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悲しみの向こうへと、辿り着けるなら

大いに、『彼女』は怒っていた。
『彼女』と言うと、聞き返す者も居るかもしれない。それも結構な数。
黒人とまではいかないが色黒な肌、顔にある傷。かなり大柄な体駆に銀髪が威圧感を周囲にこれでもかと発していた。服の袖が破け、鍛えられた肉体が覗いている。
彼女に喧嘩を売るような輩はそう居ないと一目で理解できるだろう。
しかも見かけ倒しではない。彼女はとても強い。
まず町の不良番長程度では相手にならず瞬殺されるのがオチだろう。
彼女の名前は大神さくら。『希望ヶ峰学園』の生徒だ。
『超高校級』の才能を持たなければ入学できない学園に彼女が入学できたのは当然、『超高校級』の才能を持つからだ。彼女は『超高校級の格闘家』。
総合格闘技の天才。最強を目指す戦士(ファイター)。
その彼女が今、これ以上ないほどの怒りを示していた。

「古戸ヱリカ………絶対に許さぬ………!!」

拳を血が滲むほど強く握り、鍛えられた肉体を怒りに奮わせる。
視線で人が殺せるとしたら今のさくらの視線は即死級だったろう。
彼女が、このような悪意に満ちた宴に巻き込まれるのは人生で二度目だった。
ありえない『二度目』。
一度目は絶望の学園生活だった。

コロシアイ学園生活。
あれも許せる所行ではなかった。人として、絶対に認められない。
しかし、今回は許せるかと言われれば答えは否だ。
慣れるなんてことはなかった。怒りはいつだって激しかった。

「待っていろ――――古戸。貴様は我が必ず倒す」

猛烈な殺気と威圧感を周囲に醸し出し、大神さくらは告げた。
その言葉を紡ぎ出した後、さくらの纏っていた殺気が徐々に薄れていった。
いつまでも感情的になっていても仕方ないことくらいは分かる。
ここは一度落ち着いて、状況の把握に努めるべきだと彼女は判断した。
デイバックのチャックを開け、中に入っていた一枚の紙を掴む。
ぐしゃっ、と紙を乱暴に握って引き出す。
たくさんの顔写真が載り、その真下に名前が書かれている。
参加者名簿というものだろう、さくらは知っている名前を探した。
意外にも数人の知り合いの名があり――――そこで驚いた。全員、あの『絶望学園』において共に過ごした希望ヶ峰学園の入学生たちの名前だったのだ。
あの学園から出られたのは自分だけではない。
どうなったのかは知らないが、とにかく脱出は出来たようだ。
しかしどうも附に落ちない。
二人だけ、つじつまが合わない。


大和田紋土と不二咲千尋。この二人は、既にこの世には居ない筈だ。
あのコロシアイ学園生活での被害者と加害者の関係。
大和田紋土は不二咲千尋を殺し、その後『オシオキ』された。
あの『オシオキ』から大和田が脱出し、実は生きていたというなら分かる。
だが、不二咲は別だ。その死体は他ならぬ大神さくらが確認した。
間違いなく、どうしようもなく不二咲千尋は死んでいた。
不二咲の双子、なんて陳腐なトリックがあったかもしれないが、それは突拍子が無すぎるというものだろう。あれは確かに不二咲千尋だった。だからこの名前はおかしい。

「…………どうなって、いる…………?」

あの学園長が得体の知れない蘇生処置でも行ったのか?いやありえない。
死後硬直が始まっている死体を蘇生するなど非現実的すぎる。
ならば、この不二咲は怪しいと見た方がいいのだろう。

―――大神さくらに苦いものが走った。

自分が不二咲千尋を疑えるような身分でないことは自分が一番理解しているのに。裏切り者の内通者に―――絶望に寝返っていた悪人に、人を疑う権利などあるものか。
苗木たちに会わせる顔などない。
『一矢報いる』ためにドアを破壊したが、足りない。
償い切れない。もし自分が絶望に屈しなければ不和は生まれなかった。
希望の芽を摘み取ってしまったのは他ならぬ自分。
ならば、今回は自分が『希望』となり『絶望』を駆逐する。
駆逐しなければならない。大神さくらが許されるには、必然のことだ。

往こう。
この巨大な悪夢を破壊する為に、絶望を希望で塗り潰す為に。
頼るのは己の鍛え抜いた鋼の肉体のみ。だが、それでいい。
それでこそ――――希望というものだろう。



十数分が経過した。闇雲に歩き回ってみたが、なかなか人には会えない。
ふぅ、と壁にもたれて一息吐く。
手がかりといえるものは何一つ見つけていないが、少し疲れた。
デイバックに入っていた『ドクターペッパー』なる炭酸飲料を呷る。味は薬品臭いところがあったし、さくらはあまりこういった飲み物を飲まないのだが背に腹は代えられない。プロテインでも支給されていれば良かったのだが、とは思ったが贅沢というものだろう。
慣れない炭酸の感覚が喉を通り抜けていく。
旨いとは感じなかったが、どこか心地良い感覚だとは感じた。
さて、次は何処に行こうか―――そんなことを考えていると、ふと気付く。
人の気配だ。敵意ではなかったが。


