海辺

 魔法使いは海辺を見る。自分の来ているところはここじゃなかった、ということはすぐわかった。
 状況判断。レレイ・ラ・レレーナはまず己の状況を判断する。
 確かに彼女にとっても「殺し合いに参加させられる」ということは突然の出来事である。
 だが、からといって動転するほど彼女は甘い者ではない。炎竜との戦いなど場数を踏んできた魔法使いである。
 なおかつ彼女は天才と言われる者だ。安直な状況判断などはしない。
 まず必要なことは身の安全を図ることである。
 彼女は殺し合いに参加する気はなかったが、殺されたいわけではない。 
 近くにあった草原に生える岩陰に身を隠し、支給品を確認する。

(しかしこれはどういう構造……?)
 レレイは不思議に思う。彼女がこの場にいた時、近くにバッグについてである。
 彼女はバック自体は知っている。かつて日本に訪れた時、そこの人間が持って歩いていたからだ。
 考えるに中にものをいれて運ぶ、便利のよい籠のような存在。そこまではわかっていた。
(だけどこんなに「物が入る」ことなんてあるのだろうか……?)
 その中には鉈と白い謎の衣装とショベル、そして猫が入っているのだ。
 普通に考えてバッグの中に入る量ではない。仮に入っていたといても、バッグの大きさを考慮すればギチギチになっているはずだ。
 にも関わらず、それぞれが余裕あるような隙間がある。
(いくらなんでも日本の技術力でもここまでできるのか……? そもそもこれはあちらの世界の「物理」を超越しているのでは……)
 レレイは興味津々を形にしたような少女である。この未知の構造をしたバッグも気にならないとなれば嘘になる。

(だが、そんなことをしている暇はない)

 レレイはすぐに切り替え、支給品の詳細を確認する。
 ショベルと鉈は、何の変哲もないものであった。
 武器として使えないことはないが、レレイは白兵戦は不得手である。
 盾や、なんらかの防具があれば、自分の魔法の補助になる。
 彼女の得意とする爆裂魔法はそれなりな威力があるため、本体の防護さえきちんとしていれば、効果的なのである。

(これもまた……もしかして日本以外には実用化されているのか?)
 そんな怪訝な目を向けた先は白い衣服である。
 頭が三角筋、もっというならイカのようになっている。
 両腕の裏に赤が配色がされており、胸の部分には目のような突起物がある。
 おそらく「イカ」を模したものだろう、とレレイは思う。
 興味で日本を調べる時に、そんな生き物を目にしたような記憶があったのだ。
 そんな現実的なものに反して、この服の効果は着ると透明になるという。
 そんな機能があるものは日本でも聞いたことがなかった。本当かと試しに着てみたが、どうやら効果は確かなようだ。
 流石に強い衝撃を受ければ壊れるらしいが、そんな技術を獲得している時点ですごい。
 そして猫。単なる猫である。それ以上でもそれ以下でもなかった。
 先ほどのイカスーツにも説明書がついており、それで透明化の要素を知ったのだが、今回の猫はそれでしかない。
 櫻田家、という「王族」の家で飼われている猫、という説明を見て、レレイは思う。

(櫻田……という名前からしておそらく日本の人間と思われる。だが少なくとも私の知っている日本は『王政』ではなかった。確かに日本には皇族はいるが、それならば説明も皇族になっているはず。仮に大雑把に『王族』としていても、日本のそれには名字がなかったはずだ)

 矛盾が伴う。そもそも地図を見るに、ここに自衛隊駐屯地がある時点でおかしい。
 彼女が知っている限り、こんな土地に自衛隊は駐屯していないはずだ。
 たとえそれを知ってなくても、門がなぜこんなところにあるのか。アルヌスの丘はここではないはずだ。

(となると、意図的にここに門を召喚させた可能性もある。門は異世界を繋ぐ者だから、『櫻田』という王族がある世界と繋げたかもしれない。そうやって参加者を集めて……)

 と思いながらレレイは参加者名簿を見る。
 櫻田と呼ばれる王族であるらしいものは、なんと5名もこの殺し合いに参加させられているらしい。
 とは言ってもこれは憶測にすぎない。レレイがいくら天才と言ってもGATEの向こう側の世界を完璧に把握しているわけではないのだ。
 もしかしたら櫻田という王族が他の世界にいるかもしれないし、自分の知っている皇族の知識が間違っているかもしれない。
 確証を得るにはもっと情報が必要だ。レレイはまだ判断しない。

(……少なくとも自衛隊の隊員と、そしてロゥリィをここに呼んでいる時点で油断はできない)

