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gloom

きぃぃぃぃぃぃぃぃ、という金属音が深夜の森に不気味に響いている。
いや、それは金属音などではない。
そのことに気付くには、音を出している《それ》を発見することがまず必要だったろう。
それは、《水色》。
水色の頭髪に、幼さを強調するような赤色のカチューシャ。全体的に明るい色のシルエットに全くそぐわない黒いワンピースが夜の森での不気味さを割り増ししていた。
水子の霊と言っても、大抵の人物は信じただろう。

―――きぃぃぃぃぃぃぃぃ、きぃぃぃぃぃぃぃぃっ。

金属音に似た、けれど決定的に何かが異なっている怪音が再び反響する。
少女はじりじりと――だがしかし、どこかすいすいと魚のように向かってくる。

―――きぃぃぃぃぃぃぃぃっ。

そこで私は再度改めて理解する。
この少女はどう考えても異常である、と。いや、異常でない人間などこの場に呼ばれていないか。
私も含めて、最悪に壊れて外れた異常者だらけのパーティー。
本当に、笑える傑作だ。

―――きぃぃぃぃぃぃぃぃ

《音》が、今度はしっかりとではなく途中で乱雑に途切られる。
まるで霧か、それとも夏の陽炎か。私は少女に向けてそんな感想を抱いていた。
驚くべきことだが私の状況適応能力はどうにも常人離れした高さのようである、その証拠に、もはや顔がしっかり認識できるレベルまで近付いているのに私は後退りさえしていない。
逆に少女の顔をしっかり脳裏に焼き付けておく。
残念ながら私に幼女嗜好者の気はないが、それでも可愛らしい顔立ちをしている。
だがその瞳は爛々とした輝きを称え、彼女が只の幼女ではないと暗に告げていた。
今までにも幾らかの修羅場をくぐってきた私だが、今回ばかりは全てを投げ捨てて逃げ出すのもありだな。逆上した輩に刺された時よりもやばいことになりそうだ。
それでも、私の足は動くことなく、瞳は真っ直ぐ少女を見据えている。

―――きぃぃぃぃぃぃぃぃっ。

これは奇声だ。
少女期特有の、まるで金属音のように甲高い声。
さて、これは久方ぶりに武器を取る必要がありそうだ。
私はスーツのポケットに常備している荒事処理用の得物――折り畳みナイフを取り出す。
只のナイフと侮るなかれ、構成する物質から何から何まで吟味して作り上げた私の自信作である。
見ろ。あの楓坂とかいう女もこいつはどうやら見抜けていなかったらしい。
当たり前か、何せこいつは厳密に言えば金属ですらない本当の最高傑作なのだ。
そう簡単に見抜かれては困る。





「とうぜん」


少女の手に持つのは私の得物よりも仰々しい、一本の鎌。
死神、という言葉を連想する。
しかし、鎌か――皮肉なものだな。私が以前使っていて壊された物にとても似ている。
少女は手にした鎌をぺろり、と愛しそうに舐める。
む、不味いな。これでは――いきなりリーチに入ってしまっているではないか。

ぎぃぃぃぃぃぃん、と今度は本物の金属音が私の鼓膜を叩く。
振るわれた大鎌を私のナイフがしっかり受け止め、傷ひとつない姿で鎌を止めていた。
少女が可愛らしい口を笑顔の形に歪めて、鎌を両手で回転させる。

「む――――?」

思わず仰け反らされた。何という力だ、あんな無茶な扱いをするに相応しい実力があるらしい。
何てことだ。私よりも鎌の使い手としてなら数段上手のようだ。
しかしナイフと鎌では違う。長さも速さも威力も切れ方も、何から何まで異なる。
ナイフは速さで敵を制圧できるが鎌はたった一撃で高確率の致命傷になる。
それでも、食らわなければどちらも只の棒切れに過ぎない。
私の足が地面を蹴り、少女の鎌を掻い潜って懐に飛び込む。

が――直後、私は真横に飛び退く。
更にその直後、私のいた座標に深く鎌の《柄》が突き刺さっていた。
マジか、と思う。
柄の最下部を鋭利な槍に加工するなど、正気の沙汰ではない。
完全な殺し屋、もしくは戦闘狂の怪人。
私のようにいざ戦うとなれば必殺を心掛ける者にとっては、余りに不吉な相手である。


「きひゃはははははははははははははっ!!」
「はぁ……面倒すぎるな……それよりも余り長引かせるのは好ましくない」


終わらせる。
私は《異常能力》の覚醒を確認して、少女と距離を取る。
すぐに狂った笑い声をあげながら、少女はこちらに――相当な化け物じみた速度で駆けてきた。
さながら野獣、もしくは競輪選手の自転車を連想させる。
だが――生憎とこの瞬間、私の勝ちは完全に確定した。