さくらは立ち上がり、駅内の―――自動販売機の辺りに歩いていく。
そして見つけた。うずくまって小刻みに震える小さな女の子の姿を。
この少女は恐怖に震えている。
ならば、それを助けてやるのもまた『希望』なのだろう。

「大丈夫か」
「ひっ」

少女は震えたまま、顔だけをさくらの方に向けた。
瞳からはとめどなく涙が溢れ、歯がカチカチと音を立てている。
ああ、この少女は自分が助けてやらないといけない。
『超高校級の格闘家』大神さくらの強さを、この少女を守ることに使う。

「………心配するな。我は貴様の敵ではない」

小学生と見られる少女に『貴様』呼ばわりもどうかと思ったが、生憎急に呼称を変えられるほどさくらは器用な性格をしていなかった。だからそのままで話しかける。
次に話したのは、自分の軽い自己紹介のようなものだった。
自分の名前と、『格闘家』だということ。そして『希望』になるということ。
一切包み隠すことなく、全てを話した。
少女に理解できないだろう『絶望学園』のことは話さなかったが。

「………へえ、強いんだね、さくらんは」

さくらん?と思わず聞き返したが、仇名のようなものと解釈する。
それから交わした話。他愛もない日常の話から、込み入った話。将来の話に、これからの目標の話。そして互いの大切な者たちの名前。絶対に守りたいという意志確認。
少女―――三沢真帆は、強かった。
小学生にして、殺し合いに放り込まれてもう立ち直っている。
この前向きさはきっといつか、彼女の夢を叶えるのだろう。
負けてはいられない。『超高校級の格闘家』として、負けてはいられない。
三沢は絶対に守る。たとえこの命に替えても。
さくらは力強く心の中で宣言した。


「ねー、さくらん」


がしっ、と。真帆がさくらの強靱な肉体にもたれかかった。
ああ、やはり怖いか。それでいい。貴様はそれでいい。
こんなものに慣れてしまうような日々だけは、送らないでくれ。
何だ、とさくらは落ち着いた声で応えた。

「あたしさ、バスケで誰より強くなりたいんだ。智花やすばるんみたいな上手い奴らも越えてさ、世界一になりたい」
「そうか。ならば諦めるな。三沢、お前なら出来る」

バトルロワイアルにこの少女の未来は殺させない。
立ち塞がるなら力づくでも押し通ってみせる。

「あた、しさ。楽しかったんだ。みんなで練習して、勝って――――」


そりゃ負けたら滅茶苦茶悔しいけどさ、と付け足す真帆。
しかしその声には嗚咽が混じっていた。服に涙が沁みてくる。

「なのに、さ、神様って不公平だよ、ね」


三沢は何を言っているのだろうか。何故諦めきった声で言う?
泣いているにしても、言葉の端々に混じる音は何だ?
何故――――涙とは、こんなに心地の悪いものだったのか?

「楽しかったなあ。また、みんなで、―――――」

気付いた。
遅かった。

三沢真帆は、血だまりを作っていた。
背中から大量の血が流れて、口からも血を吐いていたようだ。
さくらの服にも、血がべったりこびりついている。
真帆のあの小さな体は、二度と動かない。

「―――――――三沢ァァァあああああああああ!!」


大神さくらの慟哭の叫びだけが、空しく木霊していた。



【三沢真帆@ロウきゅーぶ!】  死亡
【残り136/148人】



【深夜/B-6】
【大神さくら@ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生】
[状態]健康、激しい怒り
[所持品]ドクターペッパー@Steins;Gate
[思考・行動]
0:バトルロワイアルにおける『希望』となる。
1:三沢―――――――――――――
※死亡直前からの参加です
※湊智花、長谷川昴の情報を得ました



「……………すまんなぁ」

罪悪感だけが、女の心を支配していた。
守りたいモノがある。だから、どうしても願望の成就が必要だった。
だが、しかし。
つい数秒前まで希望に満ちていた幼子を殺した事実は、重く重く、女の心を苛んでいく。急所は外れたかもしれないなんて気休めにすらならないほどに追い詰められている。
殺すつもりで撃ったのだ。
ワルサーWA2000でしっかり照準を合わせて肺付近を打ち抜いた。
素人の彼女にも分かる、アレは致命傷になったはずだ。
あの小さな体格では血が無くなるのも早い。間違いなく殺した。
正しいのか。自分の目指すモノは、本当に正しいのか?
女性の名は神尾晴子。
何一つ変わった力など持たない真の意味での一般人だ。
でももう違う。今の晴子は目的の為に殺す殺人鬼に堕ちた。




彼女には『娘』がいた。
けれどもう居ない。神様の不条理に巻き込まれてしんでしまった。
真の娘ではなかったが、母親になれたのに。
別れたくなかった。否、娘の未来が終わってしまうのが許せなかった。
晴子はバトルロワイアルを勝ち上がることを決める。
迷わない。迷えない。
その為に、彼女は協力者を得たのだから。