 自衛隊。自分の生きる世界においては最強の軍隊。
 ロゥリィ。自分の生きる世界において最強クラスの人物。
 そんな人物をこの殺し合いに参加させている。生半可な実力や組織力がなければ不可能だろう。
 とはいえ、仲間にはしたい者達だ。彼女は参加者名簿を確認すると、とりあえず仲間に合流する方法を考える。
 おそらくこの自衛隊駐屯地、ついでに付近にある門に集まるだろう。
 だとしたら、そこに向かうのが一番確実。とすると、まず現在地を把握する必要がある。

 現状の把握のためには歩く必要がある。ならば今、必要なものは姿を隠すことだろう。
 透メイカーはそれに最も適している。今のところ、敵と交戦する必要もないし、武器も必要ないだろう。
 そう思ってまず鉈を入れ、次にショベルをバッグにしまうと手にとった。
 土を掘る先端が他の者を映した時、レレイの耳に声が入ってきた。

「そこの人ー!」

 呼び止められたようだ。レレイは振り向く。
 敵意はなさそうな声だが、油断せず、防御魔法の展開を考慮する。
 眼前にはツインテールの――おそらく日本の「学生服」を着た少女がいた。

「そのシャベル、私の―!」


 少女の名前は恵飛須沢胡桃。私立巡ヶ丘学院高等学校三年。学園生活部部員。
 男勝りで、性格に合うように運動神経もいい。
 レレイが色々と会話を交わしてわかるのはそのことと、彼女の移動した地理情報から自分のいる場所がC-1だということ、そして胡桃という少女は少し甘い性格なのではないか、ということである。

(おそらく日本に住んでいる「学生」という、言うなれば一般市民なのだろう。しかし、だからといって不用意に人の元へ近づくのは危険。殺し合いという場では迂闊ともとれる)

 もちろん自分は殺す気はないし、相手も殺す気がないのはわかっている。
 先ほどの「異世界から集められた」仮説を証明するためにも情報は得たい。
 ただ、これから行動するとなると、かなり厄介になるのでは、と思っただけである。

(ただ、運動神経は恐らくこの少女の方が上。先ほど、こちらへ向かってくる走りをみれば健闘はつく。もし、何らかの状態で魔法が使えなくなれば、心強い味方になるかもしれない)

 もっとも、一番は自衛隊などの戦士であるが、などとレレイは考えていると、胡桃は不思議そうな顔で話しかける。

「何か言いたいこと、ある?」
「あ、いや、別に」

 言っても仕方のないことだ。
 レレイはまず少女から開口一番にねだられたシャベルを手渡す。 どうせ自分には扱える武器にはできないし、飛ばす武器としてはそこそこの効果があるかもしれないが、せいぜい「そこそこ」止まりだ。
 それより物々交換の材料に使った方がいいと判断したのである。

 そのようにレレイは思っているが、この胡桃という少女は、彼女の思うほど、甘くはない。
 胡桃の支給品の1つに双眼鏡がある。彼女がこの地に着いた時、まずこれで周囲を観察した。
 わかるだろうが、これは警戒のためである。
 その途中で彼女は、青髪の少女、レレイを見つけたのである。
 修道士というか、魔法使いのような格好をしていたのでそこは不思議だが、まず警戒対象として目星をつけた。
 彼女の支給品ももちろん把握できた。そして自分の獲物であるショベルを目にしたのである。
 胡桃からしてみればこのショベルは手に入れたいものであった。
 彼女は映画でいう「ゾンビ」、彼女の世界で言う「かれら」を相手に生き残ってきた者である。
 そんな生死の狭間を行き交っていた彼女であるが、あくまでも敵は「人間ではない」存在である。
 というよりは「人間でない」と思わなければ殺せなかった。
 それはさておき、つまり相手が人間というのは初めてなのだ。
 だからこそ、かつて持っていた武器は持っておきたい。
 シャベルは本来武器として使うものではないが、それでも使い慣れたもの得るというのは、この不可思議な状況下、必要とするものであった。
 幸い、自分の武器に中に銃器があった。
 青い髪の女は何やら透明になれるらしいが、武器はあくまでも近距離用。
 少なくとも逃げる術には活用できるだろう。
 相手は見るところ、自分よりは体格がよくない。チャンスは十分にあるだろう。

(にしても……あたしも少し安直だったかもな)

 胡桃も完全に安全というわけではない。レレイの思ったように「甘い」部分もある。
 その要素の1つは現在、胡桃が見ているものである。
 鉈が浮いているのである。比喩でもなんでもなく、鉈が浮いている。
 それがまたヘリコプターのように動く。
 そのような物理法則を無視したような動きを、レレイは起こしていたのだ。

「それがレレイちゃんの、魔法、ってやつ? こんなの初めて見たよ……」
「あなた達の『日本』でもそれは滅多に見ないということ?」
「滅多に……というよりさっぱりだな……」

