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challenger(中編)

■◆


「――――叩け」


ガッゴォォォォオオオオン!!

先程攻略したものと同じ氷の塊が、京介を潰さんと叩きつけられる。
しかし只でやられる程京介は馬鹿ではない。
衝撃を最大限逃がすように攻撃を避け、その手に握る短剣で塊を両断。
コルト・アーヴィングを殺害せんと迫るその刃を見ても尚、大魔術師の余裕は全く崩れない。彼からすればこれは、蠅を蠅叩きで叩こうとして避けられた程度に過ぎなかった。
氷が空気中で渦を巻き、コルトの盾となる。
短剣の刺突は氷の渦に突き刺さり、それを破砕させる。
相当な霊装のようだな――――、とコルトは『魔術師』としての笑みを浮かべる。

「貫け」

槍状に変化した氷が京介にかなりの速度で向かう。
もしまともに受ければ串刺しは免れないだろう。
暴走しながらも理性を働かせ、短剣を盾として槍の刺突を防ぐ。
かなり押されはしたが、魔術により生み出された槍では霊装を破壊することは困難だ。
京介が短剣を振り、槍を振り払う。
そして再び、コルトに向け突撃。その短剣は禍々しい魔力を放っている。
コルト・アーヴィングはそれを見て初めて、一つの疑問が脳裏をよぎる。

「(何だあの霊装は………あれほどの魔力を放つ代物はそうそうお目にかかるものではない筈………そしてそれを使いこなすだと?あの少年、何者だ?)」

「■■■■■■■■―――――――――!!!!」

咆哮しながら駆ける京介。
コルトの放つ氷の礫を正確に打ち落とし、逆に跳ね返してさえみせる。
『第一世界』において相当な高位の大魔術師の魔術を、全力でないとはいえ素人がこうも的確に対処できる筈がない。
魔術師の中で、京介の持つ短剣への興味が更に高まる。
少なくともあれはあんな少年が持っていていいものではない。
自分のような魔術師にこそ真の力を引き出してやれる。
――――――――――――殺してでも、奪ってやろう。

コルトを囲むように、無数の巨大な氷柱が地面から生える。
氷魔術を応用した防御。
氷の質も先ほどまでの攻撃に使ったものとは段違いの良質なものだ。
霊装を用いたとしても、そう簡単に破壊できる代物ではない。
これで当面の足止めは出来そうだ。






「…………天地を凍らせ縫い止める氷の鬼神よ」


一小節の詠唱。
それを終えると同時に、コルトの前に一体の怪物が出でる。
それを形容するなら東洋の『阿修羅』。
三つの面と六本の腕を持つ、氷で出来た化け物。

「命ずる。外敵を速やかに抹殺し、霊装を奪取せよ」

罅が入り始めた氷柱の檻が消え、京介の姿が露わになる。
同時に阿修羅が接近、その六つの腕で京介を粉砕せんと迫る。
京介は短剣を振るってそれを払い、後退。
もしこれが長剣であったなら、居合斬りの要領で阿修羅をより確実に破壊出来たかもしれないが、短剣程度のリーチでは精々阿修羅の指先を削ぐ程度が限界だ。
次の瞬間にはあの氷の腕が京介を粉砕する。
余裕。
コルト・アーヴィングには神流京介が阿修羅を攻略できる可能性は皆無と踏んでいた。
あれは自律行動が出来る。

自律行動をする魔術で生成した怪物は、術者の腕が試される。
術者が未熟であればあるほど生成したモノの動きは単調かつ無駄が多くなるのだ。
逆に優秀であればあるほどその動きは精密かつ複雑になる。
コルトほどの魔術師であれば生成体にはその場で最適な行動を取るだけの知能が宿る。
先の索敵氷塊の自律行動には魔力節約の為単調な生成しかしていなかった。
しっかり詠唱工程を踏んでいれば、神流京介は殺せていたかもしれない。
が、コルト・アーヴィングの『魔術師としての誇り』は、索敵魔術などで外敵を葬ることを良しとしなかった。
それでも京介が本当の一般人だったなら、十二分に事足りたろうが。

詠唱工程を踏んだ『阿修羅』を、この少年は攻略できない。
コルトはそう確信している。

大魔術師と一般人の力の差は、霊装一つで埋まるほど小さくはないのだ。
どれだけ強力かつ絶大な代物でも、使い手次第で只の玩具にも成り果てる。
神流京介はあの霊装と相性の良い人物のようだが、それでも霊装頼みの輩などに自分の魔術は攻略できない。真に魔術を知る者でなければならない。
あれで、普通の魔術師レベルの魔術を行使できたなら。
それなら、『切り札』を抜くこともあったかもしれない。
だがこの少年には、それほどの価値はない―――それが、コルト・アーヴィングの見解だった。




理性を失った狂犬如き、秘術を尽くすまでもない。

「■■■■!!」

阿修羅の腕が迫る。それを軽く避けるが、その腕は六もあるのだ。
軌道も速度も角度もバラバラに、京介を潰さんとする。
ああされてしまえば、鎖から放たれた犬ではどうすることもできない。
コルトの予測通り、悪足掻きはあっさりと終わった。
六つの腕が神流京介の肉体をがっしりと捉え、身動きの一切を封じる。
後はもはや言うまでもなく。
阿修羅の剛腕が少年の体を捻り潰し、鮮やかな臓物をぶち撒けさせるだけ。
コルトは微笑を浮かべ、少年と自らの生成した阿修羅に背を向ける。

