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episode1

どうなってやがる――――と。
かつてバトルロワイアルに参加し、果てに死亡した男は呟いた。
彼は戦った。間違った道であるとは理解し、心の何処かで積み重ねる悪行に苦悩しながらも戦い続けた。結果的に最期は何一つ守れずに命を落とした道化。
道化。自嘲の言葉。
『前回』、主催者の策に乗せられて妹の為に戦った殺人鬼。
彼を待っていたのは冷たい死。暖かな栄光など何処にもない。挙げ句の果て、目を覚ましてみればまた殺し合いときた。結局妹の由美子がどうなったかは分からずに。
彼は矢部翼。『◆6LQfwU/9.M』に創造されたキャラクターである。勿論本人にとって預かり知るところではなかったし、本来知る筈はなかった。世界が交差した。
しかし、矢部は今迷っていたのだ。
どうして自分が生き返ったのか、なんて陳腐な話は置いておく。
賞品となる『願望の成就』。それさえ手に入れれば叶わなかった目的は達成される。それどころか、あの悲劇そのものをなかったことにしてしまったっていい。
だが、しかしだ。
矢部翼は、また人を殺めるのか?否、殺められるのか?
今回の殺し合いでは武器の援助がない。自分はただの参加者。
所詮ただの人間の域を出ない。

相当、手厳しい話だ。前回と桁違いの難易度の戦いになる。
それでもやるのか?より低い難易度で失敗しておきながら?
愚問だったのかもしれない。少なくとも、守りたい者の為に戦った彼には。
道化だろうと、信念だけは確かにそこにある。

「………やるしか、ねえよな」

矢部翼は再び、修羅道を往くことを決める。
どれほどの血が流れようとどれほどの嘆きが生まれようとどれほどの恨みを背負おうとどれほどの数を殺そうとどれほどの愛を引き裂こうと――――――。
妹の為に、優勝する。
矢部由美子とのささやかな生活を取り戻すためにも、勝ち残る。
覚悟は決めた。矢部は、如何なる迷いも断ち切って殺人鬼に戻る。

話題転換。

矢部はデイバックの中身を改めることにした。
前回ほどの物は期待できないが、それでも自分の運に期待しよう。
まず手に触れたのは、憶えのある無骨な感触だった。
FN SCAR-L。『前回』、奇しくも矢部が使った武器である。
口の端から苦笑が漏れる。この時ばかりは神様が自分のことを好きなのか嫌いなのか分からなくなった。これがあれば、十分だ。間違いなく当たりの部類に入る。

だが次に取り出した物を見て彼は目を細めた。



一枚の布だ。白い、しかしかなり丁寧に編み込まれた布。
布には紅いインクで何か図形がごちゃごちゃと描かれ、異様だった。
広げてみるとこれがまた大きい。絨毯に近いくらいの大きさだ。そしてその一面に、巨大な魔方陣が紅く紅く、描かれていた。思わず鳥肌が立つほどに気味が悪い。
生憎『普通の』生活を送ってきた矢部には縁のない図形だった。
しかしある程度事情を知る者ならば驚き、慌てふためいたろう。

「……………簡略化、召喚図?」

間の抜けた声が矢部の口から漏れる。
説明文によれば、これは本来もっと手間のかかる『ある物の召喚』を、魔術に心得のない者でも簡単に行えるようにした魔導具という物らしい。召喚に成功すればそれは間違いなく召喚者の力となり、殺し合いを勝ち抜く鍵となるとのこと。
矢部にすれば意味の分からない話だった。
しかし、今はまさしく藁にもすがりたい状況。
どれほど胡散臭い代物だろうが、頼らない訳にはいかない現状だ。
説明に書いてある通りに、彼は言葉を紡ぎ出す。召喚の呪文を。

    みたせ
「―――閉じよ」


不思議と詰まることはなかった。
最初の一句を唱えてしまえば後はすらすらと、唱えていくだけ。

「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――――!!」

視界が目映い光に包まれた。
そして、矢部翼は常識の外の存在に初めて触れることとなる。

魔方陣の上に立つのは白い男。
頭の先から足の先まで、およそ衣服の類を全て白でまとめている。
その目は何も映していないように虚ろで、顔もまた白かった。
ただ、その存在は矢部を見つめ続け、やがて静かに口を開く。

「問おう。この狙撃手めをアーチャーのクラスとして使役する召喚者よ―――――――――――――――貴様が僕のマスターか」

矢部翼は確信した。
この殺し合いにおいて、自分は切り札を手にしたのだと。
さて。物語は次回に続く。
次回、白き狙撃手VS雷電の騎兵。

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最終更新:2011年12月10日 10:33
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