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transcendency

「――――やあ、時山。調子はどうだい」


白宮雨雲は、死体処理を行っていた一人の部下に声をかけた。
その声に振り向く彼の顔には、先の虐殺について不満の色が窺えるが、あえて雨雲はそれを咎めることはしない。
争奪戦は既に開幕しているのだから、これ以上自分の駒を減らすことに意味は見受けられなかった。
手に持ったレーダーには、会場の地図上に配置された十『三』の首輪の反応が表示されている。
計画は今のところ滞りなく進んでいる―――イレギュラーを求める彼にとっては少し残念な事でもあったが。
しかし、全ての参加者が会場に運ばれた訳ではない。
ただ一人、この『時山正雄』の名を持つ男が、足りていない。
単なる下っ端研究員に過ぎない彼ではあるが、それはあくまで『役職』の単位で考えた場合の話である。


「もういい加減猫被りも疲れてきたんだよなぁ、雨雲の旦那」


研究員の顔から、研究員の色が消え、『実戦担当』の顔になる。
時山正雄改め―――樋之上壊。
身分性別に関係なく、獣と呼ばれる相方の青年と共に残虐な殺人事件を起こす『サーカスの殺人鬼』の、猛獣使い(テイマー)。
最初はネットサークルの幹部として、しかし幹部に収まるには強大すぎる力をその身に有する『魔術師』。
樋之上壊、彼は『時空研究局』の幽霊幹部であり、この『争奪戦』の為だけにスカウトされた人材でもあった。
莫大な、一人で軍隊を相手に出来るような能力を保有していながらただの殺人鬼に止まっている彼を雨雲は勿体ないと感じたのだ。

当然樋之上に断る理由はなく、逆に『タイムマシン』使用の権利なんてものを見逃せる筈もなかった。
もっと早くこの力を使って悪事を働いていれば、もっと早く相方と出会えて殺人鬼になれていたなら、もっと特上の快楽が待っている――――そんな、あまりにも猟奇的な動機で、彼はタイムマシンを欲した。
まぁ、もう一つ理由を挙げるならば、『自らの力』をフルに用いても倒せるか分からない奴がいるというのもまた、一つ。
自分自身もまだ知らない自分の全力。
それを以てしても倒せるかは分からない。
敗北など望んだこともない、ずっと勝者として君臨していたい彼だったが――少年のような好奇心で、戦いを求めていた。


「んじゃ、俺もそろそろ行った方がいいかい?」


雇い主の『旦那』に向けて進言する。
やれやれせっかちな奴だ、と苦笑しつつも、雨雲は近くの机に置いてあった一枚の紙と冊子を樋之上に差し出す。

「これは『すぐに殺してはいけない』人間のリスト。―――生き残らせておいた方が面白そうな連中のリストだ。
こっちは参加者の詳細名簿、言ってしまえば『内通者』の君へのサービスってやつだね」
「下らねえ………ってかよ旦那、この『殺してはいけない奴ら』って、こんな奴まで入ってていいのか? 能力も何も持っちゃいねえ」
「それはそれで、ね―――ってああ!? 破いたな君っ!!」

失笑しながら雨雲が答えた時には、『特権』の紙はどちらも紙吹雪となって空中に舞っていた。
あの一瞬で、どうやったらここまで繊細に、細かく紙を破けるのか。
それもまた彼の能力である。
彼がその気になれば、今此処で白宮雨雲を殺害することだって容易も容易だ。


「君がこんなものに頼らないとは思っていたけどね……いやはや思い通りにならない事柄は苦手だ。分かった分かった、君の好きなようにしなさい」


樋之上は残虐な笑みでそれに応える。
もう会話は十分だとでも言うように立ち去ろうとするところに、もう一人の研究員がやってくる。
焦っているかのように、とんでもない誤算に気付いたとでもいうように、礼儀も何もかなぐり捨てて、雨雲に駆け寄った。

