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絶望(despair)

絶望を求めた少女がいた。或いは彼女という存在が既に、どんなものよりも絶望的だった。
嘘のない世界を求めた皇帝がいた。だが彼は見捨てた自らの実子によって討ち果たされた。
莫大なエネルギーを求めた生命体がいた。本来の結末に到るより先に、彼は絶望に出会ってしまった。
絡み合う筈のない三つの世界の因果が絡み合い、偶然というにはあまりに出来すぎた、しかし因果と呼ぶには悪意に満ちすぎているひとつの計画が生まれた。

希望も絶望も無に帰す。
未来も過去も関係なく平等にねじ曲げる。
生も死も、不条理という名の条理の前では固定概念にすらなりはしない。
そんなゲームの幕開けは、ゾッとするほど美しい夜だった。


  ×     ×


ぴん、と一本立ったアホ毛が特徴的な少年、苗木誠が目を開いた時、そこは見知らぬ場所だった。
少なくとも、この景色を見知っているほど、苗木誠は特異な環境で育ってきてはいない。
四方は壁に囲まれ、出口のような場所は確認できない薄暗い部屋。
少ない明るさの中でも分かる、庶民とは格が違うと認識させられるような、荘厳な装飾。
なればこそ、どうして自分のような人間がここにいるかも分からないし、どうやってあの『学園』から脱出し、こんなところまで来られたのかはもっと分からない。

「ここは………?」

まだ眠気を訴える目を擦って辺りを見渡すと、大勢の人間の姿がそこら中に確認できた。
目測だが、ざっと六十人以上はいるのではないだろうか。
しかも内の大半が苗木と同じく、自分がどうやってここまでやって来たのかが分からず混乱している、そんな様子の人間たちばかりだった。
中には苗木がここ数日間の内に知り合った『仲間』の姿も何人か見受けられ、どうやら自分だけの身に起きていることではないらしい、と一層その身を強張らせる。
何より、彼の深層意識が、これから何か『ヤバイ』ことが始まると、明確な警鐘を鳴らしていたのだ。
『超高校級の希望』らしくもないが、不運にも彼の予想は――的中してしまっていた。


「……目は、覚めたか」


低く、重々しい声が薄暗い空間の中に響き渡った。
それとまったくの同時に、部屋のライトが一斉に点灯し、眩しさが網膜を焼き焦がすような錯覚に陥る。
声の主は、特徴的な髪型をした一人の男性だった。
髪の毛は白髪でこそあるが、老いをまるで感じさせない迫力と存在感を放って、彼はそこにいた。
馬鹿な、という声がどこかからあがったのを、苗木はしっかりと耳にした。
まるで居てはいけない存在であるかのように、その声は困惑に溢れていて、動揺が見える。
すっかり光に満ちた空間の中で、老獪なる男に誰もが目を奪われてしまっていたが、苗木誠少年を含む実に十人ほどの『高校生』たちは、その足元の存在に瞠目せざるを得なかった。
ツートンカラーの、悪趣味とさえ取れる一体のぬいぐるみ―――絶望の化身(モノクマ)。
彼らを絶望のどん底に叩き落とし、疑心暗鬼に引き込み、多くの命を散らせた悪魔。
あれがいるという時点でもはや、これから始まるのが何かなど、語るまでもなく分かりきっていた。


――――絶望だ。希望を抱くことさえ馬鹿馬鹿しくなるような絶望が、始まってしまうのだ。


高校生たちが既に感じた『絶望』など余所に、男は一切態度を変えることなく毅然と言い放つ。


「我が名は神聖ブリタニア帝国第九十八代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアである」


神聖ブリタニア帝国、という名前に苗木は聞き覚えがなかった。
そんな特徴的な名前の国があったなら名前くらいは知っていると思うが、そんな国の名前は知らない。
だが、何はどうあれこの男が一国の皇帝である、というのは事実。

「ブリタニア帝国のことを知っている人間など、居ても居なくても同じだ」


人々のざわめきが一際大きくなるが、男――シャルル・ジ・ブリタニアは語ることを止めない。
当然だ。聞き逃したなら損をするのは彼らであり、シャルルではないのだから。
だが、人々は次の瞬間シャルルが語った言葉の前に、嫌でも話を聞くことになる。


