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…………突然であるが、俺こと翁街衛は記憶喪失の医師である。
何とも胡散臭い触れ込みではあるが、事実なのだから仕方ない。正直俺にも意味が解らない。
どうやら乗り回しているスクーターで事故に遭い、その際に頭を強く打って記憶野に障害が出たんだとか。
まあ不幸中の幸い、記憶能力自体に問題は出なかったのであるが――、一部の記憶がごっそりと抜け落ちている。
主に人間関係の記憶が、壊滅的に破壊されている。
蓄えてきた知識と培ってきた手術の腕前に影響が出なかった、むしろ新たな零からの視点で腕が上がったのは本当に幸運だった。
元から日本国内有数のスーパードクターだったらしいのだが、今では世界にも名を轟かせる名医ときた。
事故の一件は隠され、俺の記憶喪失を知る者は本当にごく一部しかいない。
ただ、俺の不安が消えたことは無いんだ。

俺は怖い。
失われた記憶の中に、何かとても大切なことがあった気がするのだ。
誰かの事だったとは思うのだが、俺が医療ミスをしたなんて記録は調べても全く出てはこない。
それが逆に怖いのだ。
もしかしたら俺と大事な約束でもした幼女がこの国のどこかで俺を待っているのではないか、とか。
ん?幼女を選んだことに特に理由はないぞ。
俺はロリコンではないからな。ぶっちゃけスクール水着か猫耳メイドなら年上でもいけるからな。
そんな俺にスクール水着が支給されるとは、あの楓坂とかいう女も分かっているではないか。
何気に顔も悪くはなかったしな……あの可愛らしさでスク水を着て『お兄ちゃん』なんて呼ばれたら俺は失血死しているだろうな。
あー、やばい。何かムラムラしてきやがった。
普通悪役ってのはもっとこう、救いようのないようなオッサンでないといかんだろう。
なのにああいう子を起用するとは、これでは殺し合いに乗ってしまいたくなってくるのも無理はないな。
―――まあ、乗りはしないんだがな。
大体、平行世界の神なんて訳の分からんモノになってどうしろというのだ。
そんな権利くれるぐらいなら俺専属のメイドを一人くれよ。それなら乗ってやったのに。馬鹿だなあ。
それよりもまあ―――何よりほら、俺は医者だろ?
人々に救いをくれてやる立場の俺が殺し合いなんぞした日には、誰が人を救うんだ。
生憎と俺にはオペの予定が数週間先まで毎日入っていてな、こんなところで手を血に染めることは出来ない。

俺は生きる。
しかし誰一人殺さない。
主催者の楓坂ちゃんをどうこうしようとも思わない――あ、専属メイドになってもらおうか。
巨乳童顔スク水猫耳メイド――ふはは、最強ではないか!!
決めた。俺は殺し合いを潰して、あの子を連れて帰るとしよう。
おいおい。パロロワ界広しといえど主催者を性的にお持ち帰りしようなんて文がスタンスに書かれたのは前代未聞の快挙じゃねえか?
え?メタ発言すんなって?ちっ、細かい事言いやがる奴だな。






と、いう訳で。
適当に始めようか、バトルロワイアル。



その頃、楓坂闇薙は一人得体の知れない鳥肌に困惑していたとさ。


剣戟が響いていた。
正確に言うならば標識と杖の打ち合いであったのだが。
大柄な坊主が標識を振り上げ、一人の女子高生くらいの少女が鋼鉄の杖でそれを受け止める。
重さを一切感じさせない互いの戦いは、完全に女子高生が圧倒していた。
道路標識は歪み、一方で鋼鉄の杖の方は凹みすらせずにまだ鈍い輝きを放ち続けている。
刺す、斬る、叩く、防ぐ、弾く、打つ、返す。
目にも止まらぬ速度での打ち合いが暫く続き、そして終焉が訪れる。
坊主の頭の上半分が杖の一振りを受けてまるで壁に投げつけたトマトのように弾け飛び、その生命をきっと、終わったことにさえ気付かせないほど綺麗に終わらせた。
坊主―――由能寺雅弘は此処に、呆気なくその生命を散らせる。
もしも由能寺の持つ能力が《自分の力を憤怒の度合いで引き上げる》なんてありきたりな―――悪く言ってしまえば単純なものでなければきっと、勝負は分からなかったろう。
少女には、能力をフルに発揮した一振りさえいとも容易く受け止められてしまった。
そう、まるで《重さを無視している》かのように、彼女の動きはとてもとても軽かったのだ。