「………殺したで、天王寺」
「そうか」

簡潔な答えを返すスキンヘッドに筋肉質の男。
神尾晴子が恥も外聞も捨てて協力を頼んだ、殺人鬼。
彼は娘の幸せの為に優勝者の座を求める。最後には決別する契約関係。
彼―――天王寺裕吾は晴子とは違い、殺しに容赦が一切無い。
どうにも裏社会に生きる人間らしい―――晴子の認識とは少し違ったが。
役に立たないようなら天王寺は晴子をいつでも切り捨てるだろう。
晴子と天王寺では勝負にならないのは分かりきっていることだ。

もう躊躇わない。
自分は殺す。全て血の海に沈めて、自らの理想に至る。
神尾晴子は、再び殺し合いに身を投じる――――――。


ダァン!!

破裂音がした。
それは神尾晴子を祝福する勝利の鐘のようにも聞こえた。
目の前には額に穴の開いたかつての相棒・天王寺裕吾の死体。
自分の手に持つのは新たに手に入れたM4カービン。
硝煙の立ち昇る銃身をゆっくりと下ろし、一人勝利の余韻に浸る。
勝ち抜いたのだ。自分は最悪の殺し合いから最高の勝利を得た。
たくさん殺した。もう魂まで汚れている。
娘と瓜二つの少女も、撃った。あの居候も撃ち殺した。

かの者は独り、死体の海で勝利に酔う―――――――。


それから。
主催の力を得て娘を蘇らせ、もう一度暮らし始めた。
娘の記憶は死ぬ数時間前までしかなかったが、別に構わない。

最愛の愛娘と幸せになれたのだ。
もうこれ以上は何も望まない。
嗚呼、幸せだ。
どうかこの幸せが、永遠に続きますように――――――。

もう夜の2時過ぎだ。少し酒を飲み過ぎてしまったらしい。
寝るか、と誰にともなく宣言し、晴子は仰向けになって目を閉じた。

夢でも、見るか。




「…………まだ息があったのか」
「ぁ……」

苦い顔をして、天王寺が晴子を見下ろしていた。
晴子は背中から胸元にかけてを撃ち抜かれている。先ほど狙撃した少女と奇しくも同じ箇所を撃たれているのだった。肺は破けている。もはや呼吸さえままならない。
ひゅーひゅーと息が口の端から漏れる。
視界に写る天王寺の顔は、悲しそうにも見えた。
やがて晴子は気付く。
これは晴子の夢だと。天王寺裕吾は確かに晴子が殺したのだから。
頭を撃ち抜いて、しっかり死体を確認した。
わざわざこんな夢を見せるなんて神様も意地が悪いな、と思う。
滅多に見ない悪夢だ。
胸に何かが詰まったように息が苦しく、濃霧のように視界がぼやける。
やがて天王寺の輪郭さえぼやけ、判別ができなくなっていく。

―――夢から覚めるのか。

しかし怖くない。待つのは優しい幸せに満ち溢れた理想の世界。
目を覚ましたらちゃんと布団に入って二度寝しよう。
その時こそ、ちゃんとした夢を見よう。


「(たのしい、ゆめ、みような、みすず――――――)」


そして、さめないゆめに。


【神尾晴子@AIR】  死亡
【残り135/148人】




神尾晴子の安らかな死に顔を見て、天王寺は眉間に皺を寄せた。
この女は、最後に夢の中で救われた。
救いがあったのだ。ここで物語から晴子は脱落してしまったが、晴子の中で破綻した夢の物語はずっと続いていく。素直に心の底から、羨ましいと天王寺は思った。
仮に今ここで天王寺が頭を撃ち抜けば、同じように救われるのか?
愛娘の綯と幸せになって、上でまた馬鹿騒ぎが始まる。
そんな日常の夢を見られるのか?

「(馬鹿か俺は……あの世界の綯を見捨てるっつぅのかよ)」

天王寺は神尾晴子を射殺した。
理由は単純に、殺しに躊躇いを覚えている彼女の反乱を防ぐため。
突然対主催に転向されても困る、だから先に始末した。
狙撃銃を入手できたことは大きいし、結果天王寺にメリットをもたらした。
だが、何故か心は晴れない。
神尾晴子の道を自分が破壊したのだ。
何故かその事実は、天王寺裕吾の心に重くのしかかる。

「………済まねえ、神尾。俺はもう止まれねえんだ」

もし悪鬼や畜生に堕ちてしまったとしても構わない。
世界の全てを敵に回してでも、天王寺綯を幸せにする。
羅刹になる。幾多の骸を積み重ねた山の上に君臨する凶の鬼に。



骸を喰らい、力を得る羅刹になる。

さあ続けよう。
まだ殺し合いは始まったばかりだ。


【天王寺裕吾@STEINS;GATE】
[状態]健康
[所持品]H22ベレッタ@現実、ワルサーWA2000@現実
[思考・行動]
0:優勝して娘に『永遠の幸福』を与える。
1:もう迷わねえ。
2:岡部たちには会いたくねえな………。

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最終更新:2011年12月05日 14:07
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