「白宮局長………!! あれを、あんなものを、参加させていいんですか。お言葉ですが、あれは――――正真正銘のばけも」



唾を飛ばす勢いで捲し立てる女性研究員に、雨雲はつまらなそうに銃を向けた。
これには樋之上も苦笑するしかなかった。
擦り寄ってきた蚊を潰すような気軽さで、彼は引き金を引く。
ぱんっ、と陳腐な音がして、女性研究員の額に穴が開き、倒れ伏して床に血の湖を作り出す。

白宮雨雲という人間を、樋之上壊は未だ測り兼ねていた。
雨雲は、分からない。
たとえ実験動物であろうと弱っていれば介抱するが、局員が風邪なんか引いてみろ、用済みと判断してすぐに射殺される。
逆に飢えて苦しむ発展途上国には毎月数十億の支援金を送りつけるが、バブルの最中の国からは逆に金を搾り取る。
テロリストに手を貸し、政府には手を貸さない。


この男は誰よりも強者然と振る舞っていながら、常に弱者の味方なのだ。
どこから資金を得ているのかも分からない。
どこから人員を確保してくるのかも分からない。
何より、どうしてこの男が、殺し合いなんて企画するのか分からない。
樋之上は殺人鬼だ。
それでも、この目の前の男が自分以上の異常であることくらいははっきりとわかる。


「君は気にしないでくれ。いくら君とはいえ話せることと話せないことがある―――っと、そう睨まないでくれ。大丈夫だ、君なら殺せるだろうさ。ちょっとばかし苦戦しても、負けることは無い」


滾る不信感を隠そうともしない樋之上。
しかし雨雲にもあまり時間はないようで、無線機のようなものに通信を受け取ると話を急かした。
殺し合いの概要。
いくら内通者とはいえ怪しまれてはいけないため、首輪は装着すること。
特権零の勝負だったが、文句を吐くことはしなかった。
ぱちん、と雨雲が指を鳴らすと他の参加者同様―――いや、それ以上に強い電流が流れ、台詞の続きを許さずに意識を断絶させる。


「………はあ、やれやれ。まさかとは思ったけど、そのレベルか、よりにもよって」


暫くは大丈夫だろうが、と言うと雨雲はここにきて初めて、眉を顰める様子を見せた。
先程の報告の内容を脳内で反復し、分かってはいたことだが少しばかりの不安が押し寄せる。
扱うのは『人間』――確かにそうだ。
しかしその秘めたる力は、兵器そのもの。
もしもあれが想定している段階の最高出力を出してでも見ろ、最悪会場は丸ごと一瞬でレーダーから消えることになる。
人間が保有していていい力ではない―――それを発見できた時点で、雨雲は自らが幸運の女神に愛されているとしか思えなかった。




「そういえばさあ」


気絶した筈の樋之上壊が、まるで何も起きなかったかのように平然と立ち上がる。
常人ならば意識が覚醒してからもしばらく痺れが残るレベルの高圧電流だというのに―――と、白宮雨雲は苦笑した。


「旦那、あんたが何を考えてんのは俺にはよく分からないんだが――――あんま調子に乗んなよ? 俺はあんたの協力者だが駒じゃねえ」
「ふむ。肝に銘じておこう。では今度こそ大人しく眠れ」


今度は先程のものよりも更に強い電流。
防衛体制を崩したこともあり、今度はあっさりと樋之上は意識を失った。
雨雲は部下に通信で連絡し、樋之上壊を会場に運搬するよう指示する。彼に受けた忠告など、意にも介していない風に。


いそいそと部下が樋之上を担いで立ち去っていく。
雨雲の前に好き好んで長々居たいという物好きはいない。
下手をすれば撃ち殺されかねないのだから、早く仕事を終わらせてしまいたいと思うに決まっている。