「貴様らには今宵ゲームをして貰う――勝利条件は単純明快! 最後の一人まで生き抜くことだ。
殺せ、騙せ、奪え! どんな手段を使おうと、元いた場所へ帰り着けるのはどの道、ただ一人である」


――――――は? と、苗木誠は思わず声を漏らした。
この男が言ったことがあまりにも常軌を逸していて、半ば反射的に、声が漏れていた。
しかし苗木の存在は目立ってなどいない。
会場でついさっきまで騒いでいた者たちも、皆一様に同じような反応を取ったのだ。
生き抜くこと、それはつまり他の人間たちを、命を、踏み台にして自分の命を守るということである。
簡単に言うなら、それは――

「うぷぷ、そうだね! 皆さんご名答、ボクらはオマエラに殺し合いをしろって言ってるんだよ!!」

突如、シャルルの足元のぬいぐるみ――モノクマが、ダミ声を響かせて人々の方を指差した。
そこで苗木は理解する。このモノクマがどうしてここにいるのかを。
ひとえに、飽きたのだ。だらだらと送られるコロシアイの学園生活よりも、スピーディーかつ絶望的な光景がいつだって見られる殺し合いを、選んだ。
実はその指摘は合っているようで間違っているのだが、そんなことは苗木誠の知るよしもないことだ。

「こやつはモノクマ。余の協力者であり、事実上この計画の立案者である」
「うぷぷ! そうなんです。ボクは偉いのです。いよいよ宇宙制覇も近いかな? ぶーっひゃっひゃ!!」

ひとしきり大笑いを続けるとモノクマはびっ、と人々を指差し、

「でもオマエラ! これは夢じゃないし、ドッキリ企画でもありません!! 悲しいけどこれ、現実なのよね。だから無駄な希望は捨てて、大人しく立派に殺し合いましょう。
うぷぷ、うぷぷ……絶望的すぎてボク、発情期に突入しそうですよ」

身体をクネクネさせて可笑しなことを宣うモノクマを無視して、シャルルは説明を続けようとする。
如何に殺し合いのゲームとはいえ、何のルールもなしではゲームにならない。

「先程も言った通り、貴様らには此方で用意した『箱庭』を使い、殺し合いをして貰う!
制限時間は四十八時間、それを過ぎれば全員を失格とし、一人残らず抹殺だ。
だがもし生き残れる者があれば我々は褒美としてまず莫大な富をたまわし、そしてもうひとつ――『どんな願いだろうと叶える権利』をくれてやろう。
死者の蘇生、復讐、特殊な力を得ること、一通りの願いは問題なく叶えられる。
次に、より細かいルールについての説明だが――、そうであるな。
まずはルールを破った場合に課せられる『ペナルティ』について先に見せておくべきか」

言うが早いか、シャルル・ジ・ブリタニアはすっ、と右手を挙げた。
すると、何処からともなく現れた鉄の首輪付きの鎖が、一人の男の首根っこに巻き付けられた。
乱暴に鎖は男の身体をシャルルの前まで引きずり、そこで起立させる。
相当な衝撃だった筈だが男は痛がる素振りも見せず、逆にシャルルを真正面から睨み付けた。
まるで竜を連想させる気迫を内包した右目が、皇帝に臆することなく敵意の視線を注ぐ。

「小十郎ッ!」
「ご心配なく、政宗様。――このような外道に臆するほど、あなたの右目は安くない」

小十郎と呼ばれた男は迷うことなくそう答え、シャルルから視線を反らそうともしない。
彼は決して愚鈍な馬鹿ではない。自分がこれからどうなるのか、おおよその予測はついている。
だがそれでも、最期の一瞬までこの外道に屈することだけは、絶対にしたくないと思えた。
竜の右目としてではなく、一人の武人として、この手の手合いに屈することだけは断じて許せなかった。

「ふむ、良い目だ。だが――」

ドゴンッ、と、サイレンサーを装着した拳銃の発泡音のようなくぐもった音が響いた。

「――――――――ここで逝ね」

小十郎の喉元に、赤い花が咲いた。
そこに爆弾が仕掛けられていたとか、そんな様子は一切なかったのに、彼の首には大穴が開いていた。
まるで内部から爆ぜたように証拠なく、だがあれだけ勇ましかった男は、既に物言わぬ屍と化し、真っ赤な鮮血を止まることなく溢れさせながら、二度と呼吸をすることはない。

