殺し合い。絶望。失望。希望があってその先にこれまた絶望。
――――――いいねえ、素晴らしい。
絶望は最高の調味料になるんだよ、絶望のない人生なんてルーのないカレーみたいなものだと俺は思うね。生憎俺はそんなカレーは食いたくないから、味付けをしてやるんだ。
しっかし最高にぶっ飛んでやがるねぇ、高宮の旦那もよぉ!
アンタは最高だ、サイッコウに最高だ。
バトルロワイアルだか何だか知らねえが、俺は気に入った。
俺は別に生き残りたいわけでもない。だからと言って無駄死には御免被る。
バトルロワイアル―――この最高に最悪な宴のスパイスになってやるよ。
俺にはそれが出来る。
それを可能にするだけの『才能』が俺にはあるんだからな。
人は俺の才能を『蠢く怪異(ワンダートリック)』と呼ぶ。
簡単に言えば人の気持ちや決意を滅茶苦茶に引っ掻き回す能力だ。
昔はこれでもそこそこ売れてたタレントだったんだぜ俺。
まあ、ラジオ番組で才能を使ったらここに幽閉されたけど。
その時は楽しかったねぇ、その日の犯罪件数がいつもの数倍だったとか。
あれで、俺は才能を使いこなせるようになったんだっけ。
代わりに隔離生活だけどさ、俺は好きだった。
俺はもう何処にも行かない。
勝ち残ったとしても、俺は一人寂しく首でもくくるだろうさ。
どうせ終わりしかないならスマートな終わりを見たいだろう?
俺がそこまで導いてやるさ、この白崎ミュートンが、終わらせる。
この物語を滅茶苦茶にしてバラバラに壊して血みどろに終わらせてやるさ。
なぁに、心配は要らねえ。
人の心―――そんな陳腐な障害物は俺の才能でお掃除だ。
弱者でも意外と強くなれるかもしれないぜ、まあ壊しちまうかもだがな。
さあ――――――存分に蠢かせてもらうかね。
□
―――――――――あっ、れー?
何だこれ。どうなってんの。ちょっと待てって。
今、何があった?こいつは俺に何をした?状況が理解できないんだが。
何で俺の右肘から先が、無くなってるんだ?
やべえな、血が止まらない。
今すぐ止血すれば何とか助かるかも知れないが、無理だろうな。
目の前の『コイツ』がそんな隙与えちゃくれるとは思えない。
まともにやり合って勝てる相手でもないし、俺の才能も利かない。
『コイツ』は、『蠢く怪異』をどうやら既に攻略してしまったらしい。
ったく、出鱈目過ぎんなぁ……。
『コイツ』は直に俺を殺す。
ほら。
その綺麗な手が、振り上げられた。
『俺』は死ぬ。恐らくはこのゲームで一番最初の脱落者になる。
―――――でも、よ。正直滅茶苦茶楽しみなんだ。
俺は下らねえ筋書きを早速狂わせた。最悪の怪物を呼び覚ましちまった。『コイツ』は絶望になる。善良な心を持った奴等の希望を根絶やしにする絶望に。
――――なら、俺はもう十分だ。死ぬのも悪くないさ。
「地獄でゆっくり見届けさせて貰うよ、じゃあな―――詩織ちゃん」
ぐしゃっ。
『コイツ』―――柳詩織の手刀が、俺の頭蓋を叩き潰した。
おしまい。
【白崎ミュートン 死亡】 【残り17人】
■
―――――時は数分前に遡る。
一人の可愛らしい顔つきの少女が、しゃがみ込んでいた。
瞳からは大粒の涙が流れ、ただただ、押し寄せる恐怖に打ちのめされている。『才能』保持者である彼女は、幼かった。他の保持者に比べて、どこまでも心が幼かった。
元より彼女は、こういう性格だ。
争いや暴力を好まず、常にクラスでも独りぼっちでいる大人しい少女。
彼女には自分の『才能』とやらにずっと心当たりが無かった。
柳詩織にできたのは、ただ現実から逃避することだけ。
逃げ続ける。
例えばクラスの奴等に椅子で頭を殴られても。
鉄パイプで腕の骨を叩き折られても、腹を蹴られ続けても。
彼女は抵抗しない。
泣き喚きこそしても、決して抵抗することはないのだ。
振り返れば詩織の人生は常に痛みに耐え続ける人生だった。
幼い頃には虐待を受け、それがきっかけで抵抗が出来なくなった。
小学校では孤立し、いつも損な役目ばかり。それも耐えた。
そして中学三年生現在。彼女は度を超えた虐めに耐え続けていた。
