『最強』×『最弱』×『絶対』(前編)

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッッ!!』

 もう何度拳を振るったのだろうか、渾身の力でもって振り抜かれる拳はその全てが白色の障壁に防がれていた。
 その一撃一撃が人間の骨を砕き、内臓を潰す程の威力が込められている。
 これまで放たれた拳の全てを生身で受ければ、おそらくダンプカーに正面衝突するより奇妙で不思議な死体となっているだろう。
 暴力という言葉すら生温く思える拳の嵐。
 だが、今この瞬間そのラッシュを受ける男は、まるでどこ吹く風といった様子で立ち尽くしている。
 戦闘が開始された時から一歩と動くことなく、表情筋の一つと微動だにさせず、ただ立っているだけ。
 男―――ミリオンズ・ナイブズの力は、まさに圧倒的であった。
 最強のスタンド・スタープラチナが繰り出す必殺のラッシュ。ナイブズは、その全てを人外の身体から伸ばした羽根で防ぎ切っていた。
 残像すら残して振るわれるスタープラチナのラッシュは、重機関銃のそれと同等の威力と速射性があるだろう。
 それを数本の翼手を稼働させることで防御する。
 拳の全てを完全に見切り、その速度に追随する形で翼手を動かす。
 言葉にすれば容易く、だが実行するには困難という表現すら生温い。
 それを、ナイブズは、無表情に淡々とこなす。
 空条承太郎と戦った者ならば、スタープラチナのラッシュを喰らったものならば、おそらく眼前の光景を信じる事すらできないだろう。
 それ程にスタープラチナとは強大な力を有していて、それを防ぐナイブズは次元が違うと云わざるを得ないだろう。
 とはいえ、その動作をしてナイブズは己の状態に不満を覚える。
 翼手を振るう速度も本来のものからすれば低下しており、一度に生み出せる本数もたかだか十本程度。
 謎の制限を課せられる前と比較すれば、まるで違う。
 全身を拘束されているかのようであった。

(……調整相手としては及第点か)

 自身の状態を確かめるように、スタープラチナの拳に合わせて翼手を動かす。
 やはり動きは緩慢。だがそれでもラッシュを防ぎきるには充分であった。
 翼手にも傷一つ入ることはない。
 確かにスタープラチナの拳は速く、重く、固い。
 近接戦闘力一つを見ただけでも、全ての『スタンド』の中で最強と言えるだろう。
 史上最強の『スタンド』と称されるに値する戦闘力だ。
 しかし、その力をもってしてプラント融合体に傷を負わす事すら叶わない。
 無敵にして絶対の存在が、そこにいた。

(……スタープラチナのラッシュでもビクともしやがらねえか。やれやれ、こいつはとんだ『化け物』だぜ)

 たった数分の、終始自分が攻め続けている戦闘の中で、空条承太郎はクールに理解する。
 目の前の敵は強大で、自分のスタープラチナをもってしても突き崩せぬ『化け物』であると。
 冷静に、クールに、現状を把握し、それでいて心魂の闘志は欠片の陰りも見せない。
 空条承太郎は、この殺し合いに参加させられる前の50日間をとある奇妙な冒険に費やしていた。
 母を救う為に突き進んだ50日。仲間と共に、日本からエジプトまでの長い長い道のりを歩んでいった。
 その過程で承太郎は、刺客として送られた数多の『スタンド使い』と戦ってきた。
 楽な勝利など一つもなかった。
 戦いの中で成長する事ができたから、そして何より仲間達の力があったからこそ、承太郎は刺客を跳ね除ける事ができた。
 承太郎は知っている。
 『戦い』とは単純なものではない。『勝利』とは容易いものではない。
 まるで力を持たないスタンドであっても、遥かに能力で劣っているスタンドであっても、戦い方で結果は大きく変化する。
 その事実を承太郎は、数多の戦いの中で目の当りにし、知った。
 だから、決して焦らない。
 クールに状況を把握し、勝利に繋がる道を模索する。
 誠に腹立たしく思いながらも、承太郎は理解している。
 眼前の『化け物』は、自分を遥か格下と認識し、殆ど眼中にすら止めていない事を。
 確かにこの『化け物』は、あのDIOすらも上回る異常で理解不能な『スタンド使い』なのだろう。
 だからこその、あの『外見』であり、この『力』なのだろう。
 人を殺すことに何ら感情を揺らがすことなく、人間では決して届かぬ人外魔境の『力』を振るう。
 まさに『化け物』。奇妙な冒険の中でもそうは居なかった、真の『化け物』だ。
 だが、だからこそ其処に付け入る隙がある。
 圧倒的な『力』を持つからこそ、『力』の差が絶対的だからこそ、そこに油断が生まれるのだ。

