「はぁ……バットマン、ですか」
「そうだ」
高町なのはは、正直なところ大分困惑していた。
オジマンディアスによって語られた狂気のゲーム。
絶対に止めてやろうと決意し、戦うことを誓い、行動を開始しようとした時のことだ。
暗闇が、喋った。
いや、真実を言えば暗闇の中に潜んだ男(?)が話し掛けてきたのだ。
声は直ぐ傍で聞こえたもので、何時の間にやら相当に近い距離にまで接近されていた。
高町なのはは、歴戦の魔導師である。
探索魔法を使用していた訳ではないが、当然周囲へ警戒を飛ばしていたし、常人ならば接近するよりも先にその存在に気が付けた筈だ。
だが、男はなのはの警戒網を潜り抜けて闇にいた。
闇に紛れていたのは、まるで蝙蝠の仮装をした男であった。
黒衣のマントに黒衣のスーツ、そして黒衣のマスクに包まれた黒づくめの男。
男は、初めに問い掛けた。
お前の名を教えろ、と。
なのはは、自身の名と管理局についてを語り、
殺し合いの阻止を伝えた。
言葉に、男は頷き、己を語った。
男は、名をバットマンと言った。
どう考えても本名ではないその名に、なのははどう反応すれば良いのかが分からなかった。
「えーと……何であなたはそんな恰好を?」
「隠すためだ」
「隠すため……?」
「恐怖を、狂気を、己を隠すため―――それがこのコスチュームの意味だ」
男の声には、真意しかなかった。
その冗談のような見た目とは裏腹に、言葉は真剣そのもの。
全てが真剣であり、声からは強靭な決意がみてとれた。
「……バットマン……さんは、どうするつもりです?」
なのはは判断できないでいた。
眼前の男は一体何者なのか。
恰好だけ見れば正気の沙汰ではない。
だが、言葉は整然としていて、纏う雰囲気は常人と一線をがした何かを感じる。
様々な人間や犯罪者を見てきたなのはであるが、男のような存在は初めてであった。
「戦う」
「何のために?」
なのはの問いに、それまで澱みなく言葉を紡いでいた口が、一瞬止まった。
僅かな思考の後に、再び動く唇。
声には感情があった。
そして、黒衣の仮面から唯一覗く口元にも、隠しきれない感情が。
「―――息子のためだ」
バットマンが語った言葉に、なのはは息を呑む。
なのはの戦う理由も同じだったからだ。
殺し合いの名簿に記されていた最愛の娘。
なのはは何をしてでも娘を救出すると決意していた。
「息子さんが……この場に?」
「ああ」
「そんな……」
息子のために戦うと告げた男。
男が悪い者には見えなかった。
殺し合いという異常下で己を見失わない強靭な精神。
異質な身なりも、強い決意の裏返しと言える。
男は、戦士であった。
「……私も、そうなんです」
「どういう意味だ」
「娘が、この殺し合いに呼ばれています」
「……そうか」
同じ境遇で、同じ選択へいたった男に共感を感じたのだろうか。
それとも心の苦しみを誰かに伝えたかったのか。
……おそらくはその両方か。
なのはもまた告げていた。
娘のこと。高町ヴィヴィオ。
命を賭しても救いたい娘。
バットマンはなのはの言葉を無言で聞いていた。
「私も戦いたいと思います。娘のために、そして人々を救う為に」
なのはの決意に、バットマンは頷くだけであった。
無言で見詰めてくるバットマンに、なのはもまた小さく頷く。
会話が終わる。
多くを語った訳ではない。
だが、なのはは眼前の男と繋がるものを感じていた。
「私は、行きます」
そして、両足に淡い桜色の魔力翼を発現させて、宙に浮かぶ。
共に行動しようとは言わなかった。
なのはにはなのはの、男には男の目的がある。
それにバットマンには底知れぬ『何か』を感じる。
例え、己よりも遥かに強い敵と遭遇したとしてもどうにかしてしまうのではと思える『何か』を、感じた。
「そうだ。息子さんの名前を聞いてませんでしたね」
「ブルース……ブルース・ウェインだ」
「分かりました。出会ったら保護させてもらいます」
「ああ」
なのはは気付けない。
