「くそっ……ふざけやがって……!」
『幻想殺し』・上条当麻は、心中に込み上げる感情に任せて憤りの言葉を零していた。
紆余曲折の末にようやく帰還することのできた学園都市。
そこで皆の所に顔を見せて行こうと考えていたその時のことである。
気付けば、あの白色の部屋にいた。
周りを見渡すも、そこにいるのは見知らぬ方々のみ。
何処にでもいそうな女子高生もいれば、見るからにヤバい臭いがプンプンする御方もいた。
完全に不幸な臭いがしたかと思えば、次は
殺し合いをしろの一言。
そして、人が、死んだ。
唐突に、驚く程にあっさりと、人が死んだ。
余りに異常すぎる事態に、不幸だと嘆息していた上条であったが、表情を変える。
撒き散らされる血液に、倒れ伏す人に、上条の思考は沸騰した。
怒りの言葉を投げ掛けようと上条が口を開き、そしてその時、世界が変わっていた。
目の前が漆黒に染まり、覚醒したと思えばこの場にいたのだ。
「殺し合いなんてさせてたまるかよ……!」
上条は走り出す。
殺し合いを止める為、ただそれだけの為に『幻想殺し』は何時ものように走り出す。
「っと、うお……!」
だが、上条当麻が幸先良い
スタートを切ることはできなかった。
上条が歩みを始めると同時に靴ひもが示し合わせたように千切れたのだ。
歩き出そうとした勢いそのままに前につんのめり、転倒する上条。
ドテ、とまるで漫画のような華麗な転倒であった。
そして、この転倒こそが、上条にとっての最大の不幸となった。
「……くっそ、不幸だー……」
倒れた姿勢のまま顔を持ち上げ、上条は口癖である愚痴を零した。
土にまみれた顔が痒みのような痛みを訴える。
上条は小さく溜息を吐き、立ち上がろうと両手を地面に付けた。
「よぉ、久し振りだな」
その時であった。
倒れ伏す上条に、背後から声を掛ける者がいた。
後ろを見ようと身体を捻じりながら視界を動かす。
そこには、男が立っていた。
ポロシャツを着た、筋骨隆々という言葉がこれ以上なく当て嵌まる大男であった。
「十兵衛……楽しみにしてたぜ。てめえとまた会えるのをよ」
「……は?」
十兵衛とは何処の誰ぞやなどと思いつつ、上条はいぶかしげな視線を大男へと向ける。
兎にも角にも立ち上がってからだと、両手に力を込め身体を起こした。
「燃えるぜ」
そして―――立ち上がったと同時に、殴られた。
物凄い衝撃であった。
まるでハンマーで殴られたかのような、身体の芯に響く一撃だ。
視界が揺れ、意識に気味の悪い浮遊感が生じる。
これまでの数多の死闘の経験が活きてか、上条は反射的に両腕を掲げ、防御の姿勢を取っていた。
だが、その上からでコレである。
強烈な衝撃に脳髄が揺れ、脳震盪状態に陥る。
「始めようぜ、喧嘩をよ」
大男の言葉は、まるで耳孔に綿でも詰められたようにボンヤリとしたものに聞こえた。
マズい、と鈍った思考と力のこもらない身体を無理矢理に動かして、防御の姿勢を維持する。
が、それは無駄な努力でしかない。
またもや振るわれた剛腕は、両腕の上から上条の顔面を捉えて、吹き飛ばした。
身体と、その意識を。
「……あ?」
大男は拍子抜けした。
拍子抜けし、数メートル程すっとんでいった上条を見て、気付く。
自分が勘違いしていた事を。
「コイツ、十兵衛じゃねえ……」
学ランに、ウニでも意識してるかのようなツンツンの髪形。
そう、外見はどうにも探し求めていた人物と酷似していた。
佐藤十兵衛。
大男―――工藤優作と闘い、喧嘩で工藤優作に迫った唯一の男。
力も、タフネスも、工藤には遠く及ばない実力であった。
だが、佐藤十兵衛という男は幾重もの策を練り、策が打ち破られても足掻きに足掻いて、ついには工藤に迫った。
結果的に工敗れはしたものの、佐藤十兵衛という男は工藤の記憶に深く刻まれた。
だから工藤は歓喜した。
最初の部屋で佐藤十兵衛の姿を見た時、その時の十兵衛の瞳を見た時、歓喜が支配した。
アイツはまだ折れちゃいなかった。
俺と喧嘩する為に、俺に勝つ為に、強くなった。
鍛錬し、技を磨き、柔道の金メダリストすら打ち破り、強くなった。
十兵衛は戦う気だった。
あれだけ殴られ、尿を垂れ流してまで許しを請い、それでも心は折れちゃいなかったのだ。
だからこそ、気分は最高に昂ぶっていた。
十兵衛を発見したと思い、またあの喧嘩を行えると思い、アドレナリンが噴出した。
「勘違いかよ、くそ」
そのオチが、これだ。
十兵衛だと思った人物は他人の空似であり、何処の誰とも知れぬただのガキであった。
というかよくよく見ると身長がまるで違う。
十兵衛は自分と同じくらいの長身であったが、コイツはずっと小さい。
転んでいたこともあってか、身長が分からなかったのだ。
肩すかしも良いところだ。