(チャンスは一度……ほんの少したりとも手加減はしねえ。全力で行かせて貰うぜ)

 承太郎が有するアドバンテージは一つ。
 『時を止めた中での二秒間』―――眼前の存在を唯一出し抜くことができた、ほんの僅かな時間である。
 幸いなことに、この『化け物』であってしても『止まった時』の世界に踏み入る事はできないようだ。
 おそらくは『スタープラチナ・ザ・ワールド』こそが唯一無二の勝機。
 無防備となった二秒間に、全ての力を掛けてスタープラチナのラッシュを叩きこむ。
 問題は一つ。この『化け物』は一度『スタープラチナ・ザ・ワールド』の『時止め』を食らっているということだ。
 見知らぬ少年を救出する為に使用した『時止め』。
 もしその一度の発動で『化け物』が『時を止める』という力に気付き、何らかの策を講じているとしたら。
 それは、非常に厄介な事になるかもしれない。
 だが、『時を止める』という能力は強力なものだ。
 戦った承太郎だからこそ分かる、『時を止める』という能力の理不尽なまでの強さ。
 発動してしまえば対抗策はなく、ほぼ無敵とも云っても良い力がある。
 承太郎であっても、『時を止める』というスタープラチナの真なる力を開花させていなければ、勝利はなかった
 それ程までに強力な力。
 例え、万が一『時を止める』という能力に気付いたとしても、立てられる策は殆ど存在しない筈だ。

(……出し惜しみしてる場合じゃねえか)

 そもそも『時を止める』という能力自体、あまりに常識から外れた力のため、察知する事が難しい。
 一度の発動で気付く可能性は殆どない筈だ。
 眼前の存在が本気を出していないのは、承太郎にも分かる。
 『化け物』と自分の間にある実力の差も、分かる。
 ならば、今。
 相手が本来の力を出す前に、時を止め、全力をもって戦闘不能に追い込む方が得策だ。

(行くぜ―――)

 眼前の『化け物』が放つ異様なまでの存在感は、『時を止める』力を持ってしても、『何かをしてくるんじゃないか』という気にさせる。
 だが、行くしかない。
 自分が有する勝機はこれしかないのだ。



「―――スタープラチナ・ザ・ワールドッ!!」



 そして、時が止まる。
 二秒間だけの、空条承太郎のみが支配する『世界』が開始された。
 まず承太郎が警戒するのは、ナイブズが講じたかもしれぬ『策』の存在であった。
 スタープラチナの洞察力をもって『策』の有無を確認する。
 ナイブズの周囲へと視線を動かし、何か『異変』がないか観察する。
 観察の結果は……『何もない』であった。
 ナイブズと承太郎との間には何も在らず、ただ空間が広がるだけだ。
 その異形を囲う十本の触手も静止し、その凶暴性も鳴りを潜めている。
 一歩を踏み出す事に、承太郎は躊躇しなかった。
 どれだけの勇気が必要かも分からぬ一歩を、ただ勇気をもって踏み出す。
 距離が詰まる。
 地平線の彼方のように感じた数メートルが、一瞬で消失した。
 握られるスタープラチナの拳には、鋼鉄すらも砕く力が籠められている。

 そうして拳が振り抜かれ―――、


『オラアアアアアッッ!!』



 ―――『化け物』の顔面を捉える。



『オラ、オラ、オラ、オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオオラララァ―――――――ッッ!!!』