 こんなもので攻撃されたら慣れない銃撃などあまり意味がない、と胡桃は心の中で冷や汗をかいた。
 彼女もその類のものがこの世界にないと思っているわけではない。
 会場に集められた時の「アヴドゥル」という男は謎の炎を発射する人型のものを召喚していた。
 だが、胡桃はそれだけでは確信できない。あまりにも非現実的で信じられなかったのだ。
 主催者の使ったマジックや、演出や、そういう類のものと思っていたのである。
 今回の魔法をみてやっと納得できたが、これは迂闊だった。
 たまたま運がよかったからいいものの、これから気を付ける必要はあるだろう。

(あたしも『絶対に』ないとまでは思ってなかったんだけどな)

 胡桃はレレイの持っている杖をみながらそう思う。
 この杖は本来、胡桃の支給品である。ショベルとの物々交換で決めたものだ。
 釣り針のような杖の頂上に丸い球がついている。
 奇怪な形だがこれは単なる変なオブジェではなく、魔法使いにとっては優れものである。
 簡単にいえば「魔力を使う段取りを省略し威力を高める」ものである。
 例えば呪文や詠唱など、そういうものが必要になる魔法を省略し、すぐさま効果を発揮できる、ということだ。
 それプラス威力を高めるおまけつきである。
 元々魔法使いではない胡桃には魔力もごく少ないため、使用にはできないがレレイは天才的な魔法使いである。
 その効果は絶大だろう。レレイにとっては強力な武器となる。

「さて……ここで聞きたいんだけど、あなたのいる『日本』では死霊、もしくは『ゾンビ』が跋扈しているのか?」
「『ゾンビ』……まあ例えるとすればそんなもんかな。詳しいことはわからないが、多分、壊滅的な状態かな」

 壊滅的、となるとおかしい。レレイは思う。
 彼女も日本全土を渡っていたわけではないが、壊滅的となれば話は別だろう。
 日本には自衛隊と言う相当な戦力があるわけだし、ゾンビの退治など造作もない筈だ。
 そんな軍隊でも太刀打ちできない状態のゾンビの跋扈……となるとレレイの知っている日本とは大きく異なるわけである。
 また「櫻田」という王族を知っているか、と聞いても知らないと答えられた。

(となると、櫻井家がいる世界と胡桃のいる世界は別。もちろん私のいる世界は別……ということになる。もちろん、精神が錯乱している可能性はあるけれども、「門」と存在がある以上、それはそこまで重視できるべきこととは思えない)

 おそらく「櫻田家」の一人と会えば確信が持てるだろう。
 レレイはそう思いながら、胡桃に話しかけた。

「ここからあなたはどこに行くつもり? やはり巡ヶ丘学院高等学校?」
「まあそっちには向かいたいところだが……そもそも私と同行するのか? 魔法なんか使えないし足手まといもいいところだと思うぞ」
「そこまで不要とはいえない。確かにあなたに魔法は使えないが、運動神経は私より優れている。これは憶測だが私に対抗できる魔道士もいるかもしれない。その際に私の魔力が尽きた時、一番頼りになるのはあなた」
「運動神経って……そりゃ戦ったことがあるけど、レレイの言ってた自衛官やら、ロゥリィって人やらに比べたら、格下だぞ」
「たとえそうでも、現時点の私においてはとても必要な存在。もちろん、あなたが嫌というならそれでいい」
「いやいやいや、あたしはむしろ同行を頼みたいよ。その魔法なんてのは大きな武器になるし。逆にレレイは行きたいところってあるの?」
「自衛隊の駐屯地、および門。おそらく仲間もそこに集まると思われる」
「レレイの仲間って強いんだろ? ……もちろん私も自分の友達には会いたいけどさ、私が死んじゃったら元も子もないし」
「その点は大丈夫。そもそも戦闘力・生存能力が共に優れているため、後から合流しても問題はない。距離としても巡ヶ丘学院高等学校が近いため、手っ取り早い」
「そうか……? いやそうしてくれるのはありがたいんだが、どうして」
「西部の都市部は学校が集結している。あなたの在籍していた高校が本来の場所ではなくここに写されているということは、他の高校もそうなっている可能性はある。つまり人が集まりやすいということ。私達の仲間を増やすことはできる」
「脱出する同士ってことか……。でもこの殺し合いにも乗ってる奴はいるかもしれないぞ」
「殺し合いに乗っていても学生か、教師の類。兵士や戦士のような人間に比べたら危険性も戦闘力も弱いだろう。仮に高い者がいても、遮蔽物が多い方が私の魔法や、一般市民のあなたにとっては有利。少なくとも草原という範囲が広い場所よりは生存できる可能性が高い」
「おお……すっごい考察……。なんか全然考えてなくて申し訳ない気分だよ……」