「悪ぃなガキ。まぁ、ヤベえ奴に見付からないよう祈ってるんだな」
工藤は上条を捨て置き、歩き出す。
十兵衛との再会を待ち望みながら、殺し合いの場を武器も持たず、己の身体のみで進みだす。
「―――待……て」
だが、工藤は数メートル程歩いたところで足を止めた。
声を掛けられたからだ。
自分の渾身の一撃を二度も喰らい、それでも立ち上がった男に、声を掛けられた。
工藤は振り返り、後ろを見る。
そこには力無い瞳でこちらを見詰めるウニ頭の男がいた。
「てめぇは……殺し合いに乗って……る、のか」
「さぁな。乗ってるっつたらどうするつもりだよ?」
殺し合いに乗っているのなら上条を見逃す訳がないのだが、工藤はあえて言葉を選んだ。
その表情には試すような、挑発的な笑みがあった。
「ざけんなよ……こんな訳のわからない事で人を殺して、それで自分だけ助かって、てめぇはそれで良いのかよ……!」
「さぁな。だが、これはそういうゲームらしいぜ」
工藤の言葉を受け、上条の瞳に僅かな光が灯る。
その様子を工藤は興味深気に眺めていた。
「ふざけんな……! そんなすげえ力があって、それでも他人を蹴落として、生き残りてえのかよ……!」
「まぁ、死にたくはねぇからな。で、どうするつもりなんだよ、ガキ」
「てめぇを……止める」
力ない瞳で、フラフラと揺れる身体で、上条は一歩前に踏み出す。
工藤は動かない。ただ笑みを浮かべて上条を見詰めていた。
「お前が殺し合いに乗ってるっていうのなら―――」
上条はさらに一歩一歩前へ進んでいく。
工藤と上条との距離が段々と縮まっていく。
「―――それだけの力を持ち、それでも人々を殺そうというのなら―――」
そして、二人は拳の届く間合いへと至った。
ダン、と音が響く。
上条が地面を踏み抜いた音であった。
「―――そのふざけた幻想をぶち殺す!」
その一瞬、上条は何もかもを振り切っていた。
身体に刻まれたダメージも、朦朧とする意識も、何もかもを振り切り右拳を振るった。
拳は見事に工藤の頬を捉え、その顔面を跳ね上げる。
「絶対に……止めて……やる……」
そして、上条は地面に崩れ落ちた。
身体を侵襲するダメージに限界を迎えたのだ。
だが、その身体が地面に転がる事はない。
脱力しきったその身体を、工藤優作が支えていた。
「おもしれえガキだ」
そもそも工藤に、上条の一撃を避けるつもりなどなかった。
勘違いで二発も殴ってしまったのだ。一発くらい殴らせなくては余りに悪い。
それに興味が沸いたのも事実だ。
自分の渾身の一撃を、ガードの上からとはいえ二発も喰らい、それでも尚立ち上がった男。
興味を持つなという方が無理のある話だ。
だから、わざと挑発的な態度を取り、殴らせた。
あのフラフラの状態から一撃を見舞ったのだ。根性だけは十兵衛にも勝るとも劣らないものを感じた。
そして、何より―――
「―――燃えたぜ」
言葉を吐いた直後、工藤の身体が斜めに傾いだ。
両足に力を込めるも耐える事ができない。
工藤が右膝を付く。
そして何より―――あの右拳であった。
あんな状態から放たれた筈の拳は、驚異のタフネスを誇る工藤の芯さえも削った。
初めての経験であった。
たったの一撃で立っていられなくなる程のダメージを負ったのは。
プロレスラーに殴られようと、空手家の蹴りを食らおうと、金属バットで殴られようと、立ち上がる事はできる。
だが、コイツの一撃は違った。
立てない。
身体が言うことを聞かない。
どれだけの脳内麻薬を出そうと、身体は動かない。
初めての経験であった。
「面白えガキだ」
右膝をついたまま、上条を支えたまま、工藤は呟いた。
その表情は歓喜に染まっている。
佐藤十兵衛に、自分をダウンさせた男。
この殺し合いとやらは思った以上に楽しめそうだ。……そんな事を考えながら工藤優作はひとまずの休息をとっていた。
【E-5・深夜】
【工藤優作@喧嘩商売】
[状態]ダメージ(中)
[装備]なし
[持物]基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
基本:強い奴と喧嘩をする
1:ダメージが抜けるまで休む
2:十兵衛を探し、喧嘩する
[備考]
※原作24巻、田島トーナメントの概要を聞いた直後からの参戦です
【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]ダメージ(大)
[装備]なし
[持物]基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
基本:殺し合いを止める
1:気絶中
[備考]
※原作新約2巻、学園都市へ帰還した直後からの参戦です
最終更新:2011年11月21日 00:37