 拳は、一撃で止まらない。
 顔面を歪ませた拳が、引き戻され、再び振り抜かれる。
 残る手も唸りを上げて振るわれ、ナイブズを穿つ。
 連打は、まるで暴風のようであった。
 常人であれば一発で致命となる拳が、機関銃をも超える勢いで繰り出される。
 この世界でスタープラチナは正に無敵であり、その力を惜しみなく振るい切った。
 駄目押しの一撃がナイブズの顔面を貫き、その身体を傾がせる。

 そして、時が動き出す。
 静止状態にあったナイブズは自由を取り戻し、思い出したかのように吹き飛んだ。
 反撃の様子すらなく、ただ抗いきれぬ剛力により人外の身体で宙に螺旋を描く。

「……やれやれだぜ」

 吹き飛び、暗闇の中へ姿を消したナイブズに、承太郎はただ一言だけ呟いた。
 呆れを含んだ声色で、己の立ち位置を確認する。
 そう、この時ようやく空条承太郎は確信したのだ。




「―――ここまで、とはな」





 己とミリオンズ・ナイブズとの間に存在する、覆し得ぬ『差』を。




「『時を止める』能力、か」

 『それ』は、何ら変わらぬ様子で闇の奥から現れた。
 何十にも及ぶスタープラチナの拳を喰らい、身体を余すことなく叩かれて尚、『それ』は整然としていた。
 苦悶に顔を歪ませる事もなく、承太郎へと視線を向ける。
 思っていれば初めての事だろうか、眼前の存在が承太郎を視線に捉えたのは。

「最初は超スピードによる攻撃かとも思ったが、違う。何十もの乱打でありながら、衝撃はまるで刹那のズレすらなく、同じタイミングで走った。
 加えて貴様の汗だ。貴様の汗だけが、攻撃の前後で位置が異なっている。時間を、まるで映像データを停止させるように止め、その中で貴様だけが自由に活動できるのだろう」

 言葉はまるで感心するかのようであった。
 一人呟きながら納得といった様子で自身の考察を紡いでいく。

「面白い能力だ。時期が時期ならば『ナイフ』の一員として勧誘していたところだろう。だが―――」

 ミリオンズ・ナイブズ。
 男は正面から承太郎を見詰め、言葉を零していた。

「今は、必要ない」

 宣言と共に、ナイブズは承太郎から視線を外した。
 まるで興味を失ったかのような態度である。
 再び表情を真っ白なものに戻して、何も映さない顔貌で立ち尽くす。

「……正解だ。性根の腐ったクソったれ野郎の割には、頭が回るようだな……」

 空条承太郎の選択に間違いはなかった。
 承太郎がナイブズと対抗するには『スタープラチナ・ザ・ワールド』の力を使用するしかなかったし、その判断が功を奏して、ナイブズに全力のラッシュを叩きこむ事ができた。
 ただ承太郎をもってして予想の外にあったのは、ナイブズの―――いや、『プラント融合体』が有する、圧倒的な耐久性であった。
 プラント自立種とは、確かに人外の理に身を置いた存在だ。
 人間離れした身体能力に反射速度。
 肉体の強度そのものも桁違いで、人類ならば即死する程の怪我を負っても生存せしめる。
 だが、例えプラント自立種であっても首を刎ねられれば死亡する。
 人外の存在ではあるものの、プラント自立種は決して不死身ではない。
 実際ナイブズも、実弟との交戦により、一度死に掛けたことがある。
 『時が止まった世界』で、たっぷり二秒間『史上最強のスタンド』が繰り出すラッシュを受け、それでも事も無げといった風に立ち尽くす。
 そればかりか、『スタープラチナ・ザ・ワールド』の能力を考察し、正答を導き出しまでした。

