宮藤芳佳は暗闇の中で座り込んでいた。
膝を抱えて、考える。
先程の出来事。
人々同士で行われる
殺し合い。
おの男の人は何を目的でこんなことを行うのか。
他人を想って行動することのできる宮藤には、到底理解のできぬことであった。
周囲は無人の警察署。人の気配はない。
静寂の中で宮藤は考え抜くことしかできなかった。
動こうにも動けない。
あまりに異常な状況に普段の無鉄砲なまでの行動力はすっかり鳴りを潜めてしまった。
あるいは、宮藤自身も彼女の自覚できないところで恐怖を感じているのか。
分からないが、ともかく宮藤は動けなかった。
動けずに鈍く堂々巡りの思考の迷宮に陥ってしまっている。
そうして時間ばかりが無駄に経過していき、殺し合いが進展していく。
彼女のあずかり知らぬところで、争いだけが激化していく。
思考の中にあった宮藤は気が付くことができなかった。
自身へと歩み寄る者の存在に。
チャキリという音と共に、眉間へと突きつけられる銃口の存在に。
「え……?」
何となく人の気配を感じた宮藤が顔を上げると、そこには人がいた。
逆光となりその者の顔は見えないが、その手に握られてる物は宮藤にも確認できた。
拳銃だ。
宮藤たちウィッチが扱うような重火器の類ではない。ただ宮藤の命を奪うには十分すぎるほどの威力がそれには秘められている。
突然の事態に思わず息を呑む宮藤。
その引き金が引かれれば、次の瞬間にも死ぬ。
大きすぎる事態を前に思考が停止し、逃げることすらできやしない。
眼前の光景が何処か現実のものとは思えずに、宮藤は茫然と銃口を見ていることしかできなかった。
だが、何故だろか。
拳銃を突きつける者―――その体躯からして男だろうか―――は発砲することなく、上着の胸ポケットから何かを取り出した。
それは一枚のコインであった。
男は拳銃を握る方とは逆の手でコインを弾き、キャッチする。
綺麗な回転を描いて夜の空を舞ったコインは月光に照らされて、それはそれはとても幻想的なものに映った。
手を開き、キャッチしたコインを確認する男。
一連の流れは、とても手慣れた動作であり、流れるように行われた。
男は、無言だ。
何も言わず己の手中を見て―――そして、何も言わずに引き金を引く。
宮藤が知るそれとは遥かに小さい銃声が響き渡り、だが弾丸は宮藤の決して豊満とはいえない胸を貫いた。
その奥に在る心臓ごと、弾丸は全てを抉り尽くす。
宮藤はやはり何も言う事ができずに、倒れ伏した。
純白の制服がどす黒い鮮血に染まっていく。
鮮血の染みはゆっくりと拡大していき、ついには純白の全てを塗り潰す。
宮藤芳佳は、鈍く重い思考で、願った。
死にたくない、と。
まだ空を飛びたい、と。
空を飛び、誰かを守るために、戦いたい、とと。
それは心底からの願いで、だがもはやそれは、誰にもどうすることのできない願いでもあった。
視界が黒く染まっていく。身体に力も入らない。
ウィッチとして天才的なまでの才能を有した少女が、このような場所で何も成さずに死んでいく。
もう一度空を飛びたいと、そう祈りながら宮藤芳佳の生命が萎んでいく。
『それが、君の願いかい?』
そうして漆黒の意識から遂に何もかもが抜け落ちようとする寸前、宮藤は最後に何か言葉を聞いたような気がした。
その言葉が何なのか、宮藤には分からなかったし、思考することさえ出来なかった。
そうして、宮藤芳佳は死亡した。
もう一度空を飛びたいと、そう祈りながら、若きウィッチは死亡した。
◇
世界を動かず様々な事象。
その中で唯一平等なものは『運』だと、その人物は信じんていた。
コインの裏と表。二分の一の世界。
世界はたったそれだけを平等にして廻っていて、動いている。
だから、この殺し合いの場でも、機会を与えた。
室内の隅側でで呆然と坐する若き少女。
