オープニング(GANTZ)

……来た。
撮影終了直後、もう飽きるというほど味わった感覚が首筋を這う。
事情を知らない人たちの混乱を招かないように、スタッフたちへの挨拶を終えると控え室へと足早に向かってスーツの上から服を着た。
すると足の先から次第に消えていく。転送が始まったのだ。
今日は何人の人が犠牲となるのだろうか。今日も自分は生きて帰れるのだろうか。
無意味なことを思いながら、そっと目を閉じて、転送が終わるのを待った。

     ◇     ◆     ◇

お馴染みの感覚が消えた。その転送終了の合図とともに、レイカは瞼をそっと開く。

「あ」
「あ」

顎を引いていたせいか、斜め下を映した視界の中心には一人の少女。声を上げたのは互いに反射的なものだった。
レイカは声が重なったことを不思議に思った。なぜならその少女は、怪我でもしたのだろうか、目元に包帯を巻いていてこちらの姿が見えるはずがなかったのだから。
その上、顔がこちらを向いていたということは、こちらが転送されてきたところを見眺めていたということになる。

「わー、綺麗な人。お姉さん何歳ですかー?」
「………! …こ、高校生………」
「大人っぽいねー!ってことはわたしとあんまり変わらないくらいかあ」

……巻いている包帯のどこかに隙間でもあるのか?
いや、今はそんなことはどうでもいい。この少女には、もっとおかしな点が二つある。
一つ目は理論的には説明できない現象を目の当たりにして、ちっとも取り乱したり、疑問を抱いたような素振りを見せないところだ。

「じゃ、今日は一緒に頑張ろうね」
「ちょっと待って、貴方はあの黒い球のこと知ってるの?」

部屋の中央にある黒い球……ガンツのことだ。
指を差してそれを示すと、またもや少女はその仕草が見えているかのようにそちらを向いた。

「うーん…。黒スケのことは何も知らないけど、このゲームのことなら知ってるよ」
「ゲーム?」

黒スケというのは恐らくガンツを指しているのだろう。
ではゲームとは?もしや彼女はミッションのことをゲームと称しているのか?
……こんなあどけない少女が、死ぬか死なないか、己の未来を決めるこのミッションのことを、単なるゲームだと思っているだなんて。
少女は和泉紫音同様、ミッションに楽しんで参加しているのか……。
レイカは少し複雑に思いつつ、二つ目の疑問を少女に投げかけた。

「ねぇ、貴方はこの…ミッションに何度か参加したことがあるみたいだけど、いつもこの部屋に来ているの?」

恐らく返答はノー。これが少女との初対面なのだから。

「そうだよ」
「…本当?」
「こんなことで嘘ついたって意味ないじゃん。ねぇ、黒スケ、わたしと会うのはこれが四回目だもんね」

え……四回目?四回もここに来ている?
返事が無いことはわかっていながらも首をかしげながらガンツに微笑む少女を凝視した。
もしかすると、こっちが違う部屋に転送されてきた?
言いようのない不安に襲われながら窓の外を見てみる。
もちろん外では東京タワーが煌いていて、いつもの風景と変わったところはない。

「四回目って…ねぇ貴方、それっていったい、」
「見て見て。いっぱい来たよ」

話が聞こえなかったのか、それともあえて無視しているのか、若干緊張したように口元を引きしめて、少女は転送途中である何者かの肉体をただ見つめた。
レイカも溜息を吐いたあとで少女の目線の先を見た。そして、目を見開いた。

「!」

一人、二人、三人、四人……十人、二十人、三十人、四十人…。
四角く狭い面積を多くの人間の頭部が埋めていく。
この部屋にこんなにも多勢の人間が招かれたのは初めてだ。

「わぁー、すごいすごいっ!わたし、今回もちゃんと生き残れるかなぁー?」
「どういうこと?こんなにたくさん…」
「っとと……ジンが来たみたいだからもう行くね。じゃ、お互いがんばろー」
「あ、ちょっと待っ……!」