詩織は数ヵ月前に幽閉された―――施設内では一番の新入りだ。
尤も彼女にすれば、幽閉されるようなことをした覚えはないのだが。
「やだぁ………怖いよぅ………また、逃げよう………」
泣きながら、やっと紡ぎだした弱音。
逃げる―――彼女の唯一の特技。
如何なる状況であろうとも、現実から逃避して空想が出来る。
並外れた想像力と集中力の賜物だ。
「あはっ……遊ぼうよ、『アイ』ちゃん……今日は何する……?」
たった二秒での逃避。
実は虐待を受けて心身とも疲弊し切った児童の空想への逃避は珍しくない。虐めや暴行でも同様だ。しかし、柳詩織のそれは明らかに異常だといえる。
柳詩織は間違いなく―――天才的な逸材だ。
現実の一時的忘却。世界観の脳内再構成。仮想人格の形成。
更には会話の内容、即席のシナリオ、道往く人の一人一人まで。
これをたった二秒で構成してしまうのだから。
「アイちゃん――――アイちゃんだけは、大好きだよ―――」
『ありがとう、しーちゃん』
白い帽子に小柄な体駆。可愛らしい衣服はまるで人形の服のよう。
『アイ』―――仮想人格。
このまま幸せに逃避して、幸せなまま終わる―――筈だった。
理想の世界が破れていく。
黒く歪み、漆黒の渦が全てを吸い込み潰していく。
恐怖。逃避して尚、押し寄せる負の感情が詩織を苛む。
―――――残っている空想は『アイ』だけ。
彼女だけは、優しく微笑みながら詩織の手を握っていた。
「く、はは。妄想に逃げるなよ、『しーちゃん』!?」
男の声が黒い二人だけの世界に不気味に響いた。
下品な、楽しむような口調で、詩織の世界を壊していく。
『蠢く怪異』による精神破壊。到底耐えられるような苦しみではない。
「出て、いけ………私とアイちゃんの世界から消えろ………」
「嫌なこった。早く目を覚ませよ――――『しーちゃん』?」
「おまえ、が……わたしのなまえを、よぶ、な……」
初めての抵抗。
しかしながら侵略者・白崎ミュートンは止めない。
そしてこの言葉が、柳詩織の精一杯の抵抗を塗り潰し、黒く染めた。
「―――――君さあ、何と話してるの?」
崩れた。
柳詩織を支えていた大切な何かが音を立てて崩れ去っていた。
そして、再起動。
ゆらり――――と詩織は立ち上がり――――そして。
「しーちゃんを壊したな」
紅い瞳の怪物(おんな)に、変わった。
その纏う雰囲気は柳詩織のものでは無く、別の何か―――――。
白崎がそれに気付く前に、その右腕の肘から先が引き千切られていた。
◇
白崎の最期の言葉では、確かに詩織のことを『詩織ちゃん』と呼んだ。
白崎は最期に気付いたのだろう。『これは詩織ではない』と。
だから、『詩織ちゃん』。
正確にはそれも違っている。彼女は『アイ』だ。
そして『アイ』の存在こそが、柳詩織の才能だった。
『夢画夢中(ドリームチェンジャー)』。
夢の中の仮想人格と自分を取り替える、まさに居場所の交換。
だが、そうそう使えるものではない。
『アイ』が現れるには、『詩織』が壊れる必要がある。
その時に、才能が発動するのだ。
今は白崎が詩織を壊した。
彼女の楽園を破壊したことにより、詩織が壊れてアイになった。
過去にも、アイが現れたのはたった一度だけである。
10ヵ月前。詩織を×そうとしたクラスの男子に、詩織が壊された。
アイは笑いながら、その場に居合わせた全ての人間を『破壊』したという。
白崎の死体は頭が破壊されているが、その時は全身が破壊された。
それこそが、詩織が幽閉された理由。
『××氏中学生虐殺事件』の加害者。
「大丈夫だよ、しーちゃん。ボクが皆殺して、君を助けてあげる」
あははははははは、と狂ったように笑う。
「さあ――――ゲーム
スタートだね、ボクを楽しませてくれよ!!」
【深夜/A-2崖】
【柳詩織/『アイ』】
[状態]健康、返り血
[所持品]サバイバルナイフ、ロープ
[思考・行動]
0:しーちゃんの為に優勝する
1:殺しちゃえっ☆
※A-2エリアに白崎ミュートンの死体が放置されています
最終更新:2012年02月12日 22:23