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2・3


 ウィザは石造りの暗い廊下の隅で目覚めた。
 壁の隙間に沿って緑のカビが生えていて、擦り減ったような地面に横たわるような体勢になっていた。
 ひんやり冷たい土から顔を離し、とっさにウィザは立ち上がる。
 肩にいつの間にか下がったザックをよそに、ウィザはほとんど反射的に呪文を唱えた。
「DUMAPIC」
 しかし、その明瞭の呪文による反応も何も無く、しばらくはただ茫然と眼前に広がる暗い廊下や、その曲がり角を見ていた。

 それから地面に座ってザックの口を開けて始めにランタンを取り出して燈し、そしてザックの中を探り始めた。
 何やら液体が入った瓶や、パイが入った袋を角によせ、そして、奥に何か棒状のものが入っているのがウィザの目についた。

 手に取って引っ張り上げようとし、ずっしりと重いそれに、嫌な予感がした。
 鞘に収められた刃が黒く塗られた剣。
 ウィザはため息をついた。
 剣など到底、魔術師である自分が扱える代物ではない。
 ザックを閉じ、辺りを見回す。
 当座、通路は暗い影に覆われているだけで、音は聞こえない。
 もし――もし、誰かに会ってしまえば、そいつは自分など簡単に殺してのけるだろう。
 例え素手の戦士が殴り掛かってこようと、自分と同じ魔法使いがダルトを放ってこようとなんだろうと、それに耐えられる自信は無い。
 不意打ちを受けたらそれこそおしまいだ。

 リルガミンの国、いや、このエセルナートと呼ばれる世界と言う世界全体に降り懸かった天変地異を鎮めると言われるオーブを求めて(もちろん一獲千金目的で、だ)リルガミンのはずれにある洞窟の探索をしていた一団の一人であるウィザではあったが、
 しかし、それでも身体が弱いものは弱いのだ。
 それが原因で何度もあの強欲寺院のお世話になっている。
 そしてこれには、その強欲寺院も――カドルトで生き返らせてくれる味方も居ない。
 かつてプリスと言う僧侶が仲間だったのだが、性格を考えたら期待できない。むしろ殺しにかかってくる算段が高い。
 プリスに限らず、他の仲間達も、だ。
 所詮、仕事の上の付き合いなのだから。


 なら――隠れて、頭数が減るまで待てばいいんじゃないだろうか。
 どいつもこいつも信じられないのなら――そいつら同士で殺し合わせればいいのだ。
 自分は傍観者になる。
 そしてあと二人になった時、その時には――影からマダルトの一つでもぶち込んでやろうってもんじゃないか?

 と言うより、もはやそれしか方法が無い。
 食料が足りないのはこの際妥協するとして、無闇に突っ込んだりシットに石の中に埋められるよりはそう言った作戦をとった方が無難だ。
 絶対にそうだ。
 そしてこれからそうする以上、隠れ場所を見つけなければならない。
 なるべく早く、誰かに見つかる前に――

 ウィザは物音を立てないように慎重に身を起こすと、壁に片手を当てて歩き始めた。
 ランタンの光が及ばない通路の先には幾つかドアがあって、ウィザはそれを回った。
 多分、なるべく奥の部屋に行った方がいい。
 よっぽど神経質でなければ、細かいところまで調べない筈だ。
 いや、そんな余裕なんて、誰も持っていない。
 そうウィザは踏んだ。

 細かい部屋を何度も通り過ぎ、多分、これで四つ目のドアだった。
 ウィザはドアを少し開け、発生した隙間に視線を滑り込ませた。
「あ……」

 顔を近付けた途端、赤錆のような臭いが飛んできた。
 そして、光が漏れた部屋には全裸の――全裸の、茶色い髪をポニーテールに纏めたホビット(多分。あんな子供までが此処に居るなんて想像したくなかった)の女が中心に立っていて、その足元には誰かが黒い水溜まりの元に倒れている。
 その水溜まりと女の足元の間を辿るとの肌色の粘土の固まり――いや、誰かの千切れた頭が、こちらを見ていた。
 見ていた。――胴体から分断された頭が。

 そして、こんな危険な場所を素っ裸で立って平然としていられる女の予想されるクラスは一つしか無い。
 ――忍者! 忍者だ!

 そう、恐らくあの死体は――あの女に、手刀で首を跳ね飛ばされたのだ!
 殺される!
 ウィザは我を忘れてドアから正反対の方向に駆け出していた。
 直後にドアがバタンと開く音がしたが、ウィザは構わず走った。
 ここで眠りの呪文、カティノでも唱えていればよかったのだろうが、もうウィザはそんなことすら思い付かない程に恐慌をきたしていた。

 瞬間、後頭部に強烈な衝撃が走って、そのままウィザは前のめりに倒れた。
 倒れた時にウィザの額が擦りむけたが、それはもうウィザには関係のないことだった。

 その時には、既にウィザは絶命していたので。


 リンダは頭に矢を生やした魔術師の死体から剣だけを回収すると、そのまま自らのザックにしまい込んだ。
 自分には少々重過ぎるが、相手に投げ付けるぐらいには使えるだろう。
 武器は動きの邪魔になるので常に身につける訳にはいかないが、しかし持っていて損はない。
 食料や水には手を付けなかった。
 これ以上ザックに重くなられても困るからだ。

 初めに初心者の冒険者と出会った時は大ラッキーだと思った。
 はっきり言って何も持ってなかろうが彼女の強さに変わりは無いのだが(ちなみに彼女に支給されたのはただの毒薬だった)、しかし何か他にも便利な物があるのはそれはそれで楽だ。
 直ぐさまその冒険者を殺しにかかり(あっさり死んだ。本当に戦闘経験が無いように思えた)、弓を奪った。
 そうしたら今度はあの魔術師がドアの向こうに居た。
 見逃すわけがない。
 そうして弓も初めて使ったのだが、しかしその割には弓も悪くはない、と思った。
 しかし確実に仕留めようとする分には部が悪いだろう。
 やはりここ一番で役立つ物でなければ困る。
 ――忍者としての、一番の武器、自らの身体だ。
 鍛えられた忍者の身体自体が殺戮兵器なのだから。

 リンダはザックを纏め、やや乱れた髪を整えると、血溜まりを踏まないように素足を動かしながら部屋を立ち去った。

 シット・リィスが何を企んでいようと、どうでもよかった。
 自分は生き残る。何としてでも。

【B1F 北東部/0時】
【リンダ E-NIN】
[状態]:OK
[装備]:なし
[所持]:支給品一式、ビーストマスター、デッドリー・ポイズン(瓶)×3、シーブズボウ、矢×9

【ウィザ E-MAG】
[状態]:死亡(射殺)
[装備]:なし
[所持]:支給品一式

【ぎんこう N-FIG】
[状態]:死亡(首切断)
[装備]:なし
[所持]:支給品一式

【残り32/34人】


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最終更新:2008年09月22日 16:23
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