殺し合い開幕後、◆FOXrL54NJSが目を覚ましたのはごく普通の住宅のベッドの上だった。
二度寝してやろうなんて気は全く起きず、諦めに近い感情が彼女の心を直ぐに支配する。
どうしてこんなことになっているのか。
自分が何か悪いことでもしたというのか。
どんなに考えても考えても、マイナスな思考ばかりが沸いてくる。
◆FOXrL54NJSという少女は、バトルロワイアルというこのゲームがどれほど恐ろしいものか知っている。
生存出来る確率など1%あればいい方とさえ言えるくらい、絶望的なゲームだと。
他の参加者とは決定的に違う立場《書き手》であるFOXはバトルロワイアルを熟知とまではいかずとも、少なくとも他の参加者達よりは多くの知識を保有している――だからこそ、分かる。
自分が殺し合いに乗ったとしても、生き残れない確率の方が高いのだ。
逆に殺し合いに乗らなかったとしても、生き残れる確率は下手をすると殺人者となるより更に低い。
「どうすればいいの……はー」
わざとらしい溜め息をついてみたところで何かが変わる筈もなかった。
傍らに置いてある参加者名簿を見るに知り合いーー《書き手》の人間は四人。
殺し合いに乗るような人間など居ないとは思いたいが、人間というものは本当に分からない生物だ。
それこそ疑えばきりがない。しかし、下手に知識を持ちすぎたからこそFOXは追い詰められている。
もしも何も知らぬ少女だったなら、きっと抱える負担も幾分か少なかっただろう。
だからと言って書き手になったところから後悔する気もなかったが、正直なところ彼女は恐怖とも怒りとも違うある種の無気力感に苛まれていた。
支給品は確認した、入っていたのは一本の文化包丁。
論外だな、とFOXは思う。
肉体的には自分はそう強くないのだから、下手をすると反撃されてしまう可能性もある。
殺し合いに乗るという選択肢はほぼ消えたのだが、殺し合いを駆逐するのか?
「……どうしよ……」
流石に移動を開始せねば不味いと判断したFOXは文化包丁をしまって静かに寝室を出る。
文化包丁なんて物騒な物を持ち歩けば怪しいことこの上ないし、落として足に刺したりしたら大変だ。
そんなアホらしい負傷は幾ら何でも御免だった。
とりあえず書き手の皆を探そうかな……と、何処か他人事のように考えながら民家を出る。
朝の冷たい空気が肌に刺さり、鳥肌が立つ。
今こうしている間にも誰かが殺されたのかもしれないが、それを気にしていたら何も出来はしない。
極論言えば、今だって自分の頭に誰かが狙撃銃の照準を合わせているのかもしれないのだ。
(死にたくないな……まだやりたいことだっていっぱいあるのに)
諦めきれない。
光の世界への未練が未だ◆FOXrL54NJSには残っていた。
死にたくはないけれど何をすればいいかも分からない。矛盾した思考だ。
とりあえず今は書き手の仲間を探し、出来れば行動を共にしてもらうこと。これが先決だろう。
と、そんな時。
FOXの視界は一人の男を捉えた。
いや――――それは《男》なのかどうなのかさえも見た目からだけでは判別不能であった。
黒ずくめの格好に黒い手袋。
そして何よりも一際目を引くのが顔面を覆い隠してしまっている布――――巨大な目玉のような模様が描かれた、麻の紐で固定された《マスク》。
FOXの姿を確認したのか、その人物は彼女の方にゆっくりと接近してくる。
こんな時になんだが、FOXは小学校の防犯訓練で習ったことを思い出していた。
「っ、変態――――――!!」
全力疾走である。
無我夢中で、あの変態から遠ざかる為に彼女は地面を蹴った。
「待、待テ!私は決シテ怪シイ者ナドデハナイゾ!?」
どの口が言うんだ自分の格好を見てから言え、と叫びたい衝動に駆られる。
後方の変態はFOXのそれを上回る速度で接近しているが、まだ距離はかなりある。
幸いにもこの辺りの道は複雑なようで、角を何度か曲がれば撒けるようだった。
◆
「はっ……はっ……此処まで来れば、大丈夫でしょ……」
もう追ってこないことを確認して、FOXは乱れた呼吸を整える。
久々にこんなに全力で走ったかもしれない、それくらいに体が悲鳴をあげている。
一体あの男は何者だったのだろうか、もしかして只のコスプレ好きな変人だったのではないかーーだったらちょっと可哀想なことしたなぁ、と今更になって少し反省してみる。
さっきの叫びが響いただろうし此処を離れようと、ゆっくり歩き始めた時。
彼女は、自らの不幸を呪わずには居られなかった。
「随分と可愛い声で鳴くんだねえお嬢ちゃん……痛くないようにしてあげるからね」
ボサボサの髪の毛をした、お世辞にも美男とは言えない顔の男がFOXの行く手を阻んでいた。
その顔は不気味な笑顔で、先の妙な変人よりもよっぽど気持ちの悪い印象を受ける。
更にその手に持っているのは調理用の鋏。これはもう、殺す気としか考えられないだろう。
不味い。脳内で警鐘が響き、FOXの背中を冷たい何かが走る。
それが冷や汗だと気付く前に彼女はデイパックの文化包丁に手を伸ばしていた。
殺される。
只でさえ先程の逃亡で疲れているのだ、これ以上逃げたとしても間違いなく捕まるだろう。
あんな無骨な鋏で刺されるなんて激痛ってものではないだろうし、何よりこんなところで死ぬなんて御免だ。この場を生き延びるためには――――この男を殺すしかない。
