「何が、どうなったのかな?」
悪夢―――バトルロワイアル。
開始してから一時間弱の時間が経過していたが、もう既に何人かはこの悪夢の中で儚い命を散らしている。現在の死者、11人。残り参加者、137人。
そんな時、玖渚友は病院の待合室でぽつりと呟いた。
彼女はバトルロワイアル開始時の位置から総合して十歩も歩いていない。
移動するアテもなかったし、移動しようとも思わなかったからだ。
玖渚はその青い瞳でただ虚空を見つめている。
いつもの余裕はさすがに影を潜め、真剣に彼女は考えていた。
今の彼女は《青色サヴァン》の玖渚友である。
「(おかしいなー。僕様ちゃんには、拉致されたり襲われたりした記憶はないし………あったとしたら覚えてるはずだからなー)」
その、まさに最高の頭脳でさえも理解が追いつかない。
突然脈絡もなく始まって、脈絡もなく少女の体が弾けた。
お粗末な展開、複線もない、某少年漫画雑誌なら打ち切りレベルだ。
天才の集うとある島での一件、《仲間》と行ったサイバーテロ。年齢にそぐわない数の修羅場をくぐってきた彼女だが、ここまで理解できないのは初めてだった。
理解できないということは玖渚友にとって珍しい。
かつて敵に回り、今も暗躍しているという《砂漠の狐》か?
しかし、このやり口は少々常識から外れすぎている、と彼女は思う。
見せしめの件。体を内側からあそこまで爆散させたこともそうだ。
小型爆弾を飲み込ませたなんて威力じゃない。
血管中の血液全てを爆薬にして一斉に起爆でもしたような。しかしそんなことをすれば起爆以前に人の生命活動が停止してしまう。つまり、不可思議だ。
そんな仕掛けが自分にも施されている。だが体に違和感はない。
「(魔法みたいなものなのかな?いくら僕様ちゃんでもそんなリリカルなものが実在するなんて信じられないけど………でもそんな常識外れじゃなきゃ、この状況を証明できないんだよね)」
最高の頭脳を回転させる。
バトルロワイアルに招かれている人物たちには知る名前もあった。
玖渚友にとってかけがえのない存在《戯言遣い》こといーちゃんの名。
無為式――――彼はそんな存在だ。玖渚が無為式という言葉を知っているかは別として、戯言遣いが超ド級のトラブル誘引体質だということくらいは知っていた。
名探偵が泊まった宿では殺しが起きる、それに一番近い。
《戯言》を用いて時には事件を解決し時にはかき乱す。
それでも常に物語に関わっている、戯言遣いはそんな人物だ。
無意識に物語を乱し策を殺す、だから『無為式』。
熱い戦いなどせずに、かといって冷たい殺人もしない。使うのは言葉。
玖渚友が同じように戯言を振るってみたとして、彼ほどに物語を乱せるかと言われたら答えはノーだ。戯言遣いの戯言には何か、人の心を狂わせるような不思議な力があると言われても疑わないだろう。
当然それは危険な解決策だ。
逆上した相手に何をされるか分かったものではないのだ。
しかし、戯言遣いは大怪我を何度負おうと戯言を振るい続ける。
あれはもはや戯言遣いの根本というべきかもしれない。
「(いーちゃんなら何やかんやで生き抜いてそうだけど、今回は今までと少し違う。最初から推理も何もなく殺しに走ってくるから……安心とは限らないね)」
その底抜けのしぶとさを知らない訳ではないが、やはり気にはかかる。
戯言の通じない相手に出会えば、彼の勝ち目は大きく薄れる。
腕っぷしだけでなら少し鍛えた不良にさえ圧倒されるかもしれない。
残念ながら肉体はそこまで戯言じみてはいなかった。
なのに殺人者相手に何故恐れもせずに立ち向かえるのか分からない。
戯言殺し。
そんなものに会ったが最後、生存の望みはかなり薄くなる。
騙すことにも騙されることにも慣れている彼だ、上手く立ち回る気もするのだが―――こんな状況でさえ彼は戯言を振るうのだろうから、トラブルは避けられないか。
「(でも、いーちゃんが死んじゃうなんて想像もできないや。心配してたって何か変わる訳でもないよね)」
正直
殺し合いの打倒くらい、あの哀川潤に任せれば造作もないだろう。
自分たちはただ傍観していても、誰かが殺し合いを終わらせる。
だが、不穏な因子を取り払っておきたいのも事実だった。
現状は最悪。哀川潤に任せたとしても、『呪縛』を解除しなければ始まらない。
現状、解除方法は不明。
早くこの呪縛への答えを出さなければ打倒はかなり厳しくなる筈だ。
「んー、じゃあ一肌脱ごうかな」
やっと立ち上がり、玖渚は目の前のロビーに向けて歩いていく。
目指すのはPCだ。
《死線の蒼》としての力を使い、主催にハッキングする。
「(プログラムなんて………無かったら作ればいいか)」