誰もいなくなった空間に取り残された銀髪の男。
『争奪戦』の総取締役を名乗るに相応しい貫録を漂わせて、彼はまた独り言を呟く。

「そうだな、確かに君は強いだろう、樋之上」

樋之上壊という人物の放った忠告。
殺人鬼に忠告されるというかなりレアな経験をした男は、しかしそんなもの些事だと言わんばかりに笑うのだった。


「―――――だが、それだけでは届かないぞ、私には?」


白宮雨雲の懐から取り出されたのは一冊の冊子――先程樋之上に紙吹雪にされたものと同じ物を、そっと開く。
ある人物の項目に目を止めると、彼は高らかに、誰もいないのをいいことに遠慮なく、笑う。
そして。

「このくらいはしなければ、夢を見る者達も可哀想だというものだよ」


◆ ◆


樋之上壊が意識を取り戻した時、そこは木々の茂る森林だった。
何故だか配置されているベンチの上に、彼は寝かされていた。
目を覚ました時には、一瞬ここが殺し合いの争奪戦であることさえ忘れかけた程だ。
しかし、その傍から見れば牧歌的とさえいえる光景には、決定的な異常が混ざっている。
樋之上の周囲に、光の球体がいくつか浮遊しているのだ。
電気のようにも見えるが、その白色の光は『白』というより『蒼白』と形容すべき、病人の素肌のような不安感溢れる色彩。

当の樋之上からすればそれは異変でも何でもなく、自分の能力が自動的に防衛手段として機能しているに過ぎない。
生まれながらに樋之上壊が有していた、そのせいで化物と蔑まれたこともある、幼い頃は忌み嫌っていた能力。

魔術師。
樋之上を形容するなら、そんな異形が相応しい。
生まれながらに、魔術師として完成していて、手順を踏まずに不可思議な術を平然と行使出来る。
両親は当然人間で、先祖を手繰っても魔術師の遺伝子など欠片も見当たらない、つまり生まれながらのイレギュラー。


彼がその力を破壊に生かすことにしたのは、意外にも中学校を卒業した頃だった。


「ここなら暴れてもいいんだよな」


不気味に口元を歪めて、好戦的な笑顔を顔の筋肉が形作る。
当然、彼が目指す道は一つだった。



皆殺し。
タイムマシンなど二の次にしてでも、この場に呼ばれている十四の羊、或いは狼を狩ることを、愉しみたい。
人間として終わっている思考をしながら、樋之上は手始めに周囲を破壊することにする。


「んー………しっかし俺が全力出してほんとにいいのかね。出来レースもいいとこだろうに」


そう言いながら、彼は周囲に浮遊する光の球を頭上に集める。
気の抜けるような音を鳴らしながら肥大化していくエネルギーに大気が悲鳴をあげるが、気にする樋之上ではない。

次の瞬間、肥大化した光球が破裂する。
棘のようなエネルギーの刃が、樋之上を躱して森の自然を破壊していく―――理不尽に。
更にエネルギーの残滓を掌に集め、弓と矢を象ったそれに変化させ、矢を引き絞る。

「これだと、二百メートルってとこか」

射程距離を計算し、引き絞った矢を無造作に放つ。
空気を切り裂いて進んでいくそれは進行方向に向けて真っ直ぐに、ミクロ単位のズレさえ生まずに直進し、やがて消えた。
速度は光より少し遅い――樋之上からすれば不満だったが、人を狙い撃つのには十分すぎる。
これだけの破壊力ならば文句はないのだが、自分に出来ることの種類は本当の所樋之上自身にもよく分からない。
応用が利きすぎるのだ。
全世界の生物の種類の数と同等くらいにパターンはあると思っているのだが、実際の所それより更に多い。

ただし人を助けることに決定的に、その力は弱い。
人命救助に使えば、あまりの破壊力に救助するべき人命を消飛ばしてしまうのだ。
そりゃあ最低威力で使えば人は殺せない。
だが、必ず傷つける。
その現実は――――苦しむ少年を、悪に突き落とすにあまりに十分すぎた。

だから彼は、殺人鬼だ。


「く、くはっ」


堪えきれないという風に、笑いを溢す。
白宮雨雲の、あのいけすかない雇い主の言葉が、今更になって繰り返される。
これほどの、自分でも驚くレベルの人外の力を行使出来ていながら―――全力を出さざるを得ない相手。

