そんな感覚

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神さま

なんで なんで なんで なんで



+  +  +

がさり、がさりと

靴が、一歩、一歩、落ち葉を踏む。

足が、一歩、一歩、動いて進む。

体が、一歩、一歩、人を殺す為に歩く。

柊かがみは、歩いていた。
吸血鬼、上弦の従僕として、獲物を狩る為に。

体が、奇妙に軽かった。
ぶちぶちと千切り切られた指が、みるみるうちに再生していった。
真っ暗な森の中なのに、視界がくっきりと明るく、周囲の木々の輪郭がはっきり見えていた。


かがみには、自分がどうなってしまったのか、半分も理解できていなかった。
にも関わらずかがみは、つまりどうなってしまったのかを、一足飛びに理解していた。


気がつけば、真っ暗な広い部屋にいて、
知らない白スーツの男から、『たった一人しか生き残れない』と言われて
首に、気持ち悪い“刻印”をうたれて、
そいつに反論をした女の子の首が吹き飛んで、

真っ暗な森の中に放り出されて、
それでも、つかさやこなたを探して歩きだしたら、

突然、空から黒い女の人が降って来て。

すさまじい力で、地面に押し倒された。

見下ろす女性の、人形のような顔。
生きたまま、己の喉ぶえを食らいつかれる恐怖。

かがみの指を一本一本ひきちぎるその女の、
暇つぶしに既プレイのゲームのクリア済みステージをこなしていくような、
容器包装のプチプチを退屈しのぎに潰している時のような、
アリを潰して遊ぶ子どものような、
恐ろしいまでの、無表情。


その眼を見て、理解した。

私は、この化け物の奴隷になったのだ。

――会場を動き回って、参加者を殺せ。

あたしは、これから、あの化け物に『支配』されたとおりのことをするんだ。


かがみの足は、止まらない。


一歩、一歩、かがみの足は、『その時』へと近づいていく。


悪夢だった。

呪いをかけられるなんて、
殺し合いをやらされるなんて、
私が化け物にされてしまうなんて、

実際、その感覚はいつかの悪夢と、似ていたのだ。


たまたまテレビでやっていた怖い映画を見た夜の夢だったと思う。

真夜中の学校を探索するという夢だ。
どうして真夜中に学校に行ったのかは知らない。
けれど、その時のかがみ『も』、誰かに無理やり行かされたに違いないと思う。
かがみは、その真夜中の学校に怪物が出ると知っていた。
いや、廊下をひたひたと歩くかがみはそんなこと知らないのに、
その夢を映画を観るように眺めているもうひとりのかがみがいて、
そのかがみは『悪いものが出る』ことを知っているのだ。
にも関わらず、かがみは化け物の潜む教室に向かっていた。
驚くほど無警戒に、かがみは暗い廊下を歩いて行った。
それを見るもう一人のかがみが、どんなに止めろ止めろと思っても、その足は止まらなかった。
3年C組の教室のドアを開ければ、牙を生やした化け物が飛び出してかがみを食べると知っているのに、
夢の中のかがみは歩くのをやめないのだ。



かがみの頭は考えるのをやめない。

もし、今、『魔法』も何も知らない一般人に会えば、
かがみは殺し合いに乗っていない振りをして、安心したように近づくだろう。
人に会えて安心した無力な一般人の演技をして、相手を騙すだろう。
相手がかがみを信用して、気を許してくれたところで、
相手が逃げられないぐらい近づいたところで、
その首をつかんで縊り殺してしまうだろう。

『かがみの知能が思いつく、最も手っ取り早く人を殺す方法』が、それなのだから。
それがどんなにおぞましいことでも、『支配されたかがみ』はそうしてしまうだろう。


そうなるだろうと分かっているのに、かがみの足は歩くことをやめない。


誰にも会いませんように。
神さま。
私は、誰も殺したくなんかありません。

だから、『その時』が来ませんように。
その時が、少しでも先になりますように。
もしくは、
もしくは、

誰か、私を殺してくれる人に、会えますように。
どうか、誰も殺さずに死ねますように。
神さま、私に少しでも慈悲をかけてくれるなら、
神さま、ほんの虫けらほどでも、憐れんでくれるなら
どうか、
どうか、


