46話 Great elder brother
「もう14人も死んでいるのか……」
まさかたった四時間の内に、そこまで死人が出ているとは思わなかった。
ゴメスにエロリアも死んでしまったらしい。
アレックス達や、ドラゴナス、ムシャの名前が呼ばれなかったのは、
不幸中の幸いだろうか。
この
殺し合いにヘレンがいなくて本当に良かったと思う。
もしヘレンがいたら俺はこうも冷静に行動は出来なかっただろう。
「禁止エリアは…いずれも遠いな」
発表された禁止エリアが書き込まれた地図を見ながら銀色の人狼
ヴォルフが言う。
俺達が今いる廃村は多分エリアG-6。
禁止エリアにこそ指定されなかったが、これ以上ここにいても、
何も収穫は無さそうだ……何せ崩れかけの家ばかりだし。
「二人共、腹減ってるか?」
俺はヴォルフと、その妹の
リーヴァイに訊く。
二人は頷いた。
「それじゃあ飯食ってからこの廃村を出発しようぜ。
もうこれ以上ここに居ても仕方無さそうだからな……」
「そうだな」
「分かった」
俺達三人はそれぞれデイパックの中から食糧を取り出し軽い食事を取り始めた。
クレアスは最初入っていた所とは別の廃屋の中で放送を聞いた。
「エロリアが死んだか…」
こうも早くあいつが死ぬとは思っていなかった。
エロリアもそれなりの手練れだったからな、だが、上には上がいるんだろう。
向こうでディオナと再会してるかもな……。
勇者軍のガチホモ海賊ゴメスもやられたらしい。
同じ趣味の者として少しは関わりもあったが……特に悲しくは無いな。
俺が殺した少年の名前も呼ばれたのだろうが、名前を聞いていないから分からない。
さてと……最初の四時間で出た死亡者はエロリアを入れて14人か。
結構早いペースだな…俺の他にもやる気になってる奴がそれなりにいるようだ。
「もう少しこの廃村を探索して…出るか」
俺は少年から奪った小型リボルバー拳銃を片手に廃屋を出、
廃村を西の方へと進んで行った。
しばらく歩くと、前方数十メートル先に見える何かの小屋が、妙に気になった。
俺は近くの廃家の陰に隠れ様子を窺った。
「!」
しばらくして小屋の中から水色と白の毛皮を持ったワーウルフが出て来た。
身体付きからして、どうやら雌だ。
ワーウルフは小屋から少し離れた場所の、茂みの中でしゃがみ込み、動かなくなった。
……どうやら用を足しているらしい。
あの小屋の中には、他にも人の気配がする。
複数で行動しているのか?
(…良い事を思い付いた…)
俺が今いる場所は風下、匂いで気付かれる可能性はあるまい。
気付かれないように近付いて、それから……。
「ふぅ……」
ちょっと用を足すために、消防小屋から少し離れた場所まで来たけど、大丈夫だよね?
早く出切らないかな、さっさと戻らないと。
ジョロロロ…。
「はぁ…出た出た」
やっと出し切った。結構溜まってたみたいね。
さてと、早くダーエロとお兄ちゃんの所に、
チャキ。
戻ろうと、したんだけど。何て事。
「動くなよ。俺の言う事を聞け」
「あ……」
風下からやって来られたのかな、まさか、いつの間にか、側に銃を持った男が立っているなんて。
右こめかみの辺りに冷たい銃口が押し付けられている。
男の声の様子からして本気、下手な事をすれば引き金を引く……!
「……立て」
「……」
ど、どうすれば良いんだろう……。
遅いな、リーヴァイの奴。
小便しに行くと言っていたが…まさかそんなに遠くには行っていないだろう。
流石に年頃の女の用足しに付き添ってやるとは言えないしな…。
ダーエロは外で見張りに付いているが。
「…! お前…!?」
ダーエロの様子がおかしい。
ショートソードを持って俺も外に出る。
「!! リーヴァイ!!」
用を足しに行っていたはずのリーヴァイが、そこにいた。
見知らぬ、黒髪に赤い鉢巻を巻いた若い男に銃を首の辺りに突き付けられながら。
「お前、アンデッドナイ軍のクレアスか…!」
「そう言うお前は魔王軍四天王のダーエロだな」
クレアス…という青年は、どうやらダーエロと面識があるらしい。
しかし、明らかに友好的な雰囲気では無い。
いや、リーヴァイに銃を突き付けている時点で友好的もクソも無い。
「お、お兄ちゃんごめん…」
リーヴァイが申し訳無さそうな口調で言う。
恐らくは捕まって人質になってしまった事を謝罪しているのだろうが、
良いんだ、お前が悪い訳じゃ無いよ、それより。
「貴様、妹を放せ……!」
牙を剥きだし、唸り声を上げ威嚇する。
だが、下手な真似は出来ない。良く見ればクレアスは引き金に指を掛け、
いつでも撃てる状態にしている。
ここは大人しく隙を窺うしか無いか……。
「二人共、持っている武器を捨てろ」
「……」
「……」
「さっさとしろ。こいつの命が惜しく無いのか?」
「ぎっ…!」
クレアスがリーヴァイの首に銃口を強く押し付けた。
あんな所を撃たれたらいくら人間より体力が勝るワーウルフでも、
致命傷は確実だ……!
