C-3エリア。相川歩は、血塗れの腹部を静かにさすりながら歩いていた。
先程とある少女に敗北して致命傷を負った彼であったが、歩の傷はもう完全に治癒している。彼の性質である『不死性』が多少規制されているとはいえ、そのゾンビとしての治癒能力は確かに働いているようだ。傍から見れば血塗れの不審者だったが。
バトルロワイアル。今更になって、その悪辣さと厄介さを実感した。
あの敵―――『窒素爆槍』黒夜海鳥のような強敵。
歩とて今まで幾らかの強敵と相対してきたが、その強敵にも勝るとも劣らない強敵だったといえるだろう。何よりあのサイボーグという性質は非常に厄介かつ面倒だ。
仲間が居れば良かったが、一対一では手に余る。
不覚にも、先の戦いではその性質を攻略出来ずに敗北を晒してしまった。
しかし、彼と同じく死を免れた一人の男・◆WYGpiuknm2。
彼との出会いと交わした会話が、バトルロワイアルへの嫌悪をより確かにした。
『俺は全てを元に戻すために
殺し合いを勝ち抜く』――――と、◆WYGpiuknm2はどこか悲しげな、だが確かな意志の篭った瞳でそう歩に語った。
要に、奴は賞品の『願望の成就』に魅了されてしまったのだ。
あんな物を提示されては、人の心はいとも簡単に揺らいでしまう。
何とも悪辣かつ卑劣な、まさに最悪の手口だ。
歩は拳を握りしめた。自分の仲間の忍者を、想って。
セラフィム―――セラは強い。歩より単純な戦闘センスでは間違いなく上。
だが、心配には値しないと切り捨てられるほど歩は冷たくはない。
彼女にだって不安定な部分くらいはあるだろう。歩の預かり知らぬ所で様々な負担(ストレス)を被り、それがこのバトルロワイアルで決壊してしまったら。
あの圧倒的な力で、他者の命を断つ、もしくは断たれる。
仲間として、同じ屋根の下に住む家族として、自分が彼女を守る義務がある。
正しい方向にこの『ゾンビ』の力を使い、セラを守る。
そして同じ道を志す仲間を募り、共にこの悪趣味な宴を叩き潰す。
相川歩はここで、改めてバトルロワイアルへの反逆の意を固めた。
「………とは言ったものの、一向に人が見つかる気配が無いな」
はあ、と深い溜息を吐いて歩は何かに気付き一度足を止めた。
遠く、しかし段々近くなってくる金属音の連鎖。
時代劇なんかでよくある刀と刀のぶつけ合いによく似た音だな、と彼はやけに冷静な面持ちでそう思った。
最悪。
歩は眉を顰めて小声で呟いた。この音、そして音の連鎖の速さと重さ。
どう考えても素人の打ち合いなんてレベルではない。
不死性が僅かに、しかし致命的な制限されている彼にとって、剣士もしくは侍の打ち合いに割り込むのは得策とはいえない。頭を斬られたりしたらオシマイだ。
セラのような凄腕の使い手を見たからこそ分かる。二人とも殺し合いに乗っていて、同時に歩に敵意を向けてきたなら―――正直、卸し切れるレベルではない。
あれだけの速度を、二方同時に捌くなんてことは無理だ。
金属音が近付いてくる。
連鎖する音が、相川歩の選択を急かすようにも聞こえた。
―――――――――――やるしかねえか。
やれやれと呟き、歩はゾンビとしての超人的脚力で地を蹴る。
目指すのは戦いの場。目的は戦いを止めること。
駆ける。
生死を分かつほどの危機に、相川歩は自ら身を投じる――――。
■
舞台は変わって、学校中庭。
相川歩の予期していた通りに、とてつもない速度の戦いであった。
金髪の中性的な顔立ちの少女が何故か刀身の見えない剣で、小柄な茶髪のボブの少女の刀を受け止めていた。ボブの少女の眼は紅く、明らかに正気を失っている様子だ。
その右腕には一振りの刀が『生えていた』。腕と同化していた。
茶髪ボブの少女・絹旗最愛を知る者なら、目を疑っただろう。
確かなことは。今の絹旗は『絹旗最愛』とは似て非なる存在だということ。
その力は、『ブリテンの騎士王・アーサーペンドラゴン』ことアルトリア・ペンドラゴン………いや、今は『最優の英霊
セイバー』と互角の戦いを行えるレベルにまで昇華していた。更に彼女の持つ能力『窒素装甲(オフェンスアーマー)』も相俟っている。
その幼い体駆に見合わない怪力と、対衝撃・防弾性能。
自分の体の周りに薄い窒素の膜を発生させ、最強の鎧とする能力。
「くっ………ッ」
セイバーの口から苦渋の呻き声が漏れる。
マスターとの契約なしでは彼女の行使出来る力は少なくなってしまう。
絹旗の力と、暗部で鍛えられた戦闘経験は確かに彼女を追い詰めつつあった。
「―――――」
怪力を以て振り下ろされた刀を不可視の刀身で受け止める。
刀を押し返し、騎士としての卓越した剣技で絹旗に迫るセイバー。しかし絹旗も負けてはいない、粗がある剣技ではあったが彼女自身の能力によりそれを補う。
絹旗が地面を蹴る。窒素による怪力は如何なく発揮されて跳ぶ。
セイバーは歯噛みする。
以前に鉛色の巨人・バーサーカーと対決した時にこのパターンは知っていた。
尤もその時は逆で、彼女が空中からの攻撃を繰り出したのだったが。とにかく空中から落下しながらの攻撃の威力は高くなる。あのバーサーカーと不安定な体勢で鍔競り合うことが出来るほどに力は昇華する。それを今の絹旗最愛が仕掛けてきたなら、これはかなり厄介だ。