「なぁんだ、つまんない。威勢よくボクを襲撃してきた割には呆気ないね」


はぁ、と退屈そうにため息をつく少女、その顔には人を殺した事実への忌避は全くなかった。
それもそのはずである、彼女にとっては《飛んできた羽虫を払った》くらいの感覚しかないのだから。
少女の名を、葉桜くのん。
私立の名門校に通うエリート女子高生で、親は資産家。
恵まれ過ぎた環境に生まれた彼女には、例に漏れず両親からの過度な期待が掛けられる。
偉大な人物に、後世に名を残すような経営者にせんと英才教育が施され、それはまともな人間なら発狂したっておかしくないほどの地獄だったと言えよう。
自由に過ごせる時間などそれこそ学校に居るときくらいで、睡眠時間まで徹底的に管理される日々。
それはたとえ本当に後世に名を残すほどの人物だったとしても、逆に壊れてしまうレベルだった。
だがくのんはそれに適応した。
慣れなどではない、最初から《完全にその日常に適応した》のだ。
両親は彼女を天才と称し、周囲の人物とて誰一人それを否定することができなかった。
勉強をさせれば全てを完璧にこなし、運動をさせれば無尽蔵とさえ言える体力でしぶとく戦う。
生徒会長に立候補しても万人に好感を与える演説で他の候補を圧倒し、教師さえ歯向かえぬほどの生徒、保護者問わずから寄せられる期待と信頼。そしてそれに応えてみせる力。
形容するなら《天才》。
蔑むとしたら《化物》。



約束された成功の未来を持つ彼女は、しかし一つの秘密を抱えている。
いや、その呼称には少し誤りがある。彼女はきっとそれに気付いていない。
それどころかきっと彼女は、自らが天才と知っていながらも《驕る》行為を知らないのだ。
まるで莫大な演算能力を持つコンピューターのように、機械的で人間的な、完全な不完全人間。

それもその筈。
彼女は、人間としては実に理想的な人格を保有している。
誰にでも優しく時に厳しく、悪には冷たく善には暖かい。
努力する者には好感を示し、天才には感嘆を懐き、諦めた者には応援の声をかける。
《人格者》。
だがしかし、それでも葉桜くのんは何処までも化物だったのだ。
ある人は彼女をこう形容した。《まるで生きていないようだ》と。
生きていない。死んでいる。
それは実に的を射た、的確すぎる程の表現だったと言えよう。


《自らに関連した全ての重圧を無力化する》――――故に彼女は、空洞。


どんなに重い物でも片手で軽々持ち上げる。
どんなに重い期待にだって楽々応えてみせる。
どんなに重い痛みだって悠々と耐えてみせる。
どんなに重い病だって粛々と治癒させてみせる。

そんな生物が人間と言えようか。

人間であるのに人間じゃない少女。
人間であるのに人間じゃない医者。

二人が邂逅したとき、何をもたらすのか?


【由能寺雅弘 死亡】


【深夜/A-3】

【翁街衛《???》】
[状態]健康
[装備]なし
[所持品]支給品一式、ランダム支給品
[思考・行動]
0:殺し合いには乗らない。誰も死なせない
1:何かムラムラしてきたな……

【葉桜くのん《自らに関連した全ての重圧を無力化する》】
[状態]健康、返り血
[装備]鋼鉄製の杖
[所持品]支給品一式
[思考・行動]
0:???



【翁街衛】
25才、医者。
手入れの行き届いていない黒髪に、何処か死んだような目が印象的。
だがその腕は世界的に有名で、末期の癌だろうが99%治してみせると自負している。
事故で記憶喪失となっており一部の記憶が欠損。
自他共に認める変態で、スクール水着と猫耳をこよなく愛する変人である。

【葉桜くのん】
16才、女子高生で生徒会長。
大資産家の両親を持ち、行きすぎた英才教育を施されそれら全てを吸収した天才児。
能力を自覚しておらず、自分の置かれている状況がどれほど異質なものか全く把握していない。
しかし人格者であり、生徒、保護者問わずに絶大な信頼を持つ。
《自らに関連した全ての重圧を無力化する》
衝撃、質量、プレッシャー、罪悪感云々の重圧を全て無力化し、通らなくする。
ただし重力だけは例外。そして、弾丸や刃物での刺突を防ぐことはできない。

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最終更新:2012年03月04日 14:40
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