それを自らの力で蹂躙し、虐殺する気分は一体如何程の至福をもたらしてくれるのだろう。
考えるだけで心が沸き立ち、落ち着かない自分の感情を表すかのように周囲に再び漂い始めた光球が破壊を始める。
この場で全力を出して、人間をおびき寄せようかとも考えては、それではつまらない。
FPSゲームのように、自分で視点を操作しながら、見つけた敵を屠っていく―――そうでなければ。
どうせ自分はチートコードを使用したのと然程変わらぬ力を振るえるのだから、心配も注意も必要ない。
慢心したままで、相手は勝手に斃れてくれる。


「くぅ――――――――ッ、くははははははははははははは、あははははははははは!!!」





もう堪えるのが面倒だ。
樋之上は、猛る感情を隠そうともせずに爆笑する。
人間から生まれた異形。
誰にも認められない力を、まさか正しい方向に使える時が来ようとは夢にも思っていなかった。
この争奪戦では人殺しこそが正しい。
化物が許容される。


「さぁて」

化物は、参加者の顔写真が載った名簿を取り出し、自らの相方の名前を改めて確認する。
彼との関係は、所詮雨雲のそれと同じだ。
より良い、快楽を追及するための共同関係―――利害が一致しているだけで、それ以上でも以下でもない。
だから彼は、今回の殺戮からは、如何に相方、松下健吾であったからといい、見逃してやる気は微塵もなかった。
松下のあれは人間にして野性を極めすぎた結果だ。
獣の力は相当強力だ、単純な運動神経では樋之上でも及ばないだろう。
彼もまた、今頃殺し合いを始めている―――。


他に気になる名前と言えば、『白宮つぐみ』か。
つい最近殺したばかりだったと思うのだが、蘇生してくるとは思わなかった。
『白宮』。
そうそうある苗字ではない、恐らくは雨雲のやつと血縁関係にあるのだろう、と樋之上は推測する。
あの雨雲が情けをかけたとしか思えない。
興が削げる真似を、と少し気分を害した様子で彼女を殺した二人の内の一人である青年は溜め息を吐いた。


しかしこの際赦そう。
改めて丁重に、肉片も残らぬまでに消飛ばしてやればいいだけの話だ。
雨雲がまさか家族愛を持つ人間だとは思えないが、一矢報いる結果になるかもしれない。
あれは能力を保有していない、真の意味で無力な少女に過ぎない。
もしかするともう殺されているかもしれないな、と樋之上は苦笑する。


――――――――と、その時。




樋之上壊は、視線に振り向いた。
その先には、一人の少女―――小学生と見える、幼い少女の姿があった。
目は熱に浮かされたように潤んでいて、荒い息遣いからも彼女が健常でないことくらいは理解できる。

黒い髪で団子を作っていて、更にツインテールにしている、相当髪の毛が無いとできない贅沢な髪型。
奇抜と言うわけではないが、あんな風に出来る前に普通髪を切ってしまうだろう。
指を眼球の前に翳すと、お得意の魔術を行使して、簡易の望遠鏡を作り少女を窺う。
風邪の基本症状が出ているようだ。
体調は明らかに悪そうで、今すぐにでも倒れ伏してしまいそうなほど衰弱している。
樋之上の周囲が思い切り崩壊している、それにすら気付けていない様子だ。