「あの!」

人と人の隙間を縫って駆けていく少女に向かって手を伸ばす。
だが、背後から誰かに肩を叩かれたため、しぶしぶ腕を降ろし振り返った。

「え!?」
「…」
「どうして玄野くんが…?」
「……?」

この部屋に存在するはずのない存在がそこには居て、思わず声が大きくなった。

「玄野くんは再生を選んだじゃない、何でここに…」
「うおーッ、やっぱり!レイカだ、マジでレイカだッ!そうだ、握手お願いしても良いですか?」
「覚えていない?」

手を差し出す玄野をよそに、顎に手を添えて考える。
まさか、再生した玄野が何かの事件に巻き込まれて死んでしまった?

『あたーらしーいーあーさがきたー♪ きーぼーおのーあーさーだー♪』

軽快なリズムが部屋中に駆け巡る。
ざわついていた人間たちは、自然と口を閉じて、室内は静まり返った状態となった。
中には音の発生源を探す者も居て、それが中央の球だと気付くと歩み寄って、叩いたり撫でてみたり、様々な方法で球を調べる姿が見られた。
そんな人たちも球の中心に緑の文字が浮かぶのを見ると、手を止めて、そちらに注目する。
『てめえら には 今から 殺し合いをさてもらいます』

………?
殺し合い……?

『100点 かせげば だいじょぶ』

えッ、えッ、どういう意味?

『では がんばってくだちい』

ガンツはそれ以降何の反応も見せなかった。
誰もが状況を飲み込めない中、一人、ほっそりとした男の人が球の横に立った。

「どういうことだー!?って顔してやがるなぁ、てめーら…。その気持ち、わからなくもねぇぜぇ!俺も最初はそうだったからなぁ!」

あの男、何か知っているようだ。
もったいぶっている様子を見ると、どうやらそれを自慢したいらしい。

「つまりよぉ、この殺し合い……」
「みなさん聞いてー!この殺し合い…わたしたちはバトルロワイアルって呼んでるんだけど、ここに居るのは50人で、このゲームで生き残れるのは5人だけなの!」
「おいてめぇ、俺のセリフ…」
「この黒スケちゃん言ってたでしょ?100点とれば大丈夫って。それはね、人1人殺せば10点が儲かるってこと。
 わたしには元々与えられてる10点が与えられてる。…だから9人殺しちゃえば、100点稼いだことになってゲームから解放!
 ちなみに、50点稼いでる人を10点の人が殺しちゃったら、殺された人が持ってた50点は10点の人がもらえるって仕組みだよ」

さっきの女の子だ。この部屋のこと知ってるっていうのは、嘘じゃなかったらしい。
だけど聞いたことがない、そんなルール。
いつもはミッションとして、皆で力を合わせて宇宙人を退治することになっているのに。

「そうそう。12時間以内に人が1人も死ななかったり、3日経っても100点集められなかった場合は、みんなの頭の中にしかけられた爆弾が爆発しちゃうから気をつけて。
他にもあらかじめ決められた範囲から出たり、6時間毎に死亡者と一緒に発表される禁止エリアに入ったりすると爆発。まぁ、その本人だけが死ぬだけだからわたしは別に良いけどね、いひひ」

……ッてことは最低でも1人は殺さないと帰れないってこと?
そんな、できない…だって…ここに居る人たちって、みんな人間でしょ?

「あとは何か話すことあったかなぁー?ねぇ、あったかなぁ?」
「知るかボケ。でしゃばってベラベラしゃべってんじゃねぇよブス、死ね」
「だってジンが、みんながやる気出してくれなきゃつまんないだろうから気を使ったんだよ。焦るのは雑魚だけ、あなたみたいな」
「このクソア…」

激しい口論が開始されようとした時、室内に居る人たちの転送が一斉に開始された。
私は、抵抗をすることもできずに、この真っ白な部屋が戦場へと景色が移り変わっていく様を眺めていることしかできなかった。

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最終更新:2011年07月26日 20:21
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