あの怪力に落下の重力が掛かればそれは英霊さえ越え得る威力。
「(回避するしかないか、仕方ない!)」
『風王結界(インヴィジブル・エア)』。
英霊アルトリアの秘蔵の剣の刀身を隠す為の風。
それを薙ぎ、風の力の恩恵を十二分に受けてセイバーが大きく後退する。
ワンテンポ遅れて絹旗の着地。窒素の装甲により受け身は必要なかった。
しかし動きの停止したその一瞬に、セイバーは絹旗との間合いを再び詰める。絹旗の右手の刀が振るわれ、セイバーを討たんと刃が迫る。計画通り、だった。
刀の一振りを髪の毛数本を掠めるだけに止め、セイバーが絹旗の懐に入る。
たとえ幼い少女とて容赦はしない。セイバーは苦渋の決断を一瞬で行った。
不可視の剣が、絹旗の喉元に迫る。『窒素装甲』はある。
二発くらいは無傷に止められても、ここから斬撃を繰り返されれば苦しい。
それをある種直感で導き出し、騎士王の英霊は実行した。
―――――が。
彼女の策には、致命的な穴があった。
怪力を持つことくらいセイバーは最初の一手で見抜いていた。
が、その右腕と同化した刀により正気を失い、『狂化』していると断じてしまった。かつて戦った二人のバーサーカーのように、理性が崩壊した獣だと。
絹旗最愛は受け止めていた。
正確には、不可視の剣を持つセイバーの腕を掴んでいた。
即ち。絹旗最愛には元来狂うことへの適性があったのだろう。
正気を失いながらセイバーの一手に対抗する一手を打ち出せるほどの。
窒素を纏った拳が、甲冑越しにもセイバーの腹部に衝撃を伝えた。
がはっ、という短い悲鳴。しかしすぐに追撃の回し蹴りが放たれる。
脇腹にその一撃を喰らい、ノーバウンドでセイバーの小柄な体が吹き飛んだ。
「―――」
「くっ……、珍妙な術を――――ならば、こちらもだ」
腹部に受けた衝撃など気にも掛けず、セイバーは絹旗を見据える。
絹旗最愛の『窒素装甲』を破壊するには、相当な威力が必要だ。
真名解放を行った宝具でならそれも叶ったろう。
対城宝具『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』。
恐らく彼女の伝説で最も有名な聖剣である。その真名解放は絶大だ。
しかし今は何故か真名解放が出来ない。外側から抑制されているらしい。
だが、隠し技ならある。
チャンスは一度限りの奇策。
セイバーは余裕に満ちた顔で絹旗をただ見据える。絹旗が駆け出した。
刀と怪力、更に防御性能まで備えた狂戦士の接近をただ、待ち受ける。
窒素により強化した足で地面を蹴り、再び空中へ跳び上がる絹旗。
「待っていたぞ狂戦士――――ブリテンの騎士王最大の秘技にて、貴様の凶刃を迎え撃たせて貰う」
返事はなかった。
落下する絹旗の刀がセイバーに迫っていく。
セイバーは唐突にその不可視の剣を振り上げた。絹旗には理解できなかったろう。明らかにタイミングが早すぎる。これでは、肝心の斬撃を防ぐことが出来ないのだ。
――――しかし、騎士王は確かに微笑んでいた。
「――――――――風王鉄槌(ストライク・エア)!!」
絹旗の肉体が、吹き飛んだ。
窒素の装甲をかなり削り、校舎の壁に激突するまで吹き飛ばした。
これこそ英霊アルトリアの隠し球。
剣を秘匿する風を解き放ち叩きつける。
今の絹旗にはほぼ直撃していた。
窒素の鎧とて、伝説の英霊の一撃の前にはほぼ破壊されてしまうのだ。
ガシャァァァァン!!
という激しい音が響いた。絹旗が、校舎の窓を突き破って逃走した。
予想外の行動だ。まさか、相手から退くとは思いもしなかった。
残念ながら追う気力は残されていない。追った所で悪戯に消耗するだけだ。
ふぅ、と気の抜けた息を漏らしセイバーは遅れてやって来た少年を視認する。
相川歩の登場は、些か遅かったようである。
【深夜/C-3】
【相川歩@これはゾンビですか?】
[状態]健康
[所持品]不明支給品
[思考・行動]
0:バトルロワイアルを潰す。
1:え、何?遅かったの?
2:セラを守る。
【セイバー@Fate/stay night】
[状態]腹部にダメージ(中)、疲労(大)
[所持品]約束された勝利の剣@Fate/stay night
[思考・行動]
0:主催者を打倒する。
1:この方は?
2:茶髪の少女(絹旗)には警戒する。
※UBWルート、聖杯破壊後からの参加です
※真名解放は規制されています
□
絹旗最愛は激しく困惑していた。
バトルロワイアルという事象そのものにではなく、自らの行動に。
何時しか、右腕が刀と同化していた。
つい先程『風王鉄槌』を受けた時に一時的に正気に戻ったといったところ。
妖刀『紅桜』。
不可思議な刀に憑かれた少女を待つのは救いか、破滅か。
【絹旗最愛@とある魔術の禁書目録】
[状態]窒素装甲(30%)、困惑、右手が紅桜と同化
[所持品]妖刀『紅桜』@銀魂
[思考・行動]
0:私は………何を?
1:麦野を超探しておきますかねえ
※新約一巻、黒夜との戦闘後からの参加です
最終更新:2011年12月17日 09:31