―――期待した程でもなかったか。

またケーキの食べ比べでもしてみるか。
いや、今度は真面目に殺し合いでもするか?
そういえば地図にはデパートも載っていた。
そこにならひょっとするともう少しマシなケーキがあるかもしれないし。
すっかり殺した少年には興味を失い、いざ当面の指針を固めた時に。


がきゃっ。という音が二回鳴って。
ごとっ。という音が鳴って。
最後に、がたっ。という音が鳴った。


「………………何?」

コルトが怪訝な顔をして振り返ると、まさについさっき殺した筈の少年。

コルトの阿修羅は確かに、その六本の剛腕で京介を捕縛した。
だが、コルト・アーヴィングの失敗は神流京介という少年を『ただの少年』『理性を失った狂犬』と断じてしまったところである。霊装云々より、彼を侮りすぎたこと。
35分間を延々と繰り返し、誰よりも『死』に敏感になった少年。そんな彼が、たかが身動きを封じられた程度で取り乱し、冷静さを失うなどあるはずもない。
そしてコルトが警戒した短剣の霊装もまた、非常に強力な一品だ。

六本の腕で捕縛されながらも、右手の短剣で阿修羅の腕の一本を落とし。
予想だにしない反撃を受けて力を緩めた阿修羅の体を真横に両断。
強引な手段ではあったが、阿修羅を攻略して見せたのだ。
そしてその事実は、コルト・アーヴィングに対して屈辱的な事実を気付かせる。

「そうか――――狂化はただの演技でしかなかったのか」

「悪いね、担がせて貰ったよ。アンタが魔術師だってことは最初の氷で理解した。だから、さっきみたいな化け物を出してくるのは幾つか想定した内の一つだった。
もしアンタが最初の氷柱だけを慎重に撃ってきたり、防御に徹してくることも想定してた。それら全てを考慮したら最適なのは『暴走』だ」


暴走して冷静さを失った相手なら多少手を抜いても勝てる、という慢心。
それを想定して、神流京介は『狐火つぐみ』を殺された怒りで暴走した――――と、見せかけた。皮肉にも、コルトが行った挑発が彼の芝居により高い信憑性を生んでしまったのだ。
コルト・アーヴィングはまんまと、何の力も持たない少年に出し抜かれた。
しかし、大魔術師コルトの中には不思議と怒りの感情は沸いてこない。
むしろ、自分を出し抜き一矢報いるに至った京介への感嘆があった。
かつてこれほど白熱した戦いがあったか。
これほど―――コルト・アーヴィングを奮わせた男がいたか。
この少年はきっととても正しい。どう悪ぶろうが、姑息とさえいえる手段に訴えようが。彼は正しい道を結果的に歩むのだろう。実に―――面白い生き様だ。
だから彼は自分を刺さない。斬らない。
自分の氷は接近戦に向かない、そのくらいは既に気付いているだろう。
この距離から猛攻されれば、切り札など使う暇がない。
詠唱行程を踏めないのだから、不慣れな戦いを強いられることになる。
きっと負ける。

「君は、狐火つぐみという少女のことを聞いた。君にとって、大切か?」
「俺は自分が可愛い人間だから」

自分はこの少年に救われたのだ。
この少年には人殺しなど出来ない。その彼が、守りたいという人物。

「―――――まあ。何十年も一緒に居続けて飽きないくらいには大切ですかね」

コルト・アーヴィングは勢いよく神流京介を蹴り飛ばした。
その体から迸るのは先程までとは比べ物にならないほどの殺人的な冷気。
彼の魔力が空気中に放出され、纏う『氷』の属性も放出されたことによる冷気の発生。その状態は、コルト・アーヴィングの『本気』を意味していた。
これを最初から発動していたなら、京介は今頃全身氷付けで凍死している。
彼が『大魔術師』格にまで上り詰めた理由―――最強の氷魔術の行使。
試し撃ちをすることさえままならないだけの威力。
一度行使すれば環境が壊れ、植物は遺伝子レベルで凍結する。
彼は知らないが、時之坂祠が制限を加えるのに手を焼いたほどの威力。


名を――――――『氷帝(フローズンエンペラー)』。



「行け。これから此処に途轍もない『何か』が来る」

予期はしていた。
バトルロワイアル開幕直後から、自分の本気を以てどうにかできるかどうかレベルの使い手が居ること。本来は神流京介をどうにかして逃走予定だった。


しかし。生きるべきは神流京介の方なのだ。
コルトの死で彼が生きるならコルトは此処で死ぬ、それが正しい。

「早く行け。君の霊装はこの殺し合いで必ず君の力になってくれる。事情は知らないが、君が成し遂げられずにいる『何か』を越えることだって可能な筈だ」
「アンタ………死ぬ気なのか?」

さあな、と応え、コルトは迸る冷気を抑えようともせずにただ、佇む。
もう語る事はない、ということをその背中が示していた。

「死ぬなよ」

コルトは最後まで答えずに、京介の走り去る音を聞いていた。
戦慄を覚えるような怖気はもうすぐそこまで迫っている。コルト・アーヴィングの人生で最大の難敵。最後の戦いとなるか、生き残って更なる戦いに進むかは分からない。
絶対級の切り札を抜きながらも、尚全身の悪寒が消えないほどの相手。
一向に構わない。魔術師として最高の誇りである―――。

姿を現した『それ』。
それは少女の姿をしていた。
しかし全身から放つ殺気と悪意は隠し切れていない。


彼女の名を、名塚京子という。



ストーリーは、またも持ち越される。

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最終更新:2011年12月29日 10:45
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