しかし、
かがみは、めぐり会ってしまった。



「あっ」



ああ、そうか。



「お姉ちゃんっ」



神さまは、あたしが嫌いなわけじゃないんだ……



「お姉ちゃんっ。お姉ちゃんっ。良かった。お姉ちゃんが無事だった……」



つかさが、駈けて来る。
何も知らないつかさが、泣き笑いしながら駈けて来る。



神さまは、あたし『たち』が嫌いなんだ……。



+  +  +

つかさは歓喜した。安堵した。

見つけたのは、会いたくて会いたくて仕方が無かった姉だった。

「お姉ちゃんっ。お姉ちゃんっ。良かった。お姉ちゃんが無事だった……」

駈けた。
そこにいる姉の存在を確かめるために。
一秒でも一瞬でも早く、姉の元へ行くために。
ぎゅっと、姉に抱きついていた。

姉の体が、抱っこされた子猫のようにびくんと震えて、
そしてすぐ、つかさを抱き返してきた。

「つかさ……ほんとにつかさなのね。ほんとのほんとにつかさなのよね……?」

姉の声が潤んでいる。

「そうだよ。お姉ちゃんはほんとうにお姉ちゃんのままだよね。
私が困ってたら来てくれたもん」

「当たり前じゃない。私じゃなかったら他の誰だって言うのよ」

顔を上げると、そこには呆れたような姉の笑顔があった。
この呆れた顔が照れ隠しだということをつかさは知っている。
いつもの、つかさが連休終わりに宿題を溜めこんで悲鳴をあげていた時に、
宿題を手伝ってくれるときの姉の顔だった。
ぽん、ぽんとやさしく頭をたたかれる。

神さま、ありがとう。
こんな酷いことになっちゃったけど、私はちゃんとお姉ちゃんに会えました。

「良かった……すごく、安心した」

「あたしだって……すごく、つかさを探したんだから。
まだ何時間もたってないけど、それでもすごく探したんだから」

「うん、私も……」

そのまま、抱き合ったまま、しばらくじっとしていた。
恥ずかしがり屋の姉と長時間こんなことをするなんて、
こんな時じゃなければ絶対にしないだろう。
「あのさ、つかさ……」

「なぁに?」

「つかさ……あんた、もしかして、もしかしてよ。
『魔法』が使える人に、会ったり、してないわよね……」

変な質問に、つかさは首をかしげる。
体を離して見た姉の顔は、子どものように抱きついた反動か少し赤くなっていて、
不安や不調など、何も感じさせなかった。

でも、なぜだろう。涙を流していないのに、泣いているように見えた。
姉の顔はいつもどおりなのに、どうしてだかそう見えた。

「ううん。わたし、お姉ちゃんに会うまで、誰にも会えなかったよ」

「そう」

姉の声も、顔も、いつもどおりだ。
それなのにつかさは、その声を聞いて、
心が痛くなった。
胸が引き裂かれる、そんな痛みを感じた。

――テレパシーってある?

いつだったか、友人の泉こなたにそんなことを言われたっけ。

――どっちかが危ない目にあうと、もう片方も全然違うところでそれを察していたり――。

もしかして、いつもは全然気づかないけれど、
こんなギリギリの環境の中で、少しはつかさにも感じることができたのかもしれない。
だとしたら、

――お姉ちゃんが、こわがっている。
しっかり者の姉だけれど、こんな状況におかれたら、姉だって怖いに違いないのだ。
それにつかさは今まで誰にも会わなかったけれど、姉のことは聞いていない。
もしかしたらお姉ちゃんは、わたしに会う前に、何か怖い目にあったのかもしれない。

だから、いつもは姉に頼ってばかりのつかさは、こんな時ぐらい、しっかりしようと思った。
不安など、何も無いかのように笑ってみせる。

「でも、だいじょうぶだよ。これからはずっと、お姉ちゃんと一緒にいるんだから……」

そう、つかさは、姉のことが大好きだから――。


姉、かがみの顔が、つかさの笑顔につられたように微笑み、



つかさの頭に置かれた手が、急にうなじに回り、

ひやりとした手だ、と思った。



ごきゃり


肉を変形させる音が、柊つかさの生命を終わらせた。



+  +  +

吸血鬼になったばかりのかがみは、その力の加減を分かっていなかった。
吸血鬼の怪力は、片手で重さ数トンの石の塊を軽々と持ち上げ、
何の変哲もない木の杭で、楽々と人間の胴を串刺しにする剛力。
その強大な腕力を、かがみは知らなかった。
“力”が手に入るとは知っていても、その力のほどを分かってはいなかった。

痛みを感じる間もなく妹を楽にしようと全力をこめた腕は、
ごきゃり、と妹の首を90度折り曲げただけではとどまらず、
そのまま妹の首をぐるりと回転させ、
そこに、人間の皮膚では耐えきれない圧力と歪曲がかかり

「あ……」

かがみの手は、妹の頭をつかんでいた。

かがみの足元には、妹の首なし死体が転がっていた。

かがみは、この手で殺した妹の首をその手にぶらさげていた。
捻じり切られた首から、ぼたぼたと血がしたたる。
地面に落ちた首の切断面から、だくだくと血が流れる。
流れた血が地面に染みをつくり、かがみの靴まで到達して赤く濡らす。