バットマンの語ったブルースという名が、参加者名簿には記されていない事に。
「気を付けて下さいね」
気付かぬままになのはは告げる。
同じ境遇の父へ、鼓舞するように。
バットマンは再び頷いた。
その頷きを見届けて、それきりなのはは黒衣の騎士に背を向け、空へと舞いあがる。
「……後悔だけは、しないようにしろ」
飛び去る寸前で聞いた一言は、真摯なものであった。
なのはの頬が僅かに緩む。
決意が深まっていくのを感じた。
娘を、人々を、絶対に救って見せる。
エース・オブ・エース。
最強の魔導師。
生ける伝説が殺し合いの会場を飛翔する―――。
【D-4・市街地・深夜】
【高町なのは@魔法少女リリカルなのは】
[状態]健康
[装備]レイジングハート@魔法少女リリカルなのは
[道具]支給品一式
[『色』]青色
[思考]
1:殺し合いを止める。ヴィヴィオを探す
2:ブルースと出会ったら保護する
◇
「高町なのは、か……」
バットマン―――いや、トーマス・ウェインは何処か苦い気持ちで、飛び去るなのはの背中を見ていた。
娘が殺し合いに巻き込まれ、それでいて人々を救うと断言した女。
最愛の者が殺し合いに参加させられている境遇に、共感はある。
だが、自分と高町なのはとには大きな違いがあると、トーマスは考えていた。
彼女は高潔な選択をした。全てを救うという選択を。
トーマス・ウェインは、違う。
彼は下劣な、しかしある意味では誰よりも愛に満ちた選択をした。
彼がなのはへ語った言葉には虚偽はない。
ただ、そのままだ。
トーマス・ウェインは息子を、ブルース・ウェインを救うために行動する。
ブルースを救うために―――他を殺す。
彼は最初にオジマンディアスが語った場にて見た。
自分と酷似したコスチュームに身を包む者を、もう一人の『バットマン』の姿を。
瞬間、理解した。
この『バットマン』こそが、別次元の世界から来たという光速の男が語った息子なのだと。
理解し、全ての優先順位が入れ替わった。
何をしてでも『バットマン』を……最愛の『息子』を生還させる。
唐突に拉致された場。語られる殺し合い。
トーマスはオジマンディアスの言葉を聞きながら、そう決意した。
おそらくは誰よりも強く、深い意志をもって、決意した。
殺し合いの中で区分された『色』。
名簿に記された二人の『バットマン』はどちらもが『青色』であった。
ならば話は簡単だ。
全ての『赤色』を排除し、名簿を『青色』に染めつくす。
そうすれば息子は生還できる。
例えブルースが『赤』であったとしても、トーマスは同様の選択をしたのだろう。
息子以外の全ての排除を。
他を全て蹴落としての選択に行き着くのだろう。
かつての生活。かつての幸福。かつての―――過ち。
あの過ちをやり直せるのならば、息子を救えるのならば、トーマス・ウェインは『悪役(ヴィラン)』となれた。
「……『赤色』は13人」
参加者名簿に記された名の中で『赤色』は13名。
感慨はない。
例えその数が何十、何百だろうと今のトーマスに迷いはない。
ただ、唯一。
唯一、『赤色』の中のあった一つの名に、動きを止めた。
高町ヴィヴィオ。
先に出会った魔導師が語った『娘』の名。
自分と同様の境遇で全てを救う選択をした高町なのは。
その娘の名は『赤色』に区分されていた。
感慨は、ない。
『赤色』であるならば、殺すだけだ。
「ブルース……」
『息子』のために全てを殺す。
それは父親から息子への、変わることのない愛が故の選択。
それは悲哀と悲壮に満ちた決意。
闇の騎士。
生ける伝説『バットマン』が、殺し合いの会場を行く。
【D-4・市街地・深夜】
【バットマン(トーマス・ウェイン)@フラッシュポイント】
[状態]健康
[装備]バットマンスーツ@フラッシュポイント、万能ベルト@フラッシュポイント、バットラング@フラッシュポイント
[道具]支給品一式
[『色』]青色
[思考]
1:ブルースを救う。『赤色』の参加者を殺害してまわる
最終更新:2013年02月07日 17:34