その生死の判断を、コインへと託した。
表が出れば見逃し、裏が出たら殺す。
コインが導いた答えは裏であった。
少女は『運』に見放されていたのだろう。
暗闇の中にいながら自分に発見されたことも、二分の一を引き寄せられなかったことも、そもそもこんな殺し合いなどに拉致されたことも、―――すべては『不運』だったからだ。
『不運』だから、死んだ。
だが、この死をもって現在の異常事態から解放されるのならば、あの少女はまだ『幸運』なのかもしれない。
もし、これだけ『不運』な彼女が生存したとして、その先に待ち受ける受難は『死』よりも過酷な道だったのかもしれないのだから。
そう考えれば、あの少女は『幸運』だろう。
「……『幸運』(ラッキー)だったな、お前は」
少し考えた後に、結局として男―――トゥーフェイスは、死んだ少女に対して『幸運』の言葉を送った。
【A-5・警察署・深夜】
【トゥーフェイス@バットマン】
[状態]健康
[装備]トゥーフェイスの拳銃@バットマン、トゥーフェイスのコイン@バットマン
[道具]支給品一式
[『色』]青色
[思考]
1:『不運』な奴を殺害する
◇
「う、う~ん……」
そして、全てが終わった後の場。
宮藤芳佳は、まるで昼寝から起きるかのように呑気な声を上げながら、体を起こした。
固まった背中を伸ばし、腫れぼったい瞼を擦る。
『やぁ、目が覚めたかい』
「あ、はい。おはようございます」
聞こえる声に挨拶を飛ばしながら、周囲を見回す。
見慣れぬ部屋だ。少なくとも自分の部屋じゃない。
何でこんな所で眠っていたんだろうと思いながら、宮藤は首を傾げる。
昨日はネウロイの襲来もなくて、坂本さんにこってりと絞られて、それで……それで……―――、
「あ」
そして、思い出す。
自分が巻き込まれてしまった殺し合いを。
自分の身に降りかかった出来事を。
謎の人物に拳銃で胸を撃たれた記憶を。
全て思い出す。
思い出し、再び周囲を見る。
先程のようなのんびりとした動作ではなく、警戒に満ちた瞳で周囲の全てを余すところなく観察する。
床は黒い液体で塗り潰されており、自身の服も黒色で染まっていた。
服の胸部には大きな穴が開いている。
内側のズボン兼インナーの下着にも穴は開いている。
だというのに、自身の身体には傷一つ付いていなかった。
「な、なんで……! 私、う、う、う、撃たれ……」
何が起きたのか、今度こそ宮藤は分からなくなった。
思い出してしまえば、記憶は鮮明である。
『死』の経験。全てが抜け落ちていく喪失の記憶。
今思い出しても体中に震えが起こるのが分かる。
なのに、記憶の中と違って今の自分はまるで無傷な状態だ。
『落ち着いて。今が君が生きているのは、君の願いのおかげだよ』
混乱に陥る宮藤に声を掛ける者がいた。
幼い、少年のような声だ。
声は直ぐ耳元から聞こえ、混乱状態の宮藤の耳にも届いた。
声の下方へ―――自身の耳元へと顔を向ける宮藤。
そこには宮藤の見たことのない不思議な何かがいた。
「きゃ!」
白色の身体に赤い瞳。
小型犬くらいの大きさの獣。
その見た目は、他の動物では例えられないくらいに奇抜なものであった。
獣は宮藤の肩に乗りながら、口も動かさずに言葉を吐いていた。
宮藤は思わずその獣を振り払う。
肩口から跳び、華麗に地面へと着地した獣は表情も変えずに、宮藤を見た。
『いきなり何をするんだい? 酷いじゃないか』
「あ、あなたは……?」
『僕はキュゥべえ。素質を持つ少女と契約して、その願いを叶える存在さ』
「素質……契約……? な、なにを言ってるの……」
全く事態が把握できないでいる宮藤にキュゥべえと名乗った獣は困ったように首を傾げた。
『君は何も知らないからね。混乱するのも無理はないか。じゃあ一から説明していこうか』