妹の生首と、眼があった。
妹の生首は、最後まで微笑んでいた

「あ…………」



――これからはずっと、お姉ちゃんと一緒にいるんだから……



「あ―――――――――――――――――――――――――――――」



その時、かがみの胸に宿った感情は何だったのか。

後になっても、かがみはその時に抱いた激情のほどを思い出すことができない。

“叫びたかった”ということはぼんやりと思い出せるのだけれど、

その絶望がどれほど大きかったのか、
思い出すことをを心が拒否するように、記憶のフィルムがずたずたになっていた。



でも、かがみは叫べなかった。

もし、ここでひとたび叫べば
涙を流せば、
かがみはその場で崩れ落ちて、ずっと動けなくなる。
柊かがみの『支配された吸血鬼』の部分は、それを良しとしなかったから。
だから、かがみは泣くことができずに、
妹の頭を地面に置いて、
妹からディパックを奪い取って、
そのまま死体を野ざらしにして、


また、獲物を求めて歩き始めながら、

「あは……」

渇いた瞳で、歩きながら

「あははは」



嗤った。
泣けないかがみは、嗤った。



「あははははは! あはははははは! あははははは! あはははははは!!」


慟哭するように嗤った。
荒れ狂うように嗤った。
叩きつけるように嗤った。


狂ってはいない。
壊れてもいない。

そうなればどれほど楽か知っているのに、狂ってはいない。

ただ、泣けないから、叫べないから、その代りに嗤っているだけ。

妹をこの手で殺したのに、泣いてやることさえできないだけ。


【柊つかさ 死亡】

【残り66人】

【H-7/森の中/一日目黎明】

【柊かがみ@らき☆すた】
[状態]吸血鬼化(従者)、上弦の『支配』の影響下
[装備]陵桜高校制服
[道具]基本支給品一式×2、不明支給品1~3、つかさの支給品1~3
[思考]基本・『支配』の命令に従い、参加者を減らしつつ魔法の使い手を探す。(本人の意思と無関係に発動)
1・???
2・上弦への恐怖と強い憎しみ。
3・誰かに殺して欲しい。


+  +  +

息をとめろ。


落ちつけ。


落ちつけ。


落ちつけ。


よし、アイツはいなくなった。

息を吐け。



高町亮子は、息を吐く。

笑っていた。

「狂ってる……」

あいつは、妹を殺して、笑っていた。

あのツインテールの少女の演技は、完璧だった。
最初は、感動的な再会の場面だと思った。
ラザフォードや浅月ほどではないにせよ、多くの荒事を経験した亮子の眼から見ても、あの泣き笑いに嘘はないように見えた。
仲の良い姉妹が、過酷な環境の中で再会を果たして、心から喜びあっていたようにしか、見えなかった。
妹の方は、完全に姉を信頼しているように見えた。
だからこそ亮子は、その再会に水を差したくなくて、声をかけられなかったのだ。
なのに、あの姉は、いともたやすく妹の首をもぎ取った。
「殺人のスイッチが入ったブレード・チルドレン? 
いや、それなら双子の妹の方もブレチルのはずだし、ブレチル同士なら殺人衝動は働かない。
だいいち、素手で人間の首を捻じり切るなんて、カノンにだって不可能な芸当だ」
ブレード・チルドレンの遺伝子は、旧人類(つまりブレチル以外の全人類)に対して作用する。
主義思想から対立するブレード・チルドレンはいても、己の命惜しさで仲の良い妹を惨殺するブレチルなど見たことがない。

亮子にも、数か月早く生まれた『兄』がいる。
単なる戸籍上の繋がりではなく、物心ついた時からいつも一緒の、兄妹同然に育った兄だ。
例えばその兄が、ようやくの再会を果たした亮子を殺すなど、想像するだにおぞましい。
逆の場合もまたしかり。
そんなことを平然と行い、狂ったように笑えるなど、“呪われた子”の亮子から見ても、完全な『化け物』だ。

「お兄ちゃん……」

何かと無茶をしがちな兄貴、兼幼なじみのことが、急に心配になっていく。
彼は確かに、亮子よりも多くの修羅場をくぐり抜けている。
頭の回転が鈍いところもあるものの、いざという時の判断力も優れている。
何より、死んだら許さないと釘もさしている。
だからこそ、亮子も亮子のやりたいこと優先で動こうとしていたが、
あんな規格外の化け物がうろうろしているとなれば、そうも言っていられない。
こうなっては合流優先だ。
ひとまずエリアの端を確認しようと東に向かっていたけれど、その作業は後回し。
逆方向へ、人の集まりそうな市街地へと引き返そう。

あの『化け物』の危険性を多くの参加者に伝え、犠牲者を減らすために。


しかしその前に、

亮子は、ディパックから大きなシャベルを取りだした。
まず、せめて彼女の亡きがらを埋葬しなければならない。

【H-7/森の中/一日目黎明】

【高町亮子@スパイラル~推理の絆~】
[状態]健康
[装備]シャベル@現実
[道具]基本支給品一式、不明支給品0~2
[思考]基本・殺し合いには乗らない。
1・少女を埋葬する
2・ツインテールの少女の危険性を、他の参加者に伝える。
3・鳴海歩、ブレードチルドレン、結崎ひよのらと合流(浅月香介を最優先)
4・なんで沢村たちが……?
5・余裕があれば、会場の端がどうなっているのか調べたい。

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最終更新:2011年06月18日 20:23
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