「ダーエロ……」
「……ああ」
俺は持っていたショートソードを、ダーエロは一〇〇式機関短銃を、
地面の上に投げ捨てる。
「…良し、そのまま動くなよ」
まずい、これは非常にまずいぞ。
クレアスにリーヴァイを人質に取られ、俺達は止むを得ず武器を捨てた。
だが、これからどうする!?
ヴォルフも俺もこれじゃ身動き出来ない。
「…良し、そのまま動くなよ」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、クレアスが銃口を俺達に向けた。
くそ、このままじゃ確実に殺される…どうすれば…!
「ガアアアア!!」
「うぐあああっ!?」
その時だった。リーヴァイが自分を押さえていたクレアスの左腕に思い切り噛み付いた。
その表情は先程までの物とはまるで別人、獣そのものだった。
突然の事に苦鳴を上げ、クレアスは思わず拘束を解いてしまった。
「この!!」
「ギャッ!!」
怒り狂ったクレアスはリーヴァイを消防小屋の壁に思い切り叩き付けた。
「ウガアアアア!!」
「ヴォルフ!」
隙を突き、ヴォルフが雄叫びを上げながらクレアスに飛び掛かった。
「くそぉぉお! 死んでたまるかぁぁ!!」
ダァン! ダァン! ダァン! ダァン! ダァン!
五発の銃声が響いたが、ヴォルフは怯んだ様子は無く。
ザシュッ!! ブシュウウウウウ……。
何かを切り裂く音と同時にクレアスの喉笛の辺りから真っ赤な噴水が噴き出し、
ヴォルフの銀色の身体を赤く染めた。
そしてクレアスはしばらく切り裂かれた喉笛を押さえ苦しんでいたが、
やがて、動かなくなった。
「ヴォルフ、大丈夫か…!?」
「…俺の、事は良い、それより、リーヴァイ、を…!」
「あ、ああ…!」
俺とヴォルフは壁に叩き付けられて地面に伏したまま動かないリーヴァイの元へ駆け寄った。
呼吸を確認するが、どうやら気を失っているだけのようだ。
「大丈夫だ…ヴォルフ。気絶しているだけみたいだ…」
「………そうか……良かった………」
…ヴォルフの様子がおかしい事に俺は気付く。
そして返り血に塗れた身体を良く見る。
「……!」
ヴォルフの身体を赤く染めているのは返り血だけでは無かった。
さっきクレアスが死の間際に放った銃弾は、全てヴォルフを穿っていた。
その傷口から流れ出た血が、更にヴォルフを赤く染めていた。
「ガハッ!!」
「ヴォルフ!?」
大量の血を吐き、ヴォルフが仰向けに倒れた。
「おい、しっかりしろ!」
「……無理だな……ゴホッ……どうやら…当たり所が悪い…みたいだ……」
「そんな……馬鹿野郎、お前、可愛い妹残して死ぬ気かよ!」
何とか手当てしようとしたが、そんな都合の良い道具なんて無い。
回復魔法も使う事は出来ない、もう、どうしようも無いのか。
「……う……ん……」
「! リーヴァイ…気が付いたのか!?」
気絶していたリーヴァイが目を覚ました。
しばらく頭を擦っていたが、自分の兄が血塗れで倒れている事を確認すると、
血相を変えてヴォルフの元へ駆け寄った。
「お、お兄ちゃん? そんな、しっかりしてよ、ねえ」
「……リーヴァイ………怪我は……無いか……?」
右手をリーヴァイの、涙に濡れた頬に添えながら、
もはやほとんど聞こえない、小さな声でヴォルフがリーヴァイに言う。
「…だ、大丈夫だよ。私は、大丈夫……!」
「……そうか………よか……った……おまえが……ぶじ………で…………」
リーヴァイの頬に添えられていたヴォルフの手が、力を失って落ちた。
そして、ヴォルフはそのまま静かになった。もう再び言葉を発する事は無かった。
「……え? お兄ちゃん? お兄ちゃん? ねえ、おに………。
嫌……嫌だ……! 嫌だああ! あああああああ―――――!!」
兄の亡骸に縋りながら、リーヴァイは声を上げて泣いた。
「……」
俺は、ただ黙って見ている事しか出来なかった。
【クレアス@VIPRPGシリーズ 死亡】
【ヴォルフ@オリキャラ 死亡】
【残り33人】
【一日目/黎明/G-6廃村消防小屋跡付近】
【ダーエロ@VIPRPGシリーズ】
[状態]健康、悲しみ
[装備]一〇〇式機関短銃(30/30)
[所持品]無し
[思考・行動]
基本:殺し合いからの脱出。首輪の解除方法を探す。
1:……何てこった……。
2:ドラゴナス、ムシャと合流したい。
[備考]
※魔法は一切使えなくなっています。
※ダーエロの所持品はG-6廃村消防小屋跡の中に置かれています。
【リーヴァイ@オリキャラ】
[状態]頭部に軽い打撲、深い悲しみ、号泣
[装備]無し
[所持品]無し
[思考・行動]
基本:……。
[備考]
※リーヴァイの所持品はG-6廃村消防小屋跡の中に置かれています。
※G-6一帯と周辺に銃声が響きました。
最終更新:2010年10月16日 02:26