 現在のナイブズの体は融合に次ぐ融合により身体そのものに変化を与え、人間のそれとは大きく掛け離れた姿形とした。
 人間と同じ箇所はもはや頭部くらいしか見当たらず、他の全ては別の形となっている。
 全体像は、猛禽類を思わす、巨大な鋭い羽根のような形。
 肉体を構成するのは、プラントの肉体が凝縮されて形勢された、解析不能の未知なる物質。
 その肉体は、プラント自立種としての耐久力すら上回る。
 重宇宙戦闘艦の砲撃を不意打ちで直撃し、それでも殆どノーダメージで活動が可能なほど。
 スタープラチナのラッシュは確かに強力無比で、人外の存在といえどダメージはいくだろう。
 しかし、今回は相手が悪かったのだ。
 その肉体、身体能力は人類最強のレガートを超え、指先一つで彼を「縦」に押しつぶしてしまう膂力。
 数キロ上空から降下装備もなく身一つで地表に着地するほどの肉体の強度。
 反応は融合後でも強化されてはいないが、秒速数万キロもの重宇宙戦闘艦のF型弾頭弾をわずか数十mから発射後に反応し「門」を展開する程のことさえやってのける。
 融合前ですらそれ程の能力を持ち、砂の星で最強の身体能力とプラントとしての能力を持つ人外種。
 そして融合につぐ融合により遥かに強化されているのだ。
 唯一対抗出来るのは、双子の弟のみ。
 融合前の自身ならば遅れを取る程の身体能力とプラントとしての「門の大きさ」、ナイブズ自身も知覚不能の速度をもつ抜撃ちなどの神業を持つ弟なら対抗は出来ただろう。
 『次元が違う』……一言で言ってしまえば、空条承太郎とミリオンズ・ナイブズの関係はそうであった。

「……認めてやるよ。てめえは化け物だ。それも生半可じゃねえ、マジに桁違いって奴だ。ああ、認める。お前は想像もつかねえ程に『強い』スタンド使いのようだ」

 彼我の戦力差を突き付けられた承太郎は、帽子を深く被り直し、淡々と言葉を紡いだ。
 相手の実力を認める、まるで降参ともとれるような呟き。
 瞳は帽子に隠れ見えないが、諦念の色にでも染まっているのであろうか。

「だが、やれやれ。俺の魂ってやつが『ある一つの事』を叫んで止まらねーんだ。なあ、何て言ってると思う?」

 いや、違う。
 彼は己の内に沸々と沸き上がる闘志に、瞳を燃やしていた。
 逆境にあって、それまで以上の輝きをもってそれは承太郎を突き動かしていた。

「答えはこう―――『その澄ました顔をブチのめせ』だ。化け物、てめーはこの空条承太郎がブチのめす」

 歴然とした力の差を見せつけられ、それでも彼の『黄金の精神』は砕けない。  
 ただ、叫ぶ。この存在を打ち倒せと。


「スタープラチナ・ザ・ワールドッッ!!」


 そうして、『世界』は三度目の静止を迎える。
 何もかもが止まった世界で、空条承太郎だけが動いている。
 『ラッシュ』が効かなかろうが、もはや関係なかった。
 己の内が叫びに従って動く。
 自分が優位に立つこの二秒間を、眼前の存在をブチのめす為だけに費やす。
 ただ、それだけだ。


『オラァッ!!』


 間合いを詰め、拳を振り上げる。
 拳を振り上げ、全身全霊を掛けて振り下ろす。
 そのイケすかない顔面へと、ただ全力で。
 スタープラチナの拳を振るった。


 腕から伝わった衝撃が、承太郎の内に走った。



 そして、







 腕が、裂けた。



 スタープラチナの腕が、まるでビールの摘みの裂きチーズのように―――縦に裂けた。



 止まった時の世界で、何故だかスタープラチナの右腕が八つ程に分かれていた。



「う……お……」



 スタンドのダメージは、本体である人物へフィードバックする。
 裂けたスタープラチナの右腕に伴って、空条承太郎の腕が八つに分かれた。
 筋、神経、血管、骨、そのどれもが切り裂かれ、激痛という言葉すら生温い、衝撃にも似た感覚が走る。
 攻撃の手を止め、承太郎は右腕を抑えて地面へと座り込む。

(何が、起きた……? 攻撃……か……『止まった時』の中で……コイツは……何を……?)