助けを求めるように、小さな体を引き摺って近付いてくる。
それを冷めた目で見つめる樋之上壊は、一瞬の迷いもなく右手を前に突き出した。
集まっていく謎の粒子。
蒼白の光が、樋之上の掌で凝縮され、再び弓と矢を象る。
引き絞り、放つ。
一瞬の躊躇いもなく、幼い少女に向けてあまりにも明確な暴力の塊を放出する。
即死だろう、と樋之上は断じる。
雨雲の話によれば他にも異能の者が参加しているらしいが、そんなチャチなもので防げる程樋之上の力は弱くない。
確かな貫通力と破壊力を持った一撃。
当たれば、矢という形状にあまりにも見合わない、残虐極まりない破裂死体が出来上がる事請け合いだ。
その分痛みを感じずに死ねる分、まだ良心的な一撃かもしれない。
その気になれば、文字通り寸刻みに肉体を分割してやることだって出来るのだから。
莫大な熱と破壊の塊が吹き抜け、砂塵が舞う。


―――――しかし事は殺人鬼の思うが儘とはいかなかった。


破壊と暴虐の一撃が通り過ぎた後には少女の肉片どころか、残滓すら残っていないのだ。
これには樋之上も目を細める。
いくら凶悪な一撃とはいえ、残滓くらいは残る筈だ。
即死するとはいえ、全力ではない。
なのに―――汚れ一つ残していないとは、どういう訳だ?


「おいおいお兄さんや。まさかこんなとこで会えるたあ思っても居なかったぜ」


困惑する樋之上の前方にゆっくりと姿を現したその男は、警官の恰好をしていた。
だが警官と言うには、目に宿っている光が暗い。
警官―――狐神桐雄。
正義に生きる男が、悪心を隠し持つ鬼が、もう一人の鬼の前に立ちはだかる。


「悪いんだけどお前さんには話してえことが山ほどあんだわ。だけど全部免除だ。お巡りさん優しいからな」
「はあん。あの時のうっぜえ刑事か。――どうだった? 妹さん、良い具合だったろ? ――――ってことで」
「ありがとう。お前がいなかったら俺は刑事辞めてたかもしれないしな――――てな訳で」



「「潰れろ――――――ゴミクズが」」



刑事と殺人鬼。
二人の、人間の姿をした鬼が、殺し合いを開始する。




【B-3/森/朝】
【樋之上壊@殺人犯】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、不明支給品
[思考]
基本:愉しむ


【狐神桐雄@警官】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、不明支給品1、猟銃
[思考]
基本:復讐を果たし、時空研究局メンバーを逮捕する

◇ ◇


「……はぁ、はぁっ……!! 何だあの化物、あいつ、本当に勝てんのかよ」


鬼が邂逅した時、夜桜方程は少女を抱えて、戦場となるだろう森を離れていた。
とはいえあまり遠くに行き過ぎれば合流するのがきつくなる。
銃弾を発射されてからかわすようなあの警官がそう簡単に潰れるとは思えないが、何しろ相手は歩く化学兵器のようなものだ――何てこった、最初から出来レースだったんじゃないか。

争奪戦なんて表の事情で、本当の目的は戦略兵器の動作チェックか。
もしも最初に狐神に出会えていなければ、自分はあんな化け物に銃弾を放っていたと考えると、背筋に冷たいものが走る思いだった。
というか同じ森にいたのに全然気付かなかったあたり、自分達の暢気さが窺える。


「凄い熱だ……風邪みたいだけど」


腕の中で荒い息を吐く少女の額を触り、そう漏らす。
風邪を引いている状態で殺し合いをしろとは、随分無茶を言う。


「とにかく病院に連れていかないとな……」


如何に風邪といえど油断は出来ないし――――、と 
その時、夜桜は脳裏に何か引っ掛かりを感じた。
白宮雨雲。あの男は本当に、弱っている少女を参加させるような真似をするような馬鹿か?
おかしい。
彼ならば、時空研究局とやらの設備でどうとでもできた筈じゃないか。
なのに、治さなかった―――そこに、夜桜方程はどうしても納得できない。
何かが裏があるのはもはや確実として、その何かが分からない。

科学者志望の夜桜だからこそ、『納得できないこと』に納得せざるを得ないというのは屈辱的な話であったが、今はひとまず狐神の帰りを待つしかないのだ。
脳裏によぎる、あの青年を見た瞬間の狐神桐雄の変化。