「小十郎おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

三日月のような兜を被った隻眼の男が、憤怒と哀しみに満ちた絶叫をあげる。
それをシャルルは見もせず、モノクマはそれが愉悦ででもあるかのように、うぷぷ、と笑って見せた。

「表面からは見えんだろうが、貴様らのどれかの世界の技術を使えば容易いものであったぞ。
ルールを破ったペナルティとして、貴様らの命だ。こちらの意思で自由自在に起爆できる故、精々言動には気を付けることだな………。
尚、これが起爆される条件はいくつがあるが、主に言うならば、
一つ、箱庭からの脱出を試みた時。
一つ、目に余るだけのゲーム進行の妨害行為が見られたとき。
そして、此方が告げた『禁止エリア』に侵入したときだ。
ゲームの進行をより円滑にするべく、ゲーム開始後六時間が経過するごとに『定時放送』を執り行う。主に内容は死者の詳細情報と、そしてこの『禁止エリア』のことだな。
一度の定時放送につき大体3つの禁止エリアが設定され、それぞれ放送終了から一時間の猶予を経た後に正式な禁止エリアとなる。そこに踏み入っても起爆する。
――無論、定時放送で誰の名前が呼ばれないようなことがあれば――説明せずとも解るだろうな?」

「えー、補足になりますが。皆さんの武器や道具は基本的に全部没収しています。で、それをまたランダムに振り分けて皆さんに支給しちゃいます。
何が当たるか分からないなんて、ワックワクのドッキドキだよね!」

二人の説明が終わる。
物凄い情報量を一気に叩き込まれたことになるが、非常時の脳の働きとはなかなか侮れない。
これだけの短時間で語られたルールを、ほとんどの参加者は理解し、胸に刻んだことだろう。
しかし――まだ終わりではない。


「―――言いたいことはそれだけですね、シャルル・ジ・ブリタニア……いえ、父上?」


黒髪の青年が、何一つとして臆することなく歩み出ていたのだ。
彼の名前は、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
シャルル・ジ・ブリタニアの実子であり、本来ならば彼に引導を渡した張本人たる反逆の皇子である。
そしてシャルル亡き現在、ブリタニア帝国第九十九代皇帝として君臨している、悪逆の皇帝陛下。
その彼がこうして無謀とも取れる行動を取っているのは、ひとつの理由あってのことだった。
―――ギアス。
シャルルも保有している王の力、人を孤独にする力を、このルルーシュもまた所有しているのだ。
以前シャルルにはギアスが通じなかったが、現在ならば通じる筈。
一度消え失せた彼が生き返ったところで、人を不死に変える『コード』の効果は消えている。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアのギアスは、絶対遵守の力だ。
どんな命令であろうとも一度限り相手を強制的に従わせる力――当然、自害の命令だって可能。


「フ、誰かと思えば貴様か」
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる」


モノクマの存在に関してはまだ対抗策がないが、監督役の一人が死ねば流石にプランが狂う筈だ。
そこを突けば、自分と自らの騎士のみででもこの馬鹿げた計画を解体することができる。
そして、あるべき場所に帰りつける――。


「貴様は死ね!」


だが。


「―――笑止。愚かな……その程度のこと、余が対策していないとでも思ったか?」
「な、にッ……!?」


これまで、ギアスの通じない輩もいるにはいた。
例えば、一度ギアスをかけた相手。
バイザーのような物で光を遮断されてもギアスは無力だし、かつてのシャルル・ジ・ブリタニアのようなコード所持者にも、自害の命令はほぼ無駄に近かった。
例外としてギアスキャンセラーを持つ忠義の騎士の存在があったが、それとこれとは大きく違う。
ギアスの発動自体が、出来なかったのだ。


「シャルル・ジ・ブリタニアッ……!!」
「ここで殺すには惜しいが……仕方あるまい。貴様も逝け、ルルーシュ」


今度は首輪ではなく、モノクマが地面から飛び出てきた。
その小さなボディに明らかに不釣り合いなバズーカ砲を持って、それを躊躇なくルルーシュに向ける。
この距離ではどうしようもないし、そもそも人間以外にギアスは通じない。
万事休すか――ルルーシュが諦めかけたその時、彼の身体は大きく突き飛ばされた。

