35:削られるガラス玉
学校が禁止エリアになると放送で聞き、シベリアンハスキー種犬獣人の少女、
安田愛は放送までいた学校を出て北上していた。
クラスメイトである中元梓紗の名前は呼ばれ無かったが全く安心出来ない。
目の前で一人の男性を殺害した三枝嘉隆の名前は呼ばれた。あの後誰かに殺されたのだろうか。
「もう、大丈夫かな…?」
懐中時計を取り出して現在位置のエリアを確認する。エリア表示は「D-6」となっている。
どうやら指定されたエリアE-6からは抜け出せたようだ。
取り敢えずは安堵。だが、禁止エリアからは抜け出せてもこの
殺し合いから抜け出す事は出来ない。
「……何も状況は良くなってない……私、良く生きているよね、18人死んでる中で、
運が良い方なのかな……先行き不透明だよ、お先真っ暗だよ……」
自分の明るい未来のビジョンが全く見えない。こんなに見えないのは初めてである。
こうして逃げ回っていてもいつかは死ぬのだろう。殺されるのか、それとも事故か、或いは自殺か。
ダァン!
「いっ……」
――殺される事になりそうだと、腹の辺りに衝撃と激痛を感じた愛は思った。
何かに殴打されたような衝撃に腹を抱えその場に蹲る。
「ゲホッ、ゴホッ……い、痛い……何、これ…あ!? 赤…血!? 血が出てる」
腹を触った自分の両手が真っ赤に染まっている。
ピクピクと愛の耳が動く。自分に近付く足音を聞き取ったのだ。
その音の方向に顔を向けると、赤と白の竜種の若い女性が、小型のリボルバー拳銃の銃口を自分に向けながら、
ゆっくりと近付いてくるのが見えた。どうやらあれで撃たれたようだと愛は思う。
腹が焼けるように痛んだ。非常に熱い。銃撃されるのは生まれて初めてだがこのような感覚なのか。
「動かなければ……すぐ楽になるよ」
竜種の女性、石田佳奈子は穏やかな口調でそう言う。
放送後、適当に市街地をうろついていたが獲物はあっさりと見付かった。
「……! ……ッ」
佳奈子の言った「楽になる」という言葉の意味は愛にもすぐに分かった。
もうすぐ自分は殺される。この竜種の女性に。恐らくあの銃で頭か、胸を撃ち抜かれるのだ。
(ここで、死んじゃうの? 私…)
脳裏に今までの思い出が次々とよぎる。これがいわゆる走馬灯と言う奴だろう。
(やだ…やだ、こんな所で死にたくない、死にたくない…!)
ガチガチと震えながら、死にたくないと、愛は心の中で何度も何度も思った。
助けてくれる者など誰もいない。このままでは間違い無く殺される。どうすれば良い?
佳奈子の持つコルトローマンの銃口が、愛の額の辺りを捉える。
発砲すれば確実に愛の脳天を撃ち抜ける距離だ。
佳奈子がローマンの引き金に掛けた人差し指に力を込めた。
愛の目が大きく見開かれる。
「じゃ――――」
「あぁあああああああああああああああぁあ!!!」
「!?」
愛は叫んだ。叫びながら佳奈子の腹の辺りに体当たりをし、佳奈子をアスファルトの上に押し倒した。
突然の愛の攻撃に佳奈子は対処出来ず背中を強かに打ち付け一瞬呼吸困難に陥る。
咳き込む佳奈子の上に愛が馬乗りになり、その首を両手で絞め上げた。
「がぁっ…! こ、この、やめな、さ…」
佳奈子は何とかして愛を引き離そうとしたが、凄まじい力で絞め上げる愛は全く動かない。
その表情は普段の彼女からは想像できないような形相になっていた。
次第に息が苦しくなり、終いには呼吸が止まり、足をばたつかせ、泡を吹き始める佳奈子。
(苦し、い……息が、出来、な……嘘でしょ、こんな所で、死ぬ……の?
ああ…油断、してた………さっさと、殺すべきだった………)
段々と心地良くなってきた。遠退く意識の中、佳奈子は抵抗を諦めた。
(結構、頑張ったつもり…だったんだけど……残、念……)
そして数分後、佳奈子の身体から完全に力が抜け、股間からアンモニア臭のする液体が染み出た。
「…はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
愛は立ち上がり、屍と化した竜種の女性を見下ろす。動悸が止まらない。身体の震えが止まらない。
殺したのだ、自分の手で。正当防衛だったのかもしれないが、一人の命を、奪った。
撃たれた腹の痛みも構わず、愛は涙目でただただ震えながら立ち尽くしていた。
【石田佳奈子 死亡】
【残り14人】
【午前/D-6市街地道路】
【安田愛】
[状態]腹部に被弾(命に別条無し)、精神的ショック(大)
[服装]高校制服
[装備]バール
[持物]基本支給品一式
[思考]
1:…………ッ。
[備考]
※中元梓紗はクラスメイトです。
最終更新:2011年04月09日 05:43