暁美ほむらは暗闇の中で思考する。
永遠に続くループの世界。
『彼女』を救うための一ヶ月は決して念願叶うことなく、再び次の一ヶ月へと移行する。
その度に『彼女』が別の存在に変わっていく瞬間を見て、そして諦念と共に砂時計を回す。
それはある意味、終わりの無い拷問のようだった。
擦れ違う心。
届かない言葉。
もはや友達という関係すら築けず、冷えたままに過ぎていく時。
そんな幾度ものループの果てで、暁美ほむらはこの
殺し合いに参戦させられた。
あの男は、願いを何でも叶えると言った。
どんなに荒唐無稽なものでも構わない、と。
それは酷く既視感を覚えるものであった。
そのような甘言に従った者の行く末を、幾通りもの結末を通して知っている。
だが、それでも良いと、暁美ほむらは正直に感じていた。
揺らがぬループに一石を投じられるのならば、道化にだってなってやる。
だからこそか、暁美ほむらは引き金を引くのに躊躇いはなかった。
暗闇の中で発見した一人の男。
男は月光の下で空を見上げながら―――笑っているようであった。
そんな男に対して、ほむらは盾から取り出した拳銃を向ける。
声をかけようともしない。
ただ、何も語らずに引き金を引く。
轟音が響き渡り、直後として男の身体が後ろに吹き飛んだ。
その胸部に一発。
殺した。
生身の人間に発砲するのは思えば初めての事だろうか。
だが、感慨はない。
麻痺した感情は殺人という行為にすら揺れ動く事は無い。
ほむらは物陰から身を出して、死体を見下ろす、
死体は笑みを顔に残したまま、死んでいた。
「おいおい酷いな」
声が聞こえた。
ほむらの表情に驚愕が宿る。
声は足元の死体から聞こえたものだったからだ。
「俺がNEVERじゃなければ死んでるところだったぞ。なあ―――嬢ちゃん?」
瞬間、視界が反転した。
投げられたのだと、ほむらが理解したのは背中に衝撃が走った時であった。
ぼやける視界の中、体に何かが乗りかかり喉元に何かが突き付けられる。
「おしかったな。既に死んでる人間は拳銃なんかじゃあ殺せない」
視界が回復した時には、全てが終わっていた。
がっちりと組み伏せられ、のど元にはナイフの切っ先がある。
身動きをとろうとすると極められた関節が悲鳴をあげる。
戦い慣れている。
素直にほむらはそう感じた。
「降参って言ったら解放してくれるのかしら?」
服を通して伝わる男の体温は、恐ろしいほどに冷たかった。
男の返答もまた同様に。
「それは無理だ。どんな理由があろうとお前は引き金を引いた。もう引き返すことはできない」
それだけ言って男はナイフを押し込んだ。
躊躇いも、情けも無い。
その行動には純粋な殺意だけがあった。
「……なに?」
そして、その行動の後には驚愕が現れた。
ナイフの切っ先は何にも触れる事はなかった。
寸前までいたはずの暁美ほむらが影も形もなく消えていた。
そう、消失だ。
関節を極め、組み伏せていた筈の相手が消えた。
「そう、残念ね」
後ろから声が掛かる。
男が振り返ると、そこには暁美ほむらが立っていた。
腰まで伸びる髪をたなびかせ、その両手に武器を構えながら。
機関銃の類であろうか。
それは一人の人間を相手に向けるには大仰すぎる武器。
ほむらはその引き金を迷うことなく引いた。
暗闇の森林に爆発音が響き渡る。
音に包まれた世界が揺れていた。
≪―――Eternal―――≫
そんな爆音の中で、その機械音だけはやけにはっきり聞こえた。
その機械音が何なのか、僅かに疑問に思うほむらであったが、余り気には留めなかった。
どうせこの銃撃の中生きていられる人間などいない。
そう思ったからだ。
「面白い」
だが、その予想は覆された。
硝煙と砂埃で埋まる視界のなかに、それが唐突に現れたからだ。
黒いマントをたなびかせた白色の戦士。
まるで昆虫の触覚のように、天へと伸びる三本の角。
顔面の装甲を半分ほど覆う黄色の双眸。
戦士は銃撃の中を、まるで昼下がりの並木道を歩くかのようにゆったりと歩いてきた。
ゾクリと、肌が粟立つのを感じる。
これまで感情を映さなかったほむらの表情に、動揺の色が灯っていた。
「あなたは―――」
全てを紡ぐより早く、異形の戦士が距離を詰め、ほむらの喉元を掴み上げた。
驚愕の早さであった。
完全に隙を突かれたほむらはされるがままに喉を絞められる。
気管が潰され、上手く呼吸ができない。
苦悶の音が、己の意思とは関係のないところで漏れた。
「面白いが、足りないな」
喉を締め上げる力は人間離れしたものであった。
