銀色の髪の男が、静かに炭酸飲料を傾けていた。
恐らく『炭酸飲料』としては一番有名であろうその赤い缶。
男は、何も言わずに、示さずに、缶の中の液体を喉に流し込んでいく。
ここはE-7エリアの港。
まるで乗れと言わんばかりに船が停泊しているが、これで脱出を試みたところで体内の『呪縛』が許してくれない。肉を撒き散らして朽ち果てるだけだ。
近くには、凹みのある赤い自動販売機が一台。
男は金など持っていなかったが、蹴り飛ばして強引に手に入れた。
喉を鳴らして、最後の一滴まで飲み干していく。
口元を液体がつたったが、気にせずに缶の中身を飲みきる。
飲み終えると男は服の袖で乱暴に口元を拭い、空になった缶を地面に置いた。転がっていかないようにして、それをしばらく見下ろす。
ぐしゃり。
男の足が缶を踏みつけ、その筒状の形を歪ませた。
力が入り、どんどん平面に近付いていき、最後は蹴り飛ばされる。
まるで町の不良やチンピラのようだったが、それは彼の本質とは違う。
彼の名は坂田銀時。
かつての攘夷戦争において『白夜叉』と恐れられた侍である。
尤も今は『万事屋銀ちゃん』という万事屋―――平たく言えば便利屋。
仕事が無い時期も多いが、馬鹿で愉快な仲間たちと穏やかな日常を過ごしていた。やがて多くの荒事に巻き込まれ、気付けば彼の周りは温かな人たちで溢れていた。
時には、というか割といつも愚痴をこぼしていたが、銀時はかぶき町での騒がしい生活を好み、望み、愛していた。命が危ぶまれる場面も多々あったが。
――――しかし。
もう、その日々は帰ってこない。
帰ってきたとしても、一人足りない。
彼の同僚であり家族であるチャイナ服の少女、神楽。
戦闘民族『夜兎族』の少女だけが、足りない。二度と戻ってこない。
神楽は死んだ。『見せしめ』なんて傑作な役割として、散った。
別れの言葉を交わす暇もなく、文字通り『散った』。
ここで一つ補足しておこう。
この坂田銀時は、自堕落な男だ。
毒舌でSで、いちご牛乳を愛飲する、だらしない男だ。
だが。
―――――坂田銀時は、仲間が傷付けられることを絶対に許さない。
彼は今までだって沢山の敵と戦ってきた。
結果和解した人物も居たが、出来なかった人物も居た。
しかし今真の意味で、銀時は思っていた。
――――――自分を止められそうにない。
今回の『敵』を許すことは出来ない。
この手で斬らなければ気が済まない。
否、この手で殺さなければ気が済まない。
彼女たちは、『白夜叉』の逆鱗に触れてしまった。
「…………待ってろよ、クソ野郎共」
その声色は聞く者をゾッとさせるほどに冷たく、彼の怒りのボルテージが既に決壊していることを暗に示していた。きっと今の彼を止めることは、彼の大切な仲間たちでも不可能。
鋭い眼光に闘志を燃やし、白い夜叉がバトルロワイアルを往く。
■■■
困惑。それが第一に抱いた感情。
金色の髪の毛にホストのような格好の少年は、困惑していた。
彼の名前は垣根帝督。
科学と学生の『学園都市』の闇に生きる者なら震え上がっただろう。
学園都市の一般人にも、『第二位の超能力者』と言えば彼がどれほど途方もない力を有しているかに気付き、また同じく震えるか、畏敬の念を示しただろう。
だが、『闇』の人間ならまず恐怖する。
表向きな彼の顔は、学園都市230万人の頂点『超能力者』の第二位。
彼の裏の顔は、学園都市統括理事長アレイスター=クロウリーとの交渉条件を求める暗部組織『スクール』のリーダー。即ち、殺しすら厭わない人間だ。
一応暗部の中では良識的な部類の人間だったが。
それでも。場合によっては殺す気で『230万人中第二位の超能力』を振るってくるその存在は脅威にして恐怖の存在。それが垣根帝督だ。
―――その垣根が、困惑していた。
―――超能力者の頭脳でさえ解決出来ない『不可思議』に。
垣根は、死んだ。
いや、そう言うと語弊がある。垣根は、『生かされていた』。
それも、体を冷蔵庫よりも巨大な機械に繋がれ、脳みそを幾つかに分割され、まさしく『超能力を吐き出す塊』に成り果てていた筈だった。間違いなく。
全ては、彼が敗北したから。
格上の相手・『第一位』の超能力者『一方通行』に、敗れたから。
最後に彼もまた次の次元の力に進化(シフト)しながらも、垣根帝督は徹底的に敗北し、結果暴走した一方通行に『虐殺』されてしまった。
なのに、確かに五体満足で垣根は此処に存在している。
一体どんな医療技術を使ったのか、縫い跡一つ見当たらない。
「…………ははっ、馬鹿じゃねえのか俺は?」
幾ら『外の世界とは百年以上技術が離れている』学園都市だからといって、これほど完璧な治療を行うことは不可能だ。名医『冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)』でも、不可能だ。仮に繋げたとして、縫い跡は残る。
『冥土帰し』は暗部でも名の知れた名医だが、無理だろう。