そうしてキュゥべえの口から語れたのは信じられないような話の数々であった。
魔法少女、契約、魔女、ソウルジェム、グリーフシード……一言で言ってしまえば『訳が分からない』そんな話であった。
ただ話の中で何となく宮藤は気付く。
自分が胸を撃たれて何故生存できているのか、その理由を。
「じゃ、じゃあ、もしかして私は……」
『そう。緊急事態だから事後説明になってしまったけどね。宮藤芳佳―――君は、魔法少女になったんだ』
「え、ええ~~~~~!?」
信じられないような出来事の連続に、驚きばかりが胸を占めている宮藤。
驚きの声を出す宮藤に、キュゥべえは淡々と語る。
『君は素晴らしい素質をもっていたようだね。普通の魔法少女より数段強い魔力を感じるよ』
「そ、そうなんだ……」
『そうだ。まだ良く事態が分かっていないようだし、一度魔法少女に変身してみたらどうだい?』
「でも、変身っていったってどうすれば……」
『そうだね。普通の魔法少女は念じるだけで変身しているけど』
「こ、こうかな?」
要領としては、魔力を練る時と同様であった。
集中力を高めて、己の内にある魔力を練り上げる。
瞬間、光が宮藤の胸を中心に発生し、その身体を隠した。
「わ! す、すごい!」
直後に現れた宮藤の姿は大きく変わっていた。
その両手には宮藤が武器としているものと酷似した形状の機関銃が一丁。
その両足には、これまた宮藤の愛機たる『震電』とも良く似た形状のストライカーが一機。
だが、それぞれの武装は、本来のものとは大きく異なる箇所が見受けられる。
機関銃には銃口や弾倉がなく、本来銃口がある筈の箇所には銃剣のような金属製の突起物と、それを上下から挟むように短い鉄針が伸びている。
ストライカーに関しては、先端の二対の魔導プロペラとは別につけられた、副翼の魔導プロペラに目がいく。
それら二つの武装が、何もない空間から現れて宮藤に装備されていた。
「うわ~……すごいね、キュゥべえって」
『凄いのは宮藤芳佳、君自身だよ。さっきも言っただろう? 君は素晴らしい素質をもっているって。その素質が現れたのは、その姿さ』
「へぇ~」
こうなってはもう感嘆の声しか出て来ない。
試しに空を飛んでみると、その驚異的な性能に驚かされる。
旋回性能も、加速力も、最高速度も、宮藤の愛機たる『震電』以上どころか、ストライカーという枠を越える程の異常なまでの性能があった。
「……ねぇ、キュゥべえ。私の願いって」
『―――『また空を飛びたい』だね。それが君が心の底から思っていた願いだった』
「そう、なんだ……」
宮藤は思う。
この力があれば皆を救えると。
誰もが誰もを、この異常な殺し合いから救えると。
それは宮藤にとってこれ以上ない程に嬉しい事であった。
「ありがとう、キュゥべえ」
『いえいえ。礼を言うのはこっちの方さ』
そうして授かった力。
だが、宮藤は知らない。
『魔法少女』のその宿命。
終わりが定め付けられた、悲しき宿命。
『―――ありがとう、宮藤芳佳』
知らず、新たな力を手に入れた少女は、嬉しさに胸を弾ませていた―――。
【A-5・警察署・深夜】
【宮藤芳佳@ストライクウィッチーズ】
[状態]健康、魔法少女化
[装備]ソウルジェム(穢れなし)@
魔法少女まどか☆マギカ
[道具]支給品一式
[『色』]青色
[思考]
1:この力で、殺し合いを止める
[備考]
魔法少女状態の芳佳の装備は、フミカネ氏がツイッターに投稿したスーパー芳佳ちゃんそのままです
【キュゥべえ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[『色』]なし
[思考]
1:ありがとう、宮藤芳佳
2:契約、契約。特にまどか優先
最終更新:2013年01月28日 21:20