ロビーの奥。恐らくは薬の注文や入院の手配などを整理する場所。
わざわざ奥を選んだのは可能な限り見つかりにくいようにするためだ。
玖渚は弱い。殺すのには銃など無くともナイフで十二分だ。
PCデスクの前の椅子に座り、その起動スイッチに人差し指を当て、押した。
程なくして起動され、OSが最新のものだと確認して玖渚は笑む。
「最新OSは気持ちいいねー、こんな状況だと重宝するよ」
最善は自分好みにいじった代物なのだが贅沢は言ってられない。
良PCを発見できた時点でラッキーなのだから。
適当なアカウントでログオンし、必要なアプリケーションを確認する。
最低限の材料はある、玖渚好みの即席品は作れそうだ。
次にこのバトルロワイアルの全てのPCを把握しリンクさせる。
玖渚からすればとても簡単な、赤子の相手をしている気分にさえなった。
まだ慎重にならなくてもいい。今は大ざっぱに攻めていくのが得策。
「――――ねえ、いい加減出てきてもいいんじゃない?」
玖渚は背後に向けてその言葉を発した。
一呼吸おいて、観念したかのように一台の机の陰から少女が出てくる。
玖渚より背は高いが年下とみていいだろう。
「まず質問させて貰うわ。貴方、殺し合いには乗っているの?」
「うんにゃー、乗ってないよ」
「はい質問終わり。あたしは仲村ゆりよ」
仲村ゆり。
紫がかった髪の毛に独特の紋章を誂えた改造制服。
その手に握られているFN Five Sevenの持ち方はやけに手慣れている。
それもその筈だ、何故なら彼女は『死んだ世界戦線』のリーダー、神様と世界への反逆を掲げる『戦士』なのだから。
単なる女子高生にあらず、そんな少女だった。
玖渚はそんなことを気にも留めず、ただPCに向かい続けている。
一瞬たりとも視線をモニタから外すことはなかった。
「じゃあゆりちゃんさ、悪いんだけど僕様ちゃんを護衛してくれない?」
護衛。玖渚友がそんなものを必要とすること自体滅多にないことなのだが、今の状況がどれほど危険かくらい彼女は理解していた。だから、ここでゆりが現れたのは幸運。
様々な面倒事に関わり、情報を得てきた玖渚には分かる。
仲村ゆりは護衛とするにふさわしい人物で、裏切ることはまずないと。
尤も、ゆりが裏切ることがないのは真実だが、その理由は玖渚友の理解の外の話―――――彼女がすでに「死んだ身」であるというところに起因するのだが。
「……電脳戦を挑むって訳ね。分かったわ、あたしに任せなさい」
「ありがと。僕様ちゃんは玖渚友っていうんだよ」
承諾。
一瞬も迷うことなくゆりは玖渚の策に乗ることを示した。
やはり相当な経験を積んでいるみたいだね、と玖渚は心中で呟いた。
『戦線』の活動内容こそ知らないし彼女はその存在すら知らないが、このような命のやり取り『実戦』に近しい経験もしくは『実戦』そのものを行ってきたのだろう。
「ゆりちゃんは、どうしてこのゲームに反対するのかな?」
「……気に食わないから、かしら。あたし達がこんな悪趣味極まりないゲームを強制されるなんて、胸糞悪いにもほどがあるから」
言葉の端々に主催への嫌悪を散りばめながら、ゆりは言った。
なかなかの反逆精神だね、とモニタから目を離さずに玖渚は応える。
会話をするだけの余裕はあるらしい。
ゆりには近くで見ていても何をしているのかさっぱり理解できなかった。
そこまで機械に疎い訳でもない彼女だが、さすがに理解が追いつかない。
「………やったね、どうやら仲間が見つかったみたいだよ」
画面には『バレル・タイター』と名乗るメッセージが表示されていた。
玖渚友と同じく、凄腕のハッカーとなる逸材らしい。
同じ目標に向かい、顔も知らない二人の『縁』が結びつく。
『そうだね、『バレル』だから……』
作業をしながらチャットのように文字を打ち込んでいく。
『ダルくん、って呼ぶことにするね』
《死線の蒼》は一人、笑んだ。
【深夜/C-2】
【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]健康
[所持品]不明支給品2
[思考・行動]
0:バトルロワイアルの打倒を手助けする。
1:ゆりちゃんに護衛を任せる。
2:いーちゃんか潤ちゃんにも会っておきたい
※『ヒトクイマジカル』、いーちゃんとマンションで会話した直後からの参加です
【仲村ゆり@Angel Beats!】
[状態]健康
[所持品]FN Five Seven@現実
[思考・行動]
0:バトルロワイアルに反逆する。
1:玖渚さんを護衛する。
2:天使(立華奏)には警戒する。出会ったら戦う
※3話終了後からの参加です
最終更新:2011年12月05日 14:03