―――そうそう、言ってなかったけどさ、俺人殺しなんだよね。
片思い中の幼馴染みからまるで何でもないことのように告げられた告白、それは私が長年待ち望んできた告白とは違って、自分の犯した禁忌の告白でした。
その日は確かとても寒い冬の日で、公園で久しぶりにあの人に会ったとき。
実の妹のように可愛がってくれた三つ上の幼馴染みに、私は昔から惹かれていました。
最初は頼れる友達としての『好き』だったのが、いつからか恋人としての『好き』になって。私の初恋は、まるで少女漫画のように始まって、叶うことなくだらだらと続いていました。
でも私には、そんなだらだらとした初恋の感覚がとても心地よかったんです。
いつからか、このまま実らぬ恋でもいいかもしれないと思い始めました。
あの人は高校三年生になって、私は中学三年生。
受験とかでさすがに忙しくなって、昔みたいに遊んだりも出来なくなって。
だからあの日、久しぶりに会えた時はほんとうに、ほんっとうに嬉しかった。
勉強も一段落して、気分転換に昔から遊んでいた公園に散歩に行ったんです。
小さい頃から好きだった缶のミルクココアを両手で持って飲みながら、白い息を吐き出して。
あの人がよく缶開けてくれて、二人で飲んでたなあ……とか思いながら。
公園にさしかかった時、大好きなあの人の姿を見つけて、胸が急に高鳴ってきて。
声をかけられずにいたらあの人が『久しぶりだな』なんて話しかけてきてくれて。
と、ここまではまるで少女漫画のテンプレートな展開だったんです。
最近どうだ、とか。
何処の高校行くんだ、とか。
好きな男の一人や二人出来たか、とか、そんなことを聞くあたり相変わらず鈍感で。
お前は俺よりいい学校行けるだけの頭持ってるんだからよ、とか褒めてくれて。
頭を撫でてくれた時なんか心臓が破裂しそうでしたよ。
でも、そろそろお別れの時間という時になって、あの人は突然私に告白したんです。
人殺しと、強姦の罪を。何の罪悪感もないような顔で。
ショックでしたよ。ずっとずっと好きだった人がとんでもない罪人だったんですから。
でも、簡単に嫌いになれるわけないじゃないですか……。
たとえ多くの人を破滅させてきた罪人だからって、私にとっては最高の人だったんですから、嫌いになるなんて死んでも出来ませんよ。だから私は、受け入れることに決めたんです。
罪を赦して、それをそのまま受け入れて愛そうと。
たとえそれが未来永劫叶わぬ恋だとしても、私は彼の味方でありたい。
その日私は、とある力を得ました。その時私は決意したんです。私、鏡御音(かがみ・みおと)は、片思いの相手、沖崎翔(おきざき・かける)を全ての力を費やしてでも守ってみせると。
それこそ――――自分の命を、擲ってでも。
私の能力は《体調の悪化と引き替えに五秒間時を止める》能力。
それからの日々はとても苦しくて、けれどとても有意義な日々でした。
翔くんの後をこっそり尾けていって、喧嘩で危なくなったら時を止める。
時が止まってる間に石とかを敵さんに投げて、翔くんをこっそり助けてあげる日々。
反動はかなりきついですよ、一回使っただけでも38度台の高熱が出るし、酷い咳が出たり。四回連続で使ったときには、割とリアルに三途の川が見えたくらいです。
でも私はやめたいと思ったことはありませんよ。だってそうじゃないですか。好きな男の人の役に立てるなら、どんなに辛くて苦しい目に遭ったって本望ってものですよ。
もしもこの力を使って私が死ぬことになっても、きっと私は良かったって思えます。
翔くんが一生私に振り向いてくれなくたって、私はずっと翔くんが大好きですから。
…………でも。
まさかこんなことになるなんて、夢にも思っていませんでしたよ。
バトルロワイアル。
15人の異常能力者(サイキッカー)たちの
殺し合いだなんて、正直今でも実感が湧かないくらいです。
私たちの平和な日常が、音もなく崩れ去るなんて。
私の力を使えば優勝できない、ということはないでしょう。
時を止めるという行為は、その間絶大なアドバンテージになるのですから、時間を停止してから銃でも乱射すれば如何に相手が『異常能力者』だとしても大抵は苦労なく殺せるはずです。
最悪、ずっと隠れ続けて漁夫の利を狙うのもいいかもしれません。
とにかく、私は優勝することができる。
でも、私はそんなことは望みません。
鏡御音は―――――すきなひとを殺してまで、生きていたくはないから。
翔くんを生き残らせて私は死ぬ。それで、いいんです。
平行世界にもきっと『鏡御音』は居るでしょう、それはこの『鏡御音』―――翔くんのことが大好きだった私ではないのが、ちょっとだけ悲しいけれど―――
ここが私という人間の人生のお終い。
なんて、素晴らしい結末でしょうか。最期まで大好きな人の為に戦えるなんて。
―――――私はこの小さな物語の中で死ぬ。
―――――それで、いいんです。
始めましょう。
――――――――――恋の、終わりへ至る物語を。
【未明/B-3神社】
【鏡御音《体調の悪化と引き換えに五秒間時を止める》】
《状態》健康
《所持品》不明支給品
《思考・行動》
0:翔くんを優勝させるために他の参加者を殺す。
1:とりあえず人が集まりそうな場所に行ってみる
2:翔くんには会いたくないなぁ……………
【鏡御音】
14歳、中学三年生。青い髪に大きなアホ毛があるのが特徴。
温厚で、いつも教室の隅でじっとしているような性格の少女。
沖崎翔とは幼馴染。幼い頃からずっと沖崎に好意を寄せており、沖崎の本性を知っても彼を愛し続け、陰から能力を使って彼を助けていた。
能力は≪体調の悪化と引き換えに五秒間時を止める≫というもの。
一度の使用でも軽度の風邪の状態になり、四度目の使用ともなれば瀕死の重体となる。
意識があればどんな状態でも使用できるが、五度目の使用は死を意味する。
能力を使う度に状況は『+』になるが体は『-』になっていく。
最終更新:2012年01月12日 09:48