まず、分割された脳を再び機能させることが不可能に近い。
『普通』なら。
魔法や神の気まぐれで復活できたと思い、意気込む所かもしれない。
しかし生憎、垣根帝督は学園都市に―――科学に精通しすぎていた。
あの状態から復活した。させられた。
それを可能にしてしまうだけの力を有す主催の力は、どれほどか。
垣根帝督はおろか、あの『一方通行』さえ敵うか分からない。
そんな相手に、垣根は素直に恐怖を覚えた。
「…………魔法、ってか?」
馬鹿げた響きだと口にしておきながら垣根は思った。
しかし、真っ向から否定することも出来なかった。
垣根の能力は、どちらかといえば『非科学』的な能力である。
『未元物質(ダークマター)』。
この世に本来『存在しない』物質を取り出す能力。
未発見云々の話ではなく、本当に存在しない物質。
そんな非科学的な科学があるのだから、魔法だって有り得なくはない。
だとすれば垣根にとって、主催は全く未知の相手ということになる。
『未元物質』でなら対抗できなくはないだろうが、勝率は低い。
だが。第二位の超能力者はその事実に屈しない。
この世に存在しない物質――――天界の力の片鱗を振るう者。
この世の常識の外の理論――――本当の非科学を振りかざす者。
「ハッ。良い具合にどちらも常識が飛んでんじゃねえか」
だが。こと『常識外れ』においては垣根帝督の専門分野だ。
彼はニヤリ、と唇の形を変える。
その形が意味する表情はただ一つ、『笑顔』だった。
「いいぜ魔女共。どっちが常識外れか見せてやる。 ――――――――――俺の『未元物質(ダークマター)』に常識は通用しねえんだ」
一度死んだ男、垣根帝督。
彼の二度目の生は、外道共に花束を送るところから始まった。
◇◇◇
「………ちょっと良いかなそこの色男の兄ちゃん」
垣根は、ここE-7エリアの探索を始めていた。
別段目的が有る訳ではなかったが、じっとしているのは勿体無いと思った。…………残念ながら、収穫というに値するものは見つけられなかったのだが。
一息吐いた時、彼は銀髪の男に声を掛けられていた。
銀色の髪に、何処か闘志の宿った瞳。年は垣根より間違いなく上。
この男は
殺し合いに乗っていないと彼は確信した。
暗部で過ごしているのだから、人の善し悪しくらいは見分けられる。
だから、この男に力を振るう必要はない。
「………警戒しなくてもいいぞー、お兄さんは乗っちゃいない」
「ガキ扱いしてんじゃねえ、後テメェはお兄さんって歳じゃねえ」
おじさんってとこだろ、と付け足して垣根は言う。
しかし今の会話で、敵意が無いと相手ーーー銀時は認識したようだ。
「俺は坂田銀時っつーもんだ。あの屑を叩き斬る為に動いてる」
「俺は垣根帝督だ。奇遇だな、俺もアイツらをぶち殺そうと思ってな」
『あの屑』『アイツら』。
どちらも当然主催者のことを指している。
銀時は垣根の返答を聞くや否や、眉を顰めて聞き返した。
「……おいおい、待てよ。『アイツら』ってどういうことだ」
そう。銀時と垣根は確かにどちらも主催者を指していたが、二人のニュアンスは微妙に異なっている。単数か複数かの認識が、ズレているのだ。
銀時の言う『主催』は、古戸ヱリカ一人を指す。
垣根の言う『主催』は、古戸ヱリカを含む集団を指す。
「当たり前だろうが。――――こんなことは一人じゃあ出来ねえんだよ。あんなクソガキ一人で出来る所行じゃねえ、それは断言できる」
足りない。
古戸ヱリカ一人では、この殺し合いを収めるには足りない。
他ならぬ垣根帝督や、彼を一度事実上殺害した『一方通行』。
第四位の『原子崩し』に、彼が憎むアレイスターの『プラン』の一つ、『幻想殺し』。そして垣根の同僚であり相棒のような存在『心理定規』。
たった五人だけで、一国を相手にして釣りが来るほどの兵力。
他にも約140人、垣根たちのような人間も少ないが居る可能性が高い。
なら、たかが『呪縛』一つで縛りつけられるのか?
垣根の『未元物質』でも、上手く調節すれば越えられそうだ。
尤も、どうやったのかは知らないが能力が少し抑えられていたが。
そして彼は詳しく知らないが『幻想殺し(イマジンブレイカー)』。
あのアレイスター=クロウリーのお墨付きの代物。
垣根は詳しくは知らないが、それが自分や一方通行のような強大な存在を越えるほどの『何か』を持つ存在ということだけは理解していた。
なら、ヱリカ一人では尚更足りない。
という訳で、垣根は主催は集団だと考察していた。
しかし、銀時はまさに『ポカーン』としていた。
「………ちょっと待て。能力者?学園都市?何を言ってるんだお前」
「………は?まさかアンタ、学園都市を知らないのか?」
学園都市はこと科学において世界一だ。
現在も、ローマ正教とやらが学園都市と戦争を起こしそうだとかでテレビがあれだけ騒いでいるのに。――――この男は、学園都市を知らないって言うのか?