魔法少女として向上した力をもってしても振り解けない。
数瞬前までも男は確かに常人離れした力を有していたが、今はそれ以上に次元を逸した力であった。
「どうやってあの状況から逃げ出した。完全に関節を極められてる状態から、俺にも知覚できないほどの速度で」
問いかけに答えさせるためか、異形の握力が幾らか弱まる。
冷たく新鮮な空気を必死に吸い込みながら、それでもほむらは口を開かない。
暁美ほむらの能力は『時間停止』。
先程の拘束状態も、時を止めて無理やりに関節を外して脱出しただけ。
いざとなれば痛みを無視できる魔法少女の特性を利用すれば、大した事はない。
だが、時を止めるという能力がなければ、ほむらの魔法少女としての力は並以下だ。
敵対者にばらすのは、何よりこの異常な殺し合いの中で自身の能力を知る者を増やすのは得策ではない。
ほむらに能力を話すつもりはなかった。
例え絞め殺されようと、首をへし折られようとだ。
戦士は、強情を張るほむらをジッと見詰めていた。
その瞳を覗き込み、何かを観察している。
「話すつもりはない、か。なら良い」
数秒後、沈黙を貫くほむらに一言飛ばして、戦士は手を離した。
重力に従い地面へと落ちるほむら。
その落下中の身体に、拳は振るわれた。
鳩尾に突き刺さった拳が、筋と脂肪と肋骨で守られている臓腑を衝撃で揺らす。
ゴポと大量の暗褐色の血液がほむらの口元から流れ出た。
たった一撃の拳撃で、ほむらを動かす内臓の数個は無残に破壊された。
顔面から崩れ落ちるほむらに、戦士はもはや視線すら投げなかった。
背を向け、歩み去ろうとする。
「……まだ、よ……」
次いで、声を聞いた。
同時に戦士の周囲が一変する。
何もなかった筈のそこに、戦士を中心として数十にも及ぶ何かが浮かび、一瞬の間を置いて殺到する。
殺到する数十の物体―――それは、バスーカの砲弾であった。
何が起きたと、思考することすらできやしない。
戦士の身体が砲弾にのまれ、一瞬後森林そのものを揺らがす規模の爆発が発生する。
音と光に全てが包まれた。
半径30メートルほどにあった何もかもが、吹き飛ばされる。
そして、その光景を遠くから暁美ほむらが眺めていた。
たなびく髪を爆風に流し、若干の苦悶に染まった表情で、燃える森林を見る。
暁美ほむらは魔法少女だ。
肉体がどれほど傷付こうと、それは直接的な死には繋がらない。
その魂を内包する宝石さえ破壊されねば、彼女を活動停止にまでは追い込めない。
内臓を数個潰された状態で、それでもほむらは動き、『時間停止』を発動させ、持てる限りの火力を打ち込んだ。
そのオーバーキルとすらとれる程に注ぎ込んだ火力は、ほむらが眼前の戦士から感じた得体の知れなさの裏打ちでもあった。
持てる全てのバズーカを使用した同時攻撃。
ワルプルギスの夜に用いようと考えていた戦術だ。
流石に跡形も残ってはいないだろう、そう考えてほむらは地面へと崩れ落ちる。
死ぬ事はなく、痛覚も緩和されてるとはいえ、ダメージは甚大だ。
何処かでゆっくりと治癒に努めねば、これ以上の行動は困難。
ともかく治癒魔法をと、ほむらがソウルジェムを取り出した。
その時であった。
「―――惜しいな」
彼女は見た。
爆炎の残渣の中で起つ、それの姿を。
傷一つすらない、それの姿を。
白色の異形は、まるで何もなかったかのようにそこに立っていた。
バサリと、身を包んでいた黒色のマントを払う。
「良い判断だ。このマントがなければ、流石にやられていただろう」
ほむらの表情には驚愕しかなかった。
あのワルプルギスの夜と相対した時のようだ。
胸に込み上げる敗北感に身体が動きを止める。
異形の戦士が、ほむらへと歩み寄る。
黄色の瞳に見据えられながら、ほむらはまるで時が止まったかのように動けないでいた。
そして、距離が失われる。
拳が届く間合いに入られ、それでもほむらは立ち上がれなかった。
それきり無言でほむらを見詰める異形の戦士。
先程と同様に何かを観察するようであった。
それから十秒の時間が経過し、異形はようやく口を開く。
「嬢ちゃん、俺と手を組まないか」
それは、ほむらにとって全くに予想外の一言だった。
先程まで殺しあっていた存在からの協定の持ちかけ。
男が何を思ってこのような考えに至ったのか、ほむらには分からない。
ただ、その言葉にまやかしは感じられなかった。
ただ淡々と、それだけを告げて、戦士は腰のベルトから手のひらサイズの直方体を引き抜いた。
崩れ落ちる戦士の鎧。
