妙に冷たい感覚に佐隈りん子は目を覚ました。
開けた視界に映るのは遥かに続く闇。そこにいつも通りの光景は無い。
―――不可解だ。
妙な胸騒ぎに襲われて、周囲を見渡してみてようやく気付く。
50人。いや、おそらくそれ以上の数の人たちが、同じく困惑した様子で辺りを見回している。
そして皆一様に首に銀色の光るチョーカーのような何かを嵌めているのを視認できた。
しかしたったそれだけの情報では、今の状況は飲み込めない。
ならば、と、ここに至るまでの経緯を思い出そうとしてみるが、どうにも記憶が働かない。
(どういうこと?何これ…。何も分からない…)
手がかりが何も無いと知った直後、集団から少し外れたところに天から光が舞い降りた。
明りに照らされたのは高校生くらいの女の子。
少女は何かに怯えるように震えながら、頼りない声を無理矢理張り上げてこう言った。
「し、静かにしてくださ…ちょ、ちょっとあんたたち、静かにしなさいよ!!」
語調は強いけれど、どこか安定感の無い声色。
それでも、ざわめく人々の喧騒を上回る大きさの甲高い声はどんな雑音よりも目立っていて、皆の耳にしっかり届いた。
一斉に注目を受ける女の子は、その状況を作り出した張本人のくせに、一瞬たじろいでからこほんと咳払いを一つ。
「い、良いわね?おおお、落ち着いてき、聞きなさい。
ああ、あんたたちがここに集められたりゆ…理由を、わた、私が説明してあげる!」
あまりに女の子に落ち着きが無いせいか、逆に脳が冷静になってきた。
心の中で「まずはあなたが落ち着いて」という的確な指摘をすることができるくらいに。
「あ、あんたたちがここ、に……ここにあああ、集められたのは……!
ここ、こ、………
殺し合いを!殺し合いのゲームをしてもらうためよ!!」
一拍の間を置いて、空間に男の笑い声が響く。
「あっははははははははは!何言ってんだこのアマ!」
唇にいくつもピアスを光らせた、ガラの悪い学ラン姿の男が女の子に近付いていく。
女の子は肩を跳ねさせ、さらに表情を曇らせて後ずさりをする。
男が怖いのだろうか?でも女の子は最初から何かに怯えていた。一体何がそんなに怖いのだろう。
「み、水本…。お願い、やめて。来ないで…」
「ああん?何、びびってんの?こんなことしでかしといてさぁ」
「…駄目、来ちゃ…駄目…!あいつの邪魔をしちゃ、だ――」
女の子に手を伸ばす水本という男。しかし彼の指が少女に触れることは無かった。
それよりも先に男の頭が何の前触れもなく、天高く飛び上がったのだ。
何が起きたのか理解することができずぼうっと跳ねたボールを目で追うと、やがて地面にゴロンと音を立てて落下した。
「―――え?」
瞬間、堰を切ったように大きなざわめきがこの空間全てを覆った。
(な、何…何で?こ、こんなの…)
“殺し合い”―唐突すぎて恐怖も何も湧かなかった言葉が、人の死を目の前にして現実味を帯び始めた。
明確な恐怖というものを、生まれて初めて感じる。
「うるさい、黙りなさい!!!反抗すればあんた達の首輪が爆発する仕組みになってる!お願いだから…抵抗しないで!!」
今反抗すれば先程の男と同じく、殺されてしまう。全員察したのだろう、空間には再び静寂が広がった。
「…それじゃあルールを説明するわ」
女の子の言葉を邪魔する者は居ない。そりゃあそうだ。今ので主導権が誰にあるか、定かになったのだから。
「あんた達の中に、ジョーカーが潜んでる。
制限時間は72時間。それまでにジョーカー全員を殺すこと、それがこのゲームの目的。
ジョーカーには自覚がある者も居れば、ない者も居る。殺さなければ分からない。
ジョーカーが全員死ねば、他の皆…一般人は全員元の世界に無事生還することが出来る。
そして更に、ジョーカーを殺すことが出来た人には何でも一つ、願い事を叶えてあげるご褒美もあるわ。
まぁ、正体の分からないジョーカーを全員死滅させない限り、元の世界に戻ることすらできないんだけどね」
自分が殺さずとも、誰かが殺さなければこのゲームは終わらない。
自分が死なずとも、誰かが死ななければこのゲームは終わらない。
―――誰かが死なずとも、自分が死ななければこのゲームが終わらないかもしれない。
「殺した相手がジョーカーどうかは、6時間毎に行われる放送で分かるわ。
同時に死亡者の名前とジョーカーのヒント、立ち入り禁止区域も発表される。
支給される名簿と地図を確認しながら、ちゃんと聞いておくこと。
特に立ち入り禁止区域は重要よ。もしも放送後10分以内に禁止区域に居たら、
あんた達の首輪が爆発する仕組みになっているわ」
首輪――ショッキングな出来事を思い起こす単語に、「ひゃ」とどこかからか高音が聞こえた。
黙っていろ、と責めることもなく女の子は構わず話し続ける。
「他にもこの首輪はあんた達の行動がある程度制限されるように出来てるわ。
…とは言え、あまりルールで縛ったところでゲームにはならないからね。
他に厳しく言うことは特に無いわ。支給品も好きに使ってちょうだい」
暗闇が、突如発生した光に負けていく。眩しくなって強く瞼を塞いだ。
自ら閉ざした視界には何も映らない。その代わりに、研ぎ澄まされた聴覚が、女の子の愁いを帯びた声を拾った。
「―――それでは皆さん、早くジョーカーを殺して……どうか、解放されて下さい」
【水本@オリジナル 死亡】
【主催 ???@
オリジナル】
【佐隈りん子@よんでますよ、アザゼルさん】
【ジョーカーロワ 開幕】
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001:へんたいゆうすけくん |
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佐隈りん子 |
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最終更新:2012年04月06日 01:23