B-3エリア。
いかにも富豪が住んでいそうな豪華な屋敷を、僕は探索していた。探偵気質の彼らしい行動だと、僕を知る者ならため息混じりに言ったろう。
僕の名前は黒桐幹也。
蒼崎燈子さんという人形師の元で少し現実離れした事件と関わっている。
無痛症の少女に魔術師。狂気の殺人鬼に彼が狙われた俯瞰の生き霊。
命を落としかねないような経験だって何度かした。その度に偶然だったり誰かに助けられたり、とにかく色々な幸運に恵まれて黒桐幹也はどうにか生き延びられていた。
けれど今回の一件はかなり別格、とびきりの緊急事態といえる。
…………正直な所を言うとね、ものすごく嫌な予感がする。こんな状況の時点で嫌な予感も何もないかもしれないけれど、僕はどうも生きて帰れる気がしない。
僕は未来視の力なんて持ってないけど、第六感ってやつかな。
尤も僕は自殺志願者じゃないし、みすみす死んでやる気はないし死にたくない。
殺されそうになったら全力で抵抗するし、殺し返すことも有り得る。…………殺し返す、か。あはは。僕にそんな力があるかも疑わしい話だ。けれど、彼女は。
―――――――両儀式は、それを可能にする力を持っている。
直死の魔眼。
一部の例外を除いたありとあらゆるモノの『死』を視る魔眼。
しかし式は強い。僕は彼女との付き合いが少しばかり長いから知ってるけれど、彼女はこんなゲームに乗って殺人を犯したりは絶対にしない。逆に言えば、彼女が簡単に殺されたりすることは有り得ない。このゲームに、定められた脚本に一石を投じるジョーカーだ。
まず式と合流することを目指すのが一番だろう。
その過程で他の参加者たちとも情報交換・運が良ければ同行もできる。
さて、僕は少しばかり怒っている。
先程―――あの開会式で、チャイナ服の少女を嘲笑しながら惨殺したこと。
あればかりは許せない。ここまで腸が煮えくり返る思いは久し振りだ。
それでも彼女の死に激高した銀髪の男性の怒りには遠く及ばないだろうけど。
僕は一人の人間として、怒っている。
けれども黒桐幹也は弱い。式のような力も持たないし、『先輩』のような運動能力を持つ訳でもない。精々路地裏の不良を三人相手にして撃退できるかどうか。
だけど僕にだって出来ることはある。
反抗の意思を示し、分析し、強い者たちを手助けすることだ。
反抗する意思だけは最期まで無くしたくない。
そして僕は今このB-3エリアに居る。
便利な物がないかという期待もあったけれど、此処はかなり豪勢な屋敷だ。鍵の掛かる個室に籠城しようと考える参加者だって居るかもしれない。
何度も言うが僕は非力だ。しかし矢を束ねれば強固になる。
同行者を手に入れる、それが当分の目標になりそうだ。
しかし、この屋敷において使えそうな物は殆ど無い。
僅かな期待は裏切られた。
さあ困ったぞ。何せ僕の支給品は明らかな『ハズレ』だったんだから。
まずは『グー』『チョキ』『パー』の絵が記されたカード。
ジャンケンカードというらしい。ふざけやがって。
もう一つは『タケコプター』。空を飛行することが出来るという奇想天外な代物だったが、冷静になると徒に狙撃される可能性を高めてしまう立派なハズレ支給品だ。
銃とまで言わなくともせめてナイフの一本くらいは欲しかった。
こうなったら本格的に同行者を探して頼み込み、何か譲って貰おう。
更に、本当に期待していた個室の中にも誰一人として人は居なかった。これは参った。正直なところ、自分なら真っ先に個室に鍵をかけて立てこもるのに。生憎僕だけだったらしい。
だけどまだ望みは残っている。支給品的な意味で。
当主の書斎だった場所があるらしい。
偉大な当主サマの書斎だ、何か一つや二つくらいいい物があるだろう。
場所は最上階。適当に歩いていけば着ける筈だ―――と。
そこで、僕の目はある物に釘付けになった。
異質。
余りにも。
常識外れ。
おかしい。
何だこれは。
これじゃあまるで。
まるで―――――――――――――――――――。
「魔女じゃねーか、だろ?」
思考に割り込む声。
よく通る声で、どこか挑戦的にも聞こえる女性の声だ。
僕は慌てて振り返る。確信していた、背後の女は只者ではないと。
心を平然と読んでくる相手。
式に匹敵するか、或いは越え得る存在だと僕は直感した。
背後に居たのは、赤。
赤い髪がとても良く目立つ、スタイルの良い美人な女性。
何処かで見たことある気がする―――ああ、燈子さんに似ているな。
赤色の女性は好戦的な笑みを崩さずに僕を見据え、静かにこちらに近付いてくる。敵意のようなものは感じないが、この女性が僕とは根本的に異なる人間だとは分かった。
女性が僕の腕を無理矢理掴み、『それ』の前まで連れていく。
―――――巨大な、女性の肖像画だった。
言葉はなくとも、『魔女』の二文字を連想させるその姿。
女性が指差す。
それは肖像画の真下に彫られた何行かの碑文だった。
「兄ちゃんこれ分かるかぁ?……無理だろうな、あたしにも分からん」
「ヒントが少なすぎますね………これじゃあ解ける物も解けない」
そう。ヒントがほぼ皆無に等しいのだ。
妥協を一切せずに作ったとさえ思える難解極まりない暗号。
女性は苦笑しながら続ける。
「いいや、これはあたしらには絶対に解けないんだろうさ。この屋敷の持ち主の一族の頭のトチ狂った当主サマの悪辣な暗号だ」
□
女性の名前は哀川潤といった。名字で呼ぶと何故か怒る。
いや、やっぱりこの人はどうしても燈子さんと重なる。
潤さんにそれを話してみると、『奇遇だな、あたしも知り合いにお前にそっくりな奴が居るよ。お前に戯言を足したらもう本人だ』とのこと。
僕に似ているけれどそうとうねじ曲がった性格の人物らしい。
成り行きで僕は潤さんに付いていくことになった。
ああ――――この人、出鱈目に強そうだ。
因みに『武器を譲って下さい』と言ったら『あたしが武器だ』とシニカルな笑顔で言われた。はぁ………答えになってないですよ。
それが答えになっていると知るのは少し後だった。
【深夜/B-3】
【黒桐幹也@空の境界】
[状態]健康
[所持品]ジャンケンカード@カイジシリーズ、タケコプター@ドラえもん
[思考・行動]
0:
殺し合いへの反抗。
1:潤さんに同行する。
2:式とも合流しておかなきゃな……
※第七章『殺人考察(下)』、左目を斬られる前からの参加です
【哀川潤@戯言シリーズ】
[状態]健康
[所持品]不明支給品
[思考・行動]
0:こんなふざけたゲームはぶっ潰す。
1:幹也と行動。こいつきれいにしたいーたんみてえだ
2:いーたん、玖渚ちゃん、一姫を探す。
※『ネコソギラジカル(下)』、真心との戦いを終えた辺りからの参加です
※死者の名前が名簿にあることに違和感を抱いていません
最終更新:2011年12月12日 14:16