この世には二つの種類の人間が存在する。
――――と云うのは既に使い古された文句であるが、ここではその意ではない。
一言で言えば、『常人』か『異常者』か。そのどちらかに、世の中の人間たちは綺麗に区分される。尤も、大半は前者だろうが。
だが、ここで挙げる『異常者』の定義は、恐らく『常人』には理解できない境地。もしかすると同族である『異常者』でさえ理解できないかもしれない。
―――――――――能力者。
能力といえば何を思い浮かべるだろうか。精神感応、発火能力、念導力。
そういった能力も確かにこの世には存在する。
が、それを宿す素質のある人間は一握りの更に一握り程度しか居ない。それに、アニメや漫画で見るほど派手な能力行使はまず不可能。脳にかかる負荷が大きすぎるからだ。
とすれば、多いのは何か?
単純に多いといえば――――それでも少ないが、千里眼能力者。続いて念話(テレパス)だろうか。とはいえ、そこまで大きな範囲の発動は普通不可能だが。
そして。
この
殺し合いに呼ばれている参加者たちの中には、片手の指で足りる程度の数、『異常者』が紛れ込んでいる。彼らがどうその能力を使うかもまた、予測不可能。
殺し合いに背く切り札(ジョーカー)となるか、殺し合いを促進させる危険札(ジョーカー)となるか。
良くも悪くも彼ら次第。
では最初に、『千里眼』『感知(レーダー)』能力者のお話といこうか。
□
夜坂文香。医者は彼女をこう呼んだ。『改悪品』と。
文香は正しく生まれてきた人間ではない。彼女の戸籍上の両親が生み出した試験管ベイビー。――――それも、正常ならざる異常を持った能力者になるように操作した個体。
《個体》――――それは間違いや比喩ではない。
ドクター夜坂。近代のマッドサイエンティストは、彼女のような個体を計35体製造している。結果、ほぼ全てが1歳前に死亡し、三体のみが残った。
夜坂葵、夜坂美織、夜坂文香の三体が。
結果的に『葵』は最強クラスの《怪物》となり、『美織』は能力が宿らずに勘当。『文香』は優秀な千里眼能力を持っていたが、高負荷により不治の病に。
彼女はドクターに溺愛され、異常な薬剤投与により運動神経を犠牲に延命。つい半年前までは無菌室での入院生活を送っていた。
その片手間にやってくる『客』、行方不明の肉親を探す者たち。
そんな彼らに文香は淡く微笑んで真実を告げるのだ。
『――――――――コンクリートの下に、埋まってるよ』
色々な人が居た。殆どは既にこの世から退場していたが。
人の気持ちが分からないまま育ってきたお嬢様気取りの悲劇のヒロインは、半年前に自分の本質を理解して、そして全てを悟った。
自分の力は、ただ見渡し、探す能力のみではないと。
自分の力は―――『人ならざる人』―――霊体の視覚だと。
因みに彼女はもう長くない。医者の見立てでは保ってあと二年だそうだ。
二年後に、確実に彼女は『視覚できなく』なる。その前に。
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◇
福沢正也は、だるそうに片手でクロスボウの矢を弄ぶ。
彼はいつだってそうだ。いつでもいつまでも気だるそうに、目を逸らし続けてきた。そのツケか、友達などは居なく、出席日数もあまり多くはない。
登校しても授業にはほぼ出ていない。図書室で文学に耽るのみだ。
この学校は緩い。出席数が足りていてある程度の成績があれば卒業できる。
それを理解して、正也は無気力に青春を謳歌していた。彼なりの。
修学旅行に行こうとしたのも、ただ単に珍しい土産目当てだ。
もし無事に宿泊先に着いたなら、妹への土産を数時間かけて吟味しただろう。
彼が唯一大切にする妹。
過去に『とある事件』があってから、唯一彼が守ると誓った人間。
つまり彼は、殺し合いに乗る気だ。妹・福沢沙耶の元に帰るために、皆殺しにする。
がさり。
彼は近くの木陰に、多少の音を立てながら滑り込んだ。
理由は単純。早い話が、敵の姿を確認したからだ。相手もこちらを認識したのだろう、獲物と見られる軍用ナイフ片手に走ってくる。
残念ながらクラスメイトの顔など覚えていないから誰かは分からない。
やる事は何一つ変わらない。
木陰に入ったことにより、相手の視界から外れ、準備する。
矢を装填し、誰かさんの顔面に放つ。
矢は綺麗に誰かさんの額に突き刺さり、誰かさんを絶命させた。
だが、彼は直後に気付く。
殺した相手の背後から、足をひきずって少女が歩いてきていたのだ。
黒髪を腰まで伸ばし、動きやすそうな特注の制服に身を包み。
しかし歩き方は少しぎこちない。
顔には安堵のような笑みを浮かべ、正也にゆらり、と向かってくる。
正也は何一つ躊躇わずにクロスボウを構える。
この距離なら一発、頭に撃ち込むことだって簡単だ。
が、少女は唐突にその場に転倒してしまう。膝をついて、あっさりと。
その力無い微笑みに、正也はある記憶を重ねてしまう――――、絶対に、重ね合わせてはいけない記憶と。後悔してももう遅かった。
二年前、当時中学三年生の妹が、学校で悪質な虐めを受けていたことを。
確かあの時。妹は完全に擦り切れた。
――――そして《僕》は――――皆、皆皆皆皆皆、ぶち壊した。
比喩ではない。執拗な闇討ちで彼らを破壊した。
ちょっと前までは大したニュースになっていたのだったか。
福沢正也は、あの日初めて人間になったのかもしれない。
気がつけば、クロスボウを取り落として、彼女に駆け寄っていた。
「……大丈夫か、夜坂文香」
いくら彼でも知っている。つい最近まで入院していた重病の少女。
気にかけていた訳ではなく、ただ記憶していたに過ぎなかったが。
きっと、もうこの子は永くない。
正也は知らないが、余命二年の身だ。しかし、明らかに相当具合が悪そうだ。
この殺し合いどころか、修学旅行さえかなりの無理をしていたのだろう。
彼は知らない。
夜坂文香の視界に、何が写っているのかを―――――。
【夜坂文香】
身長148cm、黒髪で色白。
同年代の子供と比べて体型が幼いが、それは彼女が受けている負荷の影響。
先天的な霊能力者で、更に優秀な千里眼能力を持つ。
幼少期は行方不明者の捜索を依頼されたりしたが、自分の告げる言葉の残酷さを知ってからは受けていない。尚、彼女の見る霊たちの負荷が彼女の体に押し寄せている。
余命は保って一年。
【福沢正也】
素行不良。しかし一般的な不良とは異なり、彼は授業を受けないだけで喫煙や暴力行為などを進んで行わない。
沙耶という妹を持ち、彼女の敵に回る人物を闇討ちして精神或いは肉体を破壊するという行為を習慣にしている。類希なる身体能力を持ち、弾丸くらいなら視覚してから避けられる。
最終更新:2011年11月25日 08:46