……………めっちゃ眠い。
それが至って普通の青年である俺、佐原裕二の最初に抱いた感想だった。
いやね、皆さん。だからって俺が何事にも冷静沈着を装う厨二病とか思わないでね。俺本当に普通だから。多分この場にいるみんなが同じこと思ったよ絶対。
だってね、俺は普通に宿題やって普通に親から小言を貰って普通に布団に入って寝て普通に目を覚ました筈なんだよ。なのに今の俺が居る場所ときたらさ、ちっとも普通じゃない。
考えてみろよ!瞼を開けたら訳の分からん美術館に居た俺の気持ちを!
えー、こほん。
というわけで俺は今、美術館らしき場所に居る。
俺が夢遊病患者だとか、そんな馬鹿みてえな話は絶対有り得ない。
誘拐。俺はどうも寝てる間に誘拐されたらしい。
――――それも、俺だけじゃないから余計性質が悪い。
数えてみたら俺を含めて16人も、こんな妙ちくりんな場所に呼ばれていた。
テレビのドッキリにしちゃ過激すぎだ、いただけない。
いたいけな少年少女の手足を椅子に縛り付けるのはやり過ぎだ。
しかも縛り付けてる物は麻の紐。ったく痛いったらありゃしねえ。
「 」
声を出す。出した筈なのに、空気が漏れるだけ。
どうやってんだか知らねえけど、声帯がおかしくなってるらしい。
得体の知れない薬品でも投与されたか?後遺症が残るようなことはやめてくれよ?
ふざけんなって―――俺は、俺は。声を失う訳には―――
「皆様。目はお覚めになりましたでしょうか?」
怒りに沸き立っていた俺の心が一気に冷却される。まるで氷水を浴びせられたように全身が萎縮し、怒りやパニックを忘れたように思考は冷静になっていく。
そして最初に俺の普通すぎるどこにでもある脳が導き出した答え。
この声には。俺たちを誘拐した奴にだけは、何があっても逆らうな。
本当は怒りに身を焦がして怒鳴る場面だろう、それが『普通』だ。
なら今の佐原裕二は。今だけは『異常』でいい。
こんなところで惨めに死ぬくらいなら―――異常でいい!!
声の主は女だった。
20代前半くらいに見える、まだアイドルとしてやっていけそうな可愛らしさの残る顔をした美人。プロポーションも悪くないし、恐怖とはかけ離れた風貌。
だけど、コイツは悪魔なんだ。もしくは魔女、魔物の類。
コイツは現に俺たちを誘拐して拘束してる。でもそれだけじゃない。
どす黒い、闇。そんなものを俺はコイツに感じている。
「……うふふ。やっぱり私の目に狂いはなかったようですね」
いや。お前の言ってることは分からんが中身は狂ってるだろうよ。
というか早く俺達を集めた理由を説明しろ。そして早く帰してくれ。
「おっと失礼!私は楓坂闇薙という者です。職業は学生、大学四年。趣味はボトルシップの制作、将来の夢はありません!何処にでもいる普通の若者でっす!!」
嘘吐け、という空気が美術館のホールを支配した。
少なくとも普通というところだけは確実に嘘だ。
この女―――楓坂闇薙は異常。むしろ異端と言った方がいいかもしれない。
だから俺の敵だ。今すぐにでもあの喉笛を食い千切ってやりたいくらいの嫌悪。
「えーっとですね。自覚の有無はそれぞれ違うと思いますが、皆さんがこの場に集められた理由は皆さんのとある『共通点』に由来しています。
そしてその『共通点』を生かして『ゲーム』をして貰いたいのですよ」
ゲーム………。共通点を生かす………?
おい。此処に集められた奴等には、俺も含めて共通点があるってのか?
待ってくれ。俺は『無個性』を体現したような人間なんだぞ?
幸運も不幸も得ずに、まさしく中間を永遠に進むだけの人間だぞ?
此処に居る奴。
16人がみんな、俺と同じなのか?
そりゃあ―――最高に狂った傑作だぞ?
俺からしたら俺みたいな人間が他にも居るのは嬉しいけど、世の中としてどうよ。
しかしそんな心配は不必要だった。最悪な言葉が、楓坂の口から紡がれた。
「『異常能力者(サイキッカー)』。それが貴方たちの共通点です。
そして皆様には今宵、『最優の能力者』を決める為に『生き抜いて』頂きます」
□
楓坂闇薙は、笑いながらそれを告げた。
今まで平穏に生きて―――平穏に紛れて生きていた能力者たちに。
終わりの始まり。平穏は終わり混沌が始まる。
「まー簡単に言うとね。『てめえらには最後の一人まで殺し合って貰う』ってこと。反則は基本的になし。冷たい謀殺も熱い殴殺も何でもオッケーだよ。
だけどね、三つだけ禁止行為を決めちゃう。
『私の定めた区域からの脱走』『私への反抗』『12時間の間一人の死者も出ない状況を作り出すこと』。これは反則だから絶対にしないようにね!」
騒然、といった空気ではない。
どこか悟ったような、まるでいつかこうなると知っていたかのような。
此処に集められた16人は、簡単に言えば人格まで『異常』な人間たちだ。
通り魔。
殺人鬼。
果てには能力を自覚して悪を働く卑劣漢。
逆に能力を自覚せずに悪を無自覚に働く少女。
とにかく異常な連中のみを集めた、狂人どものデスゲーム。
例えば先の佐原裕二。彼は『普通に執着し過ぎている』。
そして彼もまた、『普通の道だけを歩む』為に無自覚で能力を使っていた。
「あーっと!大事なことを忘れていました!!反則行為をするとどうなるか教えなきゃいけないんでした………。じゃあそういうことで、西藤明くん!きりーつ!!」
西藤明。金髪のチンピラ風の男が、全身をびくっ、と震わせた。
無理もないだろう。目が覚めたら得体の知れない場所に拉致されていて、犯人の女が訳の分からないことをのたまい始め、果てには
殺し合いときた。
彼は自らの『物体を浮遊させる能力』を犯罪行為に使っていた小悪党だったが、まさか他にも能力を持つ奴等がいるとは思わなかった。
そして『反則を犯すとどうなるか』。完全に見せしめの空気である。
「早く!……ってああ、手足を縛ってるから立てないのかー。んじゃいいや。えいっ」
ドゴン。
何処かくぐもった、押し殺したような音がした。
直後、比較的落ち着いた空気が漂っていた空間は戦慄に。
西藤明の胸元が弾け。真っ赤な鮮血が飛び散り。断末魔の叫びさえなく。
逆に言えば、彼は幸せだったのかもしれない。
苦しむことなく、死んだことさえ理解できない内に死ねたのだから。
「君たちの心臓には、爆弾が埋め込まれています!でも心配しないで。私の能力で作った爆弾なんだから、勿論私の任意で傷痕も体への影響もなく消滅させられます。
まあいきなりこんな事されて怒らない方がおかしいけど、大丈夫!何も見返りなしで協力しろとは言わないよ。ちゃんとすっごい賞品を用意してるんだからー!!」
指を一本突き出して。
「優勝者には自分が『神』となった平行世界を一つ、あげちゃいます!金も女も地位も名声も、果てには絶対的な能力も何でも思うがまま!」
それからルールの説明を開始する楓坂。
一頻り説明を終えた時、唐突に人々の姿が消えていく。転送の開始。
美術館に、楓坂闇薙の笑い声だけが響いていた。
最終更新:2011年12月30日 11:47