 胡桃はレレイが仲間で本当によかったと思った。
 稚拙な表現だがそう表すのが最もわかりやすいのだ。
 感心した表情で胡桃が青髪の天才魔法使いを見ていると、レレイはポツリと言った。

「それに……人間が殺されるのは好きじゃない」

 レレイは冷静な魔法使いである。
 ギブ&テイクを重んじる、天才で平静を辿る少女。
 だが、彼女は冷血ではない。炎龍と戦う際も啖呵をあげ、仲間が死ぬ中、奮起する人間なのだ。
 戦闘に全く関係ない人間が強者に蹂躙される姿など、彼女でも忌み嫌う存在なのである。
 胡桃はそれを聞いてフッと笑い、言った。

「冷静そうに見えて結構熱いところもあるんだな……。ん? なんだそれ」
「これは透メイカーと言って……」
「ああ、透明になるやつか」
「その双眼鏡……で確認済みということか。私の仲間になってくれたことに関してのお礼。私には防御魔法があるし、あなたの武器の特質を考えると透明な方が効果的」
「それはそうだな……いやー、色々とやってもらって申し訳ないな……。ところでなんだが、レレイって何歳なんだ? 見た目から私と近いかなって思ってたからタメ口だったんだけど、なんか話していると大人びているからさ……」
「私は16歳。日本でいうところの……中学生くらい」
「あたしは高3!」

 いったん、間が空いた。

「……胡桃さん」
「いや、呼び捨てでいいよ……」

 2人の少女はお互いを見ていた。


【一日目・午前0時頃/C-3・草原】

【レレイ・ラ・レレーナ@GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり】
【状態】健康
【装備】エンジェルハイロゥ@六畳間の侵入者!? 鉈@現実
【道具】ボルシチ@城下町のダンデライオン 通常支給品一式
【思考】基本:殺し合いから脱出する。
1:胡桃と行動して巡ヶ丘学院高等学校に向かう。
2:かつての仲間と合流したい。ゾルザルは勘弁。
3:自分と行動を共にしてくれる仲間を集めたい。
4:門も気になるので向かいたい。
5:色んな異世界から人が集まっているかもしれない……?
※登場時はまだアニメ終わってないのでそのうち決めます。
※恵飛須沢胡桃と情報交換しました。

【エンジェルハイロゥ@六畳間の侵入者!?】
魔法の杖。元々は虹野ゆりかの所持品。
ウィキペディア先生によれば魔法の発動を早くしたり、威力を高めたりできる。
ロワ内では魔法を使わない人もいるが、少々の魔力を使ったりはできる。

【鉈@現実】
木とか斬ったりする刃物。某蜩が鳴いたりする話ではメインウエポン。

【ボルシチ@城下町のダンテライオン】
櫻田家にいる猫。声が速水奨。とても尊大な性格。


【恵飛須沢胡桃@がっこうぐらし!】
【状態】健康
【装備】胡桃のショベル@がっこうぐらし! ワルサーP38(8/8)@ルパン三世
【道具】ワルサーP38の予備マガジン×2 双眼鏡@現実 透メイカー@パンチライン ヒロイック・ガーネット@ローリング☆ガールズ 通常支給品
【思考】基本:仲間と一緒に脱出したい。
1:レレイと行動して巡ヶ丘学院高等学校に向かう。
2:自分の仲間と合流したい。
3:脱出してくれる仲間を集めたい。レレイの仲間とも合いたい。
※ワクチン効いた頃に参戦。多分、最終回あたり。
※身体能力がすごい上がっているかもです。
※レレイ・ラ・レレーナと情報交換しました。

【胡桃のショベル@がっこうぐらし!】
ショベル。なんだけどゾンビの首とかを真っ二つにできるくらい丈夫。

【ワルサーP38@ルパン三世】
ルパンの愛銃。八発装弾。予備弾薬マガジン付。
詳しくないけどなんかいい銃らしいですよ。

【透メイカー@パンチライン】
着ると透明になるイカの形をしたスーツ。流石に強い衝撃をつけると壊れる。
グーグル先生では「透明イカスーツ」で検索したほうが画像を見つけやすい。

【ヒロイック・ガーネット@ローリング☆ガールズ】
石の名前。執行玖仁子の所有物。
チョーカーにあしらう形で付けられている。
ついでに石の名前というよりは勝手に執行さんが付けてるだけ。

【双眼鏡@現実】
双眼鏡です。遠くのものとか見えますよ。

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最終更新:2016年03月22日 00:00
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