幸い誰もいないため、自分が狙われていることは誰にも知られてはいない。
走り、走り、走り、走り、ただ走った。スプリンクラーが雨の如く降り注ぐ廊下を走る。
階段に到達した頃には、もう体力はほとんど残っておらず、心臓も破裂しそうだった。
どれだけ階段を上ったのだろうか?何段階段を上がったのだろうか?
脳の感覚が次第に薄れていき、生きることに対する気力すらも薄れていく。
そして、一つの疑問に突き当たった。
この女を助ける必要はあるのだろうか、と。
この女は、存在意義があるのか?
この女は、僕を殺そうとしたのに、助ける必要があるのか?
だが、ここで人を見捨てれば、じいちゃんはなんと言う?
逆に、僕が死んだら、ばあちゃんは、どうなる?
「大体分かっているよ。」
無駄に広い校舎は四階建てで、東館と本館に分かれている。今いるのが東館。
東館は比較的、老朽化が進んでおり、一部の教室は倒壊の危険があると言う噂が流れたくらだ。
本館から運動場に向かえば、とりあえずは外にいる警官に保護される。
その本館に向かう通路は、三つ。1階と今いる2階に二つ。だが、引き返せないため1階にはいけない。
助かる可能性が見えてきて、内心ほっとしていた。通路までは百メートル弱。百メートルは13秒台で走ったことがある。
「・・・嘘だろ・・・。」
『防火扉』と書かれた金属の壁は、見事に本館へと向かう通路を塞いでいた。
背後からは、金属バットを引きずるフルフェイスヘルメットの襲撃者。
もう無理だ。どうやら、ここで殺される。希望も無くなったためゆっくりと目を瞑った。
「ゆっくりと死なせてもらう。」
じいちゃんとばあちゃんには悪い事をしたと思う。自分達より先に子供にも死なれ、孫にも死なれ。
出来れば、二人には悲しませたくなかった。
僕が死んでも、存在意義がない世界は時と共に動き続ける。
パァァァァン
銃声が聞こえた。撃たれたみたいだ。
だが、痛みは感じていない。
不思議な感覚。
不思議な空間。
あれ?
そういえば、こいつ銃持っていたっけ?
ゆっくりと目を開けた。
どうやら、被弾してない。と言うよりも、襲撃者の肩から血が噴出していた。
少女気絶したままなので撃っていないはず。
「おいおい…ガキ相手にクレイジーすぎねーかァ?」
目の前にいたのは、黒いテンガロンハットを被った金髪頭の男。髪の毛を後ろで結んでいる。
格好は余りにも周囲と適応していない、カーボーイ風の服装。恐らくアメリカ人だろう。
「クソ!!新手か?」
「おいおい、落ち着けって。このビリー・ザ・キッド様がガキを殺すわけねーだろ。」
ビリー・ザ・キッド?
あの、伝説のガンマンのビリー・ザ・キッドのことか?
赤毛の女みたいにイタイ奴が他にもいるのかよ…
とりあえず、警戒はしないとならない。嘘をついている可能性だってありえるから。
この男は銃を持っているようには見えない。
つまりこの男は、この男がおとりで、遠くから狙撃している。
「さぁ、どうする?下衆野郎。」
◇
【学校昇降口爆発数分前から爆破後数十分後までのお話。】
(所有者の命令と言えど、さすがに暇だ。)
赤毛の女ことボニー・パーカーは、貧乏ゆすりをしながらベンチに座っていた。
所有者の命令は絶対。そのため、どんなに辛くても、待っていないとならない。
さすがに、誰でもそんな事を命令されたらひまで仕方が無い。
「てめーも精霊なんだろ。」
ボニー・パーカーは、背後から掛けられた声に驚きながらも身構えた。
自分の事を精霊と知るもの――――すなわち他の精霊
殺し合いをするゲームに巻き込まれている精霊。どんな奴かは分からない。
それがもしも、最も狂った殺人兵器や、肉を啄ばむ獣であるかもしれない。
しかも、ここは一般人が行きかう高校。下手をすれば一般人が巻き込まれる恐れだってあるのだ。
「戦うつもりはないのだがな。」
「そんな、甘えーこと言っていたら、死ぬぜ。」
テンガロンハットを被った男の精霊は、人差し指をこちらに向ける。
ボニー・パーカーも身構えると同時に、固有能力を発動させようとした。
だが、その行動は余りにも遅すぎた。
銃声と共に、腕に真っ赤な穴が開く。
「俺様の能力は『空気銃』てわけだ。」
「…わざわざ、能力を言ってもらえて私も光栄だな…。」
ボニー・パーカーは固有能力を発動させようと構えた。
が、固有能力は発動できなかった。
地響きと共に、爆音が鳴り響いた。破片と煙が飛散して、非常階段からは数人の生徒が降りてくる。
このまま、能力を発動させると一般人に犠牲者が出る。そう、ボニー・パーカーは気づいたのだ。
「これは貴公の仕業か?」
「俺様がこんな卑怯なことするかよ!?」
【2012 6/2 Saturday“greed”GAMESTRT】
◇
「さぁ、どうする?下衆野郎。」
ビリー・ザ・キッドと名乗った男は、人差し指を向けて鉄パイプを持つ襲撃者の行動を制止している。
襲撃者は鉄パイプを床に落とすと、ポケットから爆破物らしきものを取り出すと地面に叩き付けた。
爆破物からは、尋常じゃないほどの光と雑音が放たれる。
襲撃者が投げたのはスタングレネードと気がついた時には、視界が奪われていた。
目が痛い。失明しそうだ。やばい、攻撃される。
ここはどこだ?