 疑問の中で、空条承太郎は何処までも冷静であった。
 激痛に思考を阻害されながらも、スタープラチナの視線をナイブズへと向ける。
 機械をも超える観察力でもって、空間を見極める。
 スタープラチナの腕が切り裂けた、その空間を。

(これ……は……)

 承太郎は、顔面の至る所から冷たい汗を流しながらも、空間に発生している『異変』に気が付いた。
 空間に在ったのは、スタープラチナでなければ気付けないだろう程に微小な、『揺らぎ』。
 線状に存在する『揺らぎ』が、網目を描くように何本もある。
 例えるならば、それはまるで防犯対策として設置される赤外線センサーのよう。
 不可視で、何処からともなく発現した『揺らぎ』。
 この『揺らぎ』の上に拳を走らせた瞬間に、スタープラチナの拳は裂けたのだ。

(何だ……『コレ』は…………『コレ』が、スタープラチナの腕を……? ………ともかく、だ………何かが……ヤベーぜ……!)

 疑問が完全に解消される事はなかった。
 発見した『揺らぎ』は更なる疑問を植え付けただけであったが、それでも承太郎は痛みを押して動いていた。
 奇妙な冒険にて成長した第六感が、告げていた。
 この『揺らぎ』はヤバい、と。
 今すぐにその場から移動しろ、と。
 承太郎の内に湧きあがった危機感は、激痛に塗れる右腕すらも押して、移動の必要性を訴えていた。

「スター……プラ、チナ……」
『オラァ!』

 スタープラチナに地面を蹴り抜かせる事で、空条承太郎は移動を果たした。
 その行動は、動かぬ身体をそれでも無理矢理に移動させる為のものだ。
 着地やその後の事など何ら考えずに、ただ移動する事だけを優先して、スタープラチナを動かした。
 承太郎は不格好にも地面を転がり、傍の草薮へと頭から突っ込む。
 使い物にならぬ右腕が傷口に火箸を突っ込んだような激痛を訴えるが、かまっている暇などなかった。
 兎にも角にも、移動は果たせた。
 『揺らぎ』の前方にあった、あの場から。

 承太郎は、鈍い思考に鞭を打ちながら顔を上げた。
 ナイブズと『揺らぎ』を視界に留め―――それと同時に『時』が動き始めた。

 その瞬間である。
 『揺らぎ』は、スタープラチナでも何とか捉えられるか、という速度で直進を始めた。
 数瞬前まで承太郎が身を置いていた場所を通過し、その後方の森林へと突き進む。
 『揺らぎ』が通過した後の世界には、惨劇が広がっていた。
 木々が、幾数にも分割され、崩れ落ちる。
 切断されたのだ。
 スタープラチナの右腕を切り裂いたように、『揺らぎ』は直線状にある全てのものを切り裂いた。

(……『揺らぎ』の正体は……『斬撃』か……) 

 承太郎が辿り着いた解答は、まさに正解である。
 スタープラチナを切り裂いた『揺らぎ』、それはナイブズが発現させたプラントが真なる『力』であった。
 別次元より『持ってきた』力を活用し、次元孔を平面化させ薄刃として射出。
 ノーモーションで発動される薄刃は、不可視にして超速。
 世に存在するあらゆるものを破断し、射程距離は成層圏を容易く越え、秒速にして数万km以上。
 融合する以前ですらそれ程の能力を有し、融合後は更に強力なっている能力。
 その『力』が、空条承太郎へと射出されていた。
 『斬撃』は、例え『時の止まった』世界であろうと存在し続け、侵入したスタープラチナの腕を裁断した。
 とはいえ、空条承太郎はまだ悪運が強い方だ。
 時を止めていなければ、時を止めるのが後数秒でも遅れていれば、その身体は確実に腑分けられていた。
 そして、生存に至る大きな要因となった、もう二つの事柄。
 腕を切り裂かれた直後に行った事態の観察と、形振り構わぬ回避行動
 危機的状況にあっても己を見失わなかった強靭な精神力と、冷静にして正確な判断力から生まれた、二つの行動。
 何より、この二つが大きかった。
 この二つの要素があったからこそ、承太郎はプラントが『力』を向けられて尚も生き延びる事ができたのだ。