そして、轟音が響く。



    ×     ×


そこに、一人の少女が倒れていた。
胴体を大きく破損して、即死しなかったのは奇跡と呼べるレベルで、しかし彼女はまだ生きている。
とはいえ、まさかシャルルたちが治療を施すような甘い連中である筈がない。
そして、倒れている少女の姿は、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアではなく『ルルーシュ・ランペルージ』にとってとてつもなく見覚えがあり、だが決してここに居る筈のない存在だった。

「良かった……ルル……」

この状況に似た光景を、ルルーシュは一度見ている。
あの時も、自分はこの少女を、想いを寄せてくれていた少女を――守れなかったのだ。

「シャーリー……! どうして、君が……!?」
「分かんない……でもね、ルルなら、できるよ。だって……ゼロ、だもんね?」

ゼロ。
ルルーシュ・ランペルージが世界へ反逆するために名乗っていた名前で、彼のいた世界では最早知らない者はないと言っていい、世界最大のテロリストだ。
が、この少女には些細なミスで、正体を見破られていた。

「ころしあい……なんて、壊して…ナナちゃん、や、みんなの……せかい、を……、――――」
「……ッ! ……シャーリーッ! 目を開けろ、シャーリーィッ!!」

世界を統べる悪逆皇帝の慟哭が響く中、シャルルは満足げに笑った。

「ふん、やはりあやつは幸運に愛されておる、か――――良い。その小娘に免じて見逃そう。
では、これより貴様らを『箱庭』へと転送する! 殺し合い――バトルロワイアル、開始だッ!」

シャルルの声を合図として、人々はどこかへ消えていく。
こうして、日常を食い破って出でた非日常は、バトルロワイアルという形で始まりを告げるのだった。


【片倉小十郎@戦国BASARA 死亡】
【シャーリー・フェネット@コードギアス 反逆のルルーシュ 死亡】


【ゲームスタート】



    △     △


「……うぷぷぷ。なかなか見応えある舞台になったね。ボク色んなところが勃っちゃいそうだよ」

舞台裏。
シャルル・ジ・ブリタニアの傍らには、黒髪の女性の姿があった。
更にその肩には白い身体に赤い瞳をした小動物がちょこん、と乗っている。
女性の名前はマリアンヌ・ヴィ・ブリタニア。先の反逆者、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの実母だ。
小動物に至ってはこの地球上の生命体ではなく、エネルギーを求めて本来『魔法少女』の絶望を集める役割を持った地球外生命体である。名を、インキュベーター。
ブリタニア先代皇帝、『閃光のマリアンヌ』、インキュベーター。
この匆々たるメンツを集め、リーダーを勤めているのがこのツートンカラーのクマだと、誰が信じられるだろうか。
だが、散った命を繋ぎ合わせ、絶望を糧にする生命体と接触したのは、一人の女子高生である。

「――何を目論んでいるかは知らぬが、ちゃんとラグナレクの接続を成すのだろうな?」
「うぷぷぷ、当たり前じゃない。約束は守るクマとして有名なんだぜ、ボクって素敵」
「ふふ、本当に願ってもないチャンスを、貴女のような女の子が持ってきてくれるなんてね――、今でも信じられないわ。ねえ……超高校級の絶望さん?」

超高校級の絶望。
それが、シャルル・ジ・ブリタニアとマリアンヌ・ヴィ・ブリタニアを復活させ、インキュベーターにより効率よく莫大なエネルギーを収集する術を提示した者の正体である。
ひとつのパラレルワールドを絶望のどん底に叩き込んだ、こと絶望におけるエキスパート。

「全くだよ――僕も初めてだな。魔法少女にしようにも、最初から絶望しているんじゃ意味がない。そんな相手を見たのはね。――――盾子?」
「やだなー、キュゥべえクン。あんまり変なことを言うと焼き肉にしますよ? いっすか? やっちゃってもいっすか?」

合金の爪を剥き出すモノクマ。
だが、その正体をこの三人は知っていた。
二度も希望に討ち倒され、それでも尽きることなく燃え上がる深い深い、絶望の権化。
江ノ島盾子。
それが、このバトルロワイアルの首謀者であり、黒幕の名であった。

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最終更新:2012年08月12日 16:48
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