しかし銀時の顔はどこからどう見ても東洋人の顔だ。
着ている服のデザインからしても―――何より、日本名。
日本に住んでいて学園都市を知らないのは尚更有り得ない。
「おいおい。アンタ、どんなド田舎に住んでるんだよ」
「江戸のかぶき町だ。言っとくがテレビくらいあるからな」
「は……?江戸って、何言ってんだアンタは」
江戸。今より百年以上前の日本の首都。繰り返すが百年以上前の。
なら、銀時はもうとっくに生きていない歳の筈だ。そもそも老いを感じさせるような面構えでも体格でもない。
しかも困ったことに。嘘は言っていないと垣根には認識された。
平行世界(パラレルワールド)理論というものがある。
例えば、道に転がる小石につまづいて転倒してしまったとする。
だが、そこで同時に『転倒しなかった』世界が生まれ、世界が分岐していくという理論だ。正直失笑モノの論文が殆どだと垣根は認識していたがこの状況では信じざるを得ない。何せ困ったことにその理論以外に解決できるものがないのだ。
仮定する。
坂田銀時の存在していた世界は垣根帝督の世界の平行世界。
改革が起きるか起きないかで世界が分岐した。
若干事実とは違うのだが、垣根は日本史のままで考えていた。
正直な話、世界がもっと複雑に分岐した内の一つだと思っていたが。
そして説明は諦めた。別に知らなくて困ることではないだろうし。
二人はやがて情報の交換を始める。
「………分かった。志村新八という奴に会ったら、伝える」
「ああ、頼む。俺も『心理定規』?って奴に会ったら伝えておく」
結論から言うと、二人とも知り合いに弱者が居なかった。
要注意人物として垣根は『一方通行』と『麦野沈利』を挙げたが。
二人は互いに、一番信頼を置く相手に伝言を頼んだ。
銀時は同僚にして家族の志村新八に。
垣根は同僚にして相棒の心理定規に。
たった一言だけ。
『これ、潰すぞ』
と。それだけ伝えて、二人は別れた。
垣根と銀時はどちらも相当の強者だ。だから、別れた方が弱者の保護に周れ、更により多くの仲間と情報を得ることができる。
そして。『白夜叉』の反逆が始まった。
【深夜/E-7】
【坂田銀時@銀魂】
[状態]健康、強い決意
[所持品]不明支給品
[思考・行動]
0:主催者共をたたっ斬り、神楽の仇を討つ。
1:新八たちは大丈夫だろうし、戦えない奴を保護する
2:一方通行、麦野沈利には警戒しておく。
※少なくとも金魂編に入る前からの参加です
※垣根帝督から学園都市に関する情報をある程度聞きました
□□□
垣根帝督は、坂田銀時と別れてから一人歩いていた。
平行世界の存在。そして主催に対する考察もうまくまとまった。
得られたモノは決して零ではなかったようだ。
江戸に住んでいるというどこか奇妙な男、坂田銀時。
彼ならば、主催者に一矢報いることが出来るのではないだろうか。
銀時は自分とは違う。
きっと彼なら、見せしめの少女の仇討ちを遂げられるだろう。
「敵わねぇよな………」
垣根帝督が一方通行に敗北した理由。
それはただ単に、一方通行の『黒い翼』が垣根帝督の『天界の力の片鱗』を上回っただけではないのだろう。一方通行の言う通り、根本から彼に負けていた。
彼は戦いながらも誰かを守ろうとしていた。
自分は勝手に火に油を注いで自滅した、ただの三下に過ぎない。
あの末路はきっと当然の報いだったのだろう。
三下に相応しい、あまりにも無様で哀れな幕切れ。
―――――俺は、なんて傑作な道化だろうか。
「………つーわけで、こんな道化に負けてお前は死ね」
「笑止」
威圧感。
垣根の背筋に冷たいものが走る。
今垣根の前方に立つ男こそが、垣根帝督の運命の審判員。
生きてやり直せるか、死んで道化に成り果てるか。
―――――征天魔王織田信長。
戦国乱世の大魔王が、垣根帝督に殺意を向けている。
『天界の力の片鱗を振るう者』と『第六天より来たりし魔王』。
―――――戦いの火蓋が、切って落とされた。
【垣根帝督@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康、闘志
[所持品]不明支給品
[思考・行動]
0:殺し合いを潰し、元の世界に帰る。
1:前方の男(信長)を倒す。
2:人は極力殺さずに、弱者は保護していく
3:心理定規と合流したい
※一方通行に『虐殺』された後からの参加です
※『未元物質』にはある程度の制限が掛けられています
【織田信長@戦国BASARA】
[状態]健康
[所持品]聖剣アスカロン@とある魔術の禁書目録
[思考・行動]
0:全てを殺し、天下布武に戻る
1:前方の小僧を葬り去る。
2:主催者共は根絶やしにする。
※本能寺の変より前からの参加です
※魔王としての力はアニメ版レベルの力まで使えます
最終更新:2011年11月23日 09:05