それをすれば
もう二度と、今までのように笑うことは出来なくなるかもしれない。
けれど―――そうしなければ、何も成し遂げられないではないか。
文化包丁を振りかざし、ゆっくりと迫ってくる男に突進する。
一回刺せばいい。内臓を抉ればそれで十分だし、そうでなくとも間違いなく行動不能に出来る筈。
しかし、この世とは余りに不条理なもので。
「危ないよ……お兄さんが優しい内に殺されておきなさい……ふふ」
少女の体格で突貫をかけるが、それはいとも容易く《体格差》という言葉で退けられてしまう。
文化包丁を持った手は途中で掴まれ、地面に体を叩き付けられて取り落とした。
拾おうとしても男の体重がかかり、体が上手く動いてくれない。
万事休すか。
瞳にうっすらと涙が浮かんできそうになったその時。
「トォッ!!」
幸運はFOXに微笑んだ。
「がぁっ!?」
FOXにのしかかっていた男の体が真横に吹き飛び、受け身を取れず無様に転がる。
意識を失うことはしなかったようで、その双眸は醜いまでの怒りを示していた。
しかしそれに怯むこともなく、逆に上等とでもいうようなポーズを取るのは、変身ベルトを着用して不気味なマスクで顔面を覆った変人―――《12th》平坂黄泉であった。
彼が何故、見失った筈のFOXの元にこうして救援に入ることができたのか。その理由は単純に、彼が《予知能力者》だったからに尽きる。
そもそも平坂は《見失って》など居ないのだ。彼には最初から何も見えてなどいないのだから。
全盲の代わりに視覚にさえ匹敵するだけの聴力、そして自らの正義を予知する《正義日記》。
その二つが相俟って、こうして平坂黄泉は正義を執行出来ている。
「てめえ……邪魔しやがったなぁ」
「サア来ルナラ来ルガイイ、正義ハオ前ノヨウナ悪ニ決シテ負ケハシナイノダカラナ!!」
後はもはや一方的だった。
立ち上がって鋏を振りかざす男を平坂が蹴り飛ばし、殴り飛ばす。
何度立ち上がろうが変わらない結果、先に意識を失った男が敗北することになった。
「行クゾ。意識ガ戻ッテハ面倒ダ」
何が何だかよく分からないといった風のFOXを抱えて(俗に言うお姫様抱っこである)平坂は走る。
ひとまず何処か適当な民家にでも入ろうと、走った。
しかしこの図、きっと第三者から見れば覆面の変態が誘拐を行っているようにしか見えなかったろう。
◇
「ドウダイ、コレガ12thレッド!正義ハ必ズ勝ツノダ!!」
「こんなに最悪な気分のお姫様抱っこなんてあったんだ………」
《12thレッド》こと《12th》平坂黄泉と◆FOXrL54NJSは、平坂の目的通り適当な民家に逃げ込んだ。
FOXの疲労もあるだろうし、平坂とて情報は少しでも多く得ておきたかった。
一方のFOXは、自らを助けてくれた平坂に感謝すべきとは知っていながらも複雑な気分だった。
せめてその変な格好を止めればいいのに、とは思ったが口に出して言うようなことはしない。
交換できた情報はそう多くはないが、少なくとも平坂黄泉という人間が《未来を予知する日記》なる物を保有していることを知ることができた。
俄には信じ難い話だったが、ああして平坂が駆け付けられたのその恩恵とすれば辻褄が合う。
平坂もまた、FOX達《書き手》という、本来物語の外側に居る筈の人間だと知った。
この殺し合い、まだまだ何か裏がある―――平坂黄泉は、覆面の裏で眉をひそめた。
「でもまあ、助けてくれて有難うございました、平坂さん」
「礼ニハ及バヌ、ソレコソ正義ノ本懐ダ」
「そうだ―――私の名前ですけど」
「ム?確カFOXトカ言ッタト記憶シテイルゾ」
「あ、いやそうじゃなくて」
幸い彼女にはもう一つ、書き手間での呼び名がある。
「―――――私のことは、狐とでも呼んでください」
【朝/C-4住宅地 民家内】
【◆FOXrL54NJS@非リレー型バトルロワイアル・書き手】
[状態]疲労(中)
[装備]なし
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品×2、文化包丁
[思考・行動]
0:殺し合いには乗らないでおく。
1:平坂さんと行動し、他の書き手さんを探す
※二次元への知識が一部消えています
【平坂黄泉@未来日記】
[状態]健康
[装備]なし
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品×2、正義日記@未来日記
[思考・行動]
0:悪(楓坂秀吉)ヲ討チ滅ボス!
1:狐ト行動ヲ共二スル。
2:2nd(我妻由乃)ニハ気ヲツケル
※死亡後からの参加です
※正義日記は予知できる範囲が狭まっていますが、破壊されると平坂は死亡します
【朝/C-4住宅地】
【柳秋吉@オリキャラ】
[状態]打撲の痕、気絶
[装備]調理用の鋏
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品×2
[思考・行動]
0:皆殺し
1:…………
【柳秋吉】
22歳、無職の引きこもりニート。
ただし学生時代に受けた虐めで歪んでおり、何をしでかすか分からない程に不安定な人格。
最終更新:2012年02月29日 17:33