それは、戦いに勝利した者の物語であった。
彼はあるべき未来とは少し違った道を行き、戦いに勝利し、そして知ってしまった。
絶対的な力を更なる高みへと到達させ、彼は知る。
次元を超えた先にある数多の世界。
天に散らばる星々よりも多数の、人間が織り成し支配する世界。
彼は戦った。彼は殺した。彼は救った。
悪である存在と戦い、殺しつくし、世界を救ってきた。
世界は、次元の先にある世界は意識が遠くなるほどに大量で、それでも彼は戦い続けた。
そんな彼を待っていたのは更なる深淵。
次元世界という終焉のない迷宮の果ての悲劇。
彼は知ってしまった。
世界の隣にある、極めて近く限り無く遠い世界の存在を。
彼は知ってしまった。
もしかしたら自分にも在ったかもしれない、敗北の世界を。
敗北の先にあったのは信じられない光景であった。
ただ敗北しただけなら彼にだって受け止められた。
だが敗北の先にあった光景に、彼は愕然とした。
数年、数十年、数百年、数千年……決して揺らぐことのなかった心が揺らいだ。
思えば感情らしき感情を覚えたのも、一世紀や二世紀の時の中ではありえなかった事だ。
極めて近く限り無く遠い世界を知った彼は、救済の中で思考を繰り返した。
湧き上がる数多の感情を、何処か客観的な中で見詰める。
彼は、自分が何を求めているのか分からなかった。
分からぬままに、また数千年の時を刻む。
悩みを抱えた数千年は、彼自身にも知らずの内に変化をもたらす。
気付けば彼は耳を傾けるようになっていた。
今までは何とも思っていなかった悪の言葉に、耳を立てる。
様々な言葉があった。
怒りに満ちた声、悲しみに満ちた声、中には同情の声すらもあった。
様々な言葉を聞き、それでも彼は答えを見出すことができなかった。
そして、また膨大な時間が流れる。
彼は決意した。
何も考えず、己の思うが儘に選択し、行動をしてみようと。
そうして、この物語は始まった。
次元を越えて集められた人々による
殺し合い―――バトルロワイアルが、始まった。
◇
―――これから貴様達には殺し合いをしてもらう―――
気付けば其処に人々は集まっていた。
暗闇の中でぽつりと浮かんだ光点。
見渡す限りは全て黒。
人々が集まるそこだけが、ライトに照らされているかのように丸く光っていた。
―――生き延びたくば、殺し合い、最後の一人となるまで生き残ることだ。ルールはない。ただ殺しあえ―――
人々の表情には一様に戸惑いがあった。
当然だろう。
気付けば訳も分からぬ場所にいて、何処から聞こえるかも分からぬ声から殺し合いを強要される。
理解不能を甚だしい。
―――殺しあわぬというのも、また選択の一つだ。だが―――
疑問に、困惑に、憤怒に、人々が声を上げようとした瞬間であった。
言葉が途切れ、一瞬の輪廻が始まる。
集められた人々の首が切断された。
何の前兆もなく、さもそれがあるべくしてあった結果のように、首が飛ぶ。
避けられた者はいなかった。
人間の域を遥かに超越した猛者も、何の力も持たぬ一般人もただ平等に、死亡する。
―――貴様達の命は俺の掌の上にある。そのことを忘れるな―――
そして、切断された46の生首は、何の前兆もなく、さもそれがあるべくしてあった結果のように、治った。
誰もが誰も、一度確かに千切れ飛んだ筈の首が、何事もなかったかのように元に戻ったのだ。
死者はいない。だが、死の記憶だけは人々の中に刻まれた。
必死の楔が、全員の心に穿たれた。
―――死にたくなければ、殺しあえ。人類が毎日繰り返している事を、ただ行えばいい。それだけだ―――
淡々とした言葉に、何か言うものはいなかった。
人々は無言で、声を聞いていた。
―――最後にもう一つ。この殺し合いで生き延びた者には、何でも一つだけ願いを叶える権利を与える―――
最後の言葉に、ほんの少しだけ場がざわめく。
ほんの少し息を吸い込むような、声にもならぬざわめきだ。
―――殺しあえ。死にたくなければ、願いを叶えたくば、殺しあえ―――
そうして言葉が途切れ、闇にあった唯一の光が消えていき、世界が完全な闇に染まる。
闇が晴れた時、人々は殺し合いの場へと移行しているだろう。
一人の男のエゴから開催されたバトルロワイアル。
このバトルロワイアルを通して、人々は、そして主催者たる彼自身も、それぞれの信念を追及する事となる。
そう、信念を追及する物語が始まる。
【―――信念追及バトルロワイアル・開催】
最終更新:2012年02月21日 23:03