトンガラがった黒髪が印象的だ。
表情は柔らかいけど、この人もクラウスさん的なトンデモ人間なんだろう。
……こんな人達と殺し合わせるつもりだったんですか、あの変人は。
「ああ、クラウスにヴァッシュ君か。いやはやその椅子は魔界で作らせた特注品なんだが、君達を抑えるには至らなかったみたいだね。
で、なんだっけ、理由を聞きたいのか? ヴァッシュ君。このようなゲームを開催した理由を。 まあ、そうだね。一言で言うなればやっぱり―――」
そして、フェムトは一度そこで言葉を切り、息を吸い込む。
その後に吐かれる言葉は、容易に予想できた。
「―――退屈だからかな」
……思った通りだ。
この男は、そうなのだ。
自分が退屈だから、世界が退屈だから。
それだけの理由で何十もの人々を巻き込んで、こんなどうしようもなく狂ったゲームを行う。
そんなどうしようもなく狂った男が、フェムトなのだ。
「退、屈?」
「そう、世界は退屈だ。誰もが誰も反吐がでるくらいに退屈ないつもを過ごしている。観てても何ら面白くない。
だから、僕は『ゲーム』を起こすのさ。分かったかね、ヴァッシュ・ザ・スタンピード」
フェムトの話を聞いていくに従い、ヴァッシュと呼ばれた男の表情が険しいものへと変わっていく。
フェムトを知っている者であれば、あの返答に驚く事はない。
トンデモ人間ではあるようだが、裏の世界については余り詳しくはないのだろうか。
「退屈ねえ……そっか、なら僕と戦りあってみるのはどうだい? 非常にスリリング且つ楽しい勝負ができると思うけど」
「む、ならばその役目は我が輩が。一般市民を危険に晒すことは……」
「いやあ、心配はいらないよ。僕はこれでも結構厄介事には馴れてるんで」
「ちょっと待った! 何で僕を抜かして話を進めてるんだ! 確かにそれも面白そうではあるが、僕はどっちかと言うと観てる方が好きなんだ。その案は却下させてもらうよ―――」
と、ヴァッシュとクラウスさんとフェムトが掛けあい、微妙に緊張感が削がれ始めていたその時だった。
「―――もう良い、黙れ」
世界が一変したのは。
僕もヘルサレズム・ロッドの一員だ。
多少の事では動じないつもりではある。
だから、今回の出来事だって、思ったよりも冷静に受け止められている。
フェムトに拉致されたことも、殺し合いを強要されかけていることも、何となく受け止められる。
ヘルサレズム・ロッドならこんなことも有り得るんだと、頭の片隅で仕方なしに理解しているからだ。
でも、次の瞬間、僕の世界の矮小さはまざまざと見せ付けられた。
「う……ゲえっ……!」
その存在を目にすると同時に、僕は胃の中のものを全部吐きだしていた。
視線の先には何かがいた。
全身が白色の何かで構成され、顔だけが人間の、何か。
この程度の異形などヘルサレズム・ロッドにはごまんと居る。
でも、それでも僕はその存在を理解できない。
ただ吐き気が身体を支配し、震えが止まらない。
何なんだ、あれは。
分からない。
分からない。
分からない。
「俺をここに連れてきたのは、貴様か」
「……そうだが」
「元の場に戻せ」
「それは……出来ない、ね」
あのフェムトが明らかに気押され、ヴァッシュも、クラウスさんでさえも押し黙る。
それ程の存在感が、その異形からは在った。
身体の震えが止まらない。心臓が気持ち悪い程に早く、脈を打つ。
「なら―――死ね」
「ッ! だめだ、ナイブズ!!」
その何かが何をしたかは、僕には分からない。
その何かを直視する事ができなかったからだ。
だから、僕には何がどうなったか分からない。
ただ、何かの声とヴァッシュの声が聞こえ
ドン!
―――直後、爆音にしては小さな破裂音と何かが滴るような音がが響いたことだけは分かった。
「……貴様」
「聡明な判断だよ、ミリオンズ・ナイブズ。これ以上抗うというのなら、残念だが君にはそこの彼と同じ末路を辿ってもらう事になる」
「フェムト、貴様!」
「クラウスもヴァッシュ君もだ。今は静粛に話を聞いていてくれ」
破裂音の先に視線を動かすと、そこには凄惨が広がっていた。
二頭身の、異形といえば異形の人間が、死んでいた。
胴体と首を泣き別れにして、おかしい程の血液を零しながら、死んでいる。
それは何時も通りといえば、何時も通りの光景だった。
少なくともあの存在を見た後では、どうにもインパクトに欠ける。
「君達も気付いたかな? 先程この男を殺害した物と同じ物を君達にもプレゼントしておいた。
抵抗するのは自由だけど、まあ無駄骨は覚悟しておいた方が良い」
でも、自分もああなる可能性があるとなると話は別だ。
首元に手をやると、どうにも金属質な感触。
冷や汗が噴き出す。
どんな状況でも、こんな状況でも、クラウスさんが居るなら大丈夫だと思っていた。
あのヤバすぎる異形も、フェムトも、この状況も、クラウスさんなら何とかしてくれると思っていた。
でも、流石にこの状況はマズイ気がしてならない。
だってクラウスさんの首にも、首輪が巻きついているのだから。
抵抗の術は封じられたも同然だ。
「最低限の武器と食糧はこちらで支給させてもらう。とはいえ、君達から奪ったものが殆どだが。
あと三時間に一度死者の発表をさせてもらうよ。君達の悲観に暮れた顔を見るのも楽しそうだ。
……それじゃあ、そろそろ始めようか。この状況はちょっと僕にとっても心臓に悪いんでね」
チラリと、おそらくあの異形がいる方へと視線を向けて、フェムトは一度手を叩く。
「じゃあ精々楽しませてくれ、諸君」
その言葉を言い切ると同時に、フェムトやクラウスさん達を照らしていたライトが消え、周囲に闇が戻った。
暗闇に包まれた世界。
そして数秒の時間が経った後に、変な感覚が身体を包む。
何かに引っ張られるような、吸い込まれるような、変な感覚。
その感覚を最後に、僕は再びのドタバタ劇に巻き込まれる事となった。
ハローミシェーラ、それでもってグッバイミシェーラ。
兄ちゃんは、大変なことに巻き込まれたようです。
【内藤泰弘キャラ・バトルロワイアル―――開催】
【ボク様@トライガン・マキシマム 死亡】
【残り三十名】
最終更新:2010年08月05日 22:19