(……これが……奴の力ってやつか……チッ……やれ、やれだ……どうやら……やっちまったよう、だな……)

 だが、状況は変わらず危機にあった。
 縦に割れた腕は、時が動きだした事で盛大に出血を始め、激痛と合わせて意識を揺さぶる。
 失血と負傷によるショックにより、身体には力が入らず、一歩と動くことすら難しい。
 これが承太郎でなければ、既に意識を失い、地に伏せている事であろう。
 さしもの承太郎も、それが限界であった。
 もはや身体も動かず、意識を保つだけで精一杯だ。

「……化け、もの……」

 承太郎は、動かぬ身でもって、ナイブズを見やる。
 その何をも映さぬ瞳へと、視線をぶつけた。
 言ってしまえば、空条承太郎は『不幸』だったのかもしれない。
 彼の力は、この超人達が闊歩するバトルロワイアルでも十二分に通用したであろう。
 だが、空条承太郎は、ミリオンズ・ナイブズと相対してしまった。
 その一つの事実が、最強のスタンド使いたる空条承太郎からあらゆる可能性を奪い去ってしまった。
 もしナイブズと遭遇しなければ、もし仮にミリオンズ・ナイブズが融合体となる以前の状態であれば、空条承太郎にも数多の可能性があっただろう。
 その冷静な頭脳と判断力、『時を止める』という圧倒的な力にスタープラチナの高い近接力。
 おそらく如何なるマーダーが相手であろうと渡り合う事は可能で、融合前の姿で現在と同様に制限がナイブズにかかってたとすれば、渡り合う事出来たであろう。
 対主催陣営の中でに有数の実力者となり、彼らを牽引する役目に持していた筈だ。
 だが、その可能性の全てが、眼前の存在により打ち砕かれてしまう。
 『プラント融合体』・ミリオンズ・ナイブズ。
 無敵にして絶対の存在が、最強のスタンド使いから未来を奪い去っていた。

「……まだ、だ………まだ、俺は……死んじゃ………いねー………ぜ……」

 敗北の寸前に居る承太郎は―――そのボロボロの身体で、スタープラチナを発現させた。
 動かぬ筈の身体で、意識を保つ事すら困難な状態で、それでも戦う意志を見せ付けるのだ。
 空条承太郎の真髄が、そこにあった。
 対するナイブズは、承太郎の強靭な意志を見てさえも表情を動かす事はなかった。
 無表情に承太郎の様子を見て、嘲る事も、称える事もなく、ただ虚無でもって答える。
 人間が見せる反骨心などに心を動かされることなどない。
 ナイブズの周囲にあった白色の翼手が、承太郎を包囲するように動き、その切っ先を向ける。
 今の承太郎に全方位からの攻撃を受ける力はなかった。
 追随するスタープラチナも威圧するように立つだけで、動くことはできない。
 真綿で首を締めるかのように、ゆっくりと迫ってくる刃の数々を、ただせめてもの抵抗として射殺さんばかりの視線で睨む。
 死の寸前にあろうと、空条承太郎が内にある『黄金の精神』は、決して折れることはない。

 そして、刃が最期の猶予と云わんばかりに一度停止する。
 まるで時が止まったかのように、世界が静止してみえた。


 その、次の瞬間であった。



「止めろ!!」



 草藪の中から、咆哮と共に男が飛び出してきたのは。
 血ぬれの学生服に、ウニのようにツンツンに立った髪の毛。
 武器は持たず、己の右拳だけを掲げて、超人達が前に躍り出る。
 その瞳が捉えるは、今まさに命を刈り取らんとする究極が異形の姿。
 男は力強く一歩を踏み出し、ゆっくりとナイブズへ近付いていく。
 信念なんて大仰なものではない、ただ自身の思いに従って男は足を動かす。
 眼前に広がる惨劇へ、人外の種にして絶対の力を有する怪物が面前へと。



 そう―――『幻想殺し』上条当麻が、ここに現われた。




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最終更新:2012年04月02日 20:25
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