無数のディスプレイが浮かぶ空間に、一人の男が立っていた。
感情の一切を排したかのような無機質な眼差しを、彼はディスプレイへと向けている。
一つのディスプレイにつき一人の人間が映っている、眠っている様だ。その中には明らかに人とは異なる姿をした者も見えた。
そして、その人間達には決まって銀色に光る首輪が付けられている。
ディスプレイの人間の内、一人が眼を覚ました。それを皮切りに次々と他の人々も眼を覚ましていく。
人々の反応は様々だった。混乱している者、興味深そうに当たりを探る者、怯える者、一切動きを見せない者もいる。
そんな人々を一通り眺め、男は手元にあるスイッチを入れた。
途端に、ディスプレイの中の人々の視線が揃って同じ方向を向く。どうやら、男の姿を移しているモニターがあるらしい。
何人かが男の姿を見て驚愕に眼を見開いているが、そんな事を男は歯牙にもかけない。
「皆さん、お気づきになられたようですね。皆さんは我々の目的の為にこの場に拉致されてきました」
男の口から放たれた事実は彼ら、彼女らに衝撃を与えるには十分な内容である。
だが、続けて男の口から出た言葉は、その程度の衝撃を軽く凌駕しうる内容であった。
絶句。全員の表情が様々な感情で固まっていた。
その様子を見ながら、男は先程とは別のスイッチを押すと、彼の後ろのスクリーンにマップが浮かび上がる。
「ルールは簡単です。この箱庭で最後の一人になるまで殺し合う。優勝者は元の生活に戻れる上に、我々の叶えられる範囲で願いを叶えましょう。死者の復活程度であれば容易く叶えられる事ができます」
死者の復活、その言葉に何人かが反応した。
だが大半は胡散臭そうな眼差しを男に向けている。
「それと、反抗しようなどと思わない方が懸命です。何故なら貴方達に付けられている首輪には反乱防止用に爆弾が仕込まれていますから」
その言葉に、首輪の存在に気付いてなかった何人かが慌てて首輪に振れる。
首輪に気付いていた者でも、予想はしていなかったのか表情を堅くしている者もいた。
「もっとも、中にはこの首輪がブラフであるという考えを持っている方もいるでしょうが――」
不意に、男のいる空間の天井が崩落した。
突然の出来事に事態を理解できていない、ディスプレイの向こうの住人とは逆に、男は最初から浮かべている無表情を微塵も崩さず、崩落した天井の下へと視線を向けた。
立ち込める煙が晴れて行くと、そこには異形の姿をした者が立っていた。
黒い羽を生やし、天使の様な衣服を羽織っていた。少なくとも一般人には受け入れられる様なセンスではない。
その顔には目を覆う様な形の仮面がかけられ、そこから見える双眸は怒りの色に染まっていた。
両の拳からは血が滲んでいる。天井――彼にとっては床であるが――を素手で掘り進んで来たのだ。人にあるまじき出鱈目な膂力である。
「嘆かわしい……、このような罪深き行い、到底許される事ではありませんよ、人の子よ」
厳かに告げるその声はどこまでも侮蔑に満ちていた。
画面越しにその状況を見ている参加者達に伝わる程の威圧感が、その異形から放たれる。
しかし、男はそれを意にも介さず懐から一つのUSBメモリの様な物を出し、そのスイッチを押した。
『ユートピア』
電子音が鳴ったメモリが、不意に男の手から落ちる。
重力に従って落ちる筈のそれは、その最中で向きを変え、男のベルトに付けられた装置へと吸い込まれた。
瞬間、男の姿もまた異形の姿へと形を変える。
ドーパント、地球の記憶が記された、ガイアメモリによって変身する怪人。
その中において、屈指の実力を誇るユートピア・ドーパントへと、その男は変身した。
「マンセマット、聖書にその姿を記された天使。もっとも、貴方の行ないを聞いた限りでは、とんだペテン師のようですが……」
ペテン師、その言葉を聞いた瞬間に、マンセマットと呼ばれた異形の顔が憤怒に歪んだ。
そしてその激情をそのまま力に変えたかの様に、自身の右手にエネルギーを迸らせる。
だが、一手遅かった。
そのエネルギーをユートピア・ドーパントへと放つよりも速く、ユートピア・ドーパントが手に持った杖をマンセマットへと向ける。
瞬間、マンセマットの動きが止まり、その体は宙へと浮き上がった。
「う、うおおおおおおおお!?」
予想外の出来事に戸惑う事しか出来ないマンセマットを尻目に、空いた左手でユートピア・ドーパントは備え付けられていた機材のスイッチを入れた。
その途端、マンセマットの首輪が爆ぜた。
宙を舞う天使の首。その表情は最後まで自分の身に起こった事が理解できず、驚愕に染まっていた。
男がユートピア・ドーパントへの変身を解くと同時に、首から上を失ったマンセマットの身体は、鈍い音を立てながら床へと転がった。
「今の一連の流れで、あなた方の首輪に仕込まれた火薬がブラフではない、という事が分かっていただけたでしょう」
呆然とする者、青ざめている者、怒りに震える者、何ら変わりなく男を見つめる者。
突然の惨劇と、自分達の首に嵌められた枷の効果を思い知らされた、ディスプレイに映る人々の反応は人それぞれであった。
「6時間ごとに、その時間に死亡した方と、一ヶ所に引きこもる事の防止の為に侵入禁止エリア追加の放送を会場全域に行います。尚、その6時間の間に死亡者が出なければ参加者全員の首輪が爆破されますので気をつけてください。では、また生きていればお会いしましょう」
そして、殺し合いは幕を開けた。
【GAME START】
【マンセマット@真・女神転生STRANGE JOURNEY:死亡確認】
【残り44名】
参加者の転送が終わると同時に、男がいた部屋に複数の人間が瓦礫の撤去や機材のチェックなどの作業を始め出した。
不意に拍手が響く。
男が振り向くと、そこには一人の少女、いや、少女の姿をした何かが立っていた。
「お疲れさま、加頭。私が捕まえてきたあのペ天使は見事に役割を果たした様だ」
「御蔭様で呼び寄せた参加者の誰一人もかける事なく、首輪の効果を説明できました。それに、ユートピアの実力を見せるにも悪くない相手でしたし。感謝しますよルイ」
加頭、そしてルイはそう言って運び出されて行く天使の亡骸を一瞥する。
マンセマットはこの為だけに、この場に拉致されていた。
マンセマットを拉致し、わざわざこの部屋の上に個室を作り、マンセマットをその部屋に配置した。
狙いは加頭が言った二つ。首輪の効果を見せる為、反逆をされない様に牽制する為の見せしめと、自身を力を見せつける為の当て馬。
例え首輪を解除する手段があったとしても、その先には、異形の化け物を無力化できる能力を有した人物が控えている事を、教える為であった。
「それじゃあ、ゲームの観戦といこうか」
そして二人は部屋を後にした。
【主催者】
財団X@仮面ライダーW
加頭順@仮面ライダーW
ルイ・サイファー@真・女神転生STRANGE JOURNEY
【マンセマット】
出典:真・女神転生STRANGE JOURNEY
ロウサイドである、唯一神に仕える大天使で、時折主人公達の手助けをしてくれる。が、基本的に胡散臭い。時折奇妙な言動をする。
本編では原作Nルート後からの登場。そして多分出番はもうない
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最終更新:2011年09月12日 19:28