鎧の奥から現れたのは、先程の男であった。
男は無表情に、ほむらを見詰めている。
ほむらの方はと言えば、唐突かつ前後の繋がりの見えぬ申し出に困惑を浮かべるしかない。
どう返答するのが正解なのか、何を思って男はこのような申し出をしたのか、ほむらには判断がつかなかった。
「お前も殺し合いに乗っているんだろう? ならば、一人より二人の方が効率がいい」
呆けるほむらへ男は語る。
それは提案であった。
男がその提案を上げた理由は、やはり分からない。
分からないからこそ、ほむらは悩む。
男の真意はどのようなものなのか。
分からない。
「いわば協定みたいなもんだ。俺は『青色』だ。お前が『青色』ならば何も問題はない。俺とお前以外の全てを殺せば、それで終わりだ。
お前が『赤色』なら……そうだな、俺を利用すると考えれば良い。俺を利用し、自分の負担を減らし、最後に俺を殺して良いとこだけをとれば良い」
分からないが、提案を断るにはあまりに状況が悪かった。
現在の男ならまだしも、あの異形と化した男には到底敵う気がしない。
そう考えれば、もはや選択肢は無いも同義だ。
答えは、決まった。
「……そうね、その提案を呑むわ。協定を結びましょう」
ほむらは男の提案を受け入れる。
返答に男は、小さく頷いた。
「良い判断だ。馬鹿ではないらしい」
「それはどうも」
男の皮肉に頷くことしかできない。
とはいえ、男は完全に戦意をなくしたらしい。
どうやら協定とやらは本気のようであった。
「俺は大道克己。またの名は、仮面ライダーエターナルだ」
「仮面……ライダー?」
「仮面ライダーについては機会がくれば話す。お前の名は?」
「暁美ほむらよ」
「そうか。さて、暁美ほむら。薄っぺらな協定だが、何時かくる裏切りの時まではしっかり動いてもらおう」
「分かってるわ」
そうして出来上がる協定関係。
薄い薄い氷の上にあるかのように、今にも崩れ落ちそうな不安定な協定。
そんな危うい協定で成り立つ相棒を手に入れ、男……大道克己はひたすらに無表情だった。
当初の印象はただの戦闘狂といった様子であったが、どうやらその内面は違うようである。
「……あなたは何故こんな提案をしたの? 殺そうと思えば殺せた筈よ。
その方があなたにとっても手っ取り早い筈。それなのに、何故?」
無言でこちらを見てくる克己に、ほむらは問わずにはいられなかった。
問答無用で襲い掛かった相手を見逃し、あまつさえ協定を持ちかけるとは正気の沙汰ではない。
何が男にそんな選択をさせたのか、それがほむらには気になって仕方がなかった。
「……ただの気まぐれだ」
それきり克己はほむらに背を向け、歩き始める。
これ以上答える気はないらしい。
疑問は晴れないほむらであったが、まぁ良いと思考を打ち切る。
今はこの男に従うしかない。
だが、何時か来る『その時』の為に、牙を研ぐ。
優勝し願いを叶えるために、何より彼女を救うために―――。
絶対に救ってみせると、再びの決意を胸に、暁美ほむらは己を殺して、克己に従う。
魔法少女とNEVER。
片や異能が創り出した死者。片や科学が創り出した死者。
両者の間にある異様な共通点には気付くことなく、二人の動く死体が肩を揃えずに歩いていく。
【C-3・森林・深夜】
【大道克己@仮面ライダーW】
[状態]健康
[装備]克己のナイフ@仮面ライダーW、ロストドライバー@仮面ライダーW、エターナルメモリ@仮面ライダーW
[道具]支給品一式、、携帯細胞維持酵素@仮面ライダーW、細胞維持酵素@仮面ライダーW、携帯酵素@仮面ライダーW
[『色』]青色
[思考]
1:殺し合いに乗る
2:ほむらと共闘する
【暁美ほむら@
魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]健康
[装備]ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、ほむらの拳銃@魔法少女まどか☆マギカ、ほむらの機関銃@魔法少女まどか☆マギカ、
ほむらの手榴弾×5@魔法少女まどか☆マギカ、ほむらの爆弾×5@魔法少女まどか☆マギカ、予備の弾丸@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]支給品一式、ジュエルシード@魔法少女まどか☆マギカ
[『色』]青色
[思考]
1:優勝し、願いを叶える
2:まどかを救う
3:克己と共闘する。いつかは殺害する
最終更新:2013年01月22日 21:38