目に宿る炎が消えて、冷たい、非情な何かに変わった瞬間を、夜桜は確かに見た。
喜ぶ訳でもなく、だが憤る訳でもない―――言うならば、機械的にあれと戦おうと動いていた。
勿論、見ず知らずの少女をあの一瞬で救い出す辺り流石だと思ったが、明らかに狐神は変貌している。
『大丈夫だ』とだけ言い残して彼は逃げるように夜桜に促した。
だが、そこで『一緒に逃げよう』とは、言えなかった。


腕の中の少女に目をやると、どうやら大分落ち着いてきたようだ。
ちょっと待て、と夜桜は思う。

風邪は確かに軽ければ治りやすい病気だ。
だが、あの状態からたった数分でここまで回復するなど、ありえない。
呼吸を整えるように息を深く吐く少女の背中を擦ってやると、段々呼吸も落ち着いてくる。
熱も下がっていて、べっとりとかいた汗が心地悪そうだ。
やっぱり――――と、夜桜方程は息を飲む。


こいつは―――こいつは、本当に人間なのか。


異常すぎる回復力と、都合の良すぎる体調不良。
理解の出来ない白宮雨雲の真意。
兵器と同等の化物。
そして、突然目の色を変えた警官。
何が起きているのか、自分の知らないところで何が起きているのか――――夜桜は混乱の極みにあった。

思い出すのは、子供の頃に仲間外れにされた時の古い記憶。
当時からプライドだけは高かった夜桜にとっては今思い出しても腹が立つ記憶だった。
自分だけが、蚊帳の外。
今の状況にも似通ったものがあると、思わずにはいられない。

「………せんせー?」
「何だい」

腕の中の少女の意識が回復して初めて発した声。
夜桜本人は格好つけているつもりなのだが、実際その呼び名が実に心地よくて顔はにやけている。
科学者を目指す夜桜にとっては夢でもあった……それを実現するために意識混濁の少女に『いいかいぼくはお前の先生だぞ』と吹き込んでしまったことも責められることじゃないと彼は思う。
純真な子は可愛いなあ………と、少し場違いにもほんわかさせられるのだった。

「わたしの名前、教えてなかったよね? わたし、椋梨水花っていうの。小学五年生です」

腕の中から抜け出してぺこりと頭を下げる水花を見て、ただ夜桜は何ともいえぬ感情に悶えるのだった。
人はそれを萌えと呼ぶことを、彼はまだ知らない。

今はただ、あの男の帰りを待つのみ。




【B-2/デパート付近/朝】


【夜桜方程@科学者】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式
[思考]
基本:狐神についていく


【椋梨水花@小学生】
[状態]疲労(小)、体調不良(ほぼ完治)
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、不明支給品
[思考]
基本:帰りたい


【名前】 樋之上壊(ひのうえ・かい)
【性別】 男
【年齢】 20
【職業】 無職
【身体的特徴】 身長180cm弱と長身
【性格】 残忍で冷酷
【趣味】 殺戮
【特技】 FPSゲーム
【経歴】 幼い頃に親に捨てられるもその能力を生かして生活してきた。
     その過程で歪み、その力を破壊にしか活かせなくなってしまう。
     現在は『サーカスの殺人鬼』の猛獣使い(テイマー)。
【好きなもの・こと】 破壊行為
【苦手なもの・こと】 慈愛
【特殊技能の有無】あり
【備考】 生まれながらに完成した魔術師
     呼吸をするように人外の力を振るい、呼吸をするように物を殺す

【名前】 椋梨水花(むくなし・すいか)
【性別】 女
【年齢】 11
【職業】 小学生
【身体的特徴】 小柄。髪はお団子ヘア+ツインテールの黒髪
【性格】 大人しく純真。若干の天然
【趣味】 景色を眺めること
【特技】 暗記
【経歴】 ???
【好きなもの・こと】 人間
【苦手なもの・こと】 暴力
【特殊技能の有無】???
【備考】 ???

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最終更新:2012年04月06日 12:26
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