さっきまで広がっていた、後者の風景とはだいぶ違う風景。
血まみれで倒れる男性と女性。それを見下す、細身の男。それを呆然と見詰める少年。
見たことのある風景。思い出したくもない、あの日の風景と同じだと言うことはすぐに気がついた。
倒れているのは、関香澄と関智明。僕の父と母。
「パパ…ママ…なんで…。」
呆然と立ち尽くす少年はそう呟いた。
見下すようにたっていた細身の男は、ゆっくりと少年を向いた。
それ以上、言って欲しくはない。もう、思い出したくはない。
「何故?何故、お前は理由を知りたがる?」
これ以上聞きたくない。
僕は耳を懸命にふさいだが、無情にも声は耳へと伝わっていく。
「では、何故、お前は生きている?その理由を知りたいか?
何故、こんな世界がある?それも知りたいか?
おまえの両親が死んだのはその理由と同じ。理由などに価値はない。」
うあああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
◇
「おい、大丈夫か!?」
そんな声が、僕の目を覚まさせてくれた。目を開けるとあった世界は、病院のベット。
病室にいたほかの患者も不思議そうな顔でこちらを向いていた。
つまり、あの日の夢を見てうなされていたと言うことは明白なわけである。
「南雲市警察捜査係の伊達原浩二だ。ちょっとお話を聞かせてもらえるかな?」
南雲市東高等学校爆破事件。
ワイドショーでも取り上げられるほど有名な事件になったらしい。
僕はつまりその重要参考人になれたわけだ。まぁ、逃げ遅れの手前仕方が無いことだろう。
やましい事だらけだが、まぁ適当に話を作って答えるようにはしておいた。
伊達原巡査長は一礼をすると、病室の外へと出て行く。
あの少女はどうなったのか?
あの赤毛の女はどうなったのだろうか?
と言うより、身動き取れないけど襲撃されないのか?
心配な事だらけで困ってしまう。
「勝宏!!奇遇だな!!久しぶりに会ったじゃないか。」
真っ黒な天然パーマの頭に、気さくな性格。これだけでもう誰かということはわかってしまった。
関春翔――――僕の兄貴であり、二年前に上京して、一流企業に勤めていると聞いた。
『病院では静かに』という、暗黙の了解を破り、他の人に白い目を向けられているが、僕にとっちゃ最高のバカ兄。
優しくて、明るくて、気さくで、非凡な才能を持っていて、まるで僕とは真逆。
故に、ガキの頃からの憧れでもあり。コンプレックスでもあった。
「兄貴?東京にいるんじゃなかったのかよ!?」
「お前にあいにく途中で、事故ってな。なんと相手はヤクザ。んで撃たれちまった。」
兄貴らしいドジだ。久しぶりに再会できた兄はまったく変わってはいない。
嬉しかった。父と母が殺されたときでも、兄はただ一人僕を励ましてくれた。
相談してみようかと迷った。だが、やめておいた。
じいちゃんやばあちゃん、そして兄は、あのふざけた殺し合いには巻き込ませない。
そう決めた。
「ハハハ。どういう状況だよ!!!」
笑えるだけ幸せだ。
今はその幸せを十分にかみ締めて、後の事を考えていこう。
【2012 6/2 Saturday 関勝宏 続行中】
【2012 6/2 Saturday 他三名 不明】
最終更新:2011年12月03日 14:47