視界を爆炎が包み、少し遅れて凄まじい爆発音が夜の静寂を一度完全に殺した。
生きてはいまい。量にして手榴弾マーク2十発分もの威力だ――死体も原型を留めぬまでに爆散しているだろう、運が良くとも死体は黒焦げ、どちらにしろあの可愛らしい顔面は戻らないさ。
そうだな。もし万一あの怪人が生きていたとしても、生憎と私は面倒事が嫌いでね。
そんなおっかないことになる前にさっさとこの場所を離れてしまおう。
さっきの爆音に引き寄せられた人間が居ないとも限らん。

そして俺は最初の邂逅を無価値に終了した。






―――きぃぃぃぃぃぃぃぃっ。


スーツに陰鬱そうな顔立ちをした暗い男が立ち去った後。
彼の不安通りに、《怪人》は爆発の跡からすいすいと立ち上がって歩き出した。
まるで何もなかったかのように、まるで何も覚えていないように。
それこそが彼女、江之本澪の持つ《能力》である。
それは《即死させない限り何度でも死の十分前の状態で蘇生する》、まさに不死身の力。
だが、最悪なことにこれは彼女の性質と余りに相性がいい。
《全てを破壊し尽くす衝動》―――狂った怪人の性質と。
彼女は化け物だ。
実年齢にそぐわない戦闘能力に、普段見せている狂いきった立ち振舞い。
だが戦闘ではまさに天才的なセンスで敵を抹殺する、怪人。

彼女にそっくりな、むしろそのままといっていい少女――死神舞凪。
しかし天使とは余りに対極の悪魔、怪人―――江之本澪。
彼女はまだこの物語から降りない。
何人を殺めるか、最後にどんな結末を迎えるのか、そして彼女はこの宴を経て何かを得るのか。

それはまだ、誰にも分からない。


――――きぃぃぃぃぃぃぃぃっ。


【深夜/A-2】

【江之本澪《即死させない限り何度でも10分前の状態で蘇生する》】
《状態》健康
《所持品》支給品一式、特殊カスタム大鎌
《思考・行動》
0:たたかう。こわす。ころす。つぶす。ばらばら。
1:てきとうにしゅういをたんさくしてみる
※戦闘の記憶が喪失しました






ふむ。今の怪人との邂逅で、この殺し合いってのが私の思っているより深刻な事態だと発覚した。
正直、私もまさかいきなり切り札を切らされるとは思わなんだ。
このナイフだけで捌けない相手など久方ぶりだ――しかもよもやあんな少女相手に。
いや、あれを少女と呼ぶのは少女に大して大きな偏見を生んでしまいかねんな。
私がもし《爆弾製造》なんて力を持っていなければ確実に殺されていただろう。
くわばらくわばら、というやつだ。

…………む。
そういえばまだ名乗ってすらいなかったな。
私は銀丘白影(ぎんおか-しらかげ)という――――職業は《玩具》の販売人だ。
おいおい、玩具といってもそんなエロティカルな代物じゃないぞ。
麻薬に拳銃、爆弾から最悪臓器まで移植サービス付きで提供してやる。
分かったろ?いわば私は闇の売人だ。
しかもメインターゲットは価値を正しく理解していない馬鹿やガキ。
社会の裏側の物を与えて、金を手に入れる――後の事は知らないさ。最近ニュースを騒がせている授業中に教師が不良生徒に発泡した事件なんか、犯人は俺の顧客だぜ。
元々真面目な奴だったんだろうが、ストレス解消にクスリを買っちまった。
もはやあいつは聖職でも何でもない、只のクズ男だ。

さあ、そんな私は今回の殺し合い、漁夫の利を狙わせてもらおうと思っている。
最後まで息を潜めて、ラストに全てを持っていく。
平行世界の神なんてものに興味はないからな、そこは主催と交渉させてもらおう。
最後に笑うのはいつの時代も悪人だ。

では、存分に踊らせて貰おう。


【銀丘白影《爆弾の弾幕を製造する》】
《状態》疲労(小)、製造爆弾数0
《所持品》支給品一式、特注品のナイフ
《思考・行動》
0:漁夫の利を狙って生き残る。
1:無駄な戦いはしないが、邪魔者は殺しておく
2:しばらくは爆弾製造に勤める



【銀丘白影《爆弾の弾幕を製造する》】
28歳、目の下に隈があり、スーツを着用して常に陰鬱そうな顔立ちをした男。
職業は裏側の社会の玩具の販売人。
能力では、三十分に一個手榴弾クラスの爆弾を製造する。
異空間に保存されており、弾幕型に発射することができる。

【江之本澪《即死させない限り何度でも10分前の状態で蘇生する》】
13歳、死神舞凪と瓜二つの姿だが、ワンピースの色が彼女の場合は黒色。
精神異常が起きているわけではないのに狂ったような言動を見せる。
破壊衝動の塊であり、異常な身体能力を持つ。
能力は、たとえ腹を引き裂かれようが即死でなければすぐに回復し蘇生する。
しかし10分前の状態なので、死の記憶が残らない。

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最終更新:2012年02月11日 16:56
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