「ダルくん……こんなのって、酷いよ……」
A-3エリア、海岸沿いの砂浜にへたり込んで少女、椎名まゆりは悲しそうに顔を歪めた。
今まで、そしてこれからも仲良くやっていく筈だった大切な仲間が死んだのだ。
言ってしまえば見せしめなどという、下らない事情であっさりと生命を終わらせられた橋田至という青年の死を椎名まゆりは、心の底から悲しんでいた。
仲間たち――ラボメンの中で一番優しい、そしてある意味一番強いとも称される少女が彼女だ。
だからこそ、仲間の死を悲しまずに居られる筈がなかった。
それは彼女だけに限らず他のラボメンも同じだろう、誰もが怒りを燃やし、嘆き悲しむ。
ラボメンナンバー001の肩書きを持つ、《未来ガジェット研究所》の所長である岡部倫太郎ならばきっと、普段とは比べ物にならない程に怒り、主催者打倒を掲げるだろう。
だがまゆりとてそれは何も変わらない。
殺し合いなんていう悲しさしか生まない催しなど、認められる訳がなかった。
参加者名簿に記載されている名前には、先の岡部だけでなく同じラボメンの桐生萌郁、怒らせると物凄く怖いブラウン管好きの男、ブラウン店長こと天王寺裕吾。
(みんなで力を合わせたら、きっと帰れるよね)
橋田を亡くした悲しみは未だ癒えぬままだったが、まゆりは前向きにこれからのことを考える。
まずは岡部たちと合流して、それから同じように殺し合いを潰そうとする仲間を募る。
その後、死んでしまった橋田のように機械に精通した人間を探して首輪を外す。
地図には幸い港があるのだから、そこから船を出してこの島を脱出すればいい。
頭はあまり良くないまゆりでも、考えた程簡単に解決できるとは思ってはいなかった。そもそもこの首輪を外せる人間が居る前提が成り立たなければ何も始まらない。
悲しみを払拭して立ち上がり、他の参加者を探そうと立ち上がる。
そして、とりあえず誰かと会おうと歩き出す。
「ちょっといいか?」
暫く歩いた所で、背後から男性に声を掛けられる。
その声は落ち着いていて、この殺し合いの場でも冷静に行動できていることを暗に示していた。
人間があれだけ無惨に殺された後にも関わらずここまで冷静になれる辺り、強い人だとまゆりは思う。
声の主は、まゆりと歳は然程変わらないだろう一人の青年。
手には何も持っていないが、纏う緊張した空気が何処か頼もしささえ感じられる。
「俺は松雪集って者だ、人を探してるんだけど」
「トゥットゥルー。まゆしぃは椎名まゆりです、よろしくね」
トゥットゥルー、という奇特な挨拶に一瞬呆けたような顔をする集。
この椎名まゆり、周囲の者を独特のテンションで困惑させる(本人は自覚なし)スキルを持っている。
俗に言う《不思議系》という奴だ。
集は何処か可笑しそうに微笑し、まゆりの方を見て続ける。
「宿海仁太、本間芽衣子。この二人に会ってないか?」
「うーん……ごめんね?まゆしぃが会ったのは集くんが初めてなのです」
そっか、と少しだけ残念そうに集は笑う。
まゆりは元気付けようと一歩歩を進め、慰めの言葉でもかけてやろうかと口を開いた。
しかし、何か言葉を椎名まゆりが発する前に、その細い首に集の手が回されていた。
後はもうどうにもならない。
まゆりの女子高生相応の力では男性である集の全力を振りほどくことは出来ず、徐々に視界が霞んでいく。自分の首を絞める集の姿さえまともに見えなくなりながらも、彼女は思った。
(オカリン……おねがい……みんな、を……)
最期に、幸せなラボの雰囲気を思い出しながら消えていく意識にまゆりは身を委ねる。
程なくして、その生命活動は完全に停止した。
松雪集はこうして人殺しの咎人になり、誰よりも優しかった少女は屍となって消える。
集はまゆりのデイパックから彼女の支給品であったクロスボウを奪い、静かにその場を後にする。
「……待ってろよ、みんな………めんま」
松雪集という青年は、本来人殺しをするような人格を持つ人間ではなかった。
しかし、《願いを叶える》という賞品を見過ごすこともまた、彼には出来なかったのだ。
バラバラになり、壊れていった仲間たち。
失ってしまった一人の少女。
全てをやり直す。
あの日、全てが狂ってしまったあの日にまで時間を戻して、運命を変えてやる。
(しかし……宿海の奴が言ってたのは本当だったんだな)
死んだ幼なじみにして初恋の少女、本間芽衣子の幽霊が見えると語るかつての《リーダー》宿海仁太。
尤も今では見る影もなく腑抜けと化してしまっているが、集とて無感情に殺せるかは分からない。
もしも容赦をしてしまったら、全てが水の泡になってしまう。
それに、芽衣子―――《めんま》に万一出会ってしまったなら、集―――《ゆきあつ》に彼女を殺すなんてことは絶対に出来ない。
(会わなきゃいいけどな……)
集は苦い顔をする。
殺し合いに乗って既に一人を殺めた人間が、未だ迷いを捨てきれていないなどお笑いだ。
自嘲の溜め息を漏らして、彼は内ポケットに入っている《それ》を取り出す。
それは椎名まゆりが万一殺し合いに乗っていた場合を考えて用意していた、いわば保険だった。
《H173》―――雛見沢症候群発症薬。
注射された者は極度の疑心暗鬼に襲われ、最期には喉を自らの手で掻き毟って死に至る悪魔の薬。
それを直に注射すれば、本来集ではどうにもできないような相手だろうが倒すことが出来るだろう。
片手にボウガン、内ポケットには悪魔の薬を忍ばせて集は再び歩き出すのだった。
【椎名まゆり@Steins;Gate 死亡】
【残り38人】
【深夜/A-3海 砂浜付近】
【松雪集@あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。】
[状態]健康、精神疲労(小)
[装備]クロスボウ
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品×2、H173@ひぐらしのなく頃に
[思考・行動]
0:優勝して《あの日》に戻ってやり直す
1:宿海、めんまにはなるべく会いたくないが会ったなら容赦する気はない。
※第四話終了後からの参加です
※砂浜に椎名まゆりの死体とデイパックが放置されています
最終更新:2012年03月19日 19:50